ある星の話。その星にも地球と同じような陸と海があり、陸はいくつかの大陸と多数の島々に分かれていて、そのほとんどを、ある一種の知的生命体が支配していた。
その一種の知的生命体は、見た目が恐竜に似ているので恐竜人という名前にするが。彼らは好戦的な性格をしており、大陸同士の間で戦争が絶えなかった。まあ、戦争が絶えないという点は地球も似たようなものだが。地球と違うのは、彼らが大量殺戮可能な武器を持たなかったということだ。それは、そういった武器を使うことによって、歯止めが利かなくなり、種が絶滅する、ということを彼らが恐れたことによる。
「生きることは戦うこと」とDNAに刻み込まれているので、性格は、さっきもいったように好戦的。そして、彼らの肉体もまた、戦うのに適したようにできていた。手と足には肉を切り裂く鋭い爪を持ち、骨をも噛み潰す強力な顎を持ち、骨ごと噛み切ることのできる鋭い牙を供えていた。また、長い尾を持ち、その尾は鞭のようにしなり、岩を砕くほどの破壊力を持っていた。それらを使って、彼らは戦った。
その星にはもう一種、知的生命体がいた。地球でいう恐竜時代の翼竜に似て顎が強い、歯が鋭い、空を飛ぶ翼が付いている。ただ、翼竜と違って翼に羽が生えているので見た目は地球の鳥に近い。なので、彼らのことは鳥人と呼ぶことにする。
鳥人は、翼の先に人と同じような手があって、自由自在に使え、物作りができ、また、知能が発達していて非常に賢く、いろいろなものを発明してきた。見た目は鳥なんだが、彼らはただの鳥じゃない。その星で最も強く、最も賢かった。
鳥人たちはその星の、一地域のいくつかの島にしか生息していない。彼らは戦闘能力においては恐竜人たちより上回っていたが、人口はその万分の一にも満たなかった。戦えば勝つのにその勢力範囲を広げないのには理由(わけ)があった。彼らはあまりに強かったのである。彼らの生存を脅かすものはいなかったのである。自分たちが生きたいように生きれば、その種が絶えるなんていう不安は微塵も無かったのである。
鳥人たちは他の生き物を捕らえて食料としていたが、無益な戦いはしなかった。種同士の争いはほとんど無く、恐竜人たちとも戦う事はめったに無かった。恐竜人たちは不味かったので、それを食べるという目的で襲うこともめったに(ゲテモノ好きの鳥人がたまにいた)無かった。ただ、戦闘意欲の強い無鉄砲な恐竜人が鳥人に戦いを挑むことはまれにあった。その際、無鉄砲な恐竜人はことごとく鳥人に殺された。鳥人はすごく強いのであった。その強さを恐れ、恐竜人たちは彼らを猛鳥(たけとり)と呼んでいた。
恐竜人は初めの頃、主に狩猟によって食料を得ていた。その食料を奪い合うことが彼らが戦争をする主な理由であった。よって、彼らが戦うのは生きるためなのである。戦争は絶えなかったが、ただ殺すだけの戦争というわけでは無かった。無益な殺生はしないという点では、地球人類より精神の発達は進んでいたと言える。
また、彼らの全てが日夜戦っていたわけでは無い。戦うのは、成長して、身に付いた武器が十分役立つようになった大人の雄である。それも、時代が経って、定住農耕生活をするようになってからは、戦う兵は体の武器がより発達した強い者がなり、強くない者は農民となって働いた。戦うということについては、兵士と農民に大きな力の差があったが、兵士と農民に身分の差は無い。なぜなら、農民は兵士を養うからである。
人々に身分の差が無くて、それぞれがそれぞれを尊重している、何て素晴らしき世界であることよ。歴史の早くから、少なくとも一部族間では確かにそのような素晴らしき世界であり、さらに定住農耕生活をするようになると、狩猟や採集のみに食料を頼っていたそれ以前に比べて他部族間との争いもまた減っていった。
ところが、戦争が減ると人口が増えた。人口が増えると彼らは森を切り拓いて自分たちの生息範囲を広げていった。それによって、森の生き物たちが犠牲となった。
森の生き物たちは、それまでも狩によって命を失っていたが、生息場所の減少はそれよりもはるかに深刻なダメージとなった。彼らは集まって相談した。その結果、恐竜人たちの人口を減らすべく、鳥人を頼ることにした。
森の住人の代表者たちが鳥人に会いに行った。恐竜人たちの横暴をなんとか止めてくれないかと頼みに行ったのだ。鳥人の長老が応じる。
「お前たちの話は解ったが、しかし、恐竜人たちを懲らしめたからといって、私たちには何の益も無い。私らは、お前らも食うが、恐竜人は不味いので食わない。食わないのに殺すなんて事は私らの倫理に反する。」
「そこを何とか。」
「何とかと言われてもだな、私らの益にはならないことだからな・・・。」
「それは違います。恐竜人たちの増加は我々他の生き物の絶滅に繋がるだけで無く、種の減少はこの星そのものを滅ぼすことになります。」
「うーん、そうか。なるほど、そうだな。そうなるな。」
「長老。」とその場にいた幹部の一人が声をあげる。
「確かにこの者達の言う通りです。恐竜人の増殖は防がなければなりません。」
「そうだな。ちっと懲らしめてやるか。」
ということで、いよいよ恐竜人対鳥人の戦いが始まる。
鳥人は、強力な爪と嘴を武器として、素早い動きと空中からの攻撃で、1対1で戦う限りにおいては恐竜人に不覚を取ることは無かった。だが、相手が複数だと不利になる。人口においては圧倒的に恐竜人が多く、その割合は1000人対1人である。全面戦争となれば、負ける恐れもあった。よって、肉弾戦を避け、飛び道具を用いることにした。
彼らが用いたのは弓矢、鳥人はそういった武器を発明する頭脳を持ち、そういった武器を作れる手先の器用さも持っていた。弓矢を大量に生産し、戦いに備えた。
恐竜人を殺すことが目的では無い。恐竜人の人口が増えないようにしたいのである。よって、鳥人の矢は概ね恐竜人のキンタマを狙った。生殖不能にするためである。鳥人はこれを「恐竜人不妊化作戦」と呼んだ。そして、ついに開戦となった。
鳥人は空を飛び、空中から弓矢を放った。恐竜人の戦士の全ては男である。男の一番痛い所に矢は突き刺さった。鳥人の放つ矢は強力で、その激しい痛みを恐れて一番痛い所をかばったとしても、矢は恐竜人の体を突き刺した。離れた場所から矢が飛んでくるのである。恐竜人たちは成す術も無くバタバタと倒れていった。
恐竜人対鳥人の戦いは圧倒的に鳥人の優勢で進んでいった。ただ、人口では恐竜人の方がはるかに多い。戦いは短期で終わるものではなかった。日が経つうちに、恐竜人も鳥人の使う弓矢を真似て、作って、反撃した。上から攻撃する鳥人の優位に変わりは無かったが、そのうち、恐竜人は戦士以外の農夫が戦いに参加し、また、多くの女も参加するようになり、鳥人に向かって矢を放った。情勢は一進一退となり、戦争は泥沼化した。
1年が経った。恐竜人の死者は開戦前の人口を半減するほど膨大な数であったが、鳥人の死者数も日を追うごとに増え、開戦前人口の2割を失っていた。
鳥人は作戦を変更せざるを得なくなった。このまま進めば、数においてはるかに勝る恐竜人がどんどん優勢となり、鳥人の敗北になりかねない。
「キンタマを射抜いて、これからの人口を減らす作戦だけではダメです。今現在の人口を激減させなくてなならないでしょう。」と幹部の一人が言う。
「その通りだな。」と長老が肯き、
「で、その方法は何かあるか?」と周りを見渡す。
「火矢を使いましょう。彼らの住処を焼き討ちにしましょう。」と別の幹部が言う。
「火矢か。うーん、しかし、それもすぐに真似られるな。」
「今日のような風の強い日に、各地でいっせいに火を放ちましょう。火は瞬く間に広がって、彼らに反撃する暇を与えないでしょう。」
「皆殺し作戦となるな。・・・しょうがないか。やるか。」
その後、その作戦の細かい打ち合わせが行われた。失敗の許されない作戦であった。熱心に時間をかけて会議が成された。その時誰も、自分たちの住む島のあちらこちらに火矢が放たれたことに気付かずにいた。「ギャー!」と叫び声が聞こえてきた時にはもう、彼らの周りは火に包まれていた。鳥人の羽は水を弾くよう油分を含んでいた。燃え易くできていたのである。風の強い日であった。逃げる暇は無かった。
その強さから、多少鷹揚な性質である鳥人よりも先に、好戦的な性質である恐竜人が焼き討ち皆殺し作戦を先に思い付き、それをすぐに実行したのであった。鳥人の住む島は焼けた死体で埋め尽くされた。多くの生き物たちがやってきて、焼けたご馳走を味わった。そして、猛鳥物語は、一部の地域では焼き鳥物語として伝わったのであった。
強さを過信してはいけないという教訓話はこれでお終い。
語り:ケダマン 2007.11.9 →ガジ丸のお話目次