おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ガス燈

2022-05-03 07:34:02 | 映画
「ガス燈」 1944年 アメリカ


監督 ジョージ・キューカー
出演 シャルル・ボワイエ
   イングリッド・バーグマン
   ジョセフ・コットン
   メイ・ウィッティ
   アンジェラ・ランズベリー
   テリー・ムーア

ストーリー
1870年のロンドン。
オールクィスト家に起こった歌手アリス・オ ールクィスト嬢の殺人事件は未だ犯人があがっていなかった。
アリスの姪ポーラはグレゴリー・アントンと結婚したが、夫の言に従い問題の家で結婚生活を営むことになった。
ある日ハンドバックに入れたはずの首飾りが紛失して以来、グレゴリーはポーラが自分のしたことを少しも記憶していないと言ってことごとに彼女を責めた。
そのあげく、彼女も精神病で死んだ彼女の母と同じく次第に精神が衰えて死ぬだろうというのだった。
ポーラは夫の言を気にしながら一人不安な日を送っていたが、次第に自分の精神状態に自信を失い、夜ごとにポッと薄暗くなるガス燈の光も、天井に聞こえる奇怪な物音も、自分の精神の衰えているための錯覚かと焦燥にかられた。
ある夜久し振りで夫と出かけた知人宅で時計を隠したといって夫から辱しめられたとき、彼女は堪え難い悲しみに襲われたがその様子を注視している若い男があった。
彼はブライアン・カメロンという探偵で、少年時代に憧れていた名歌手アリス・オ ールクィストの殺人事件には非常な関心をもっていた。
彼はある夜グレゴリーの外出中、家人の制止もきかずポーラに会い、彼女の叔母の事件についていろいろとポーラに語ってきかせ、また、彼女が決して精神に異常を来しているのではなく、夫の策略にすぎないこと、夜ごとに暗くなるガス燈の光も夫が閉鎖された屋根裏の部屋にいるためであることなどを説明した。
ブライアンがグレゴリーの机をあけてみると、彼女が隠したと夫から責められた数々の品物が現われ、20年前のこの家の殺人事件にグレゴリーが重大な関係を持っていた事実を説明する手紙も発見される。


寸評
サスペンスの部類に入るが謎解きの面白みはない。
イングリッド・バーグマンとシャルル・ボワイエが恋に落ちて結婚するまでは普通の展開で進み、やがてポーラに異変が起きてきて物語の展開を見せるが、偶然発見した手紙を シャルル・ボワイエのグレゴリーが慌てたようにポーラからその手紙を取り上げたところで、このグレゴリーが悪であることが明確になるし、この手紙が何か重要な物件であることも推測される。
グレゴリーがポーラとロンドン塔でひと悶着した後、王冠の展示場に行ってそこに散りばめられた宝石に感嘆したところで、勘のいい観客は宝石に何かあるなと気づく。
さらにすごい宝石が行方不明になっていることがわかると、この宝石がアリス殺人事件の原因だったのだと推測することも難しいことではない。
この映画は犯人が誰であるかといった謎解きなどは眼中になく、いかにしてポーラは夫の呪縛あるいは策略から逃れるのかに重点を置いている。

したがってこの映画はポーラを演じた イングリッド・バーグマンの独り舞台となっている。
シャルル・ボワイエもジョセフ・コットンも影が薄い。
イングリッド・バーグマンは映画史に残る大女優の一人だと思うが、ここでのバーグマンも精神的に異常をきたしているような人妻ながらも気品ある姿を披露して美しい。
グレゴリーがポーラを追い詰めていく過程もひねりの効いたものではない。
僕は後世になって見ることになったイングリッド・バーグマンの美貌に見とれるばかりなのだが、彼女を追い詰める
シャルル・ボワイエ のグレゴリーより、ポーラが軽蔑してそうで精神的にグレゴリーより圧迫されているのではないかと感じるアンジェラ・ランズベリーのナンシーの存在を面白く思った。
彼女の奥様を見下したような態度はグレゴリーよりインパクトが強い。
彼女の仕草、目線がポーラの不安を一層高めていたと思う。

話が話だけに雰囲気を出すための暗い画面が多く、ロンドン名物の霧も手伝って薄暗い中での出来事が多い。
時代的に電灯などはなく、夜の明かりは題名のガス燈に頼っている。
したがって自然と夜のシーンはガス燈によって照らされる影が陰影を描き出す。
誰かが別の場所でガス燈を使用すると、その排出能力から灯っていた明かりの明度が落ちたりするガス燈の特徴を取り入れ、ポーラの不安の一要素とし、さらに街路に灯されるガス燈が夜の訪れを表して時代の雰囲気を出している。

ポーラがかつての住まいに戻って来た時に、飾り棚に片方しかない手袋を発見する。
叔母が生前に片方を最も大事なファンにプレゼントしたらしいのだが、物語に大した影響を与えるものではないが、その顛末は微笑ましく、僕は好きなエピソードだ。
ラストシーンで近所の老婆がブライアンとポーラが話しているのを目撃して「あらまあ」とつぶやくのは、冒頭でグレゴリーとポーラが抱き合うのを目撃して発したのと同じで、これからの二人を暗示するものとなっている。
推理劇と言うよりこの時代の映画を楽しむ作品としては十分に鑑賞に堪える出来になっていると思う。


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