2019/1/1より始めておりますので10日ごとに記録を辿ってみます。
興味のある方はバックナンバーからご覧下さい。
2019/10/11は「大菩薩峠 完結編」で、以下「太陽」「太陽がいっぱい」「太陽を盗んだ男」「タクシードライバー」「たそがれ清兵衛」「TATTOO[刺青]あり」「Wの悲劇」「魂萌え!」「ダラス・バイヤーズクラブ」と続きました。
「アントキノイノチ」 2011年 日本
監督 瀬々敬久
出演 岡田将生 榮倉奈々 松坂桃李 鶴見辰吾
檀れい 染谷将太 柄本明 堀部圭亮
吹越満 津田寛治 宮崎美子 原田泰造
ストーリー
高校時代に親友を“殺した”ことがきっかけで、心を閉ざしてしまった永島杏平(岡田将生)は、父・信介(吹越満)の紹介で遺品整理業“クーパーズ”で働くことになる。
社長の古田(鶴見辰吾)は「荷物を片付けるだけではなく、遺族が心に区切りをつけるのを手伝う仕事だ」と杏平を迎える。
先輩社員・佐相(原田泰造)、久保田ゆき(榮倉奈々)とともに現場に向かった杏平。
死後1ヶ月経って遺体が発見されたその部屋は、ベッドは体液で汚れ、虫が部屋中に散乱していた。
最初は誰もが怖気づくという現場に杏平は黙って向き合うが、ゆきに遺品整理のやり方を教わっている最中、彼女の手首にリストカットの跡を見つける……。
3年前。生まれつき軽い吃音のある杏平は、高校時代、同じ山岳部の松井(松坂桃李)たちに陰でからかわれていた中、松井による陰湿ないじめと周囲の無関心に耐えられなくなった山木(染谷将太)が飛び降り自殺をする。
その後、松井の悪意は表立って杏平へと向かい、何も抵抗できない杏平だったが、登山合宿で松井と二人きりになった時にふと殺意が生まれ、崖から足を踏み外した松井を突き落とそうとする杏平。
結局、杏平は松井を助けるが、松井は「滑落した杏平を助けたのは自分だ」と周囲にうそぶく。
だが文化祭当日、山岳部の展示室には松井を助ける杏平の写真が大きく飾られていた。
それは、教師や同級生たちが松井の悪意や嘘を知っていながら、それを見過ごしていたという証拠だった。
杏平は再び松井に殺意を抱き「なんで黙ってるんだよ」と叫びながら松井に刃を向けた……。
ある日、ゆきは仕事中に依頼主の男性に手を触られ、悲鳴をあげ激しく震えた。
心配した杏平は、仕事帰りにゆきを追いかけ、彼女はためらいながらも少しずつ自分の過去に起きた出来事を杏平に告げる……。
寸評
2人の男女の傷ついた孤独な心、他者と触れあいたい思いはあるものの前に進めない苦悩など、鋭い心理描写が目を引くが、いかんせん暗い。
主人公たちが人に語れない過去のトラウマを抱えて苦悩していて、その心理描写に重きを置いているのでどうしても全体的に重くなっている。
彼らの苦悩を表すために、遺品整理中に杏平やゆきが変調をきたすシーンや、覧車の中での2人と、それに続く、夜の街を疾走する二人の姿、あるいはホテルでの二人の様子などを、手持ちカメラを使った映像などで、その時の心理をリアルに切り取っているのは評価できる。
セリフの間に杏平に起きた過去の出来事を巧みに挿入していく演出もなかなかのものであった。
それでも、それをこれだけじっくりと描かれると少し疲れる。
孤独で誰ともつながりのなかった杏平とゆきが、遺品整理を通して変わっていくところも自然に描かれているのだが、そこには映画的な感動を呼ぶものはない。
きっと現実にはそうなのだろうけれど、これは映画なのだからと思ってしまうのだ。
遺品整理に向かう家は色々あって、孤独死して発見が遅れたマンション団地の一室であったり、餓死されられた子供の部屋だったり、家庭を捨て去って孤独死した女性の部屋だったりする。
杏平の母親も家庭を捨てているという背景がそれにかぶさってくる。
ゆきの家庭の不幸な状況も加わって、家族のねじれた関係が多々描かれる。
遺品整理会社にまかせるのだから、故人と遺族の関係はどちらかと言えば冷たい。
先輩社員の佐相は、いいものだけを残して個人のプライドを守ってやるのだと言うが、それも関係ないような人間関係である。
死ぬことも迷惑がられるという姿は、映画の世界だけではないことが悲しい。
杏平は吃音で、しかも以前は躁鬱で精神科の薬を服用していた。
いまも緊張すると吃音症が出てしまうのだが、遺品整理中に子供を捨て去った母親が成人した娘に出そうとしていた大量の手紙を発見し、その娘に届けたあたりから吃音が目立たなくなる。
これはたぶん意図したものだろうが、その劇的変化を訴えるシーンはない。
手紙を拒絶する女性に、自分たちと同じになってしまうと叫ぶのだが、どうして吃音癖が出なかったのか?
その後もその症状は和らいでいるように感じたのだが…。
杏平が遺品整理会社を辞めて老人ホームで働いているゆきと再開してからは映画的に盛り上がっていく。
水を差すのがゆきの処理の仕方で、突拍子過ぎる。
命は引き継がれているということは理解できるのだが、ちょっとご都合主義的ではなかったか。
山岳部の顧問が正義感ぶって、杏平に頑張ったと教師面して言ったところ、杏平が無関心すぎると詰め寄るシーンが一番印象に残った。
世の中、事なかれ主義が多いものなあ~。
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