礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

木戸幸一内大臣の共産主義容認発言(1945年3月)

2015-09-27 07:49:32 | コラムと名言

◎木戸幸一内大臣の共産主義容認発言(1945年3月)

 先日来、紹介している大屋久寿雄の『終戦の前夜』(時事通信社、一九四五年一二月)という本(パンフレット)だが、これは、なかなか興味深い本だと思う。
 第一に、終戦直後に発行されている。いわゆる「和平工作」(終戦工作)について解説した本は数多いが、この本は、時期が非常に早く、その意味で注目されてよい。
 第二に、著者の大屋久寿雄(一九〇九~一九五一)は、本書刊行時、時事通信社内信部長の要職にあった。終戦直前には、日本放送協会の海外局編成部長の要職にあったという(『終戦の前夜』二九ページ)。いずれにしても、敗戦前後に、国家中枢にかかわる情報に接していたはずで、その証言には、聞くに値するものがあると思う。大屋と同盟通信社(戦後、共同通信社と時事通信社に分かれる)との関わりについては、今のところ、よくわからない。
 第三に、ここで述べられている「和平工作」(終戦工作)は、「対ソ工作」が中心である。実際に、戦中における「和平工作」は、「対ソ工作」が中心であった。このことは、戦争末期、ソ連の宣戦布告を受けるまで、そのソ連に対して、「終戦」の斡旋を頼み続けていたという一事を見るだけで明白である。この本の著者は、日本の終戦工作の失敗の原因を、対ソ工作の失敗に求めている。終戦工作の中心を対ソ工作においたこと自体が失敗だったという視点から、この本を書いている。そういう意味においても、この本は、もっと注目されてよい。
 ところで、この間、私は、戦中の「対ソ工作」に関する論文を、いくつか読んでみた。非常に勉強になったが、大屋久寿雄の『終戦の前夜』を引いている論文が、ひとつもなかったのは、残念であった。
 なお、今回、読んだ論文のひとつに、鈴木多聞氏の「鈴木貫太郎内閣と対ソ外交」(『国際関係論研究』第二六号、二〇〇七年三月)ある。これは実に興味深い論文であった。
 特に驚いたのは、「五、ソ連との軍事同盟論」にある、以下のような記述であった。

五、ソ連との軍事同盟論
 日本の対ソ外交の基本方針は、ソ連の参戦防止と好意的和平仲介の依頼にあった。だが、このような日本側に都合の良い話にソ連が乗るとは考えられにくい。日本の対ソ外交の努力は、ソ連をいかにして英米から引き離し、日本側に引きつけるかにあった。日本側が最も期待していた展開は、米ソ対立が顕在化することであった。
 昭和二〇(一九四五)年二月二日の最高戦争指導会議において、重光葵外相は、「如何ナル事アルモ『ソ』連ニ基地ヲ与フルカ如キハ不可ニシテ斯クノ如キ事ニヨリ『ソ』連ヲ釣リ得ルト考フルハ誤ナリ」と反対意見を述べている。ソ連に軍事基地を提供するといった対ソ提携論が存在したのであろう。ソ連に仲介を依頼した場合、ある程度の容共政策は仕方のないことであった。木戸内大臣は、三月三日、友人の宗像久敬に対し、「共産主義ト云フガ、今日ハソレホド恐ロシイモノテハナイソ、世界中ガ皆共産主義テハナイカ、欧州モ然リ、支那モ然リ、残ルハ米国位ノモノテハナイカ」と語り、宗像を驚かせている。その驚きぶりは、帰宅した宗像が「今日本ガ率直二米ト和シ(時期ハ別トシテ)民主主義ヲ容レ皇室及国体ヲ擁護スルヤ、ソビエツトト手ヲニキリ共産主義テユクヘキカ之ハ大ナル問題ナリ」と記していることからも窺える。【以下略】

 天皇の側近中の側近である木戸幸一内大臣が、共産主義を容認する発言をしていたとは!? 権力中枢(軍部に限らない)における、こういう雰囲気が、当時の終戦工作、対ソ外交を支えていたのであろう。
 鈴木論文のこの箇所を読んで、はじめて私は、いわゆる「近衛上奏文」の意味するところが理解できたような気がした。近衛上奏文については、機会を改めて。

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1 コメント

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Unknown ( 伴蔵)
2015-10-01 22:13:15
 日本のいわゆる戦後外交というものは、米ソの対立の上で成り立っていたということだと思います。
 冷戦終結以降、日本外交がドジを踏み続けている点からいっても明らかでそれは今日のTPP問題等においても、単に宰相が無能であることだけではないと思います。
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