Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

魔法の言葉

2016-06-14 01:00:00 | 雪3年4部(虚勢の裏側~魔法の言葉)


ガタンゴトンと、地下鉄の揺れが二人を心地良く揺らしている。

何をするでもない時間だけれど、多忙な二人にとっては一緒に過ごせる貴重な時だった。



雪は添えられた淳の手に、一度自身の手を被せて大きさを比べてみた。

その大きさの違いに声を上げる雪と、穏やかに微笑む淳。

今度は足を比べてみよう、と下を向く雪。

「足はどうです?」「俺が踏んだら折れちゃうよ、雪ちゃんの足」



雪はニッと笑ったかと思うと、鞄からペンを一本取り出した。

包帯で巻かれた彼の右手を取り、ペンのキャップを外す。



雪はクスクスと笑いながら、そこに一言「バカ」と書いた。

「何で俺がー」



膨れる彼と、声を上げて笑う彼女。

他愛もないそんな恋人達の会話が、地下鉄のゴトンゴトンという音に混じって消えて行く。



穏やかで、それでいてかけがえのないこの時の中で、不意に淳が口を開いた。

「なんか不思議」



「いつも車だったから、雪ちゃんとこんな風に地下鉄乗るの初めてだよね。

どうしてこんなに惜しく感じられるんだろう」




淳はそう言って、視線をぼんやりと漂わす。

揺れる地下鉄の中で、このゆっくりと流れて行く時間に身を任せて。



「俺はもうインターンで、雪ちゃんは試験勉強で、

お互いいつも忙しいだろう」




「いつの間にか冬が近付いて寒くなって、

二人で一緒に良い季節のキャンパスを歩けた時間って、本当に短かったよな」




秋学期が始まった頃の二人が、懐かしく思い出された。

淳はぼんやりとその頃のことを思い浮かべながら、時の流れの早さを憂う。

「どうしてもっと前からこう出来なかったんだろう」



「どうして」








地下鉄のクラクションが、トンネルに反響してパァンと響いた。

時も、地下鉄も、ただ一方通行に走り続けている。



決して戻ることの出来ない道の上で、この世の全ての人が歩みを続けている。

誰もがそれぞれの人生の主人公だが、そこに何一つ平等性は無い。



ただ一つの平等があるとしたら、それはやはり時だった。

時間は誰の身の上にも等しく、同じリズムで時を刻み続ける。



いかに時間が刹那的で大切なものなのか、人はその最中に居ると気付かない。

地下鉄の揺れに身を任せている大多数の人の様に、ただなんとなく日々を過ごし、

そして過ぎて行った後で、悔やんだり切なくなったりするものだ。



時の中で大事なものを見失って来た、淳もまたそんな大多数の人間の一人に過ぎない。

彼は雪の方へゆっくりと顔を向け、自身の思いを語った。

「最近はずっとそんなことばかり考えてるよ。

俺も雪ちゃんと同じなんじゃないかな」




「便利だからって車ばっかり乗らないで、

一緒に電車に乗って一緒に沢山歩けたはずなのに」




淳はそこまで言った後、雪から視線を外して前を向いた。

まるで過去の自分を憂うかのように、遠くを見つめて一人呟く。

「いや、」



「最初からもっと優しく出来てたら‥」



淳の後悔が、地下鉄の走行音に飲み込まれ、消えて行く。

時はもう戻らない。

一方通行に進むこの道の上では、決して後戻りは出来ないのだ‥。



淳は自身の右手を上に上げた。

先ほど雪がふざけて落書きした、「バカ」という言葉が目に入る。



「バカだよな」



そう言って微かに笑う淳。

溢れ出す寂しさと後悔と、もう時は戻らないという無情の念‥。



ふわりと、雪の手が伸びた。

音も無くたおやかに、彼女の手が彼の髪に触れる。







雪は淳のことをじっと見つめながら、優しくその頭を撫でた。

淳は目を丸くしながら、ゆっくりと彼女の方を向く。



そこには、穏やかな顔で微笑んでいる雪が居た。

彼女は彼の抱える全ての感情を受け入れ、癒やし、優しく撫でる。



雪は少し照れ臭そうに肩を竦めると、彼に向かってこう言った。

「電車に乗ってても、大したことはしてませんよ。

常に勉強してたりウトウトしてたりで」




「だから今日はすごく嬉しかったです」



彼にとっての非日常は、彼女にとっては日常の一片。

その逆も又然りだろう。

雪は彼が抱える思いを出来るだけ軽くする、この上なく前向きな言葉を口にする。

「手はすぐに良くなるし、春はまたすぐ来るじゃないですか」

 

「だからそんなに心配しないで、いつもみたいに、」



そして雪は、彼に向かってこう言った。

それはかつて彼からもらった、とっておきの魔法の言葉ー‥。

「笑顔でいて下さい。私と一緒に」







「笑顔でいてね」









淳は笑った。

かつて彼女へ伝えたそのエールと、”私と一緒に”という彼女のその言葉が、

淳の心をまるごと包み込む。



温かで華奢な彼女の手が、淳の肩にそっと置かれた。

地下鉄は、二人を乗せて進み続ける。



ガタン ゴトン ガタン ゴトン‥



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<魔法の言葉>でした。

今回はこの曲から題名取りました。好きすぎる‥



「ウッコダニョ(笑顔でいてね)」がここで出てくるとは!(日本語版は「笑顔忘れずにね」でしたか‥)

二人だけには分かる、魔法の言葉‥。(いや厳密に言えば秀紀兄発だけど‥)

「笑顔でいた」過去と「私と一緒に」という未来が、淳に肯定と希望を与えてくれているんですよね。

なんだか感慨深いです‥じーん


4部37話はここで終わりです。

では!


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