おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

パピヨン

2023-01-20 07:12:06 | 映画
「パピヨン」 1973年 フランス / アメリカ


監督 フランクリン・J・シャフナー
出演 スティーヴ・マックィーン ダスティン・ホフマン
   ヴィクター・ジョリイ アンソニー・ザーブ ドン・ゴードン
   ロバート・デマン ウッドロウ・パーフレイ ラトナ・アッサン

ストーリー
胸に彫られた蝶の刺青があるところから、パピヨンと呼ばれた男が、大勢の囚人と共にフランスの刑務所から、南米仏領ギアナの監獄に送られたのは肌寒い夜明けのことだった。
罪名は殺人だが、本当にやったのは金庫破りにすぎない。
海を渡る船中で、パピヨンはルイ・ドガを知ったが、彼の罪状はフランス中を混乱させた国防債券偽造。
パピヨンは、脱走に必要な金を工面するために、ドガの金を狙う囚人から彼の生命を守ることを約束する。
ギアナに到着して、サン・ローランの監獄に放り込まれた二人は、獄吏の買収に失敗し、ジャングルの奥の強制労働キャンプに送られる。
数日後、ヘマをして看守に殴られるドガをかばったパピヨンは、川へ飛び込んで逃亡を計る。
だが、無計画だったために捕まり、二年間の島送りとなった。
サン・ローラン西方の沖合いにあるサン・ジョセフ島の重禁固監獄は“人喰い牢”と呼ばれる恐ろしい独房だ。
ムカデ、ゴキブリをスープに入れて、餓死寸前のところでパピヨンは二年の刑を終えることができた。
サン・ローランに戻ったパピヨンは、ドガの助けを借りて、クルジオ、ホモのマチュレットと共に脱獄を試みた。
クルジオは捕えられたものの、三人は遂に自由の世界に降りたった。
ジャルグルでは、奇怪な刺青の男に救われ、さらに、ハンセン病患者の首領トゥーサンにヨットを与えてもらい、コロンビアとおぼしき海岸にヨットをつけることができた。
しかし、運悪くパトロール隊と遭遇し、パピヨンはジャングルに舞い込んだ。


寸評
脱獄物はドラマになりやすく度々描かれる作品群の一つである。
スティーヴ・マックイーンの脱獄物として先ず思い浮かぶのは「大脱走」だろう。
同類の作品としてビリー・ワイルダー監督の「第十七捕虜収容所」がある。
ジョン・ヒューストン監督による捕虜とドイツ代表のサッカー試合を描いた「勝利への脱出」もあった。
それぞれ戦争を背景にした大勢の捕虜が脱獄を試みると言う内容である。
個人が脱獄を試みる作品としては、ポール・ニューマン主演の「暴力脱獄」や、ティム・ロビンス主演の「ショーシャンクの空に」などが存在している。
「パピヨン」も脱獄物のジャンルに入る作品ではあるが、脱獄方法への興味であるとか、脱獄が成功するまでの過程におけるサスペンス性を追及している純粋な脱獄物とは一線を画している。
画面を通じて感じ取るのは生に対するすさまじいばかりの執着である。

パピヨンはドガと知り合い友情を結ぶが、囚人の中にあって二人の信頼関係は信じがたいほど固い。
先ずは過酷な労働状況が描かれ、同じ囚人のジュロを含めて脱獄計画を練り始める。
パピヨンとドガは囚人の死体を運ぶ仕事を命じられるが、その死体が処刑されたジュロであることを知ったドガが嘔吐したことで看守から暴行を受ける。
パピヨンはドガを庇って看守と揉み合い、そのまま脱走するのだが商人の裏切りもあり、ハンターに捕まって独房に収監されてしまう。
何年にも及ぶ独房生活なのでその描写は過酷を極め、見ていても気分の良いものではない。
年数を感じさせるためか独房シーンの時間は長く、その事がこの映画を暗くしている。
脱獄物に付き物の爽快感は全くないが、生きることに対するすさまじい戦いに圧倒される。
ドガはパピヨンが命を懸けて助けてくれたことに感謝し、看守を買収してココナツを内緒で差し入れする。
この映画における最大の疑問点は、彼らは看守たちを度々買収しているのだが、その大金をどのようにして手に入れていたのかということだが、詮索は二の次だ。
ドガの差し入れが発覚し、差し入れ者の名前を白状するように言われるがパピヨンは名前を明かさない。
そのことでパピヨンはより一層辛い目にあうことになり、再び延々と独房生活の描写が続く。

いろいろあって、パピヨンはただ一人ゴーギャンの描いたような集落の原住民に救われる。
それまでの世界とは全く違った明るい世界だ。
集落の女性と愛を育むようなシーンもありながら、突如として集落の住民は姿を消してしまう。
一体この集落のシーンは何だったのだろう。
そこへいくとハンセン病患者の島のエピソードが盛り込まれているのは理解が出来る。
修道院長を信用して罪を告白すると、修道院長はある意味の裏切りを見せ警察に通報してしまい、パピヨンは再び囚われの身となってしまう。
人は全く信用が置けないということなのだが、それだけにパピヨンとドガの信頼関係が際立ってくる。
二人は最後に袂を分かつが、二人とも生きるための選択を行ったと言うことだ。
それぞれの生き方が現れるラストシーンにふさわしい描き方となっている。


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2 コメント

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Unknown (風早真希)
2023-01-30 16:15:09
この「パピヨン」という映画は、1970年代の洋画の中でも大好きな1本で、暇をみては繰り返し観ている作品なんですね。

この映画の寸評の中で書かれている、「画面を通じて感じ取るのは生に対するすさまじいばかりの執着である。」や「脱獄物に付き物の爽快感は全くないが、生きることに対するすさまじい戦いに圧倒される。」には全く同感で、スティーヴ・マックィーンが、希望を最後まで捨てない、執念の男を魂のこもった演技で熱演していましたね。

そこで、この映画を観た時の事を思い出しながら、感想を述べてみたいと思います。

"人生の浪費という、大罪を犯させた権力に対する、執拗な抵抗と、自由への不屈の執念を描いた「パピヨン」"

1931年にアンリ・シャリエール(パピヨン)は、無実の殺人罪のため、南米フランス領ギアナへ流刑になりました。

それから13年にも及ぶ過酷な監獄生活の中で、何度も脱獄を試み、失敗した後、懲治監でのまるで地獄のような想像を絶する極限の生活に耐え抜き、最後に絶海の悪魔島からベネズエラへの脱出に成功して、遂に自由を勝ち得たのです。

彼(パピヨン)の異常で、過酷な体験をもとにした実録物は、1969年にフランスで出版されるや、今世紀最大の冒険ロマンとして読者の大きな感動を呼び、1973年までに世界17カ国で1,000万部以上の超ベストセラーになりました。

そのあまりの反響の凄さは、フランス政府を動かして、1970年に彼は特赦を受け、40年ぶりに晴れて母国フランスの土を踏みましたが、その喜びも束の間、1973年7月喉頭癌のため65歳でこの世を去りました。

彼のその生涯は、まさに無実に対する、絶える事のない苦闘と抵抗で費やされた一生でもありました。

この映画「パピヨン」の最も核となる重要なテーマを暗示するシーンである、かつて独房で見た悪夢の中で、パピヨンは、「自分の本当の有罪は人生の浪費である」と嘆きましたが、"ひとりの人間に人生の浪費という、大罪を犯させた権力に対する、執拗な抵抗と、自由への不屈の執念"が、まさにこの映画の基調であり、底流を流れる不変のテーマなのです。

この映画の脚本は、かつてアメリカでマッカーシズム(赤狩り)の嵐が吹き荒れていた、1947年の上院非米活動委員会から赤のレッテルを貼られて、アメリカ映画界から追放されたドルトン・トランボで、彼は証言拒否で1年の刑を科せられました。

その疑惑が晴れて、映画に関する活動を復活させたのは、1960年であり、その間、変名で不朽の名作「ローマの休日」(ウィリアム・ワイラー監督)のシナリオを書いたりと、つらい忍従の生活を強いられたのは有名な話です。

つまり、ドルトン・トランボ自身がパピヨンことアンリ・シャリエールと同様の無実の罪に泣いたのであり、"人間としての尊厳と誇りを奪った権力に対する、執拗な抵抗と、自由への不屈の執念"をこの映画に仮託して描いたのです。

ドルトン・トランボは、映画のファースト・シーンで敢えて刑務所長という役で出演して、自らの無念の思いを皮肉を込めて演じているのです。

主演のパピヨン役のスティーヴ・マックィーンは、「大脱走」(ジョン・スタージェス監督)や「ゲッタウェイ」(サム・ペキンパー監督)等の脱走物が得意な俳優ですが、彼自身も不遇な少年時代に感化院から4回の脱走を図っているそうで、彼のいつも何か憂いを含んだ哀しい瞳の奥に、彼の過酷だった幼少期の人生をいつも感じてしまいます。

そして、彼のこの映画に賭ける凄まじい執念の演技は、観る者の魂を揺さぶり、感動させる素晴らしいものでした。

相手役の債券偽造のプロのドガ役のダスティン・ホフマンは、一見、気弱に見えますが、芯の強い個性に満ち溢れていて、「わらの犬」(サム・ペキンパー監督)ではあくどい不条理な暴力に対して、徹底的に反撃する物静かな数学者を演じて、オールラウンド的な彼の演技の幅の広さ、凄みを見せつけられました。

当時の大スターのスティーヴ・マックィーンと一流の演技派のダスティン・ホフマンという、二大俳優の初顔合わせとその演技のアンサンブルを観るというのが、この映画の大きな魅力になっているのも映画ファンとしては見逃せません。

監督はフランクリン・J・シャフナーで、彼は極限状態に追い込まれた人間が、全力で戦い抜くというテーマを追求し続け、「猿の惑星」や彼の代表作とも言える1970年度のアカデミー賞の最優秀監督賞を受賞した「パットン大戦車軍団」では、偏屈で政治性はありませんが、人間味と剛直さに溢れたパットン将軍という、カリスマ性に溢れた執念の男を、実に見事に描いていました。

音楽は、「猿の惑星」や「パットン大戦車軍団」でもフランクリン・J・シャフナー監督とコンビを組んでいる、ハリウッドを代表する映画音楽家のジェリー・ゴールドスミスで、彼のリリカルで哀愁を帯びた、心の琴線を震わす、この「パピヨン」のテーマ曲は、映画の感動と共にいつまでも心に残り、映画を思い出す度に鮮烈に甦ってくる永遠の名曲です。

この「パピヨン」のような、いわゆる"エスケイプ映画"は、"拘束からの解放をテーマとして、束縛の苦しみ、自由への渇望、脱出への闘い、そして最後に手にする、限りなき自由の喜び"を描くものですが、この自由と不自由との落差が大きければ大きいほど、脱出のハラハラ・ドキドキのスリルと迫力が強烈になってきて、我々、映画ファンをスクリーンに釘付けにしてくれます。

フランスのような自由社会において、この映画で描かれたような悲惨な流刑制度が、最近まであったという事実は驚きでもありますが、社会体制が違っていても、人間の自由へのあくなき渇望の強さには変わりがない事は、ソルジェニーツィンの代表作の「収容所群島」を読んだ時にも感じた事であり、また彼の処女作でもある「イワン・デニーソヴィチの一日」の映画化作品を観ても、映画が描く"人間の、人間による拘禁の過酷さ、激烈さ、非情さ"は、我々現代人が忘れかけ、失いかけている自由への勇気と情熱をかき立ててくれます。
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自由は・・・ (館長)
2023-01-31 08:20:19
拝読して感銘を受けました。
私たちは自由であることが当たり前のように思っていますが、ウクライナ情勢などを見ると当たり前と思える世界に居て幸せだと思います。
好きな映画をいつでも見ることが出来るようになって、私は自由を謳歌しております。
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