ささやんの週刊X曜日

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

ラッセルの幸福論(1)

2020-12-27 11:40:30 | 日記
今回はラッセルの幸福論を取りあげる。前回と同様、以下はS・I 准教授の論文『哲学における幸福論ーーヒルティ、アラン、ラッセルーー』からの抜粋である。

ただ今回の引用は、いかんせん分量が多い。内容に応じて、いくつかに分割しながら紹介することにしよう。

ラッセルの幸福論は2つの主張から成り立っている。
(1)不幸の原因は「まちがった世界観、まちがった道徳、まちがった生活習慣」にあり、とりわけ「まちがった道徳」が作り出す罪悪感にある。
(2)不幸の原因は「他人と比較してものを考える習慣」(から生じる妬みや疎外感)にある。

今回は(1)の主張に沿った部分からの抜粋である。

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不幸は、まちがった世界観、まちがった道徳、まちがった生活習慣によるものだとラッセルは言う。それが変わらないかぎり不幸な人はどこまでも不幸なのだ。

大食漢は身体がはちきれるまで食べる。たとえ自分の健康を損なっても彼は食べるのをやめることができない。自分には何かが足りないのだ。その何かを満たし自分の欠落を忘却するために彼は浴びるように食べ、そして飲む。彼は「根深い悩みをかかえていて、亡霊から逃れようとしている」のであり、「求めているのは、対象そのものを楽しむことではなく、忘却」なのである。食べて楽しいわけではない。食事を詰め込んで欠落が埋まるわけでもない。だが形だけでも自分を「満たす」手段は食べ物しかない。彼は不幸だから食べるのだ。そして食べても埋まらない欠落を忘れようとして食べ続けるのである。

彼らの中には、たとえば罪悪感を持つ人間がいる。
罪悪感を持つ人間とは、罪の意識に取り憑かれた人間である。彼が何か具体的な悪事を働いたわけではない。だが彼は「絶えずわれとわが身に非難を浴びせている」。なぜなら「彼は、自分はかくあるべきだという理想像をいだいている。そして、その理想像は、あるがままの自分の姿と絶えず衝突している」からである。彼はいつも自分自身を隅々まで見張り、あるべき自分に達していない不完全な自分を責めて不幸になっている。彼は常に自分に理想を強いる「良心的」な人間であり、したがって常に「理想に達していない罪」で、あるまがままの自分を咎め続ける「罪びと」なのである。だが、その「罪」というのは、「どんな人にも親切に振る舞わなければならない」・・・といったような「ばかばかしい道徳律」であることが多い。こうした「ばかばかしい道徳律」が彼の「無意識の中に根を下ろして」彼を苛み続けているのだ。
こうした道徳律は、ラッセルによれば「ほとんどすべての場合、当人が6歳以前に、母親や乳母の手から受けた道徳教育」に由来する。

ラッセルは言う。「不合理をつぶさに点検し、こんなものは尊敬しないし、支配されもしないぞ、と決心するのだ。不合理が、愚かな考えや感情をあなたの意識に圧しつけようとするときには、いつもこれらを根こそぎにし、よく調べ、拒否するといい。」

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ここであげられているのは、(a)大食漢の例と、(b)「ばかばかしい道徳律」に呪縛された人の例である。

(a)大食漢の例は、身につまされる。現役だった頃、私は大酒飲みだった。自分が脳出血に罹ったのは、過剰な飲酒癖のせいだったと自戒している。焼酎のお湯割りを飲みながら、だが当時の私は、それを美味いと思いながら飲んだことがなかった。私は焼酎を呷(あお)ることで、(ラッセルが言うように)自分の中の「欠落」を埋めようとしていたのだと思う。職場のストレスから逃れ、自分の中にある「欠落」を忘れようとしていたのだと思う。
そんなふうにして過ごす夜は、「まちがった生活習慣」の産物以外の何ものでもない。飲んだくれ、酔っ払った私は、明らかに不幸だった。

(b)「ばかばかしい道徳律」に呪縛された人の例も、よく見られる。
「あなたは女の子なのだから、お淑(しと)やかにしなければいけません。お転婆はダメよ」。
幼少期に「毒親」の母親からそう言われて育った多感な少女は、この言葉に抑圧され、トラウマを抱えながら生きるしかない。この呪縛を解かない限り、彼女が幸福になることはないだろう。
「おまえは男なのだから、もっと男らしくしなければダメだぞ」、「おまえは日本男児じゃないのか」などの言葉が作る「ばかばかしい道徳律」と、そこからくる罪悪感も、不幸の原因になる。

私は、そうした罪悪感よりも、「他人と比較してものを考える習慣」(から生じる妬みや疎外感)のほうが不幸の原因としては大きいと思っている。それについては、また次回に。
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