災害に襲われ、林立する高層マンションは次々に崩れ去り、以前とは全く違った姿を露呈する韓国の首都ソウル。
そんな中、奇跡的に倒れなかった皇宮マンションには近隣の住民が逃げ込み統制が取れない状況になる。緊急事態に対応すべく住民が集まった場で、看護師の妻ミョンファと住む公務員ミンソンの「緊急事態には指揮命令をキチンとすべき」という一言から、マンションの9階に住むという男性ヨンタクが住民代表に選ばれるのだ。
突然の火災を身を挺して鎮火させた事で一目置かれる存在となった彼は、多数決で決められないトラブルは自ら行動し、住民たちに食料や水を分け与える事で少しずつマンションの中で主導権を握りだすのだ。
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当初はどこか自信なさげだったヨンタクが、住民たちの感謝の言葉を聞き、あっという間にそのまなざしと表情が一変する所からストーリーが劇的に変化していく。ヨンタクの行動をさりげなくしかし確実に後押しする住民女性(演:キム・ソニョン)の存在も見逃せない。彼女のちょっとした声掛けや行動がヨンタクに自信を持たせ、その自信が「マンションの住民を守るべく行動する」という彼の行動すべてを肯定する流れになっていくのだ。平時なら違法行為とされることも、安全の為という免罪符の為、すべて容認されるようになるのだ。歯止めが無くなり次第に恐怖政治的な様相を帯びてくるヨンタクの行動。
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地震という言葉は出てこないものの、令和6年のお正月という今、地震被害を連想し突然の災害時にどのように行動しなければならないのかという事を考えざるを得ない。
ただソウルを襲った大災害の正体についてははっきりと語られていない為、その後は居場所を守るべく始まった争いについて強く考える事になる。同時に、自分の居場所が有る者が居場所のない人々に対してどのように対峙すべきなのか、居場所があれば起きなかった様々なトラブルの中で人はどのように行動すればいいのか、究極の選択を迫られる事について考える事になる。これは、ロシアの侵攻に苦しくウクライナの状況や、イスラエルとハマスの戦闘で住む場所を追われる人々姿を思い出す事になる。
イ・ビョンホン演じるヨンタクがマンション内の主導権を握っていく様子が恐ろしい程自然で、非常に狂気じみている。ヨンタク自身は、何も持っていないはずなのに、潮目にのって群集心理を操れた事で、どんどんと自信過剰になっていく様が一番恐ろしいとも言える。