先日、と言っても、この秋の話ですけどね。
ある都内の飲み屋さんでの話です。
24歳の男性編集者、河合くんと、31歳の女性編集者水谷さんと、僕、という感じで飲んでいました。
「あのー、今日はちょっと真面目に聞きたいんですけど、僕、全然モテないんですけど、どこが駄目なんですかねー?」
と、河合くんは少し酔いながら、素直な質問をしてきます。
「うーん、まず、そういう質問をひとにしちゃうところが問題なんじゃない?」
と、割りと熱い女性、水谷さんは、素直に言います。
「え、なんでですか?経験の多いひとに質問することは、正解に早く出会える近道だと思うんですけど」
と、河合くんも素直に話します。
「なんていうのかなー。最近の男の子って、プライドとか、ないの?自分で考えて答えを出そうとしないの?」
と、水谷さんが言うと、
「プライドなんて言っている場合じゃないですよ。プライドより答えを貰う方が自分の人生に有利だし、そう思いませんか?」
と、河合くんも素直に話します。
「あのねー、なんで話の前半しか聞かないの?わたしが聞きたいのは、なぜ、自分で答えを出さないか、その努力をしてから聞くものでしょって、こと!」
と、少しキレ気味な水谷さんです。
僕はその二人のやりとりを聞きながら、少し苦笑して、ビールを飲みます。
「ゆるちょさんも笑ってばかりいないで、話に乗ってくださいよ。まるで、僕だけが、悪者みたいで・・・」
と、僕に助けを求める河合くんです。
「いやあ、二人共、本音で話し合っているから、聞いてておもしろいよ」
と、僕が笑うと、
「そうですか?なんか、僕が悪者になってますよ、これ」
と、少々不満顔な河合くんです。
「でもさー、まず、自分より上の年齢の人間の言うことも、聞いてみるもんだと思うよ。実際、水谷さんも、いろいろ経験しているから、河合くんに、よかれと思って言ってるんだし」
と、僕が水谷さんの方を見ながら話すと、
「そうよ。わたしだって、何もかわいい後輩を悪者にして、いじめようとしているわけじゃないもの。ただ・・・」
と、水谷さんは、僕と河合くんを見ながら話します。
「ただ?」
と河合くんが先を聞きたがります。
「河合くんを見るといつも思うんだけど、何かひとより知識が多ければ、人生うまくいくみたいに思ってない?」
と、水谷さんは、割りとマジに話してきます。
「え?でも、そうじゃないんですか?人生の真理を知っていれば、知っているほど、人生楽に生きていけるんじゃないですか?」
と、河合くんは、自分の心理のツボを話します。
「でしょう?そこが河合くんの弱点っていうか、甘いところなのよねー」
と、水谷さんは、本気でダメだしをしています。
「ねえ、ゆるちょさんも、そう思いませんか?」
と、水谷さんは、僕に同意を求めます。
「そうだねー。プロセスを省いて知識を得ても・・・というか、この場合、知恵を獲得しても、と言うべきだけど、そこに意味はないしね」
と、僕が言うと、
「は?お二人の言っている意味が、まったくわかりませんが・・・」
と、サル状態に突入する河合くんです。まるで、それが正しいことのように、河合くんは主張しています。
「例えば、ここで、水谷さんなり、僕なりが、河合くんがモテるようになるには、こうすれば、と言ったとしよう」
と、僕が言います。
「でも、それは、自分で努力して獲得した知識じゃないだろ?安易に僕らから聞いた情報に過ぎない」
と、僕は言います。
「例えば、「その安っぽい服装をどうにかした方がいい。センスのいい服を着るようにした方がいい」と言ったら、君はどうする?」
と、僕が聞きます。
「えー・・・「センスのいい服って、どういう服ですか?やっぱり、ブランドモノですかね?」って、質問します」
と、河合くんは言います。
「それに対して、「まあ、それが無難だな」って僕が言ったら、河合くんはどうするの?」
と、僕が聞くと、
「そりゃあ、自分の手に入る、ブランド品を買いあさります」
と、河合くんは答えます。
「だろ・・・でも、ブランド品を買いあさったところで、河合くんは、モテないままだ・・・なぜだか、わかる?」
と、僕が聞くと、
「いや・・・え?なぜモテないんです?だって、言われた通りにしたんですよ?」
と、河合くんは、軽いパニックになって、話します。
「河合くんは言われたままにやるから、途中で大事な情報が抜け落ちちゃうんだよ。僕は途中で、「センスのいい服を着るようにした方がいい」って言ったね」
と、僕が言うと、
「あ、そうですね」
と、河合くんが答えます。
「なのに、河合くんのやっていることは、ただブランド品を買いあさり、それを着ているだけ。女性はその河合くんをどう見るかな?」
と、僕が聞きます。
「え?センスのいい服着ていてかっこいい・・・って、見てくれませんか?」
と、河合くんが言います。
「水谷さん、そういう彼をどう見ます?女性としては」
と、僕が静かにやりとりを見守っていた水谷さんに聞きます。
「そうね。ファション雑誌を鵜呑みにしている、センスのない、自分でモノを考えない男子・・・そう見ますね」
と、水谷さんは、ズバリ言い抜きます。
「え・・・」
と、河合くんは、目が点になりますが、
「だって、女性はいつもファッションのことを考えている、ファッションのプロなのよ。センスがあるか、ないかを誰よりもいち早く見抜くわ」
と、水谷さんは、誇らしげに言います。
「つまり、「センスのいい服を着るようにした方がいい」っていう言葉には、プロセスが入っているんだよ。自分を磨いて、センスを磨けって、そういうプロセスが」
と、僕が言います。
「たーだ、ブランド品を着ているひとは、センスなんか磨いてないってことがわかっちゃって、逆効果なんだよ。プロの目から見れば」
と、僕は続けます。
「例えば、あるブランドばかり着ている人っているじゃない。アルマーニだったら、アルマーニとかさ。そういうひとは、アルマーニというブランドに固執しているに過ぎない」
と、僕が言います。
「でも、センスのいい人間は、デザイン重視になるはずだ。だって、女性は見たものに最大限説得される動物なんだから、見た感じに説得される」
と、僕は言います。
「であるなら、女性と同じ目で、デザインを感じられるようになることが、必須になってくる」
と、僕は言います。
「女性が「この服、センスいいわ・・・こういう服を選ぶセンスをこのひとは持っているのね・・・ちょっとひととは違うわ、このひと」とそう思わせなければいけないんだ」
と、僕が言うと、
「そうね。そういう男性に女性は弱いわ・・・ファッションセンスのある男性って少ないし、やっぱりそういう男性は女性にとって、宝物みたいなモノだもん」
と、水谷さんが、少し頬を染めながら、話します。
「そういうひとに、女性は惚れるのよ・・・」
と、水谷さんは結論づけます。
「だから、何事も自分でやってみて、考えてみて、自分なりのセンスを磨いていく・・・人生はそういうところから真理が生まれてくるものなの」
と、水谷さんは、しっかりと説明してくれます。
「河合くんみたいに、いつもおいしい情報だけをとろうとする人間は、なかなか成長しない。だから、河合くんは、モテないのよ」
と、手厳しいことを普通に言う水谷さんです。
「ひとから、おいしい情報だけ貰っているから、中身がスカスカなのよ。だから、話していても、ひとの受け売りだけで、中身がない。だから、つまらない」
と、水谷さんは更に手厳しく指摘します。
「あの本には、こう書いてあった。あのテレビ番組でこんなことを言っていた・・・そんな情報は、ただの話の始まりに過ぎないの」
と、水谷さんは、真理を言おうとしています。
「そんな情報、知っていて当たり前・・・そこから、自分なりに考えて、自分なりの言葉を出すことが必要なのよ。それが出来て初めて一人前なのよ」
と、水谷さんは、本物とは、何かについて話しています。
「河合くんは、ネットでいろいろ調べて、言葉を出せる、自分は事情通だ、俺は人とは違うんだ・・・みたいな勘違いをしているようだけど・・・」
と、水谷さんは、新たな攻撃をしかける前哨戦をやっているようです。
「河合くんは、なんか、いつも、皆が知っているような話を、さも俺頭いいでしょ的に話すわよねー」
と、水谷さんは、河合くんを追い詰めていきます。
「でもね、はっきり言って、皆、「また始まったよー」的にあなたを見ているのよ!」
と、水谷さんは、彼の知らない事実を理解させようとしているみたいです。
「あなたは、皆から、馬鹿にされているのよ。話を右から左に渡しているだけで、自分の考えの全く無い奴だって・・・それわかってる?」
と、水谷さんは、すごい事実を河合くんに突きつけています。
「河合くん、言っておくけど、ネットのどこかに書いてあったような情報や、受け売りの情報を話されたって、そこには何の意味もないの!」
と、水谷さんは、手厳しく話します。
「だって、そんなこと、誰だってネットをちょっとでも見れば、わかることだもの。そんなこと、誰でも、出来ることだし、その情報には、最早価値はないの」
と、水谷さんは、厳しい現実を話します。
「つまり、そんな情報をひけらかす、河合くんには、最早、意味がないわけ。そんな情報をひけらかしたって、なんの意味もないの」
と、水谷さんは、さらに追い込みます。
「そこから思考して、河合くんなりの言葉が出てこなければ、あなたと、おしゃべりする意味がない、と皆感じているのよ!」
と、水谷さんは会社を代表して、河合くんに事実を話しています。
「つまり、皆、あなたの存在に意味がない、と感じているということなのよ!」
と、水谷さんは、結論を河合くんに叩きつけます。
「だから、河合くんは、つまらないし、モテない・・・それが結論だとわたしは、思う・・・」
と、水谷さんは、最後まで言い切ります。
河合くんは、あまりの結論に、言葉を出すことが出来ません。
「水谷さん・・・それは真理らしいけど・・・ちょっとお灸がきつすぎるんじゃない?」
と、僕が苦笑すると、
「あ、ごめん・・・最近の若い子って、ほんと自分で考えることしないでしょ?だから、つまらないのよ。おしゃべりしてもどっかで聞いた話をへーきでしてくる・・・」
と、水谷さんは不満顔です。
「あー、ウィキとか掲示板に書いてあることとか、見て話しているんだろうねーあれ。確かにそんな人間と話してもおもしろくもなんともないね」
と、僕も水谷さんに同意します。
「まあ、趣味が同じで、「こんな情報があったけど、知ってますか?」くらいの話なら楽しく話せるけど・・・受け売りの話をさも自分で考えたかのように話されるとねー」
と、僕も少しため息です。
「あのね、それはまだいいんだけど、わたしも最近憤慨していて・・・」
と、水谷さんは、同じことを考えている僕に盛り上がったのか、
「ネットにいる人間って、更にひどくて、ひとを否定することしか、出来ないの。もう、ほんと、最低よね。自分の頭を使えないのよ」
と、更に憤慨する水谷さんです。
「あ、水谷さん、ネットやってて、炎上とかしたんでしょ?だから、怒ってる?」
と、僕が言うと、
「まあ、そういうこと。ゆるちょさんも、ブロクやってるから、私の言いたいこと、わかってくれるでしょう?」
と、水谷さんは気がついたように僕に話します。
「まあね。僕も、最初は真面目に相手してたけど、時間の無駄だと気づいて、最近は、自分の言葉で話してくれるひとだけ、相手にしているかなー」
と、僕も素直に話します。
「そうなのよねー。自分で考えて、自分の言葉で話せるひとって、案外少ないのよー。それが不満かなー。リアルライフでもね」
と、水谷さんは、リアルライフの話に切り替えます。
「それは俺もそう思うなー。なんかどっかの受け売りしか話せないひとっているじゃない?自分の言葉を持ってない人」
と、僕が言うと、
「そうそう。オトナでもそういうひと結構いるのよねー。人生真面目に考えていたら、いくらでも考えること、あるっていうのに・・・ねー」
と、そこは同意してくれる水谷さんです。
「ただ毎日に流されて、何も自分で考えずに、生きているひとって、わたし大嫌い」
と、水谷さんは、ぐいっと水割を飲みほします。
「で、わかった?今の話?」
と、水谷さんは、あまりの言葉に固まっている、かわいい後輩、河合くんに話しかけます。
「俺・・・人生楽して生きようと思ってたんです。でも、それって、すぐに見ぬかれちゃうんですね」
と、河合くんはしょんぼりした感じで、ビールを飲んでいます。
「まあ、いいじゃない?自分の駄目な部分がわかったわけだから、これから、直していけばいい。そうすりゃ、自然とモテるようになるさ。あのひと、話がおもしろいってね」
と、僕がフォローすると、
「そうそう。その若さで、大事な生き方がわかったんなら、大成功だとわたしは、思うな。まだまだ、やり直せるわよ」
と、姉御な雰囲気を出す水谷さんは、
「マスター、水割お代わり!」
と、豪快な感じになっています。
「人生って、簡単じゃないんですね」
と、小さな声で河合くんは、つぶやきます。
「でも、水谷さんみたいに、ここまで言ってくれるひとって、なかなかいないと思うよ。そういう意味では、河合くんは、しあわせ者だよ」
と、僕は河合くんと水谷さんをフォローします。
「普通のオトナは、リスクをとらないものさ。だから、河合くんも周りの反応に気づかなかったんだろ?」
と、僕が言うと、河合くんはコクリとします。
「そこを水谷さんは、河合くんに恨まれるのも承知で、言うべきことを言って、目を覚まさせようとしてくれたんだから、河合くんは、ありがたく思わなくっちゃ」
と、僕が言うと、
「そうか・・・僕を嫌いだったわけじゃないんですね、水谷先輩」
と、河合くんは目を覚ましたように、少し潤んだ目で、水谷さんを見ます。
「ま、そういうこと」
と、早速水割を飲み干す姉御な水谷さんです。
「しかしさー、逆に言えば、人生ってのは、真理さえわかれば、こんなに楽しいモノはないよ。わかりあえる素晴らしさ程、楽しいモノはない」
と、僕が言うと、
「そうね。分かり合えるって、ほんとに、素晴らしいわ」
と、水割を飲みながら、水谷さんも、少しムスっとしながら、つぶやくのでした。
都会の夜は、更に更けるのでした。
ある都内の飲み屋さんでの話です。
24歳の男性編集者、河合くんと、31歳の女性編集者水谷さんと、僕、という感じで飲んでいました。
「あのー、今日はちょっと真面目に聞きたいんですけど、僕、全然モテないんですけど、どこが駄目なんですかねー?」
と、河合くんは少し酔いながら、素直な質問をしてきます。
「うーん、まず、そういう質問をひとにしちゃうところが問題なんじゃない?」
と、割りと熱い女性、水谷さんは、素直に言います。
「え、なんでですか?経験の多いひとに質問することは、正解に早く出会える近道だと思うんですけど」
と、河合くんも素直に話します。
「なんていうのかなー。最近の男の子って、プライドとか、ないの?自分で考えて答えを出そうとしないの?」
と、水谷さんが言うと、
「プライドなんて言っている場合じゃないですよ。プライドより答えを貰う方が自分の人生に有利だし、そう思いませんか?」
と、河合くんも素直に話します。
「あのねー、なんで話の前半しか聞かないの?わたしが聞きたいのは、なぜ、自分で答えを出さないか、その努力をしてから聞くものでしょって、こと!」
と、少しキレ気味な水谷さんです。
僕はその二人のやりとりを聞きながら、少し苦笑して、ビールを飲みます。
「ゆるちょさんも笑ってばかりいないで、話に乗ってくださいよ。まるで、僕だけが、悪者みたいで・・・」
と、僕に助けを求める河合くんです。
「いやあ、二人共、本音で話し合っているから、聞いてておもしろいよ」
と、僕が笑うと、
「そうですか?なんか、僕が悪者になってますよ、これ」
と、少々不満顔な河合くんです。
「でもさー、まず、自分より上の年齢の人間の言うことも、聞いてみるもんだと思うよ。実際、水谷さんも、いろいろ経験しているから、河合くんに、よかれと思って言ってるんだし」
と、僕が水谷さんの方を見ながら話すと、
「そうよ。わたしだって、何もかわいい後輩を悪者にして、いじめようとしているわけじゃないもの。ただ・・・」
と、水谷さんは、僕と河合くんを見ながら話します。
「ただ?」
と河合くんが先を聞きたがります。
「河合くんを見るといつも思うんだけど、何かひとより知識が多ければ、人生うまくいくみたいに思ってない?」
と、水谷さんは、割りとマジに話してきます。
「え?でも、そうじゃないんですか?人生の真理を知っていれば、知っているほど、人生楽に生きていけるんじゃないですか?」
と、河合くんは、自分の心理のツボを話します。
「でしょう?そこが河合くんの弱点っていうか、甘いところなのよねー」
と、水谷さんは、本気でダメだしをしています。
「ねえ、ゆるちょさんも、そう思いませんか?」
と、水谷さんは、僕に同意を求めます。
「そうだねー。プロセスを省いて知識を得ても・・・というか、この場合、知恵を獲得しても、と言うべきだけど、そこに意味はないしね」
と、僕が言うと、
「は?お二人の言っている意味が、まったくわかりませんが・・・」
と、サル状態に突入する河合くんです。まるで、それが正しいことのように、河合くんは主張しています。
「例えば、ここで、水谷さんなり、僕なりが、河合くんがモテるようになるには、こうすれば、と言ったとしよう」
と、僕が言います。
「でも、それは、自分で努力して獲得した知識じゃないだろ?安易に僕らから聞いた情報に過ぎない」
と、僕は言います。
「例えば、「その安っぽい服装をどうにかした方がいい。センスのいい服を着るようにした方がいい」と言ったら、君はどうする?」
と、僕が聞きます。
「えー・・・「センスのいい服って、どういう服ですか?やっぱり、ブランドモノですかね?」って、質問します」
と、河合くんは言います。
「それに対して、「まあ、それが無難だな」って僕が言ったら、河合くんはどうするの?」
と、僕が聞くと、
「そりゃあ、自分の手に入る、ブランド品を買いあさります」
と、河合くんは答えます。
「だろ・・・でも、ブランド品を買いあさったところで、河合くんは、モテないままだ・・・なぜだか、わかる?」
と、僕が聞くと、
「いや・・・え?なぜモテないんです?だって、言われた通りにしたんですよ?」
と、河合くんは、軽いパニックになって、話します。
「河合くんは言われたままにやるから、途中で大事な情報が抜け落ちちゃうんだよ。僕は途中で、「センスのいい服を着るようにした方がいい」って言ったね」
と、僕が言うと、
「あ、そうですね」
と、河合くんが答えます。
「なのに、河合くんのやっていることは、ただブランド品を買いあさり、それを着ているだけ。女性はその河合くんをどう見るかな?」
と、僕が聞きます。
「え?センスのいい服着ていてかっこいい・・・って、見てくれませんか?」
と、河合くんが言います。
「水谷さん、そういう彼をどう見ます?女性としては」
と、僕が静かにやりとりを見守っていた水谷さんに聞きます。
「そうね。ファション雑誌を鵜呑みにしている、センスのない、自分でモノを考えない男子・・・そう見ますね」
と、水谷さんは、ズバリ言い抜きます。
「え・・・」
と、河合くんは、目が点になりますが、
「だって、女性はいつもファッションのことを考えている、ファッションのプロなのよ。センスがあるか、ないかを誰よりもいち早く見抜くわ」
と、水谷さんは、誇らしげに言います。
「つまり、「センスのいい服を着るようにした方がいい」っていう言葉には、プロセスが入っているんだよ。自分を磨いて、センスを磨けって、そういうプロセスが」
と、僕が言います。
「たーだ、ブランド品を着ているひとは、センスなんか磨いてないってことがわかっちゃって、逆効果なんだよ。プロの目から見れば」
と、僕は続けます。
「例えば、あるブランドばかり着ている人っているじゃない。アルマーニだったら、アルマーニとかさ。そういうひとは、アルマーニというブランドに固執しているに過ぎない」
と、僕が言います。
「でも、センスのいい人間は、デザイン重視になるはずだ。だって、女性は見たものに最大限説得される動物なんだから、見た感じに説得される」
と、僕は言います。
「であるなら、女性と同じ目で、デザインを感じられるようになることが、必須になってくる」
と、僕は言います。
「女性が「この服、センスいいわ・・・こういう服を選ぶセンスをこのひとは持っているのね・・・ちょっとひととは違うわ、このひと」とそう思わせなければいけないんだ」
と、僕が言うと、
「そうね。そういう男性に女性は弱いわ・・・ファッションセンスのある男性って少ないし、やっぱりそういう男性は女性にとって、宝物みたいなモノだもん」
と、水谷さんが、少し頬を染めながら、話します。
「そういうひとに、女性は惚れるのよ・・・」
と、水谷さんは結論づけます。
「だから、何事も自分でやってみて、考えてみて、自分なりのセンスを磨いていく・・・人生はそういうところから真理が生まれてくるものなの」
と、水谷さんは、しっかりと説明してくれます。
「河合くんみたいに、いつもおいしい情報だけをとろうとする人間は、なかなか成長しない。だから、河合くんは、モテないのよ」
と、手厳しいことを普通に言う水谷さんです。
「ひとから、おいしい情報だけ貰っているから、中身がスカスカなのよ。だから、話していても、ひとの受け売りだけで、中身がない。だから、つまらない」
と、水谷さんは更に手厳しく指摘します。
「あの本には、こう書いてあった。あのテレビ番組でこんなことを言っていた・・・そんな情報は、ただの話の始まりに過ぎないの」
と、水谷さんは、真理を言おうとしています。
「そんな情報、知っていて当たり前・・・そこから、自分なりに考えて、自分なりの言葉を出すことが必要なのよ。それが出来て初めて一人前なのよ」
と、水谷さんは、本物とは、何かについて話しています。
「河合くんは、ネットでいろいろ調べて、言葉を出せる、自分は事情通だ、俺は人とは違うんだ・・・みたいな勘違いをしているようだけど・・・」
と、水谷さんは、新たな攻撃をしかける前哨戦をやっているようです。
「河合くんは、なんか、いつも、皆が知っているような話を、さも俺頭いいでしょ的に話すわよねー」
と、水谷さんは、河合くんを追い詰めていきます。
「でもね、はっきり言って、皆、「また始まったよー」的にあなたを見ているのよ!」
と、水谷さんは、彼の知らない事実を理解させようとしているみたいです。
「あなたは、皆から、馬鹿にされているのよ。話を右から左に渡しているだけで、自分の考えの全く無い奴だって・・・それわかってる?」
と、水谷さんは、すごい事実を河合くんに突きつけています。
「河合くん、言っておくけど、ネットのどこかに書いてあったような情報や、受け売りの情報を話されたって、そこには何の意味もないの!」
と、水谷さんは、手厳しく話します。
「だって、そんなこと、誰だってネットをちょっとでも見れば、わかることだもの。そんなこと、誰でも、出来ることだし、その情報には、最早価値はないの」
と、水谷さんは、厳しい現実を話します。
「つまり、そんな情報をひけらかす、河合くんには、最早、意味がないわけ。そんな情報をひけらかしたって、なんの意味もないの」
と、水谷さんは、さらに追い込みます。
「そこから思考して、河合くんなりの言葉が出てこなければ、あなたと、おしゃべりする意味がない、と皆感じているのよ!」
と、水谷さんは会社を代表して、河合くんに事実を話しています。
「つまり、皆、あなたの存在に意味がない、と感じているということなのよ!」
と、水谷さんは、結論を河合くんに叩きつけます。
「だから、河合くんは、つまらないし、モテない・・・それが結論だとわたしは、思う・・・」
と、水谷さんは、最後まで言い切ります。
河合くんは、あまりの結論に、言葉を出すことが出来ません。
「水谷さん・・・それは真理らしいけど・・・ちょっとお灸がきつすぎるんじゃない?」
と、僕が苦笑すると、
「あ、ごめん・・・最近の若い子って、ほんと自分で考えることしないでしょ?だから、つまらないのよ。おしゃべりしてもどっかで聞いた話をへーきでしてくる・・・」
と、水谷さんは不満顔です。
「あー、ウィキとか掲示板に書いてあることとか、見て話しているんだろうねーあれ。確かにそんな人間と話してもおもしろくもなんともないね」
と、僕も水谷さんに同意します。
「まあ、趣味が同じで、「こんな情報があったけど、知ってますか?」くらいの話なら楽しく話せるけど・・・受け売りの話をさも自分で考えたかのように話されるとねー」
と、僕も少しため息です。
「あのね、それはまだいいんだけど、わたしも最近憤慨していて・・・」
と、水谷さんは、同じことを考えている僕に盛り上がったのか、
「ネットにいる人間って、更にひどくて、ひとを否定することしか、出来ないの。もう、ほんと、最低よね。自分の頭を使えないのよ」
と、更に憤慨する水谷さんです。
「あ、水谷さん、ネットやってて、炎上とかしたんでしょ?だから、怒ってる?」
と、僕が言うと、
「まあ、そういうこと。ゆるちょさんも、ブロクやってるから、私の言いたいこと、わかってくれるでしょう?」
と、水谷さんは気がついたように僕に話します。
「まあね。僕も、最初は真面目に相手してたけど、時間の無駄だと気づいて、最近は、自分の言葉で話してくれるひとだけ、相手にしているかなー」
と、僕も素直に話します。
「そうなのよねー。自分で考えて、自分の言葉で話せるひとって、案外少ないのよー。それが不満かなー。リアルライフでもね」
と、水谷さんは、リアルライフの話に切り替えます。
「それは俺もそう思うなー。なんかどっかの受け売りしか話せないひとっているじゃない?自分の言葉を持ってない人」
と、僕が言うと、
「そうそう。オトナでもそういうひと結構いるのよねー。人生真面目に考えていたら、いくらでも考えること、あるっていうのに・・・ねー」
と、そこは同意してくれる水谷さんです。
「ただ毎日に流されて、何も自分で考えずに、生きているひとって、わたし大嫌い」
と、水谷さんは、ぐいっと水割を飲みほします。
「で、わかった?今の話?」
と、水谷さんは、あまりの言葉に固まっている、かわいい後輩、河合くんに話しかけます。
「俺・・・人生楽して生きようと思ってたんです。でも、それって、すぐに見ぬかれちゃうんですね」
と、河合くんはしょんぼりした感じで、ビールを飲んでいます。
「まあ、いいじゃない?自分の駄目な部分がわかったわけだから、これから、直していけばいい。そうすりゃ、自然とモテるようになるさ。あのひと、話がおもしろいってね」
と、僕がフォローすると、
「そうそう。その若さで、大事な生き方がわかったんなら、大成功だとわたしは、思うな。まだまだ、やり直せるわよ」
と、姉御な雰囲気を出す水谷さんは、
「マスター、水割お代わり!」
と、豪快な感じになっています。
「人生って、簡単じゃないんですね」
と、小さな声で河合くんは、つぶやきます。
「でも、水谷さんみたいに、ここまで言ってくれるひとって、なかなかいないと思うよ。そういう意味では、河合くんは、しあわせ者だよ」
と、僕は河合くんと水谷さんをフォローします。
「普通のオトナは、リスクをとらないものさ。だから、河合くんも周りの反応に気づかなかったんだろ?」
と、僕が言うと、河合くんはコクリとします。
「そこを水谷さんは、河合くんに恨まれるのも承知で、言うべきことを言って、目を覚まさせようとしてくれたんだから、河合くんは、ありがたく思わなくっちゃ」
と、僕が言うと、
「そうか・・・僕を嫌いだったわけじゃないんですね、水谷先輩」
と、河合くんは目を覚ましたように、少し潤んだ目で、水谷さんを見ます。
「ま、そういうこと」
と、早速水割を飲み干す姉御な水谷さんです。
「しかしさー、逆に言えば、人生ってのは、真理さえわかれば、こんなに楽しいモノはないよ。わかりあえる素晴らしさ程、楽しいモノはない」
と、僕が言うと、
「そうね。分かり合えるって、ほんとに、素晴らしいわ」
と、水割を飲みながら、水谷さんも、少しムスっとしながら、つぶやくのでした。
都会の夜は、更に更けるのでした。