1月上旬の日曜日の午前11時半頃。マミは吉祥寺駅南口改札前で、鈴木タケルと待ち合わせをしていた。
細身の鈴木タケルは黒いトレンチコート姿に、白いデニム、トップが白でサイドが赤のデッキシューズ姿だった。
少し寸胴気味のマミは、ピンクのダッフルコートに、赤いニットのカーディガン、白いブラウスに、裾を折り上げた、少し太めのブルージーンズに、白に赤の入ったスニーカー姿だった。
「えーと、じゃあ、そのカフェとやらに行こうか・・・そこに友達二人も待ってくれているんだよね」
と、鈴木タケルは言ってくれる。
「はい。会社の同僚で、同期の多岐川ミサトと水島ミウがいます。ミサトもミウもそれなりに恋愛経験があるので・・・いろいろ話してくれて、いつも参考になるんです」
と、マミは言葉にする。
「まあ、とにかく、戦略は練ってきた・・・君のお姉さんも含めて、大人の女性の意見を貰ってきたから、ま、大丈夫だとは思うけどね」
と、鈴木タケルは言葉にする。
「そうですか・・・わたし、恋されることは多かったんですが・・・自分で恋に落ちたのは、それこそ、初めてくらいなので・・・」
と、マミは不安を言葉にしている。
「正直、よくわからないんです・・・彼の目の前に出ると、ポーっとなっちゃって・・・正直慌てちゃうし、何を言っていいか、わからないし・・・」
と、マミはさらに不安を言葉にしている。
「まあ、恋愛なんて、最初はそんなもんだよ。大丈夫・・・とにかく、僕に任せてくれ・・・それに・・・」
と、鈴木タケルは、言葉を繋ぐ。
「それに、マミちゃんをしあわせにしないと・・・君のお姉さんに、どやされちゃうから、俺・・・」
と、鈴木タケルは笑った。
マミは、その笑顔に好感を持った。
マミとタケルが、カフェ「アルカンシェル」に近づいて行くと、その隣の花屋「華可憐」も見えてくる。
「あれが君の恋愛ターゲットのいる店か・・・悪いけど、様子見てくるから、先にカフェに入っていてくれ」
と、タケルはマミをカフェに入れてから独り歩いて行った。
「マミ!」
と、マミがカフェ「アルカンシェル」に入ると、すぐにミサトの声が聞こえた。
ミサトとミウが笑顔で席に座って、手を振っている。
「あれ?素敵な大人の男性と一緒じゃなかったの?」
と、ミサトが席に座ってきたマミに質問している。
「タケルさん、「華可憐」に様子見に行ってくれてる」
と、マミは素直に言う。
「へえ・・・何か頼もしい感じね・・・すぐに動いてくれて」
と、ミウも感心している。
「で、どんな男なの?そのタケルってひと」
と、ミサトは興味津々。
「細身のスポーツマンで・・・サイクリストなんだって。なかなか素敵なひとよ・・・めぢからも強いし、目がキラキラしてる」
と、マリは説明する。
「えー、わたしのタイプだわー・・・やっぱり、男はスポーツマンで、目がキラキラしてないとね」
と、ミサトはテンションが上がっている。
「ふうん・・・なかなか良さそうなひとね。そのタケルさんって」
と、ミウも笑顔で話している。
「だって、お姉ちゃんが目をハートマークにしているんだもん・・・それくらいの人よ」
と、マミは話す。
「へえ、あのアミさんがねー・・・わたし、大人の女性としてアミさんは尊敬しているけど、そのアミさんが惚れる程なのね・・・」
と、ミウは話している。
「アミさんまで、虜にしちゃうなんて・・・どんな男なんだろう」
と、ミサトのテンションは上がりきっている。
と、そこへ・・・。
「お、マミちゃん、そこにいたか」
と、黒いトレンチコート姿の鈴木タケルが入ってくる。
黒いトレンチコートに、白いデニム、トップが白でサイドが赤のデッキシューズ姿の細身の鈴木タケルをミサトもミウも笑顔で見ている。
「えーと、ミサトちゃんとミウちゃんだっけ?鈴木タケルです。八津菱電機で、システムエンジニアをやってます」
と、タケルは、ミサトとミウに自己紹介をしながら、握手を交わしている。
「多岐川ミサトです。わたしもサイクリストで・・・アルカンシェル・・・わかるでしょう?」
と、ミサトは嬉しそうにタケルに言う。
「ああ・・・世界一になったプロのサイクリストだけが一年間着ることを許される、貴重な一枚のジャージ・・・その呼び名だな。ここのマスターも、サイクリストか」
と、タケルが言うと、
「そうなんです。「走行会に来ないか」なんて誘われちゃって・・・」
と、ミサトは笑顔で言う。
「ははは。美人を誘う時の、サイクリストの手だな・・・まあ、ミサトちゃんくらい美人なら、僕でも誘うよ」
と、笑顔のタケルに、ミサトの目はハートマークだ。
「えーと、ミウちゃんは・・・なんか大人の雰囲気だなー。少し危険な香りのする女性・・・でも、中身は実は少女のように可憐・・・そんな感じ?」
と、タケルは今度は、ミウを見ながら、言葉にしている。
「あらあ・・・そんな事言ってくれるのは、タケルさんくらいですよ・・・男性は皆、気が弱くて・・・」
と、ミウはミウなりの表現で返す。
「まあね。男ってのは若い頃は自分に自信がないもんさ。僕もいろいろ経験してきたから、強くなれた・・・男は失敗の経験を積むから強くなれるのさ」
と、タケルはミウに言う。
「タケルさんは、本当の大人の男性なんですね」
と、ミウが蕩けるような笑顔で言うと、
「そ。まあ、大抵のネガティブはポジティブに変えられる」
と、タケルは受ける。
「・・・と、その前に、ランチ頼んじゃおうよ、俺何にすっかなー」
と、何事もなかったように、メニューを見始めるタケルだった。
マミはそんなタケルを頼もしそうに眺めているのだった。
ミサトはペスカトーレ、ミウはペペロンチーノ、マミは、ボロネーゼ、タケルはカルボナーラを食べていた。
「で、さ。マミちゃん、そのシンイチさんってのに、ちょっと会ってきた。なかなか気さくで、仕事熱心な男だったよ」
と、タケルは話した。
「どうやって話したんですか?」
と、ミサト。
「28歳くらいの大人の女性に花束を渡すとしたら、どうしたら、いいのか、彼に直接聞いたのさ。そしたら、色々アドバイスもしてくれてね」
と、タケル。
「まあ、2000円も出せば、けっこういい花束を作れるそうだ。バラを中心にした方がいいって、言ってた。バラの花言葉は「愛情」だからだ、そうだ」
と、タケル。
「マミもシンイチさんにバラを中心にした花束を貰ったのよね、昨日」
と、ミサトはマミを見ながらタケルに言う。
「へー・・・それは、脈ありじゃん?違う?」
と、タケルが言うと、
「バラの花言葉は「愛情」だけど、これはありがとうの気持ちだからって・・・他意はないって、言われました。シンイチさんに」
と、マミは残念そうに言う。
「他意はないか・・・まあ、いい。それは一応材料として、持っておこう・・・」
と、タケルは言う。
「で、タケルさんは、そのシンイチさんを、どう見ました。同じ男性として、という意味ですけど」
と、ミウが聞く。
「うん・・・店の隅に、彼が亡くしたと思われる、そのかみさんの写真が立ててあったんだ。少し小さめの写真立てだったけれど・・・」
と、タケルは言う。
「え?そんなの私達気づかなかったわよね」「確かに・・・」「私も・・・」
と、ミサト、ミウ、マミは言う。
「まあ、隅の方だったからね。でも、彼がいつも座る椅子のすぐ近くにあったから・・・彼は休みを取る時は、毎回、亡くしたかみさんのことを思っているんだろう」
と、タケル。
「その気持ちは、僕にも、わかるよ。俺も大学時代に母親を亡くしてて、その写真立て、いつも座っている椅子の横に置いてあるからね」
と、タケル。
「じゃあ、彼の心の中心には、今でも・・・」
と、ミウが口にする。
「ああ、亡くなったかみさんが、ドカンと大きな存在として、いるのは、確かだな・・・」
と、タケル。
マミはその言葉を聞くと少し哀しそうにする。
「彼がちょっとトイレに行っている間にさ、義理のお姉さんってのにも、話が聞けた」
と、タケルは続ける。
「森田ユキさん」
と、マミは名前を言う。
「ああ、そういう名前だったな。「その写真は誰ですか?」って聞いてみたら、実の妹ですって、教えてくれた」
と、タケルは続ける。
「シンイチさんは、毎朝、その写真に話しかけながら、コーヒーを飲んでいるんだそうだ・・・つまり、今でも彼女が生きているような、そんな錯覚を持っているんだな」
と、タケルは言う。
「多分、嫌な思い出はすべて消えているはずだ。素敵な思い出だけしか残っていない。記憶は美化されるからね。かなりやっかいなラスボスだ」
と、タケルは言う。
「彼が彼女を頑なに作らないのも、そのおかげ・・・まあ、そのユキさんの言い方で言うと、他の女性が目に入らない・・・そういうことだそうだ」
と、タケルは言う。
ミサトとミウとマミは、声もなく、顔を見合わせる。
「だが、悪い情報ばかりじゃない」
と、タケルは少し笑顔で、マミに向かって言う。
「さっき、ミサトちゃんも言ってくれたけど・・・昨日、マミちゃんは、シンイチさんに花束を贈られたんだろ?」
と、タケルはマミに言う。
「はい。貰いましたけど・・・他意はないって、言われながら」
と、マミは自信なさそうに言う。
「ユキさんの話だと、シンイチさんは、そんなことの出来る人間じゃなかったんだそうだ。つまり、他の女性に花束をあげたのはマミちゃんが最初、なんだそうだ」
と、タケルが話してくれる。
「昨日の花束には、意味があったんだよ」
と、タケルが言うと、マミは驚きながら、やがて笑顔になる。
「もちろん、シンイチさんには、まだ、恋ゴコロがあるわけじゃない。だが、彼の心のどこかに、マミちゃんとマッチする部分があったんだ。きっと」
と、タケルは言葉にしてくれる。
「マッチする部分があったからこそ、気軽に花束を渡してくれたんだ」
と、タケルは言葉にしてくれる。
「大丈夫・・・ネガティブ要素が多い案件だが・・・ポジティブに出来る鍵くらいはあるさ・・・俺に任せとけ、ね、マミちゃん」
と、タケルは笑顔で言葉にしてくれた。
「よかったね、マミ。タケルさんがついていてくれれば・・・鬼に金棒だわ」
と、ミサトは笑顔で言う。
「そうそう。大人の男性がついていてくれれば、そして、私達が団結して事に当たれば・・・きっとマミの恋は叶うわ」
と、ミウが笑顔で言う。
「うん。わたし、がんばってみる・・・皆も応援してね・・・そして、タケルさん・・・わたし、がんばれる気がします」
と、マミは、笑顔で言った。
「さてさて、それじゃあ、具体的な作戦を話そうか・・・僕が君の姉さんに派遣されたのは、君の恋愛を成就させる為なんだからな」
と、鈴木タケルはマミの目を見つめながら、男らしく言葉にする。
「じゃ、嶋田マミ恋愛プロジェクトを発表するか」
と、タケルは自分のスーツケースから、10枚程度で作られた冊子をマミ、ミサト、ミウに配り、自分も冊子を開きながら、説明を始める。
その冊子の題名には、
「バレンタインまでにすべき10個のこと」
と書いてあった。
「とにかく、マミちゃんがバレンタインまでにすべき10個のことを、ピックアップした。これをやっていけば、マミちゃんは必ずバレンタインを笑顔で迎えられるだろう」
と、鈴木タケルは笑顔になる。
マミもミサトもミウも、ワクワクしながら、冊子を見ていた。
そして、皆、笑顔になった。
(つづく)
→前回へ
→物語の初回へ
→「ラブ・クリスマス!」初回へ
細身の鈴木タケルは黒いトレンチコート姿に、白いデニム、トップが白でサイドが赤のデッキシューズ姿だった。
少し寸胴気味のマミは、ピンクのダッフルコートに、赤いニットのカーディガン、白いブラウスに、裾を折り上げた、少し太めのブルージーンズに、白に赤の入ったスニーカー姿だった。
「えーと、じゃあ、そのカフェとやらに行こうか・・・そこに友達二人も待ってくれているんだよね」
と、鈴木タケルは言ってくれる。
「はい。会社の同僚で、同期の多岐川ミサトと水島ミウがいます。ミサトもミウもそれなりに恋愛経験があるので・・・いろいろ話してくれて、いつも参考になるんです」
と、マミは言葉にする。
「まあ、とにかく、戦略は練ってきた・・・君のお姉さんも含めて、大人の女性の意見を貰ってきたから、ま、大丈夫だとは思うけどね」
と、鈴木タケルは言葉にする。
「そうですか・・・わたし、恋されることは多かったんですが・・・自分で恋に落ちたのは、それこそ、初めてくらいなので・・・」
と、マミは不安を言葉にしている。
「正直、よくわからないんです・・・彼の目の前に出ると、ポーっとなっちゃって・・・正直慌てちゃうし、何を言っていいか、わからないし・・・」
と、マミはさらに不安を言葉にしている。
「まあ、恋愛なんて、最初はそんなもんだよ。大丈夫・・・とにかく、僕に任せてくれ・・・それに・・・」
と、鈴木タケルは、言葉を繋ぐ。
「それに、マミちゃんをしあわせにしないと・・・君のお姉さんに、どやされちゃうから、俺・・・」
と、鈴木タケルは笑った。
マミは、その笑顔に好感を持った。
マミとタケルが、カフェ「アルカンシェル」に近づいて行くと、その隣の花屋「華可憐」も見えてくる。
「あれが君の恋愛ターゲットのいる店か・・・悪いけど、様子見てくるから、先にカフェに入っていてくれ」
と、タケルはマミをカフェに入れてから独り歩いて行った。
「マミ!」
と、マミがカフェ「アルカンシェル」に入ると、すぐにミサトの声が聞こえた。
ミサトとミウが笑顔で席に座って、手を振っている。
「あれ?素敵な大人の男性と一緒じゃなかったの?」
と、ミサトが席に座ってきたマミに質問している。
「タケルさん、「華可憐」に様子見に行ってくれてる」
と、マミは素直に言う。
「へえ・・・何か頼もしい感じね・・・すぐに動いてくれて」
と、ミウも感心している。
「で、どんな男なの?そのタケルってひと」
と、ミサトは興味津々。
「細身のスポーツマンで・・・サイクリストなんだって。なかなか素敵なひとよ・・・めぢからも強いし、目がキラキラしてる」
と、マリは説明する。
「えー、わたしのタイプだわー・・・やっぱり、男はスポーツマンで、目がキラキラしてないとね」
と、ミサトはテンションが上がっている。
「ふうん・・・なかなか良さそうなひとね。そのタケルさんって」
と、ミウも笑顔で話している。
「だって、お姉ちゃんが目をハートマークにしているんだもん・・・それくらいの人よ」
と、マミは話す。
「へえ、あのアミさんがねー・・・わたし、大人の女性としてアミさんは尊敬しているけど、そのアミさんが惚れる程なのね・・・」
と、ミウは話している。
「アミさんまで、虜にしちゃうなんて・・・どんな男なんだろう」
と、ミサトのテンションは上がりきっている。
と、そこへ・・・。
「お、マミちゃん、そこにいたか」
と、黒いトレンチコート姿の鈴木タケルが入ってくる。
黒いトレンチコートに、白いデニム、トップが白でサイドが赤のデッキシューズ姿の細身の鈴木タケルをミサトもミウも笑顔で見ている。
「えーと、ミサトちゃんとミウちゃんだっけ?鈴木タケルです。八津菱電機で、システムエンジニアをやってます」
と、タケルは、ミサトとミウに自己紹介をしながら、握手を交わしている。
「多岐川ミサトです。わたしもサイクリストで・・・アルカンシェル・・・わかるでしょう?」
と、ミサトは嬉しそうにタケルに言う。
「ああ・・・世界一になったプロのサイクリストだけが一年間着ることを許される、貴重な一枚のジャージ・・・その呼び名だな。ここのマスターも、サイクリストか」
と、タケルが言うと、
「そうなんです。「走行会に来ないか」なんて誘われちゃって・・・」
と、ミサトは笑顔で言う。
「ははは。美人を誘う時の、サイクリストの手だな・・・まあ、ミサトちゃんくらい美人なら、僕でも誘うよ」
と、笑顔のタケルに、ミサトの目はハートマークだ。
「えーと、ミウちゃんは・・・なんか大人の雰囲気だなー。少し危険な香りのする女性・・・でも、中身は実は少女のように可憐・・・そんな感じ?」
と、タケルは今度は、ミウを見ながら、言葉にしている。
「あらあ・・・そんな事言ってくれるのは、タケルさんくらいですよ・・・男性は皆、気が弱くて・・・」
と、ミウはミウなりの表現で返す。
「まあね。男ってのは若い頃は自分に自信がないもんさ。僕もいろいろ経験してきたから、強くなれた・・・男は失敗の経験を積むから強くなれるのさ」
と、タケルはミウに言う。
「タケルさんは、本当の大人の男性なんですね」
と、ミウが蕩けるような笑顔で言うと、
「そ。まあ、大抵のネガティブはポジティブに変えられる」
と、タケルは受ける。
「・・・と、その前に、ランチ頼んじゃおうよ、俺何にすっかなー」
と、何事もなかったように、メニューを見始めるタケルだった。
マミはそんなタケルを頼もしそうに眺めているのだった。
ミサトはペスカトーレ、ミウはペペロンチーノ、マミは、ボロネーゼ、タケルはカルボナーラを食べていた。
「で、さ。マミちゃん、そのシンイチさんってのに、ちょっと会ってきた。なかなか気さくで、仕事熱心な男だったよ」
と、タケルは話した。
「どうやって話したんですか?」
と、ミサト。
「28歳くらいの大人の女性に花束を渡すとしたら、どうしたら、いいのか、彼に直接聞いたのさ。そしたら、色々アドバイスもしてくれてね」
と、タケル。
「まあ、2000円も出せば、けっこういい花束を作れるそうだ。バラを中心にした方がいいって、言ってた。バラの花言葉は「愛情」だからだ、そうだ」
と、タケル。
「マミもシンイチさんにバラを中心にした花束を貰ったのよね、昨日」
と、ミサトはマミを見ながらタケルに言う。
「へー・・・それは、脈ありじゃん?違う?」
と、タケルが言うと、
「バラの花言葉は「愛情」だけど、これはありがとうの気持ちだからって・・・他意はないって、言われました。シンイチさんに」
と、マミは残念そうに言う。
「他意はないか・・・まあ、いい。それは一応材料として、持っておこう・・・」
と、タケルは言う。
「で、タケルさんは、そのシンイチさんを、どう見ました。同じ男性として、という意味ですけど」
と、ミウが聞く。
「うん・・・店の隅に、彼が亡くしたと思われる、そのかみさんの写真が立ててあったんだ。少し小さめの写真立てだったけれど・・・」
と、タケルは言う。
「え?そんなの私達気づかなかったわよね」「確かに・・・」「私も・・・」
と、ミサト、ミウ、マミは言う。
「まあ、隅の方だったからね。でも、彼がいつも座る椅子のすぐ近くにあったから・・・彼は休みを取る時は、毎回、亡くしたかみさんのことを思っているんだろう」
と、タケル。
「その気持ちは、僕にも、わかるよ。俺も大学時代に母親を亡くしてて、その写真立て、いつも座っている椅子の横に置いてあるからね」
と、タケル。
「じゃあ、彼の心の中心には、今でも・・・」
と、ミウが口にする。
「ああ、亡くなったかみさんが、ドカンと大きな存在として、いるのは、確かだな・・・」
と、タケル。
マミはその言葉を聞くと少し哀しそうにする。
「彼がちょっとトイレに行っている間にさ、義理のお姉さんってのにも、話が聞けた」
と、タケルは続ける。
「森田ユキさん」
と、マミは名前を言う。
「ああ、そういう名前だったな。「その写真は誰ですか?」って聞いてみたら、実の妹ですって、教えてくれた」
と、タケルは続ける。
「シンイチさんは、毎朝、その写真に話しかけながら、コーヒーを飲んでいるんだそうだ・・・つまり、今でも彼女が生きているような、そんな錯覚を持っているんだな」
と、タケルは言う。
「多分、嫌な思い出はすべて消えているはずだ。素敵な思い出だけしか残っていない。記憶は美化されるからね。かなりやっかいなラスボスだ」
と、タケルは言う。
「彼が彼女を頑なに作らないのも、そのおかげ・・・まあ、そのユキさんの言い方で言うと、他の女性が目に入らない・・・そういうことだそうだ」
と、タケルは言う。
ミサトとミウとマミは、声もなく、顔を見合わせる。
「だが、悪い情報ばかりじゃない」
と、タケルは少し笑顔で、マミに向かって言う。
「さっき、ミサトちゃんも言ってくれたけど・・・昨日、マミちゃんは、シンイチさんに花束を贈られたんだろ?」
と、タケルはマミに言う。
「はい。貰いましたけど・・・他意はないって、言われながら」
と、マミは自信なさそうに言う。
「ユキさんの話だと、シンイチさんは、そんなことの出来る人間じゃなかったんだそうだ。つまり、他の女性に花束をあげたのはマミちゃんが最初、なんだそうだ」
と、タケルが話してくれる。
「昨日の花束には、意味があったんだよ」
と、タケルが言うと、マミは驚きながら、やがて笑顔になる。
「もちろん、シンイチさんには、まだ、恋ゴコロがあるわけじゃない。だが、彼の心のどこかに、マミちゃんとマッチする部分があったんだ。きっと」
と、タケルは言葉にしてくれる。
「マッチする部分があったからこそ、気軽に花束を渡してくれたんだ」
と、タケルは言葉にしてくれる。
「大丈夫・・・ネガティブ要素が多い案件だが・・・ポジティブに出来る鍵くらいはあるさ・・・俺に任せとけ、ね、マミちゃん」
と、タケルは笑顔で言葉にしてくれた。
「よかったね、マミ。タケルさんがついていてくれれば・・・鬼に金棒だわ」
と、ミサトは笑顔で言う。
「そうそう。大人の男性がついていてくれれば、そして、私達が団結して事に当たれば・・・きっとマミの恋は叶うわ」
と、ミウが笑顔で言う。
「うん。わたし、がんばってみる・・・皆も応援してね・・・そして、タケルさん・・・わたし、がんばれる気がします」
と、マミは、笑顔で言った。
「さてさて、それじゃあ、具体的な作戦を話そうか・・・僕が君の姉さんに派遣されたのは、君の恋愛を成就させる為なんだからな」
と、鈴木タケルはマミの目を見つめながら、男らしく言葉にする。
「じゃ、嶋田マミ恋愛プロジェクトを発表するか」
と、タケルは自分のスーツケースから、10枚程度で作られた冊子をマミ、ミサト、ミウに配り、自分も冊子を開きながら、説明を始める。
その冊子の題名には、
「バレンタインまでにすべき10個のこと」
と書いてあった。
「とにかく、マミちゃんがバレンタインまでにすべき10個のことを、ピックアップした。これをやっていけば、マミちゃんは必ずバレンタインを笑顔で迎えられるだろう」
と、鈴木タケルは笑顔になる。
マミもミサトもミウも、ワクワクしながら、冊子を見ていた。
そして、皆、笑顔になった。
(つづく)
→前回へ
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