「台風騒動記」 1956年 日本
監督 山本薩夫
出演 佐田啓二 菅原謙二 佐野周二
野添ひとみ 桂木洋子
ストーリー
のどかな海辺の町ふぐ江に台風が荒狂い、家は倒れ田畑も流され、役場の前には救援物資を求める町民たちが集まっていた。
二階の会議室では森県会議員(永井智雄)を中心に山瀬町長(渡辺篤)、友田議長(左卜全)、ボスの川井釜之助(三島雅夫)などが町議会の最中。
森県議の入知恵で、台風災害に便乗、台風で倒れそこねた小学校舎を壊し一千万円の政府補助金を取り私腹を肥やそうとの皮算用に会議は踊る。
しかし危険校舎とはいっても当の学校は健在。
教科書を失った子供たちのため妙子先生(野添ひとみ)は資金集めに大忙し。
町議会は町長の責任で校舎取壊しに決り森県議は配下の堀越組を派遣する。
大蔵省からは監査官が来るという。
町長夫人みえ(藤間紫)は監査官を買収しようとバス停留所で見張りをしていると、一人の青年がバスから降りたので、みえはこの青年吉成幸一(佐田啓二)を監査官と思い料亭へ連れこんで大サービス。
川井議員からは二万円の袖の下、芸者静奴(桂木洋子)まで罷り出た。
ところが静奴の話で幸一は人違いされたと知り、彼が訪ねる友人の務(菅原謙二)の家に逃避行。
その頃本物の監査官山村(細川俊夫)は町長らにニセ陳情をキメつけていた。
補助金はどうやら怪しくなったが、町長は「補助金は来る」の一点張りだが道がない。
新校舎の地鎮祭も迫り、PTAでは一戸一万円の寄金で工事に着手しようと話合っている。
いよいよ地鎮祭の日、遂に裏面を知った務は妙子に励まされ、補助金は来ないと発表した。
ざわめく町民、頭を抱える議員たち。
翌朝、幸一は彼を慕う静奴を残して町を去る。
寸評
補助金を巡る騒動を描いた風刺喜劇であるが、この話は1953年9月に愛知県渥美郡福江町を襲った台風13号による被害とそれをきっかけに引き起こされた一連の事件をモデルにしている。
佐田啓二の吉成幸一は架空の人物のようであるが、三島雅夫の川井釜之助は福江町・渥美町の町議会議員や議長を歴任した川口釜之助のことのようである。
当の本人は映画で描かれた川井釜之助よりも豪快な人だったらしいというから驚きだ。
補助金を巡る不正は時代を問わず存在しているようで、我が村の防災倉庫を巡る補助金の行方が分からなくなっているという話が私の耳にも入ってきている。
あくまでも噂で事実関係は定かでない。
大蔵省の監査官を勘違いしたところから騒動が拡大化していく中で、先ず描かれるのが贈賄と接待に対する風刺なのだが、面白おかしく描かれていることが実際に行われていないと風刺にならない。
観客は政官財の三すくみの中で贈収賄と接待攻勢が行われていることを色んな事件を通じて知っている。
建設会社と結託した議員が、自分の息のかかった業者に工事を請け負わせるよう動き回っているのも納得だ。
次期町長を巡る駆け引きも描かれているが、政治の世界では一寸先は闇の裏切り行為も日常茶飯らしい。
町長や町会議員たちがてんやわんやで繰り広げていることは、実際に行われていることなのだと思いながら笑っている自分がいる。
事実は奇なりで、モデルとなった事件では実際に出された補助金が100万円だったのに対し、工事予算は2500万円にのぼり、1955年の町村合併のどさくさにまぎれて第2期工事の予算も通されたとのことだ。
映画の中でも補助金は100万円程度だと発表されている。
佐田啓二は松竹の看板俳優の一人だったが、ここでは普段はわき役が多い人たちが生き生きと動き回っている。
町長の渡辺篤、川井釜之助の三島雅夫を初め、岩本の中村是好、森県会議員の永井智雄、赤桐巡査の多々良純、山代の三井弘次、議長の左卜全、校長の加藤嘉たちがパーソナリティを存分に発揮している。
言い争う場面や宴会シーンは彼等の芸域の広さを感じさせる。
個性的な俳優はいるが、このようなスラップスティックな演技が目一杯できる役者は本当に少なくなってしまったように思うし、非常に懐かしさを覚える。
野添ひとみは大映所属の女優さんだと思っていたが、この頃は松竹だったんだな。
大きな目が印象的で、この映画のアクセントになっている。
「二十四の瞳」の大石先生もいいが、この映画における志水先生もなかなかいい。
意気地なしの務先生が志水先生に思われる魅力となる部分が一つも描かれていないのはどうなんだろう。
生徒に好かれていると語られること、町民たちの支持を得ていることで彼の良さが描かれていたのだろうか。
ちょっとイジイジさせられる描かれ方だ。
巡査が「世界」や「中央公論」を読んでいることで「君はアカか?」と言っているが、このような会話がなされているのは時代を感じさせる。
スラップスティック・コメディで軽い作品のように感じるが、描かれている内容は現在でも十分通じるものだ。
実際僕の周りでもそれまがいのことが起きているのだから・・・。
監督 山本薩夫
出演 佐田啓二 菅原謙二 佐野周二
野添ひとみ 桂木洋子
ストーリー
のどかな海辺の町ふぐ江に台風が荒狂い、家は倒れ田畑も流され、役場の前には救援物資を求める町民たちが集まっていた。
二階の会議室では森県会議員(永井智雄)を中心に山瀬町長(渡辺篤)、友田議長(左卜全)、ボスの川井釜之助(三島雅夫)などが町議会の最中。
森県議の入知恵で、台風災害に便乗、台風で倒れそこねた小学校舎を壊し一千万円の政府補助金を取り私腹を肥やそうとの皮算用に会議は踊る。
しかし危険校舎とはいっても当の学校は健在。
教科書を失った子供たちのため妙子先生(野添ひとみ)は資金集めに大忙し。
町議会は町長の責任で校舎取壊しに決り森県議は配下の堀越組を派遣する。
大蔵省からは監査官が来るという。
町長夫人みえ(藤間紫)は監査官を買収しようとバス停留所で見張りをしていると、一人の青年がバスから降りたので、みえはこの青年吉成幸一(佐田啓二)を監査官と思い料亭へ連れこんで大サービス。
川井議員からは二万円の袖の下、芸者静奴(桂木洋子)まで罷り出た。
ところが静奴の話で幸一は人違いされたと知り、彼が訪ねる友人の務(菅原謙二)の家に逃避行。
その頃本物の監査官山村(細川俊夫)は町長らにニセ陳情をキメつけていた。
補助金はどうやら怪しくなったが、町長は「補助金は来る」の一点張りだが道がない。
新校舎の地鎮祭も迫り、PTAでは一戸一万円の寄金で工事に着手しようと話合っている。
いよいよ地鎮祭の日、遂に裏面を知った務は妙子に励まされ、補助金は来ないと発表した。
ざわめく町民、頭を抱える議員たち。
翌朝、幸一は彼を慕う静奴を残して町を去る。
寸評
補助金を巡る騒動を描いた風刺喜劇であるが、この話は1953年9月に愛知県渥美郡福江町を襲った台風13号による被害とそれをきっかけに引き起こされた一連の事件をモデルにしている。
佐田啓二の吉成幸一は架空の人物のようであるが、三島雅夫の川井釜之助は福江町・渥美町の町議会議員や議長を歴任した川口釜之助のことのようである。
当の本人は映画で描かれた川井釜之助よりも豪快な人だったらしいというから驚きだ。
補助金を巡る不正は時代を問わず存在しているようで、我が村の防災倉庫を巡る補助金の行方が分からなくなっているという話が私の耳にも入ってきている。
あくまでも噂で事実関係は定かでない。
大蔵省の監査官を勘違いしたところから騒動が拡大化していく中で、先ず描かれるのが贈賄と接待に対する風刺なのだが、面白おかしく描かれていることが実際に行われていないと風刺にならない。
観客は政官財の三すくみの中で贈収賄と接待攻勢が行われていることを色んな事件を通じて知っている。
建設会社と結託した議員が、自分の息のかかった業者に工事を請け負わせるよう動き回っているのも納得だ。
次期町長を巡る駆け引きも描かれているが、政治の世界では一寸先は闇の裏切り行為も日常茶飯らしい。
町長や町会議員たちがてんやわんやで繰り広げていることは、実際に行われていることなのだと思いながら笑っている自分がいる。
事実は奇なりで、モデルとなった事件では実際に出された補助金が100万円だったのに対し、工事予算は2500万円にのぼり、1955年の町村合併のどさくさにまぎれて第2期工事の予算も通されたとのことだ。
映画の中でも補助金は100万円程度だと発表されている。
佐田啓二は松竹の看板俳優の一人だったが、ここでは普段はわき役が多い人たちが生き生きと動き回っている。
町長の渡辺篤、川井釜之助の三島雅夫を初め、岩本の中村是好、森県会議員の永井智雄、赤桐巡査の多々良純、山代の三井弘次、議長の左卜全、校長の加藤嘉たちがパーソナリティを存分に発揮している。
言い争う場面や宴会シーンは彼等の芸域の広さを感じさせる。
個性的な俳優はいるが、このようなスラップスティックな演技が目一杯できる役者は本当に少なくなってしまったように思うし、非常に懐かしさを覚える。
野添ひとみは大映所属の女優さんだと思っていたが、この頃は松竹だったんだな。
大きな目が印象的で、この映画のアクセントになっている。
「二十四の瞳」の大石先生もいいが、この映画における志水先生もなかなかいい。
意気地なしの務先生が志水先生に思われる魅力となる部分が一つも描かれていないのはどうなんだろう。
生徒に好かれていると語られること、町民たちの支持を得ていることで彼の良さが描かれていたのだろうか。
ちょっとイジイジさせられる描かれ方だ。
巡査が「世界」や「中央公論」を読んでいることで「君はアカか?」と言っているが、このような会話がなされているのは時代を感じさせる。
スラップスティック・コメディで軽い作品のように感じるが、描かれている内容は現在でも十分通じるものだ。
実際僕の周りでもそれまがいのことが起きているのだから・・・。
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