「事件」 1978年 日本
監督 野村芳太郎
出演 松坂慶子 永島敏行 大竹しのぶ
渡瀬恒彦 佐分利信 丹波哲郎
芦田伸介 西村晃 山本圭
北林谷栄 佐野浅夫 乙羽信子
森繁久彌 夏純子
ストーリー
神奈川県の相模川沿いにある土田町の山林で、若い女性の刺殺死体が発見された。
その女性はこの町の出身で、新宿でホステスをしていたが、一年程前から厚木の駅前でスナックを営んでいた坂井ハツ子(松坂慶子)であった。
数日後、警察は十九歳の造船所工員・上田宏(永島敏行)を犯人として逮捕する。
宏はハツ子が殺害されたと推定される日の夕刻、現場付近の山道を自転車を押しながら下りてくるのを目撃されていた。
警察の調べによると、宏はハツ子の妹、ヨシ子(大竹しのぶ)と恋仲であり、彼女はすでに妊娠三ヵ月であった。
宏とヨシ子は家を出て横浜方面で暮らし、子供を産んで、二十歳になってから結婚しようと計画していた。
しかし、ハツ子はこの秘密を知り、子供を中絶するようにと二人に迫った。
ハツ子は宏を愛し、ヨシ子に嫉妬していた。
その頃ハツ子には宮内(渡瀬恒彦)というやくざのヒモがいた。
彼女は宮内と別れて、宏と結婚し、自分を立ち直らせたいと思っていたのだった。
ハツ子が親に言いつけると宏に迫った時、彼はとっさに登山ナイフをかまえて彼女を威嚇した。
宏が一瞬の悪夢からさめ気がついた時、ハツ子は血まみれになって倒れていた。
上田宏は逮捕され、検察側の殺人、死体遺棄の冒頭陳述から裁判が開始される。
果たして本当に宏が殺人を犯したのかという疑問を含め、裁くもの裁かれるものすべてを赤裸々にあばきながら、青春そのものが断罪されていく。
寸評
姉妹が一人の男を愛した為に生じた殺人事件の裁判劇である。
芦田伸介演じるの岡部検事の冒頭陳述から始まるが、何回かの公判が繰り返される裁判所の場面は重厚だ。
検事の芦田伸介、弁護士の丹波哲郎、裁判長の佐分利信がそれぞれ低温の声で、その声音が裁判劇にリアリティを出していたように思う。
検事の追及に弁護士は想像を加味しながら反論し、新事実も導き出していく。
かといって、本作は冤罪事件を扱ったものではなく、被告の宏は当初から殺人を認めている。
裁判を通じて浮かび上がってくるのは、人の欺瞞に満ちた態度と、三角関係に陥った人間の複雑な心象である。
証言に立った証人たちはいい加減である。
冤罪事件にみられるように、検察による誘導質問に導かれているのだが、それを弁護士に厳しく追及される。
証人として語っていることが偽証ではないにしても、必ずしも真実とは言い切れないものがあることを描いている。
二人が自転車に乗って言い争いをしていたと証言した婆さん(北林谷栄)は、殺されたハツ子の顔が見えなかったはずだったことや、わずか2秒くらいで通り過ごしたのにその会話の内容が聞き取れたのかと詰問される。
犯人である宏とすれ違った時に顔色が悪いように見えたと証言した大村吾一老人(西村晃)は、最近の宏には会っていなくて、普段の宏の顔色との比較などできなかったことを指摘されたり、あるいはハツ子の店の飲み代を催促されていたことを明らかにされたりする。
ヤクザの宮内に至っては証言がころころ変わり、どこまで本当のことを言っているのかわからない。
裁判劇の間に、殺人事件頃に起こっていたことが短い時間で挿入される。
詳しく描いていないだけに、観客である僕たちはその背後にある事柄を読み取るような行動に自然とかられる。
宏とヨシ子は若いカップルで、当初は純愛をはぐくんでいたように描かれている。
ところが姉のハツ子も宏に好意を抱いており、宏とハツ子はラブホテルに通っていたことが判明する。
裁判でヨシ子は、ハツ子と宏の関係は村でも噂しているが、私はそんな噂を信じないし宏を信じていると証言するが、実は二人がラブホテルから親し気に出てくるところを目撃していたことが分かる。
それを証言したのが宮内で、ヨシ子は宮内がウソをついていると言うが、どうやら宮内証言は本当みたいだ。
そうなると純情そうに見えた少女のヨシ子が、実はしたたかな女であることが驚きと共に知らされた思いになる。
ハツ子は母親(音羽信子)と結婚して家に入り込んだ男に犯されそうになり(あるいは犯され)村を出て行ったが、歌舞伎町でキャバレー修行を積んで田舎にかえってきて駅前にスナックを出した。
宮内にヒモの様に付きまとわれ、その宮内は別の女(夏純子)と出来ているという仕打ちにあっている薄幸な女で、人一倍幸せを求めたのかもしれないが、一人の男をめぐって妹と骨肉の争いを見せることになる。
妹は「私から宏さんをとらないで」と叫ぶが、姉は「欲しいなら腕ずくでとりなさいよ」と叫び返す。
男の気持ちは裁判でもあまり証言するシーンがないのでよくわからない。
ハツ子を迷惑と感じていたのか、二人とも愛していたのか、それとも二人との愛欲に溺れていただけなのか…。
未成年ということもあって懲役刑とはいえ軽い判決が出る。
宏はその判決で余計に贖罪の気持ちが湧いてくるが、弁護士は軽い判決を得た時の反動だと言い切る。
もうすぐ出産を迎えるヨシ子だけはアッケラカンとしていて、過去に起きたことなど忘れたかのように明日に向かって歩んでいくラストシーンは、女は恐ろしいし強いと思わせた。
監督 野村芳太郎
出演 松坂慶子 永島敏行 大竹しのぶ
渡瀬恒彦 佐分利信 丹波哲郎
芦田伸介 西村晃 山本圭
北林谷栄 佐野浅夫 乙羽信子
森繁久彌 夏純子
ストーリー
神奈川県の相模川沿いにある土田町の山林で、若い女性の刺殺死体が発見された。
その女性はこの町の出身で、新宿でホステスをしていたが、一年程前から厚木の駅前でスナックを営んでいた坂井ハツ子(松坂慶子)であった。
数日後、警察は十九歳の造船所工員・上田宏(永島敏行)を犯人として逮捕する。
宏はハツ子が殺害されたと推定される日の夕刻、現場付近の山道を自転車を押しながら下りてくるのを目撃されていた。
警察の調べによると、宏はハツ子の妹、ヨシ子(大竹しのぶ)と恋仲であり、彼女はすでに妊娠三ヵ月であった。
宏とヨシ子は家を出て横浜方面で暮らし、子供を産んで、二十歳になってから結婚しようと計画していた。
しかし、ハツ子はこの秘密を知り、子供を中絶するようにと二人に迫った。
ハツ子は宏を愛し、ヨシ子に嫉妬していた。
その頃ハツ子には宮内(渡瀬恒彦)というやくざのヒモがいた。
彼女は宮内と別れて、宏と結婚し、自分を立ち直らせたいと思っていたのだった。
ハツ子が親に言いつけると宏に迫った時、彼はとっさに登山ナイフをかまえて彼女を威嚇した。
宏が一瞬の悪夢からさめ気がついた時、ハツ子は血まみれになって倒れていた。
上田宏は逮捕され、検察側の殺人、死体遺棄の冒頭陳述から裁判が開始される。
果たして本当に宏が殺人を犯したのかという疑問を含め、裁くもの裁かれるものすべてを赤裸々にあばきながら、青春そのものが断罪されていく。
寸評
姉妹が一人の男を愛した為に生じた殺人事件の裁判劇である。
芦田伸介演じるの岡部検事の冒頭陳述から始まるが、何回かの公判が繰り返される裁判所の場面は重厚だ。
検事の芦田伸介、弁護士の丹波哲郎、裁判長の佐分利信がそれぞれ低温の声で、その声音が裁判劇にリアリティを出していたように思う。
検事の追及に弁護士は想像を加味しながら反論し、新事実も導き出していく。
かといって、本作は冤罪事件を扱ったものではなく、被告の宏は当初から殺人を認めている。
裁判を通じて浮かび上がってくるのは、人の欺瞞に満ちた態度と、三角関係に陥った人間の複雑な心象である。
証言に立った証人たちはいい加減である。
冤罪事件にみられるように、検察による誘導質問に導かれているのだが、それを弁護士に厳しく追及される。
証人として語っていることが偽証ではないにしても、必ずしも真実とは言い切れないものがあることを描いている。
二人が自転車に乗って言い争いをしていたと証言した婆さん(北林谷栄)は、殺されたハツ子の顔が見えなかったはずだったことや、わずか2秒くらいで通り過ごしたのにその会話の内容が聞き取れたのかと詰問される。
犯人である宏とすれ違った時に顔色が悪いように見えたと証言した大村吾一老人(西村晃)は、最近の宏には会っていなくて、普段の宏の顔色との比較などできなかったことを指摘されたり、あるいはハツ子の店の飲み代を催促されていたことを明らかにされたりする。
ヤクザの宮内に至っては証言がころころ変わり、どこまで本当のことを言っているのかわからない。
裁判劇の間に、殺人事件頃に起こっていたことが短い時間で挿入される。
詳しく描いていないだけに、観客である僕たちはその背後にある事柄を読み取るような行動に自然とかられる。
宏とヨシ子は若いカップルで、当初は純愛をはぐくんでいたように描かれている。
ところが姉のハツ子も宏に好意を抱いており、宏とハツ子はラブホテルに通っていたことが判明する。
裁判でヨシ子は、ハツ子と宏の関係は村でも噂しているが、私はそんな噂を信じないし宏を信じていると証言するが、実は二人がラブホテルから親し気に出てくるところを目撃していたことが分かる。
それを証言したのが宮内で、ヨシ子は宮内がウソをついていると言うが、どうやら宮内証言は本当みたいだ。
そうなると純情そうに見えた少女のヨシ子が、実はしたたかな女であることが驚きと共に知らされた思いになる。
ハツ子は母親(音羽信子)と結婚して家に入り込んだ男に犯されそうになり(あるいは犯され)村を出て行ったが、歌舞伎町でキャバレー修行を積んで田舎にかえってきて駅前にスナックを出した。
宮内にヒモの様に付きまとわれ、その宮内は別の女(夏純子)と出来ているという仕打ちにあっている薄幸な女で、人一倍幸せを求めたのかもしれないが、一人の男をめぐって妹と骨肉の争いを見せることになる。
妹は「私から宏さんをとらないで」と叫ぶが、姉は「欲しいなら腕ずくでとりなさいよ」と叫び返す。
男の気持ちは裁判でもあまり証言するシーンがないのでよくわからない。
ハツ子を迷惑と感じていたのか、二人とも愛していたのか、それとも二人との愛欲に溺れていただけなのか…。
未成年ということもあって懲役刑とはいえ軽い判決が出る。
宏はその判決で余計に贖罪の気持ちが湧いてくるが、弁護士は軽い判決を得た時の反動だと言い切る。
もうすぐ出産を迎えるヨシ子だけはアッケラカンとしていて、過去に起きたことなど忘れたかのように明日に向かって歩んでいくラストシーンは、女は恐ろしいし強いと思わせた。
特に、大竹しのぶの,ふてぶてしさがすごかったですね。
また、それを知っているチンピラの渡瀬恒彦が、「お前もいいタマだな」というのも名演技だったと思う。
松坂慶子はこの作品で変身を遂げたと思っています。
この映画では、新藤兼人のシナリオ、野村芳太郎監督の演出のもと、一般には難解な法廷技術論はさらりと流し、都市化する首都圏近郊の農村部に住む若者たちの青春像にポイントを置いてドラマが描かれていましたね。
都市化の進む神奈川県厚木市に近い町の山林で、小さなスナックの経営者、坂井ハツ子(松坂慶子)の刺殺死体が発見される。
殺人現場近くに居合わせた老人の証言などにより、19歳の工員、上田宏が容疑者として逮捕される。
宏は、被害者ハツ子の妹で妊娠中のヨシ子(大竹しのぶ)と同棲中だった。
宏は、殺人と死体遺棄の罪に問われて起訴され、殺しの事実は認めたのだった。
裁判の争点は、宏の殺意である。
検事(芦田伸介)、弁護士(丹波哲郎)は、激しく対峙し、弁護士は被害者ハツ子のヒモだった宮内(渡瀬恒彦)らの証言の矛盾を巧みにつきながら、検事が主張する宏の殺意を覆していくんですね。
6割以上が法廷シーンなのですが、裁判劇が陥りがちな単調さを救ったのは、宮内をはじめとする証人の個人の生活まで深く突っ込み、証人のドラマをたっぷりと展開させたからだと思います。
そして、裁判の主役とともに、"事件"の主役たちも、うまく描き出されていると思います。
ハツ子とヨシ子、宏は幼馴染みだ。
ハツ子は、母(乙羽信子)が再婚した義父に犯され、家を飛び出し、安キャバレーを転々としたあげく、小金をためて郷里に小さなスナックを開く。
ホステス時代に知り合った宮内との関係も切れぬまま、妹のヨシ子と親密な宏に思いを寄せ、妹の妊娠に強い嫉妬を感じるのだった。
そして、事件は、ヨシ子と同棲を決意した宏を責めた時に起きたのだった---------。
環境の急激な変化と共に、揺れる若者たちの不安定な心情、生活もうまく表現されていると思います。
自分の恋人に思いを寄せていた姉との関係を頑ななまでに隠し通し、自身の愛を守り通そうとするヨシ子を大竹しのぶが、実にうまく演じていたと思います。
また、松坂慶子も野村芳太郎監督の指導で、映画界に入って以来とも思える熱のこもった演技をみせたのが印象的でしたね。
地味な作品ながら、"青春の罪と罰"にも迫った裁判劇の秀作だと思います。
衣笠さんがプロ野球の広島に入団し、甲子園で阪神のエースだった村山投手からホームランを打って「俺もこれでプロでやれる自信がついた」と電話してきたそうです。
同じように演技開眼てあると思います。
この映画における松坂慶子さんもそうだったと思います。