原題の "The Imitation Game" は、本編の主人公で、実在の天才数学者、
アラン・チューリングが考案した、人工知能を判定する「チューリング・テスト」から
付けられたと思うのですが、映画を見てみると、実に重層的に、
色々なことを示唆している秀逸なタイトルであると感じます。
予告編にも登場する「私は犯罪者か。それとも英雄か」の台詞は、
まさに、「チューリング・テスト」的な言い回しであるし、
通常、"Bombe(ボンブ、ボンベ)" と呼ばれるエニグマ解読マシンを、
今作では、(日本語字幕版を見る限り)その呼称を一切使わずに、
"クリストファー" と擬人化して呼んでいたのも、その名の由来となった出来事と、
チューリングの人工知能の研究との関わりについて、考えさせられます。
更には、戦時中、政府最高レベルの機密事項を任務とした為に、
敵国ドイツのみならず、自国民をも欺き、戦争への勝利を第一義として、
助ける命と、犠牲にする命との選別行為に、偽りの神のように携わったこと、
その業績は極秘扱いとなり、戦後も、世間に隠し通さなければならなかったこと。
また、"世を欺く" という点では、チューリングがゲイであったことも、
彼が生きた時代において、彼の人生を、いっそう難しいものにしました。
作中、「身に危険を寄せ付けない為には、秘密を持ってはいけない」と、
チューリング自身が考える場面がありますが、彼の生涯は大き過ぎる秘密と共にあり、
それが、あのような死を迎えることに繋がったと思うと、やりきれません。
鑑賞中は、役者陣の演技は別にして、全体の流れがライトだなぁという印象でした。
物語的に一番の見せ場となる、エニグマの暗号解読に至るまでの過程が、
期待したほどには、ドキドキしなかったから ・・ かもしれません。
これは多分、戦時中のブレッチリー・パークを舞台とした映画「 エニグマ 」を、
以前に見ていたからだと思います(注意:上記リンク先には、ネタバレあり)。
それを機に、エニグマの暗号解読の経緯も少しかじったので、
最初に解読に成功したのは、ポーランドの数学者であること、
但し、旧式のエニグマ機の解読であり、改良型のエニグマに対応する為には、
資金と人材、何より、ドイツの侵攻が間近に迫る中では時間が無かったことから、
ポーランド政府が、当時の同盟国だったイギリスに、暗号解読の成果を提供。
その情報を活かして、より汎用的な方法での高速分析が可能になるように、
マシンを改良・設計したのがチューリングである、という流れを知っていたからです。
先に、暗号解読マシンは通常 "Bombe" と呼ばれると書きましたが、
これは、ポーランド製の解読機の名が "Bomba" だったことに因んでいます。
という訳で、個人的には、チューリングの人物像と、エニグマ "以外" の功績とに、
もっと焦点を当てて、じっくりと描く構成にして欲しかった、と思いますが、
原作にあたる 伝記本 自体に、"Enigma" と銘打たれているんですね。
う~ん、主要キャストの配役が良かった故の、無い物ねだり状態なんでしょうか。。
一方で、矛盾するようですが、さらっと進む中に、結構な情報が含まれた作りでもあります。
例えば、チューリングの亡くなった現場にあったと言われている、
"青酸化合物" と "りんご" を、それぞれ別のシーンで、小道具的に演出してみたり。
また、1951年のチューリング宅盗難事件で、彼自身が経歴不明でスパイ活動を疑われますが、
その際、同年5月にソ連へ亡命した ケンブリッジ・ファイブ の二人、
"(ドナルド・)マクリーン" と "(ガイ・)バージェス" の名前が登場したり。
( ケンブリッジ・ファイブと言えば、この映画のスタッフチームは、
5人目=「ジョン・ケアンクロス」説を採用しているようですね )
戦時中のパートだと、「 英国王のスピーチ 」でも流れた、ドイツとの開戦を国民に告げる
チェンバレン首相のラジオ演説と、続いて聞こえてきた、ジョージ6世の最初の戦時スピーチ。
そして、ロンドン大空襲らしき都市爆撃の映像も、途中に映し出され、
更には、当時の連合国側での、各国とソ連の関係を匂わせる台詞などもあり、
第二次世界大戦期~冷戦期にかけての、イギリスの状況を示すあれこれが、
特に、何の説明も無いままに、織り込まれていたりします。
これは、アラン・チューリングとブレッチリー・パークについて、
改めて調べた上でリピート鑑賞すると、また、細部の印象が違ってくる可能性もあり?
残念ながら、二度目の劇場鑑賞にあてる時間を確保できそうにない為、
次に見るとしたら、DVDが出るのを待つしかなさそうですが、
その時には、今作を見ながら思い出していた諸作品、「 つぐない 」「 裏切りのサーカス 」
「英国王のスピーチ」「エニグマ」「○○○○の○(「エニグマ」のネタバレなので伏せ字)」
あたりも、一緒に見られたら良いなぁと思います。
*~*~*~*~*~*~*~*~*
映画 『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』
◇原題:The Imitation Game
◇関連サイト:公式サイト ( 日本版 )、IMDb ( 関連ページ )
◇鑑賞日:2015.5.1. 映画館にて
♪Benedict Cumberbatch / Alan Turing
アラン・チューリングが考案した、人工知能を判定する「チューリング・テスト」から
付けられたと思うのですが、映画を見てみると、実に重層的に、
色々なことを示唆している秀逸なタイトルであると感じます。
予告編にも登場する「私は犯罪者か。それとも英雄か」の台詞は、
まさに、「チューリング・テスト」的な言い回しであるし、
通常、"Bombe(ボンブ、ボンベ)" と呼ばれるエニグマ解読マシンを、
今作では、(日本語字幕版を見る限り)その呼称を一切使わずに、
"クリストファー" と擬人化して呼んでいたのも、その名の由来となった出来事と、
チューリングの人工知能の研究との関わりについて、考えさせられます。
更には、戦時中、政府最高レベルの機密事項を任務とした為に、
敵国ドイツのみならず、自国民をも欺き、戦争への勝利を第一義として、
助ける命と、犠牲にする命との選別行為に、偽りの神のように携わったこと、
その業績は極秘扱いとなり、戦後も、世間に隠し通さなければならなかったこと。
また、"世を欺く" という点では、チューリングがゲイであったことも、
彼が生きた時代において、彼の人生を、いっそう難しいものにしました。
作中、「身に危険を寄せ付けない為には、秘密を持ってはいけない」と、
チューリング自身が考える場面がありますが、彼の生涯は大き過ぎる秘密と共にあり、
それが、あのような死を迎えることに繋がったと思うと、やりきれません。
鑑賞中は、役者陣の演技は別にして、全体の流れがライトだなぁという印象でした。
物語的に一番の見せ場となる、エニグマの暗号解読に至るまでの過程が、
期待したほどには、ドキドキしなかったから ・・ かもしれません。
これは多分、戦時中のブレッチリー・パークを舞台とした映画「 エニグマ 」を、
以前に見ていたからだと思います(注意:上記リンク先には、ネタバレあり)。
それを機に、エニグマの暗号解読の経緯も少しかじったので、
最初に解読に成功したのは、ポーランドの数学者であること、
但し、旧式のエニグマ機の解読であり、改良型のエニグマに対応する為には、
資金と人材、何より、ドイツの侵攻が間近に迫る中では時間が無かったことから、
ポーランド政府が、当時の同盟国だったイギリスに、暗号解読の成果を提供。
その情報を活かして、より汎用的な方法での高速分析が可能になるように、
マシンを改良・設計したのがチューリングである、という流れを知っていたからです。
先に、暗号解読マシンは通常 "Bombe" と呼ばれると書きましたが、
これは、ポーランド製の解読機の名が "Bomba" だったことに因んでいます。
という訳で、個人的には、チューリングの人物像と、エニグマ "以外" の功績とに、
もっと焦点を当てて、じっくりと描く構成にして欲しかった、と思いますが、
原作にあたる 伝記本 自体に、"Enigma" と銘打たれているんですね。
う~ん、主要キャストの配役が良かった故の、無い物ねだり状態なんでしょうか。。
一方で、矛盾するようですが、さらっと進む中に、結構な情報が含まれた作りでもあります。
例えば、チューリングの亡くなった現場にあったと言われている、
"青酸化合物" と "りんご" を、それぞれ別のシーンで、小道具的に演出してみたり。
また、1951年のチューリング宅盗難事件で、彼自身が経歴不明でスパイ活動を疑われますが、
その際、同年5月にソ連へ亡命した ケンブリッジ・ファイブ の二人、
"(ドナルド・)マクリーン" と "(ガイ・)バージェス" の名前が登場したり。
( ケンブリッジ・ファイブと言えば、この映画のスタッフチームは、
5人目=「ジョン・ケアンクロス」説を採用しているようですね )
戦時中のパートだと、「 英国王のスピーチ 」でも流れた、ドイツとの開戦を国民に告げる
チェンバレン首相のラジオ演説と、続いて聞こえてきた、ジョージ6世の最初の戦時スピーチ。
そして、ロンドン大空襲らしき都市爆撃の映像も、途中に映し出され、
更には、当時の連合国側での、各国とソ連の関係を匂わせる台詞などもあり、
第二次世界大戦期~冷戦期にかけての、イギリスの状況を示すあれこれが、
特に、何の説明も無いままに、織り込まれていたりします。
これは、アラン・チューリングとブレッチリー・パークについて、
改めて調べた上でリピート鑑賞すると、また、細部の印象が違ってくる可能性もあり?
残念ながら、二度目の劇場鑑賞にあてる時間を確保できそうにない為、
次に見るとしたら、DVDが出るのを待つしかなさそうですが、
その時には、今作を見ながら思い出していた諸作品、「 つぐない 」「 裏切りのサーカス 」
「英国王のスピーチ」「エニグマ」「○○○○の○(「エニグマ」のネタバレなので伏せ字)」
あたりも、一緒に見られたら良いなぁと思います。
*~*~*~*~*~*~*~*~*
映画 『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』
◇原題:The Imitation Game
◇関連サイト:公式サイト ( 日本版 )、IMDb ( 関連ページ )
◇鑑賞日:2015.5.1. 映画館にて
♪Benedict Cumberbatch / Alan Turing