末つ森でひとやすみ

映画や音楽、読書メモを中心とした備忘録です。のんびり、マイペースに書いていこうと思います。

旧作覚書き:「風の前奏曲」ほか1作品

2014-06-29 08:50:55 | 映画のはなし
今月見た、旧作映画の覚書きです。
すべてDVD鑑賞で、多少のネタバレありです。

*~*~*~*~*~*~*~*~*

★夏至
 ( 原題 : A la Verticale de l'ete
   ベトナムのハノイを舞台に、母親の命日からはじまり、
   その一ヶ月後の父親の命日までのあいだに起こる、
   三姉妹と、それぞれの家族やパートナーとの日々の出来事が描かれます。
   とにかく、映像が綺麗でした。リアルさよりも、"絵" としての完成度と
   美しさを重視して編まれた作品、という印象が強く残りました。


風の前奏曲
   タイ伝統の木琴楽器 "ラナート" の天才的な名手であった、
   ソーン・シラパバンレーン師の生涯に基づいたフィクションです。
   日本での公開は、もう何年前になるのでしょうか。
   当時は、名画座でもかかったものの、結局は見逃してしまい、
   その後、レンタル版のDVDが出てからも、
   自分の行動圏内にある店舗(複数)には置いていなくて、
   そのまま、諦めてしまっていたのですが。。
   最近になって、活動範囲に多少の変化があり、
   ふと、思いついて入ったショップにて、運良く見つけることができました。

   物語は、晩年のソーンと、
   彼が回想するこれまでの人生を交互に映しながら、進んでいきます。

   少年時代、ラナート奏者だった兄の死を乗り越えて掴んだはずの、
   ラナート奏者への道だったのに、青年時代の彼は、自身の才能にうぬぼれていたこと、
   生涯のライバルとなるクンインの、力強くて美しい演奏を初めて耳にしたときに、
   己の傲慢さを完膚なきまでに打ちのめされ、ラナートから逃げ出したことなど、
   国民的な大音楽家の、若かりし日々の弱さや挫折がしっかり描かれているのが良いです。

   その後、宮廷楽団に召抱えられたソーンが、苦悩しながらも、
   同じく、王族の庇護の下にあるクンインとの競演で勝負をつけるため、
   独奏形式での演奏対決をする場面では、二人の神業的な演奏技巧に圧倒されました。

   競演後、「出過ぎた真似をしてしまいました」と許しを請うてきたソーンに、
   クンインは、「私は感動した」「この伝統的な音楽を引継いでほしい」と言葉をかけますが、
   これは、このシーンの後に続く、晩年のソーンが伝統文化の禁止条例に屈することなく、
   ラナートを守り抜いたエピソードへと、綺麗に繋がっていきます。

   物語終盤でソーンは、国による強制的な近代化政策を推進する軍の将校と、自宅で対峙する前に、
   演奏家としての自分の人生に深く関わってきた人たちの写真を静かに見やるのですが、
   "ラナート" は、民衆から王族に至るまでが親しんできた、民族の伝統文化であること、
   その第一人者から好敵手として、また後継者としても認められた自分は、
   伝統を守り、次世代へと引き継いでいく責任を負っているのだ、という想いが強く伝わってきました。

   ソーンは、伝統音楽の担い手ではありましたが、
   新しい考え方を否定するような、思考の持ち主ではありません。
   映画の前半に、ソーンの息子が奏でるピアノの音色に触発されて、ラナートを演奏しだし、
   西洋楽器とタイの伝統楽器との合奏を楽しむ印象的な場面が、それを物語っています。
   また、クンインとの独奏対決で勝利を手にすることができたのも、
   そもそもは、彼自身が編み出した、ラナートの新しい奏法を極めたからでした。

   "伝統" とは、変えてはいけない本質的な部分を堅持しながらも、
   時代のニーズに合わせて、新たに取り入れるべきところは柔軟に対応してこそ、
   古びることなく生き永らえ、未来へと受け継がれていくものなのでしょう。

   美しい映像と、音楽と -- 。
   できれば、映画館で見たかったですが、
   DVD鑑賞でも、無事、見ることができて良かったです。