末つ森でひとやすみ

映画や音楽、読書メモを中心とした備忘録です。のんびり、マイペースに書いていこうと思います。

「ブレンダンとケルズの秘密」と「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」

2017-08-31 23:54:32 | 映画のはなし
アイルランドのトム・ムーア監督が手掛けた長編アニメーション映画、
「ブレンダンとケルズの秘密」と「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」の2作品を、
この夏、2回ずつ鑑賞してきました。

この2作品に共通の特長は、まずは何と言っても、その絵の美しさ!
そして、どちらも、アイルランドやケルトの伝承をベースにしているため、
ストーリー自体はシンプルですが、子どもだけではなく、
大人も十二分に楽しめる文化的背景を持っていること、
また、口承文芸を繰り返し聞いた時に感じる面白さを意識したかのような、
細部の演出(例えば、再鑑賞時のプロローグで味わえる "これ、知っている" 感!)
が、あげられます。


  ブレンダンとケルズの秘密 / 原題: The Secret of Kells

  舞台は、中世アイルランドのケルズ修道院。
  "世界一美しい本" と称される装飾写本「ケルズの書」の製作秘話が、
  主人公の少年修道士ブレンダンの成長に絡めて描かれます。
  トム・ムーア監督の長編デビュー作で、絵はどちらかと言えば、"素朴" なのですが、
  昔話や民話の良質な絵本(しかも、全編大画面で動く!)のようで、題材的にはぴったり。
  文様風に図式化された自然物の描き方や、漫画とアニメの中間っぽい処理がしてある場面など、
  所々で強調的に施される、他のシーンとは異なる画面演出も、面白い印象を受けました。
  修道院や聖書の写本がストーリーの中心にありながら、キリスト教の要素が前面に出ないのは、
  主人公の少年の "成長物語" としての普遍性を、大事にしたからなのかな。
  それが最も顕著なのは、見習い修道士ブレンダンが一人前の装飾師になるための最大の試練、
  クロム・クルアハを撃ち破ることと、森の妖精アシュリンとの交流が終焉するシークエンスで、
  ここは、ケルト神話や西欧のファンタジーでお馴染みのあれこれが満載でした。
  装飾師の師匠である、高名な修道士エイダンが亡くなった場面も、同様でしたね。
  鑑賞後、微笑ましい気持ちになるのは、登場人物に対する作り手の眼差しが優しいから。
  その姿を直接見ることが最早叶わなくても、存在を感じることはできるアシュリンとの絆。
  さりげなく、ブレンダンに寄り添い続ける、猫のパンガ・ボン。
  そして、ブレンダンに厳しく接した叔父のケルアッハ修道院長が、密かに持ち続けていたもの。
  見終わると、見る前よりも確実に好きになっている、そんな作品です。


  ソング・オブ・ザ・シー 海のうた / 原題: Song of the Sea

  アイルランドの伝承文芸をもとに、幼い兄妹の大冒険を描いたファンタジー作品。
  物語のベースにあるセルキー伝説(海ではアザラシ、陸では人間の姿になる妖精)は、
  昔話としてはメジャーな異類婚のパターンで、日本の羽衣天女の話ともよく似ています。
  映画本編の構成も、昔話の約束事である、"特別な末っ子(=兄は人間、妹は妖精セルキー)" 、
  "三度繰り返して、三度目に大きく話が展開(=兄が魔法世界で出会う者=3人組の妖精
   ディーナシー → 語り部の精霊シャナキー → フクロウの魔女マカ)" を踏襲しつつ、
  そこに、メルヘン(昔話)とファンタジーの最大の違いである、登場人物のキャラクターの
  掘り下げ=兄ベンと妹シアーシャの個性化がしっかりと行われて、作りが手堅いです。
  作中でハッキリとは明示されていませんが、歌うセルキーとして求められるのが
  シアーシャだけで、母ブロナーでないのは、恐らく、その "処女性" からだろうし、
  孫のシアーシャに異変が訪れる時には、必ず虫の知らせをキャッチして駆けつける
  おばあちゃんは、強引で憎まれ役な立ち位置と、"不思議な知恵と力を持つ老人" の役割とを
  課せられており、こうした点も、伝承文芸の語りの "型" を意識しているように思います。
  プロローグ ⇔ 本編 ⇔ エピローグの間に、それぞれを橋渡しするための、絵本調なタッチの
  場面を挿入するのも、昔話的であり、ファンタジーの行きて帰りし的でもあります。
  しかし、これらの理屈抜きにしても、この作品が鑑賞者を惹きつける力を秘めていることは、
  その、愛らしくて美しい、輝くような "絵" を見れば、自ずと明らかですね!
  6歳の誕生日を迎えたシアーシャが、隠されていた、自身のセルキーの白い毛皮を身につけ、
  アザラシたちと海に潜っていくシーンは、幻想的で、特筆すべき魅力に溢れていますが、
  本作はトム・ムーア監督の長編2作目ながら、映像美が飛躍的にアップしているようです。
  また、口がきけないシアーシャはもちろん、理由もわからずに突然、大好きな母親を失った
  ベンのもやもやとした行き場のない気持ちなど、主人公2人の細やかな感情が、
  彼らの表情に丁寧に表現されているのも、実に素晴らしいと思います。
  そして、こちらの作品も、登場人物に対する作り手の眼差しが、実に優しい。
  シアーシャが初めて、自分の言葉を喋る時に口にしたのは、兄ベンの名前だし、
  冒険の終わりには、ベンと母親ブロナーとの別れの場面が、きちんと用意されていました。
  "海のうた" を奏でる貝の笛は砕けてしまったけれど、ベンもシアーシャも、もう大丈夫だね。
  音楽も良くて、映画館で鑑賞できたことがスゴく幸せな、大好きな作品です。


「ブレンダンとケルズの秘密」は、ユジク阿佐ヶ谷 で8/12(土)~9/8(金)まで上映されていた
アイリッシュアニメーション特集で、8/24(木)と8/31(木)に鑑賞しました。
「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」は、同じくユジク阿佐ヶ谷の特集上映と、
特別上映されていた YEBISU GARDEN CINEMA とで、ともに、8/25(金)に鑑賞。
プログラムは両作品とも購入し、「ソング・オブ・ザ・シー」は鑑賞後にBlu-rayも入手しました。

今夏は、鑑賞した作品数自体は少なかったですが、
満ち足りた映画生活を送ることができたことに、間違いないです♪