末つ森でひとやすみ

映画や音楽、読書メモを中心とした備忘録です。のんびり、マイペースに書いていこうと思います。

PJ版を振り返る:エオメル 編

2005-08-31 22:09:23 | PJ版:指輪物語

Eomer
“ You know as little of war as that Hobbit.
  When the fear takes him,
  and the blood and the screams and the horror
  of battle take hold,
  do you think he would stand and fight?
  He would flee. And he would be right to do so.
  War is the province of Men, Eowyn. ”
                  ( 映画 LOTR:RotK-SEE より )


今回の 「 登場人物別 :PJ版を振り返る 」 は、
エオメルについてです。

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PJ版のエオメルは、出演時間こそ少ないものの、
いかにも武人らしい不言実行な有りようが、とても印象に残ります。

映画では、セオデンとエオメルの会話があまりないのですが、
こちら でも書いたように、この二人の関係は、
伯父と甥という < 私人 > としてのそれよりも、
< 公人 > である王と臣下としての役割を前面に、演出してあるのだと思います。

RotKでの、烽火リレーを受けたセオデンの決断シーンで、
エオメルは黙って、傍らにいる妹エオウィンの肩に手を置きました。
彼自身は何も言わないけれど、セオデンの命により、
すべての覚悟を決めたのだということが、この一瞬には込められています。

国王セオデンの意志を、瞬時に受けとめる忠誠心篤いエオメル。
これが、ローハン王家の本来の姿なのでしょう。

だから、TTTで国を追われる前のエオメルが、
正気を失っていたセオデンに向かい、
( 彼にしては ) 言葉数の多い台詞を口にしたり、
RotKのペレンノール野の合戦で、セオデンの意図から外れ、
暴走しそうになったエオメルの姿を見ると、
各々の場面とも、いかに常ならざる状況であったかが示されているように思います。
かなり脳内補完し過ぎ のような気もしておりますが、まぁいいか ・・ 苦笑 )

ドラマチックな場面の多かったエオウィンに較べると、
ちょっと損な役回りだった感の否めない、PJ版のエオメルではあるのですが、
< 女=私人 > と < 男=公人 > という役割を課せられた故の “ 差 ” であった、
と捉えれば、それも、なんとなく頷けるものがあります。
RotKの劇場版予告編にはあった、ペレンノール野での “ エオメルの慟哭 ” が、
結局はSEE回しとなってしまったことも、そうした意味では筋が通っていますね。

RotK:SEE版での、エオメル絡みの追加といえば、
今回の記事冒頭で紹介した、馬鍬砦の野営地で交わされる、
兄妹の会話シーンでの彼の台詞も、なるほどなぁ。。という印象でした。
メリーのことを語りながら、実際には自分自身の気持ちを訴えるエオウィンに対し、
戦場を知り抜いた兄エオメルが、同じようにメリーのことを話題にしつつ、
結局は、妹に向かって忠告をするわけです。

 “ 確かにお前は、女にしては剣の腕は立つかもしれないし、
   誇り高く、勇敢かもしれない。
   だが、< 戦 > の何たるかを、お前は知らないではないか ”

ましてや、これから向かおうとしているゴンドールで待ちうけているのは、
中つ国の運命を決する戦です。
エオメル自身はもちろん、セオデンですら初めてまみえるであろう規模の、
命を賭した決死の出陣となることは明らかで、
だから、エオメルとしては、妹の逸る気持ちを挫くべく、
敢えてあのような物言いをしたのだろうな、とは思うのです。
しかし、このときの言葉が < 男=公人 > としての理屈でもあったために、
エオウィンを、逆に追い詰めることとなってしまうのですよね。

ペレンノール野での戦いのあと、
死んだように横たわる妹を見つけたエオメルは、
動転したように叫び、泣き崩れながらエオウィンの身体を抱きかかえます。
そして、療病院では、言葉もなく不安と悲嘆にくれる < 兄 > として、
その姿を映し出されているわけですが、
上記、天幕前での会話が追加されたことで、
兄妹の物語が、一連の映像として効果的に補完されたと思います。

・・・ ということで、
“ ローハン王家 ” に限ったシークエンスだけに絞れば、
PJ版のエオメルも、私としては 「 OK 」 なのですが、
“ 中つ国 ” 全体として作品を見た場合に、
物足りなさを感じることも、あることは、あるのです。。

原作のエオメルは、アラゴルンとのあいだに厚誼の友情を結び、
来たるべき第4紀には、同盟国と宗主国の王として、
ともに功績を残すことになりますが、
PJ版では、アラゴルンの改変の影響をうけたためなのか、
このあたりが、全くふれられていませんでした。
( 映画の 「 王様修行中 」 なアラゴルンは、
  現・ローハン国王、セオデンとのやり取りを優先されていましたからね。。 )

これは、エオメルのことだけではなくて、
PJ版のLOTR全体に言えることだと思うのですが、
各登場人物をとおして語られるストーリーが、
原作の場合には、種族や国をこえ、中つ国全体の歴史にわたる広がりを見せていき、
それが、『 指輪物語 』 の世界観を、
スケールの大きなものにしているという魅力があります。
これに対し、PJ版では、同じ種族同士、血縁同士などを主とした、
やや狭まった範囲で、物語の展開をまとめてしまっているため、
作品世界が限られてしまったというか、
小ぢんまりとした印象になってしまったように思えるのです。
映画化するにあたり、物語の単純化は避けられないことなので、
ある程度は、まぁ仕方がないのですけれどね。。

PJ版での、指輪戦争終結後のシーン、
ゴンドールの戴冠式ですら、表情を崩さないエオメルというのは、
そうした面から見ても、良くも悪くもPJ版の彼らしい、
一貫した演出になっていました。
原作の 『 追補編 ~ エオル王家 』 にあった、


  そしてエレスサール王が戦いに出で行くところには
  いつでもエオメル王の姿が見られた。


が、PJ版の “ その後 ” においても、
きちんと果たされるだろうことを、願ってはおりますけれど。。
頑張れ、第18代マークの王よ!

それにしても、全くもって無意味だと思われた、
SEE版でのギムリ&レゴラスの飲み比べ対決の追加が、
エオメルのおどけた表情を見られる、
貴重なシーン 扱いになってしまうというあたりは、
相変わらず、油断のならない編集 でございました ( 大苦笑 )

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 §edit. 『 エオメル 編 』 は一部加筆してあります ( 2005.9.3. )。