おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

秋刀魚の味

2019-07-04 10:48:57 | 映画
「秋刀魚の味」 1962年 日本


監督 小津安二郎
出演 岩下志麻 笠智衆 佐田啓二
   岡田茉莉子 三上真一郎
   吉田輝雄 牧紀子 中村伸郎
   三宅邦子 東野英治郎 杉村春子
   加東大介 北竜二 岸田今日子

ストーリー
長男の幸一夫婦(佐田啓二、岡田茉莉子)は共稼ぎながら団地に住んで無事に暮しているし、家には娘の路子(岩下志麻)と次男の和夫(三上真一郎)がいて、今のところ平山(笠智衆)にはこれという不平も不満もない。
細君と死別して以来、今が一番幸せな時だといえるかもしれない。
わけても中学時代から仲のよかった河合(中村伸郎)や堀江(北竜二)と時折呑む酒の味は文字どおりに天の美禄だった。
その席でも二十四になる路子を嫁にやれと急がされるが、平山としてはまだ手放す気になれなかった。
中学時代のヒョータンこと佐久間老先生(東野英治郎)を迎えてのクラス会の席上、話は老先生の娘伴子(杉村春子)のことに移っていったが、昔は可愛かったその人が早く母親を亡くしたために今以って独身で、先生の面倒を見ながら場末の中華ソバ屋をやっているという。
平山はその店に行ってみて、まさか路子が伴子のようになろうとは思えなかったが、馴染の小料理屋へ老先生を誘って呑んだ夜、先生の述懐を聞かされて帰った平山は路子に結婚の話を切り出した。
路子は父が真剣だとわかると、今日まで放っといて急に言いだすなんて勝手だと妙に腹が立ってきた。
しかし和夫の話だと路子は幸一の後輩の三浦(吉田輝雄 )を好きらしいのだが、三浦は先頃婚約したばかりだという。
強がりを言っていても、路子の心がどんなにみじめなものかは平山にも幸一にもよくわかった。
秋も深まった日、路子は河合の細君(三宅邦子)がすすめる相手のところへ静かに嫁いでいった・・・。


寸評
小津安二郎は生涯においてホームドラマだけを撮った監督である。
テーマはいつも同じで、親と子、夫と妻などの家族の中での愛情とちょっとしたボタンのかけちがいによる騒動などであった。
だからどの作品も非常に似通っているが微妙に違う。
多様性の中で同じテーマを追い続けていたようにも思うし、小津にとってはもっともっと完成したものがあるはずだと撮り続けていたような気もするのである。
本作は小津の遺作であり文字通り集大成となった作品だと思う。
集大成と言うのは一番優れた作品という意味ではなく、彼が描いてきたもの全てが散りばめられているからだ。
ユーモアに満ちたもの、悲劇的要素の多いもの、遊びの精神に富んだものなどで、そのどれもに及第点の作品を世に送り続けた。
小津が得意としたローアングルによる構図と共に、小津作品と言うだけで安心できるものがある。
僕は小津映画と同世代ではなかったが、後年に小津映画を見た時は自然と安心感が湧いてきたものである。

何気ない一コマに人生の縮図の様なものが織り込まれている。
今回の悲劇の一面はヒョータン先生だ。
奥さんを早くに亡くしていそうで娘と二人暮らしだが、その娘も婚期を逃して父の面倒を見ている。
主人公の平山と対比させているが、ヒョータン先生の娘である杉村春子は酔いつぶれた父親の姿に接して、婚期を逃した自分に対してか、父親を情けなく思ってか、自分を嫁に出してくれなかった父を恨んでか涙を流す。
非常につらいシーンだ。
自分が秘かに思いを寄せた男性がタイミングの違いで他の女性と結婚することになってしまった岩下志麻の流す涙とは全く違った涙であった。
そして、平山たちの先生であったヒョータン先生がかつての教え子たちに卑屈になっている姿も悲劇といえば悲劇で、なんだか情けないものを感じてしまう。

小津が描く家庭はいつもプチブルジョア家庭で、今回の平山も河合も堀もいい暮らしをしている。
彼等の特に平山家に起きる話なので娘の路子が嫁ぐことになる相手は一切登場しない。
路子は河合の会社に勤めているし、個々人の結びつきが強かった時代が描かれている。
岡田茉利子は隣の家にトマトを借りに行っていた。
後妻をもらった堀を料理屋の女将にからかい、その裏返しとして路子の縁談で平山が二人にからかわれるなどのユーモアも挿入されているし、佐田啓二と岡田茉利子夫婦のやり取りも可笑しい。

平山が娘の結婚式の帰りに淋しさを紛らわせるために馴染のバーに立ち寄るが、バーのマダムは「どうしたんの?お葬式の帰り?」と問いかけると、笠智衆の平山は「まあ、そんなもんだ」と答える。
確かに娘を嫁に出した父親の気持ちはそんなもんだと思うが、黒ネクタイでなくストライプの祝い用のネクタイをしている相手に「お葬式ですか?」はないものだと思う。
せめてネクタイを外させておいてほしかったと思いながらも、小津を堪能できる作品であることは間違いない。


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