末つ森でひとやすみ

映画や音楽、読書メモを中心とした備忘録です。のんびり、マイペースに書いていこうと思います。

ロイヤル・アフェア -愛と欲望の王宮-

2013-05-10 22:54:45 | 映画のはなし
18世紀後半のデンマーク王室で実際に起きた事件を映画化した、
「ロイヤル・アフェア -愛と欲望の王宮-」を見てきました。

1766年、英国王ジョージ3世の妹、15歳のカロリーネ・マティルデは、
デンマークで即位したクリスチャン7世の元に、妃として嫁ぎます。
しかし、精神的な疾患を抱えた若き王(即位当時17歳)との結婚は上手くいかず、
1768年に王太子フレデリク(後のフレデリク6世)が誕生してからは、
王妃も完全に割り切って、翌年、国王の侍医として王宮にやって来た、
ドイツ人医師J・F・ストルーエンセと恋愛関係に落ち、やがて、身の破滅を招きます。

こうして書くと、宮廷内でのドロドロした不倫劇のイメージが先行しますが、
(邦題のサブタイトルも、その方向で煽る感じですよね)
実際に見てみると、単なる王室スキャンダルというだけではなく、
当時の社会背景(ルソーの「社会契約論」が世に出て、啓蒙思想が広まっていった時代)と、
政治的な権力をめぐる陰謀や駆け引き等が、巧みに絡まりあって描かれている、
歴史物として、とても興味深く見られる作品になっていました。

ちなみに、連休が明けた今頃になって漸く更新しておりますが、
実際に鑑賞したのは、公開初日の4月27日(土)。
理由は、この日の13:55の上映回前に、中野京子さん によるトークイベントがあったから。
デンマークの歴史に関する知識など、正直皆無に等しい私としては、
少しでも映画の理解が深められるように、それも、楽しみながら ・・ という訳です。

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トークイベントは約15分で、マイクの調子があまりよろしくない中、
以下のような点を、分かりやすく話してくださいました。

  ■映画で描かれた時代の、他のヨーロッパ諸国の情勢について。
    フランスは、"ベルばら" と絡めてマリー・アントワネットのこととか、
    オーストリアのマリア・テレジア、ロシアのエカテリーナ、プロイセン、とか。
    ルソーの「社会契約論」、啓蒙時代。ワットの蒸気機関改良と、イギリス産業革命など。

  ■当時のイギリス王室(ハノーヴァー朝)は、ドイツ系であること。
    映画のヒロインの曾祖父は、妻を32年間幽閉した、英語が話せない、嫌われ者の ジョージ1世
    なぜ、ドイツ人がイギリス国王になったかといえば、カトリック信者では国王になれないから。
    (そして、中野先生のお話には出てきませんでしたが、
     ヒロインの兄である ジョージ3世 は、映画「 英国万歳! 」の王様です)
    映画の主役2人は、王妃も、侍医も、ルーツはドイツ系なのです。

  ■映画の終盤、海岸沿いを歩く王妃の背景に見えるのは、ハムレット城( =クロンボー城 )。

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物語の舞台となった時代のポイントを、
プロの方から直前に解説していただけたのは、大いに役立ちました。

この映画の見どころは、個人的には、
ストルーエンセが王妃と愛人関係を結ぶのと前後して、
国王に対する影響力を駆使し、外相を罷免して、枢密院を解散、
王とストルーエンセによる内閣が政治を担うことになり、
啓蒙主義的な改革を、専制的に、強引にすすめていくあたりだと思うので。
王妃とストルーエンセが、社会改革の同志的な感情を抱くに至る、
伏線のようなエピソードがいくつか、作中には挿し込まれますが、
時代背景を知っているのと、そうでないのとでは、やはり理解度が違ってきます。

ストルーエンセの行った新しい改革は、目指した方向は妥当だったけれども、
やり方が間違っていたんですね。時期尚早でもあったのでしょう。

今回、Wikipedia でも鑑賞前の予習をしていたのですが、
ストルーエンセの掲げた改革案は、彼の失脚後に、
何年もしてから実現されたものが多くあるのだそうです。

私は史実を扱った映画を見るときに、Wikipediaで予習することも多いのですが、
今作に関しては、実は、予習して良かった面と、悪かった面があったなぁという感じでした。

良かった面は、上記にも書いたように、ストルーエンセの目指した社会改革が、
歴史的にどういう位置づけて評価されているのかを、あらかじめ知っておけたこと。
悪かった面は、Wikipediaに書かれているストルーエンセの人物像と、
M・ミケルセン演じる映画版との間に、多少のギャップを感じてしまったこと。
決して別人とまではいかないですし、美化し過ぎと言うのもちょっと違うのですが、
映画では上手く、ソフトにまとめてきたな、といったところでしょうか。
マッツさんが素敵な役者さんですからね(仮面舞踏会のシーンとか、うっとり。。)

映画の中で、一番印象に残っているのは、
天然痘の予防接種を、実験的に王太子に試みた後に、
長椅子に座った国王が不安そうに、両隣にいる侍医と王妃の手を握る場面。
不幸なめぐり合わせの元に出会ってしまった、3人の関係がよく伝わってきます。

そう言えば、「 裏切りのサーカス 」でトビー・エスタヘイスを演じた、
D・デンシックが出演していて、吃驚しました。
公式サイトには、そんな情報ぜんぜんありませんでしたから。
王妃やストルーエンセと敵対する側の、保守派の神学者グルベア役です。
プログラムには載っていたので、買って良かったです。

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  映画 『ロイヤル・アフェア -愛と欲望の王宮-』

  ◇原題:En Kongelig Affare
  
  ◇関連サイト:公式サイト ( 日本版
           IMDb ( 関連ページ

  ◇鑑賞日:2013.4.27. 映画館にて
En Kongelig Affare