おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

まぼろしの市街戦

2020-04-18 09:38:50 | 映画
「まぼろしの市街戦」 1967年 フランス / イギリス


監督 フィリップ・ド・ブロカ
出演 アラン・ベイツ
   ピエール・ブラッスール
   ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド
   ミシュリーヌ・プレール
   フランソワーズ・クリストフ
   アドルフォ・チェリ
   ジャン=クロード・ブリアリ

ストーリー
第一次大戦中、パリ北方の小さな村を撤退するドイツ軍は時限爆弾を仕掛けた。
これを知った村人の一人は、進撃してくるイギリス軍にこれを告げた。
隊長バイベンブルック大佐は伝令兵プランピックを村に派遣し、爆弾を見つけて撤去せよと命じた。
村は、噂におびえ、大半が避難し、残されたのはサーカスの動物と、精神病院の狂人だけだった。
猛獣は往来をさまよい、解放された狂人は、空家に入りこんで夢のような生活をはじめていた。
公爵、公爵夫人は村の名士、僧正は寺院に納り、エバはコクリコたち、娘を集めて女郎屋を開業し、将軍は幻想の軍隊を編成した。
プランピックは、戦場のまっただ中で、陽気に優雅に暮らしている村人を発見して呆気にとられたが、彼をハートの王様にし、コクリコと結婚させると聞いて、初めて狂人の世界にふみこんだと覚った。
彼は善良な狂人たちを避難させようとしたが、誰も動かなかった。
彼は最後の数時間を皆と共に楽しむ決心をした。
プランピックは花嫁のコクリコから時限爆弾の隠し場所を聞き、無事撤去した。
そんな中で、この戦略的要地のこの村を、独軍、英軍が狙いはじめた。
両軍の偵察隊が乗りこんで来た。
両軍は激戦を展開したが、相撃ちで両方とも全滅した。
狂人たちは余りの狂気の沙汰にゲンナリして精神病院に帰っていった。
英雄となったプランピックは、進撃途上にある次の村の爆破を命じられた。
彼は遠ざかる心温まる懐しい村を見つめていた。
そして彼は脱走した。
鳥カゴを持ち、素っ裸になったプランピックは精神病院の門をくぐり友人の仲間に入って行くのだった。


寸評
ブラック・コメディの映画と言えば僕は一番にこの「まぼろしの市街戦」をあげる。
間違いなく反戦映画なのだが、戦争の悲惨さを訴えるのではなく戦争行為を徹底的にバカにしているのだ。
戦争をバカにしてしている映画は「M★A★S★H マッシュ」を初め案外とあるのだが、本作はまるで舞台劇を見ているような気分にさせてくれるファンタジー性も有している点を僕は評価する。
本来まともであるはずの英軍司令官や兵隊たち、独軍の司令官や兵隊たちまでもどこか滑稽である。
本当にまともなのはアラン・ベイツが演じる通信隊ハト班のブランピックだけなのだが、最後にはあちらの世界が狂っているのだという患者達の方がまともなのだと訴えている。
部下を何人も危険な目に合わせられないという将軍の意見で、ブランピックはフランス語が出来ると言うだけで一人で時限爆弾の撤去に行かされる。
ブランピックは戦争の一パーツでしかない。
ドイツの将校も簡単に射殺されるが、射殺が間違いだったことが分かっても「勲章をやっておけばよい」と言われる始末で、彼も戦争の一部品でしかないことを物語っている。

町が爆破されることが分かり住民がが逃亡し、ドイツ兵も撤退してもぬけのからになった町に取り残されたのは精神病の患者たちと、サーカス団の動物たちだけとなってしまい、彼らは町中に繰り出し思い思いの役を演じる。
司教になる者、軍人になる者、貴族になる者、美容師になる者、娼館のマダムになる者などになった者が繰り広げる騒動はまるでカーニバルのようで、彼等の生き生きとした姿は不思議な魅力を発散する。
思い思いの衣装に着替え、それらになりきって振舞う彼等の姿はファンタジックで、自転車を乗り回すシーンや、彼等が再び病院に戻っていくシーンなど、まるで童話の世界を見ているようだ。
彼らが発する言葉がどこか哲学者を思わせるものなのは、見ている我々が俗世間にいるせいに違いない。
狂人を演じた多くの役者達が生き生きと演じていて微笑ましい。
最後に閉じ込められているはずの狂人の一人がつぶやく「旅はいつでもできる、この窓さえあれば・・・」は心に響いたなあ。
あちらの世界がおかしいのか、こちらの世界がおかしいのか混とんとしてくる。
現実の紛争においても、一方の正義はもう一方から見れば悪で、それぞれの主張がぶつかって武力衝突が起きていることを思えばそれも当然かもしれない。
患者たちは町の入り口で立ち往生して「町の外には怖いものがたくさんあるから」という理由で、それ以上は一歩も動かないのだが、彼らの意見は間違いのないことだ。
彼等はあまりの狂気の沙汰に幻滅し「芝居は終わった、病院へ戻ろう」と言い始めるのだが、これだとどちらが精神を病んでいるのか分かったものではない。

ジュヌヴィエーヴ・ビジョルドは、なぜかその名前を覚えている女優さんである。
可愛かったからか、この作品によってなのか記憶は定かでないが、僕にとっては忘れることのない名前となっているのが不思議で、理由は今もって分からない。
それにしても、ここまで戦争をバカにした映画も数少ないのではないか。
かくれた名作と言うには著名すぎるが、間違いなく映画史に残る作品だと思う。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿