おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

プーサン

2023-02-12 08:02:06 | 映画
「プーサン」 1953年 日本


監督 市川崑
出演 伊藤雄之助 越路吹雪 藤原釜足 三好栄子 小林桂樹 木村功
   八千草薫 杉葉子 菅井一郎 小泉博 加東大介 トニー谷
   平田昭彦 谷晃 山形勲 横山隆一 横山泰三 黛敏郎

ストーリー
三流どこの補習学校教師野呂(伊藤雄之助)は、税務署吏員金森風吉の家に間借りしている独身者だ。
久かたぶりに銀座へ出て目をまわし、トラックに轢かれそこなった。
当分右腕が利かず、学生泡田(小泉博)に黒板に字をかいてもらうが、かき賃一時間百円也を請求される。
学校経営者の土建屋(加東大介)から夜間担任に格下げされ、無体な時間外勤務を強いられても文句ひとついえぬ野呂が、心ひそかに想うのは間借りしている金森の娘--銀行事務員のカン子(越路吹雪)であった。
カン子は無類のガンコ娘で、同僚とはりあい、恋人とはりあい、張りのない野呂なんか念頭にもない。
野呂と金森は散歩中、戦記物で売りだし今は時めく代議士の五津元大佐(菅井一郎)に会釈された、というので大感激、警官の甲賀(小林桂樹)をまじえ外食券食堂で五津礼讃の一くさりをはじめる。
途中から一枚加わった学生泡田と甲賀が、話のはしばしに互いの身分を知り、掴みあいとなる。
つられて食堂中が大格闘、野呂は丼をもってにげだした。
さらに、野呂は学生たちの誘いにのってメーデーに参加し、宮城前の紛糾にまきこまれて拘置される。
同じ署内に選挙違反で検挙された五津もいたが、前後して裟婆に出てからは、五津は「牢獄記」出版でまたまた大ヒット、野呂はデモの写真が新聞に載ったために学校をクビになり、しごと探しに必死である。
漸く金森の妻らん(三好栄子)の世話でミシン会社荷造り係の口がみつかり、今や入社選考へでかけよう、というまぎわ、カン子自殺未遂の報がくる。
恋人との結婚を反対されてカンシャクをおこしたのである。
が、無我夢中の野呂は「人でなし!」と叫ぶらんの声を背に、とっととわき目もふらず選考場へかけつけた。
カン子への片思いの野呂は、彼女をしのんでヒヤシンスの花を買おうとするがお金が足りない。
その時、お金を貸してくれたのは病院の看護婦である織壁さん(八千草薫)だった。
野呂は不本意ながらも決まった会社へ早朝出勤していくのだった。


寸評
市川崑は鬼才という呼び名を与えてもいい監督で、五社に所属していながら一般的な娯楽作品とは一線を画す特異な作品を撮ったりしている。
「プーサン」もそんな作品の一つに挙げてもいいだろう。
ブラックユーモアを散りばめた作品で、これといったストーリーがあるわけではない。
数学教師の主人公が大家の娘に恋しているが、相手の女性は無視状態。
職場では格下げされ、やがてデモに参加したことがバレて首になり、大家の奥さんの紹介で不本意な仕事に再就職すると言うだけのものである。

野呂は学校経営者の加東大介から「あんたのような便利な男はいない」と言われるように、格下げされても給料を下げられても文句を言わず、結局夜間授業も昼の授業も押し付けられてしまう気の弱い男である。
その彼の優柔不断さと、彼を取り巻く人々のいい加減さが、単発ストーリーとして描かれていく。
風刺劇と言えばそう呼べなくもないが、滑稽な場面だけは散りばめられている。
野呂が交番で小林桂樹の巡査から「もっと神経を太く持たなきゃあ」と諭されていると、人を殺ししてきたという男がピストル持って現れる。
野呂は驚くが巡査は「xx君、本署に連行して」とたじろぐ様子もない。
娘を殺したと刃物持った女が自首してくるところ「xx君、事情を聞いてやって」と平然としている。
ところが、子供がやってきて「殺しました」とネズミを差し出すと、それに驚いて気絶してしまう。
あるいは美人の下着姿自殺未遂と、冴えない男の首吊り自殺が同時に起き、女性の方にはワッと警官が押し寄せ、男の首吊りの方には誰も行かないなどだ。
その他、木村功の医者とのやりとりや、学生たちとのやりとりなど、クスリとする場面は多々ある。

主人公のトボケた味を、伊藤雄之助がこれ以上の適役はいないとばかりに上手く演じている。
伊藤雄之助自体がとても変わった感じのする役者さんで、トボケた役をやらせるとこんなに輝きを見せる俳優も珍しいと思う。
娘の交際相手をめぐって母娘が言い争うシーンで、その会話をバックに無言のままに部屋から出て行くところなどはやるせなさがにじみ出ていた。
本来ならヒロインになるだろう八千草薫を脇役において、容姿に劣る越路吹雪にヒロイン役をやらせているのも胡椒が聞いている感じだ。
ヒロインは主人公に肩入れするところなど微塵もなく、母親に家賃を値上げしようとふっかけさせているし、しかもその会話は隣の部屋に筒抜けなのである。
彼女が再度自殺を試みる場面なども可笑しい。

ただ、全体的に雑然としていて、思いついたシーンを並べて終わったという感じは否めない。
庶民のバイタリティは感じるが、真面目に生きるバカバカしさを笑い飛ばすドタバタ劇は10年後の植木等による「無責任男」を待たねばならない。


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