礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

スズリの水が凍るのを防ぐ方法

2015-04-11 05:36:29 | コラムと名言

◎スズリの水が凍るのを防ぐ方法

 昨日、一昨日と、『薬草薬木家庭療病宝鑑』(婦女界社、一九三〇)に掲載されていた某広告について紹介したが、本そのものについては、まだ紹介していなかった。
 この本は、例によって、二冊一〇〇円の棚から拾い上げたものだが、情報の宝庫ともいうべき本で、どのページを開いても興味深い記事や広告がある。
 文庫本よりやや小さい判で、総ページ数二二四、布装。編輯・発行・印刷は、都河竜、発行所は、婦女界社(東京・丸の内ビルヂング三五五区)。
 本文一ページから一二一ページまでは、佐々木念編「薬草薬木家庭療病宝鑑」。イロハ順に、三〇〇の病名、症状が並び、それぞれについて、有効な対処法、有効な薬草・薬木の紹介がある。
 一二二ページは、「三共ヴィタミンA」の広告。
 一二三ページから一四二ページまでは、「薬草薬木図鑑」。
 一四三ページは、「ヒッポサルシンロイ 島久の肉汁 島久商店」の広告。一四四ページは、「発毛剤内服薬 玄華GENKWA 日明製薬所」の広告。
 一四五ページから二一〇ページまでは、佐々木念編「増訂家庭百科千首」。これは、家庭に関わるあらゆる知識を、千首の「短歌」にまとめたものである。
 二一二ページから二一六ページまでが、「婦女界社」の広告で、二一六ページの左端が奥付になっている。
 広告は、以上にあげたほか、本文の随所に挿入されている。一昨日と昨日紹介した大阪・秋岡金虎堂の広告は、一八九ページにある(一ページ大)。
 本書を読んで、最も感心したのは、「増訂家庭百科千首」である。本日は、その千首のうち、(九七一)から(一〇〇〇)までを紹介してみたい。

  一寸した心得
(九七一)日の丸の直径一尺二寸なら旗幅〈ハタハバ〉三尺、縦二尺なり
(九七二)印〈イン〉の中にカスが溜らば蠟燭〈ロウソク〉の蝋やわらげて押せばとれるぞ
(九七三)蓄音機、壁から離せ七八寸、それで音〈ネ〉がよし響き渡りて
(九七四)使ひ古りし〈フリシ〉万年筆に機械油入れて便利な油注器〈アブラサシ〉なり
(九七五)硝子壜〈ガラスビン〉に濃い塩水を入れて置く之〈コレ〉ぞ手製の消火器にして(出火の際手早く火中に投げ入るべし)
(九七六)額縁の汚れし〈ヨゴレシ〉ものは玉葱の切り口で擦れ〈コスレ〉綺麗にぞなる
(九七七)油絵の汚れしものを洗ふには過酸化水素溶液ぞよき
(九七八)年を経て〈ヘテ〉汚れし写真柔かき布にアムモニアつけて拭くべし
(九七九)活花〈イケバナ〉が枯れかけたらばアスピリン風邪薬をば少し与へよ
(九八〇)花瓶などの水に灰をば少し入れて氷り割るゝを防ぐべきなり
(九八一)燭台の足らぬ時には蠟燭を壜〈ビン〉に挿しなば一寸〈チョット〉間に合ふ
(九八二)釘二本コロツプに刺し釘抜きで締つゝ抜けば抜けるものなり
(九八三)鶏卵〈タマゴ〉をば二つに割つてその殻の底に穴あけ漏斗〈ジョウゴ〉代用
(九八四)同一釘〈ヒトツクギ〉にかけて置くなら塵払〈ハタキ〉をば先に箒〈ホウキ〉を後からかけよ
(九八五)硯水〈スズリミズ〉の中に胡椒を三四粒入れておきなば冬も氷らず
(九八六)油紙に字を書く時は皀角【さいかく】を一夜浸した〈ヒタシタ〉水で墨磨れ〈スレ〉
(九八七)墨で布〈キレ〉に書く文字は兎角〈トカク〉つかぬものアラビアゴムを混ぜよよくつく
(九八八)釘の先に油をつけて打つ時は堅い木とても曲らずに入る〈イル〉
(九八九)小さきもの袋に入れて納ふ〈シマウ〉時袋の上に名を書いておけ
(九九〇)壜に入れたものの名書きし札をつけよ一目でわかる中の物の名
(九九一)暦をば紐で柱の釘に懸けよ、しまひ込んでは捜す煩ひ〈ワズライ〉
(九九二)西暦は一九一一に大正の御代〈ミヨ〉を数へて加へたら出る(即ち大正十六年は十六を一九一一に加へた一九二七年なり)
(九九三)我国〈ワガクニ〉の紀元は六百六十を加へ数へよ西暦の数に
(九九四)我国の紀元年数四〈シ〉で割りて割り切れる年は閏〈ウルウ〉なりけり
(九九五)寒暖計摂氏は華氏〈カシ〉から三十二引いて五をかけ九〈ク〉で割れば出る
(九九六)寒暖計華氏は摂氏に九〈ク〉をかけて五で割り三十二度を加へよ
(九九七)新聞は鋏〈ハサミ〉を持つて見るがよし入用な記事は直に〈スグニ〉切抜け
(九九八)古雑誌あだにな捨てそ、新聞の切抜、貼るに宜しき
(九九九)新聞の小さき切屑〈キリクズ〉押丸め焚付け〈タキツケ〉にしていとも宜しき
(一〇〇〇)「粗雑〈ゾンザイ〉な言葉使はぬ」掟〈オキテ〉こそ、よく味へば珠と輝く

 ほとんどがキレイに、五七五七七になっている。よく一〇〇〇首まで、作ったものである。
 (九七四)に、「使ひ古りし万年筆に機械油入れて便利な油注器なり」という歌があるが、これは、「使ひ古りし・万年筆に・機械油・入れて便利な・油注器なり」と切るのであろう。多少、字余りもあるが、許される範囲であろう。
 (九九五)の「寒暖計摂氏は華氏から三十二引いて五をかけ九で割れば出る」は、「寒暖計・摂氏は華氏から・三十二・引いて五をかけ・九で割れば出る」と切るのであろう。最後の「九」は、字数から言って、「く」と読まなくてはならない。
 (九九六)は、「寒暖計・華氏は摂氏に・九をかけて・五で割り三十・二度を加へよ」と切ることになる。それにしても、よくできている。並の才能ではない。
 (九八六)の「皀角」の読み【さいかく】は、原ルビである。いわゆる「サイカチ」のことであろう。
 今回、一番、注目させられたのは、(九八五)である。昔、徳田秋声だったか、正宗白鳥だったかは忘れたが、そのあたりの古い小説家が、筆を執ろうとしたら、机上のスズリの水が凍っていたと書いているのを読んだことがある。たしか、東京での話だった。この小説家は、気温零下の室内で、執筆活動をおこなっていたわけである。にわかには信じがたかったが、本書に、こうして、スズリの水が凍るのを防ぐ方法が紹介されているところを見ると、人が居住する屋内・室内において、スズリの水が凍結することは、やはり珍しくなかったということなのであろう。

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