春休みでも、ゴールデンウィークでも、夏休みでも、冬休みでも無いただの週末にユーナが島に帰って来た。「何かあったのか?」と思ったら、何かあったらしい。
島に来てすぐ、ウフオバーに顔を見せて、「オバー、私、振られたさあ。」と言い残して、どこかに消えたらしい。何があっても自殺するような娘ではない、ということはオバーだけでなく誰もが認めるところだが、「暗い顔していたよー、泣きたいのを我慢してたかもしれないさあ、あんまり落ち込むと体に毒だからねぇ、ちょっと心配だねぇ。」ということで、私とケダマンで、ユーナを探すことにした。
「失意の少女は海を眺めながら、涙をはらはら流してるぜ、きっと。」と、ケダマンが言うので、先ずは海岸へ出る。ここはチャントセントビーチ、悲しみを背負う女には似合いの場所だが、ユーナはいない。ここから左へ行くと船着場、右は村、
「どっちだと思う。」とケダマンが訊く。
「うん、ここだと思ったんだけどな。人に会いたいならウフオバーのところにいるだろうから、村へ行くとは考えにくいよね。かといって、船着場にはジラースーたちがいるからな。どうなんだろう、どちらも可能性は低いと思うよ。」
「だな。一人になりたいのなら、もしかしたら山の方かもな。」
「行ってみようか?」
「しょうが無ぇな、世話の焼ける少女だぜ、まったく。」
何だかんだ言いながら、怠け者のケダマンがさっさと踵を返し、山へ向かう。ユーナに対する情は、私よりケダマンの方が深いみたいである。あるいは、「もしかしたら」という不安が、元ネズミの私よりケダマンの方に強く働くのかもしれない。想像力の強さということなのだが、ユーナという生物の理解度に関して言えば、私の方が勝っている。私の直感は、ユーナに「もしかしたら」ということは無いと感じている。野生の感だ。人間はどうも、余計なことまで想像する生き物のようである。
山道を歩きながら、ふと思い出したようにケダマンが言う。
「そういえば、去年の今頃も失恋していた女がいたな。」
「あー、いたね。」
「まあ、あいつは経験豊富だからな。放っておいても自分で何とかするんだがな。ユーナはしかし、まだ子供だからな。」
「子供というより、恋愛に慣れていないだけだと思うよ。今まで経験したことの無い感情をどう処理したらいいか判らないんだよ。」
「そうだな。しかし面倒だな、人間というものは。」
「だね、動物はやりたいかやりたくないかという本能だけで動くからね。」
などということを語りながら山を一回りする。結局、ユーナは山にもいなくて、ケダマンと私は、ただ散歩しただけの数時間となった。ユクレー屋に戻る。
ユクレー屋のドアを開けると、そこにユーナがいた。
「あれ、ユーナ、いるじゃないか。」(私)
「オメェいったいどこ行ってたんだ、探したんだぞ。」(ケダ)
「探してくれてたんだ、アリガトね。船にいたよ。ガジ丸たちの手伝いしてた。」
「んー?オメェ元気じゃ無ぇか。普通じゃ無ぇか。振られたって言うからよ、ちったぁ心配してたんだぜ。」(ケダ)
「そう、心配してくれてありがとう。でもさ、ガジ丸と話していたら元気になったよ。ハグして貰ったしさ、もう大元気。」
「そうか、そりゃあようござんした。それにしてもよ、振られたくらいでこの島に来るなよ、そんなことしていたらこの島はいつも定員オーバーだ。」
「だよね、同じようなことガジ丸にも言われたよ。でさ、もう帰るから。」
ということで、ユーナは船着場の方へ戻っていった。ユクレー屋には、ウフオバーとマナに「大丈夫だよ」ということとサヨナラを言いに来ただけらしい。ジラースーの船が出るのは明後日なので、ガジ丸に瞬間移動で送ってもらうのであろう。
それからしばらくして、ガジ丸がやってきた。私の推理した通り、ユーナをオキナワの家まで送ってきたとのこと。ケダマンがさっそく尋ねた。
「お前、ユーナから失恋話は聞いたのか?」(ケダ)
「あー、聞いたよ。たいしたこと無ぇよ。まだ若いんだよ彼女は。」
「おー、そうか、で、どんな内容だ。」(ケダ)
「聞いてもつまらんぞ、唄聞くか?」
「唄って、ユーナの失恋話の唄を作ったの?」(私)
「あー、このあいだケダが『ナンダバダバダ』って唄が作れないかって言ってたのを思い出してな、ユーナの話にピッタリだったんでな、さっきできた。」
ということで、ユーナの失恋話の唄をガジ丸が歌った。確かに、ガジ丸の言う通り、たいした話では無かった。たいしたことないので、一番しか無いとのことだった。
記:ゑんちゅ小僧 2008.10.3 →音楽(ナンダバダバダ)