神奈川の渓流、本流も14日をもってシーズンを終了、終わっちゃったんだな、寂しい限りだな。
先日も少し触れたけれど、今年の丹沢では例年以上に細流にこだわってみた。理由は単純で、足で稼ぎ、目視を重視する釣りがもともと好きだからだ。
湖や本流など水量が多ければ、よい魚が潜む確率がグッと上がるのはまあ当然と言えば当然なのだろう。けれど天候の影響を受けやすく、魚の出入りが激しいため、いるかどうかもわからない流れを歩くというのは、数やサイズよりも一匹の価値を求めたい釣り人にとって、これもまた酔狂なんじゃないかな。本流には本流の、細流には細流の浪漫があるのだ。
そもそも私は湖にも通うし、サクラマスの季節には本流にも通うので、ヤマメやイワナでは大場所の釣りもいいけれど、細流を選んでしまう傾向があるのだと思う。
さてシーズン終了数日前のこと。前日は県内某所でハコネサンショウウオの棲息調査のお手伝いをし、午前中は工房仕事をこなし、午後からのんびり重役出勤で丹沢某所へと出掛けた。
この日も本流と悩んだ挙句、細流を選んだ。細流と言ってもいろいろだ、源流はもちろん、支流やボサ川、夏場の枯れかけた流れも場合によっては細流と呼べるかもしれない。
一匹目はこんなヤマメだった。少し細い印象だったけれど、秋色が出始めたヤマメ。胸鰭の黄色いラインがお洒落でしょ。
この時期のヤマメで時折り見かけるのだけれど、目尻に傷のような跡が出るのは何なのだろう。婚姻色の一部なのか、左右どちらにも対称するように存在するので、まず擦り傷ではない。傷に似た何か、だ。
ミノーはソリスト50DD、カラーはこの季節に効果的なことがよくある、ピンクバックチャート。渓流用のネットはメンテ中なので、いつもより一回り大きなものを持ち歩いていた。
ひとつ釣れたので、ヤマメが釣りたいと言う妻に先行を代わる。すると小さな落ち込みでドン。グイグイやってギラッと光るヤマメは後ろから見ていてもなかなかのサイズ。
けれどそんなヤマメに、妻が焦っちゃった。強引に一直線に巻き取って、走られて、ポロリ。ああ、アア、嗚呼。ドシンときたよ、と絞り出すように言って、泣きそうな顔してる。ミノーはソリストシャッド50だったと思うけれど、聞くとシングルフックをしばらく取り換えていなかったらしい。
気を取り直して釣り進むが、魚影は薄い。もともと決して魚影が濃いわけではない丹沢水系のこと、シーズン最終盤ともなればなおさらだ。丹沢の川はおしなべてそうだが、この川もまだ少し水温が高いのだろう。ペアリングしている個体を見かけることはなかった。
今シーズンは高確率でよいヤマメが出てきた、有望な場所までやって来た。ここまでは先のヤマメがひとつだけ。午後から出勤だったこともあり、周囲が薄暮に包まれるのも早い。この日ほぼ最後といったところだ。
手短にポイントの説明をしたのち、妻がキャストする。一投、二投、反応はない。三投目でキャストミス、覆う枝に引っ掛けてしまったようだ。簡単には外せないようで、潰してしまう前に投げてと言う。
交代しての一投目は無反応。薄暮もあり、ヤマメは目視できない。いないのかな。ミノーは50MD2のFS、コースを少しだけ変えての二投目、不意にきた。
禁漁まで数日を残してはいたが、今シーズンの締めくくりのようなヤマメだった。ネットは妻のもの、オリジナルネットよりこちらも一回り大きいので、ジャスト尺ぐらいだと思う。丹沢の、ひょいと軽く跨げるようなこの流れでは、望めるほぼ最大といっても差し支えないだろう。
嬉しかったのは確かなのだが、私はほとんど嬉しそうな顔をしなかったらしい。妻になぜかと不思議そうに尋ねられたが、見事な婚姻色を目の当たりにし、命の営みをまざまざと見せつけられ、それがなんとなくシーズン終了を告げる合図のような気がしたからなのだろうか。よくわからない。
温暖な神奈川の渓だから、禁漁を迎える直前でもこのあたりでは、まだ夏を引きずっているような渓魚も多い。この日、妻がバラシたヤマメもそんなヤマメだった。
これまでも色付いた魚はサケ、ヤマメ、イワナ問わずいろいろと釣ってきた。けれどサイズ的にはそう大きくはないものの、自宅のある横浜から車ですぐ、大都市近郊の丹沢で見事に生き抜き、その生き様を見せつけたかのようなこのヤマメは、私にとって記憶に残る一匹となったことは間違いないだろう。
婚姻色の出た魚を掲載していいものかどうか、私はこの季節になるといつも少しだけ悩む。
それからこうも思う。漁期内とはいえ、婚姻色の出た魚を釣ることにもし問題があるのならば、夏場の産卵前の魚も当然ダメだろうし、初夏の大きくなろうと荒食いする魚も、春先の越冬してサビの残る魚だってもちろん釣ってはならないということになる。様々を経て、産卵期にまでたどり着くのだから。
この時期はいつもに増して、目視が効くはず。ペアリング個体を見つけたらルアーなんて投げずにそっとしておく、出来るならば、ペアリングを多く見かけた川では黙って竿をたたむぐらいの勇気も持ち合わせていたい。私的にはいつだって当然のことだけれど、シーズン最終盤まで生き抜いた渓魚たちは、大小を問わず持ち帰らない。フックは特別な理由でもない限り、出来るだけシングルバーブレスとする。
このあたりはそれぞれに委ねられている部分が大きい。ヤマメたちは命をまっとうすべく闘っている。そんなヤマメやイワナに敬意を払えるかどうか、そこが肝心であり、分かれ目だと思うのだ。渓魚は獲物とは違う、もしそう思うのならば。
ちゃんと居るんだよ。そう伝えたくなる、初秋を生きるヤマメだった。
タックル
ロッド:レヴェルトラウト50MT 2000番にナイロン5lb
ミノー:ソリスト50MD2 FS/ヤマメ、ソリスト50DD/ピンクバックチャート(シングルバーブレス)
偏光サングラス:Talexイーズグリーン(宅配のめがねやさん)
Photo&Report by 小平
先日も少し触れたけれど、今年の丹沢では例年以上に細流にこだわってみた。理由は単純で、足で稼ぎ、目視を重視する釣りがもともと好きだからだ。
湖や本流など水量が多ければ、よい魚が潜む確率がグッと上がるのはまあ当然と言えば当然なのだろう。けれど天候の影響を受けやすく、魚の出入りが激しいため、いるかどうかもわからない流れを歩くというのは、数やサイズよりも一匹の価値を求めたい釣り人にとって、これもまた酔狂なんじゃないかな。本流には本流の、細流には細流の浪漫があるのだ。
そもそも私は湖にも通うし、サクラマスの季節には本流にも通うので、ヤマメやイワナでは大場所の釣りもいいけれど、細流を選んでしまう傾向があるのだと思う。
さてシーズン終了数日前のこと。前日は県内某所でハコネサンショウウオの棲息調査のお手伝いをし、午前中は工房仕事をこなし、午後からのんびり重役出勤で丹沢某所へと出掛けた。
この日も本流と悩んだ挙句、細流を選んだ。細流と言ってもいろいろだ、源流はもちろん、支流やボサ川、夏場の枯れかけた流れも場合によっては細流と呼べるかもしれない。
一匹目はこんなヤマメだった。少し細い印象だったけれど、秋色が出始めたヤマメ。胸鰭の黄色いラインがお洒落でしょ。
この時期のヤマメで時折り見かけるのだけれど、目尻に傷のような跡が出るのは何なのだろう。婚姻色の一部なのか、左右どちらにも対称するように存在するので、まず擦り傷ではない。傷に似た何か、だ。
ミノーはソリスト50DD、カラーはこの季節に効果的なことがよくある、ピンクバックチャート。渓流用のネットはメンテ中なので、いつもより一回り大きなものを持ち歩いていた。
ひとつ釣れたので、ヤマメが釣りたいと言う妻に先行を代わる。すると小さな落ち込みでドン。グイグイやってギラッと光るヤマメは後ろから見ていてもなかなかのサイズ。
けれどそんなヤマメに、妻が焦っちゃった。強引に一直線に巻き取って、走られて、ポロリ。ああ、アア、嗚呼。ドシンときたよ、と絞り出すように言って、泣きそうな顔してる。ミノーはソリストシャッド50だったと思うけれど、聞くとシングルフックをしばらく取り換えていなかったらしい。
気を取り直して釣り進むが、魚影は薄い。もともと決して魚影が濃いわけではない丹沢水系のこと、シーズン最終盤ともなればなおさらだ。丹沢の川はおしなべてそうだが、この川もまだ少し水温が高いのだろう。ペアリングしている個体を見かけることはなかった。
今シーズンは高確率でよいヤマメが出てきた、有望な場所までやって来た。ここまでは先のヤマメがひとつだけ。午後から出勤だったこともあり、周囲が薄暮に包まれるのも早い。この日ほぼ最後といったところだ。
手短にポイントの説明をしたのち、妻がキャストする。一投、二投、反応はない。三投目でキャストミス、覆う枝に引っ掛けてしまったようだ。簡単には外せないようで、潰してしまう前に投げてと言う。
交代しての一投目は無反応。薄暮もあり、ヤマメは目視できない。いないのかな。ミノーは50MD2のFS、コースを少しだけ変えての二投目、不意にきた。
禁漁まで数日を残してはいたが、今シーズンの締めくくりのようなヤマメだった。ネットは妻のもの、オリジナルネットよりこちらも一回り大きいので、ジャスト尺ぐらいだと思う。丹沢の、ひょいと軽く跨げるようなこの流れでは、望めるほぼ最大といっても差し支えないだろう。
嬉しかったのは確かなのだが、私はほとんど嬉しそうな顔をしなかったらしい。妻になぜかと不思議そうに尋ねられたが、見事な婚姻色を目の当たりにし、命の営みをまざまざと見せつけられ、それがなんとなくシーズン終了を告げる合図のような気がしたからなのだろうか。よくわからない。
温暖な神奈川の渓だから、禁漁を迎える直前でもこのあたりでは、まだ夏を引きずっているような渓魚も多い。この日、妻がバラシたヤマメもそんなヤマメだった。
これまでも色付いた魚はサケ、ヤマメ、イワナ問わずいろいろと釣ってきた。けれどサイズ的にはそう大きくはないものの、自宅のある横浜から車ですぐ、大都市近郊の丹沢で見事に生き抜き、その生き様を見せつけたかのようなこのヤマメは、私にとって記憶に残る一匹となったことは間違いないだろう。
婚姻色の出た魚を掲載していいものかどうか、私はこの季節になるといつも少しだけ悩む。
それからこうも思う。漁期内とはいえ、婚姻色の出た魚を釣ることにもし問題があるのならば、夏場の産卵前の魚も当然ダメだろうし、初夏の大きくなろうと荒食いする魚も、春先の越冬してサビの残る魚だってもちろん釣ってはならないということになる。様々を経て、産卵期にまでたどり着くのだから。
この時期はいつもに増して、目視が効くはず。ペアリング個体を見つけたらルアーなんて投げずにそっとしておく、出来るならば、ペアリングを多く見かけた川では黙って竿をたたむぐらいの勇気も持ち合わせていたい。私的にはいつだって当然のことだけれど、シーズン最終盤まで生き抜いた渓魚たちは、大小を問わず持ち帰らない。フックは特別な理由でもない限り、出来るだけシングルバーブレスとする。
このあたりはそれぞれに委ねられている部分が大きい。ヤマメたちは命をまっとうすべく闘っている。そんなヤマメやイワナに敬意を払えるかどうか、そこが肝心であり、分かれ目だと思うのだ。渓魚は獲物とは違う、もしそう思うのならば。
ちゃんと居るんだよ。そう伝えたくなる、初秋を生きるヤマメだった。
タックル
ロッド:レヴェルトラウト50MT 2000番にナイロン5lb
ミノー:ソリスト50MD2 FS/ヤマメ、ソリスト50DD/ピンクバックチャート(シングルバーブレス)
偏光サングラス:Talexイーズグリーン(宅配のめがねやさん)
Photo&Report by 小平
命を繋ぐ生命観溢れる固体に感動と愛おしさを感じずにはいられません。
居付きらしい精悍さを備えたヤマメでした。
来年以降に向けてやりたいことが山積みです。
ひとつずつ前進していきたいですね。