末つ森でひとやすみ

映画や音楽、読書メモを中心とした備忘録です。のんびり、マイペースに書いていこうと思います。

TENET テネット[IMAX®レーザー/GTテクノロジー 字幕版]at グランドシネマサンシャイン

2020-10-31 08:14:36 | 映画のはなし
クリストファー・ノーラン監督の最新作「TENET テネット」を、ようやく見ました。

初見ですべての場面を把握することは非常に難しい構成ですが、
本編中でも言及されているように、'Don't try to understand it. Feel it.' のスタンスで
見続けていくと、後半へ進むにつれ、何となくわかってきたような気分になります。
(この、 '何となくわかってきたような気分' は、
 「 インセプション 」と「 インターステラー 」でも味わいましたし、
 「 ダンケルク 」では更に、'ちゃんと理解したい気持ち' が勝って、
 リピート鑑賞を重ねるに至ったため、この点に関しては、
 私がノーラン監督作品を鑑賞する時にお馴染みの、いつもの状態であったと言えます)

本作は、いわゆる '回文' になっている物語を、
ビジュアルとして描ききることに拘った映画だと思いました。
ひとまず、時が経過していく流れの方向が、
「過去 →→→ 未来」に見えるのが「順行中」(キーカラー:赤)であること、
「過去 ←←← 未来」に見えるのが「逆行中」(キーカラー:青)であること、
を押さえておけば、細部を気にしない限り、ストーリー自体を追うことはできるように思われます。

後は、'順行' 勢と '逆行' 勢を一つの画面上に同時に存在させ、しかも、カーチェイスや戦闘シーンを描くので、
ごちゃごちゃと入り乱れる順行と逆行の視点の切替わりによって、人や物がどう動いて見えているのかを、
逃さずに捉えられる優れた動体視力を備えていると、鑑賞時には心強いかと思います。

・・ 悲しいかな、私の動体視力はそこまで優秀でもなく、色に対するイメージも、
「赤 = 要注意 = 常態と違う!」の印象が強いので、混乱しつつの鑑賞ではありました。

しかし、複雑過ぎる設定と、それを映像で表現しきろうとした壮大な野心の一方で、
この独特な世界観へ観客を惹き付けるのに欠かせないストーリーテリングは、希薄と感じます。
タイムパラドックスによる矛盾を防ぐためなのか、既に起きてしまった過去と、
それにより生じた未来との間に成り立つ閉じた円環世界の中で、
キャラクターたちの行動が、'定められた筋書きの通りに動かされているだけ' に見えてしまい、
それを順行方向と逆行方向の両側から描いたところで、作品構造の種明かしにはなれども、
物語としての牽引力が増す訳ではないだろうに、と。

加えて、2020年に公開されるオリジナル脚本の映画ながら、
敵役の背景や、人物描写に見え隠れする、感覚的な古さも気になりました。
そもそも、作中における '現在'は、西暦で何年頃を想定しているのでしょうか。
敵にまつわるワードとして語られるのが、'第三次世界大戦' や '旧ソ連時代の核爆発事故' 、
'放射能に汚染されて打ち捨てられた秘密都市' など、今更? と感じたことは否めませんし、
キャラクターの描き方も、偏りがあるというか、歪つだった感が拭えません。
特に、敵役の ケネス・ブラナー と、ヒロイン役の エリザベス・デビッキ は、
あのような、つまらない役柄のオファーをよく受けたなと、思ってしまいます。
(デビッキの役は衣装面でも、一部、撮影時の動きに合わせた配慮が不足していると感じました)

これまでのノーラン監督作品でも、
設定や描写に疑問を覚えることは多少にかかわらずありましたが、
同時に、構成の面白さや、ストーリー展開への興味、画として印象に残るシーン等、
作品の深みへ引き込まれていくきっかけをもたらす魅力的要素も、
確かに、あわせて感じ取ることができました。

本作では、しかし、マイナス面を凌ぐほどのそうした楽しさは、
最後まで見出だすことが叶わず、作品に対する気持ちがプラスに向かわない以上、
込み入った作中設定の解き明かしや、難しかった場面の見極めに挑戦しようという意欲は、
正直、削がれてしまい、大変残念だったと言わざるを得ません。

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ところで、映画「TENET テネット」はコロナ禍の中、
他の新作が軒並み、年を跨いで公開日を延期し続ける状況下で、
何とかして観客を映画館に呼び戻したい! という、監督サイドの強い意向により、
海外では当初予定より少々遅れたものの、劇場上映に踏み切ってくれた作品でした。
自作の興収よりも、映画業界の救済を優先してくれたことには、とても感謝しています。

なお、池袋の グランドシネマサンシャインIMAXシアター が、
「TENET テネット」のオープニング興収成績で世界第1位を記録 したとのことで、
ノーラン監督から直筆の手紙が届き 、現在、12階のIMAXシアター前のロビーで展示中 です。
☆おめでとうございます☆

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   映画 『TENET テネット』

  ◇原題:Tenet
  ◇関連サイト:公式サイト ( 日本版 )、IMDb ( 関連ページ
  ◇鑑賞日:2020.10.15. & 10.29. 映画館にて