末つ森でひとやすみ

映画や音楽、読書メモを中心とした備忘録です。のんびり、マイペースに書いていこうと思います。

彼らは生きていた

2020-02-29 23:32:20 | PJ版:役者のはなし
ピーター・ジャクソン監督 が手掛けた
第一次世界大戦に関するドキュメンタリー映画を見に、劇場まで足を運びました。

第一次世界大戦(1914年-1918年)の終結から百年にあたる2018年に、
イギリスで '14-18 NOW' という芸術プログラムが開催されたのですが、
本作はその一環として制作され、IWM に保管されている記録映像と、
BBC の所有する退役軍人へのインタビューを主な素材に、
ピーター・ジャクソン監督がそれらの修復、編集に取り組んだものです。
こちらの記事 に、わかりやすくまとめられています。)

見るべき価値のある作品だと思いました。

甚大な影響を広範囲に及ぼした歴史的出来事は、語り継がれる義務があると考えますが、
時を経るほど、直接関わった当事者たちの数は減り、記憶も風化します。
'The war to end all wars' とも呼ばれた第一次世界大戦は、既に百年以上も前の出来事で、
当時の西部戦線に従軍した兵士たちから直に経験談を聴くことは、最早不可能な状況ですが、
その機会を、映画という誰もが手軽にアクセスできる媒体を通して見事に再生させた点で、
このドキュメンタリー作品は非常に優れた役割を果たしていると言えます。

特に、一世紀前の大戦下に撮られた各々の記録映像を丁寧に修復し、
バラバラな撮影コマ数を揃えるために必要なコマを補い、一つひとつ着色を施して完成した本作では、
古い記録映像につきものの、どこか別世界の誰かの物語的な隔たりある印象が払拭されており、
我々が暮らす時代と地続きな過去に生きていた人たちの記録として、鮮烈に迫りくるものがあります。
そこに、実在した退役軍人たちが語るオーラル・ヒストリーを組み合わせて聴かせてくる訳なので、
その生々しさと言ったら、実に半端ない。

史上初の世界規模の戦争と同時代に、若かりし日々を生きた彼らの声は、
妙な高揚感に煽られていた宣戦布告直後の社会、練兵場での訓練、大陸への派兵、
戦地での前線配置と後方任務の様子を、時に素朴に、ユーモラスに、皮肉に語っていきますが、
夏場に開戦し、クリスマス迄には帰れると楽観視されていたWWIが、凄惨な塹壕戦により長引くことで、
戦闘中の恐怖と、無作為に訪れる死と、やがて厭戦的なムードに支配されていく兵士たちの心持ちの変遷とが、
彼らのインタビューから、リアルな臨場感とともに伝わってきます。
休戦し、故郷に引き揚げてきた彼らの直面した現実もまた、厳しく、虚しいものがありました。

戦場から生きて戻ることができた彼らの
「戦争は二度とごめんだ」「意味のないものだ」という言葉を聴きつつ、
その約二十年後に、二度目の世界大戦が勃発したことを知っている我々は、
百年が過ぎた現代の世界情勢をも顧みて、重い気持ちになります。

ピーター・ジャクソン監督自身はニュージーランドの生まれですが、
お祖父さんが当時のイギリス陸軍に所属しており、第一次世界大戦にも出兵されているのですね。
本編ラストの、お祖父さんへの献辞とともに、続くエンドロールには、本作でインタビューをあてた
退役軍人たちの名前と階級、所属が一人ひとり列記され、彼らへの謝辞が述べられていますが、
この映画に対する、監督の真摯さがあらわれていると感じました。


   ++ '20年4月20日追記 ++
     ようやくレビューをupすることができました。
     映画館で見てから、だいぶ間が空いてしまったので、
     劇場用パンフレット を再読し、映画自体も 配信 で再鑑賞して、まとめました。
     ピーター・ジャクソン監督の第一次世界大戦にまつわる映画のことを知ったのは、
     こちらの記事 が最初だったのですが、ドキュメンタリー作品ながら、
     日本語字幕付きで鑑賞できる環境が当初の配信公開に加え、
     劇場公開まで拡大されたことに感謝です。


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   映画 『彼らは生きていた』

  ◇原題:They Shall Not Grow Old
  ◇関連サイト:公式サイト ( 日本版 )、IMDb ( 関連ページ
  ◇鑑賞日:2020.2.25. 映画館にて
       ♪Sir Peter Jackson / Producer, Director

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