夕方、いつものようにユクレー屋へ行く。マナとケダマンが歌っている。マナがピアノを弾いていて、ケダマンがピアノの上に腰掛けて、二人で仲良く歌っている。
「やー、賑やかだね。何の日なの、今日は?」
「おー、」とケダマンは歌うのを止めて、「マナ、歌い疲れて喉が渇いたよ。ゑんちゅも来たことだし、ビールにしようぜ。」と言い、私と並んでカウンターに座る。
「そうだね、ちょっと一休みだね。」我々の後を追いながらマナは言い、カウンターの中に入って、ビールをジョッキに3つ、カウンターに並べた。
「かんぱーい!」とマナが言い、
「かんぱーい!」と我々も合わせ、ふた口、み口、喉を潤した後、ケダが言う。
「一休みってオマエ、まだ歌うつもりなのか?」
「うーん、あのさあ、前にさ、ユイ姉とクガ兄から二人の作った唄が載っている楽譜貰ったでしょ。そのピアノの伴奏があまり難しくないからね、練習してるんだ。」
「ふーん、面白い唄があるの?」(私)
「面白いっていうか、何かどれもマニアックだね。」
「そりゃあそうだろう。だから二人とも売れなかったんだ。ヒットするような唄が作れなかったから、ずっとアマチュアのままなんだろうよ。」(ケダ)
「そうかあ、そうなんだろうねきっと。ところでさ、ユイ姉は飲み屋さんを経営して、ちゃんと働いているでしょ。クガ兄はさ、何してるの?」
「前会った時、と言っても10年くらい前だけど、その時は、居酒屋で板前をやっているって言ってたよ。音楽も片手間に続けていて、バンドを組んで、時々、友達がやっているライブハウスで演奏してるなんて言ってたな。」(私)
「板前さんだったんだ。一応ちゃんとはしてるんだ。」
「いや、板前と言っても、正式に修行したわけじゃないから、これもプロとは言えないかもね。居酒屋のちょっとした料理を作るだけだと思うよ。」(私)
「まあ、そうだろうな。あいつも根が怠け者だからな。一つのことに一所懸命なんてタイプじゃないよな。どれもテキトーにやっているって感じだな。」(ケダ)
「マミナ先生の夫だった人も怠け者だったらしいけれど、クガ兄もそうなんだね。何かさあ、ウチナーンチュの男の人って、そんなの多いよね。」
「まあな、南の島だからな。こんなユルユルした雰囲気の中では、一所懸命にはなかなかなれないんだろうよ。チルダイ男の生産地ってわけだ。」(ケダ)
「チルダイって、ユイ姉の唄にもあったね。あんたもチルダイ男だね。」
などと、しばらくユンタクが続いて、ジョッキが空になった。ケダマンと私はお代わりを注文する。マナは、お代わりのジョッキを我々の前に置くと、カウンターを出て、ピアノのとこへ行き、1冊のノートを持って、戻ってきた。
「これが、ユイ姉とクガ兄のノート。」と言って、我々の前に開いて見せた。
「あんたたち、何か知っている曲ある?」と訊く。
「うーん、もうだいぶ前だからなあ、何度も聴いたわけでも無いし、たぶん知っているのは無いと思うよ。」(私)
「あー、俺はあるぞ。確か、クガ兄の唄にレゲエ調のものがあったぜ。」(ケダ)
「レゲエって、あのジャマイカの?」
「レゲエはさ、そうだなあ、今から30年ほど前に流行ったよ。ボブ・マーリーって、レゲエの神様と言われている人が活躍してたよ。クガ兄とユイ姉はその頃が青春時代だから、きっと影響は受けたんだと思うよ。」(私)
「何ていう唄?この中にあるかな。」とマナはノートのページを捲る。
「さっきお前が歌っていた『白いパンツ』って唄はよ、別れの唄だったろ。そのレゲエ調の唄はよ、二人の蜜月時代の唄だと記憶してるな。何か甘い唄だったな。リズムものんびりしててな、クガ兄のチルダイ声にピッタリだったな。」(ケダ)
「これかな?」とマナは、若狭海岸と題の書いてあるページを開いた。
「おー、そうかもな。海岸の散歩って、うーん、確かに何かそんな感じだった気がするな。マナ、ちょっと弾いてみな。」ケダのリクエストに応えて、マナは弾いた。
確かに甘い唄だった。Hした後、海岸を散歩してるって感じの唄だった。マナはそれに気付いているのかいないのか、大声で歌っていた。が、マナの声には合わなかった。
記:ゑんちゅ小僧 2007.11.23 →音楽(若狭海岸)