礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

我々は国民に強制はしていない(ゲッべルス宣伝相)

2015-08-10 05:01:18 | コラムと名言

◎我々は国民に強制はしていない(ゲッベルス宣伝相)

 昨日の続きである。映画『ヒトラー~最期の12日間~』(二〇〇四)を観て、いくつか印象に残る場面があった。今日も、そのことについて書く。
 映画の中盤、親衛隊少将で官庁街防衛司令官のモーンケ(アンドレ・へーニッケ)が、慌てた様子で、ゲッべルス宣伝相(ウルリッヒ・マテス)を訪ねてくる場面がある。
 モーンケは報告する。「市民軍が敵の餌食になっています。武器がなければ戦えません。犬死にです」。
 これを聞いたゲッべルスの返事は、こうである。「同情しないね。彼らが選んだ運命だ。我々は国民に強制はしていない。彼らが我々に委ねたのだ。自業自得だ」。
 さすがはゲッべルスである。国民に対する同情など、ひとかけらもない。もちろん、みずからに対する自責の念もない。
 ただしこれは、あくまでも映画の中の話であって、実際にゲッべルスが、その通りの言動をおこなったのかどうかは不明である。また、そうしたゲッベルスの言動が、戦後のドイツ国民に伝えられていたのかどうかも不明である。だが、この「ゲッベルスの認識」は、ドイツ国民とナチス政権との関係について、一面の真実を衝いている。ゲッべルスから言われなくても、同様の認識を持たざるを得なかったドイツ国民は、少なくなかったにちがいない。
 もし、戦後のドイツ国民が、ゲッべルスに反論するとすれば、お前は、自分たちに「自発性」を強制した、とでも言うほかはない。もっとも、戦後のドイツにおいて、そういう議論がなされたかどうかは知らない。
 ちなみに、この映画においては、ゲッベルス宣伝相は、ヒトラー総統(ブルーノ・ガンツ)に次ぐ実力者として描かれている。映画の最後のほうで、ヒトラーとその愛人エーファ・ブラウン(ユリアーネ・ケーラー)が結婚し、それから間もなく、ふたりは自殺。それを追うかのように、ゲッベルス夫妻が自殺。ゲッベルス夫人マクダ(コリンナ・アルフォーフ)は、自殺の直前、六人の子どもを、ひとりずつ青酸カリを使って殺害する。この映画が描こうとしたのは、まさしく、ヒトラー夫妻とゲッベルス一家の「最期」だったのである。

*このブログの人気記事 2015・8・10(8位にやや珍しいものがはいっています)

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