Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

一件落着

2016-06-18 01:00:00 | 雪3年4部(女狐と熊〜互いの問題点)
翌朝。雪は一人キャンパス内を歩いている。



道の先に、見覚えのある人物の姿が目に入った。

糸井直美である。



直美は参考書に目を落しながら歩いていたが、



雪の視線に気付いたのか不意に顔を上げると、

思わずビクッと身を強張らした。



クルッ



タタタ、と小走りで駆け出す直美。

雪はその場に佇みながら、じっと彼女のそんな姿を見つめていた。



直美さん‥



夜間授業に移ったって聞いた‥最近見ないもんな



過去問盗難事件で居場所が無くなった直美は、あれ以来ひっそりと姿を消した。

真実を知りたくて組み敷いた意図がもたらした現実に、雪は複雑な気持ちになる‥。

「‥‥‥‥」












聡美の耳には、あのピアスが光っていた。

「あたし‥もう‥」



「これ以上喧嘩したくない」



「これ以上泣きたくもないよ‥!」



涙をポロポロ流しながら、彼女は恋人に想いを語っているのだ。

雪と萌菜は彼らの狭間に立ちながら、その一部始終を見守っている。

「太一もあたしのこと長い間待ってくれたから、

残ってる僅かな時間楽しく過ごして、送り出してあげる」




「だから‥」



「待ってるよ、太一」



涙で頬を濡らしながらも、聡美は気丈にそう言い切った。

彼女の下したその結論に、太一は思わず涙腺崩壊だ。

「身体‥気をつけてね‥!」「聡美さん‥っ!」




(エンダーァァァァァァ!!!のBGMでお楽しみ下さい)



「聡美さぁんっ‥!!」「太一ぃぃぃぃ〜!!」



盛り上がるカップルの隣で、雪と萌菜は彼らの愛に拍手を送った。

「本当に感動的ね?私泣くの苦手だけどアレ?目から汗が‥

「ははは‥」



紆余曲折あったが、聡美と太一はようやくハッピーエンドへの道を歩むことにしたようだ。

そして気になる<ピアス事件の顛末>は‥。

「よぉ太一、何見てんの?」「チワす」



実はこの眼鏡の男性こそ、萌菜の言うところの「気になる人」なのであった。

彼は同じ職場で働くカメラマンだ。

「これプレゼントしようと思ってんですヨネ」「おっ」



カメラマンは太一の携帯に表示されたピアスをいたく気に入り、

二人とも同じサイトで買ったとのことじゃ。(昔話風)

「買っちゃお!」「送料安く済んだッス!」「ちょ‥何そのノリ‥ガクブル」



〜完〜

こうしてピアス事件は一件落着、聡美と太一もハッピーエンドだ。

萌菜はニッコリと笑う。

「それじゃ‥謝ったことだし‥」



「私はこれで失礼‥」



そう言ってこの場を去ろうとする萌菜を、雪はガシッと引き止めた。

「メシおごれ。高いやつ」



「あんなおふざけやっといてごめんの一言で済むと思ってんの?」

「ひぃぃぃ!」「聡美さーん!」「太一ぃぃ!うおーん!」



萌菜はひぃぃと叫びながら涙を流すが、雪は萌菜を離そうとしない。

聡美と太一はおんおん泣き続け、初冬の空にそれぞれの声が響いたのだった‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<一件落着>でした。

ここでの聡美&太一のセリフ‥↓

「なぜ空は君を‥」「俺死んでませんヨ」



ですが、「なぜ空は君を」はこの曲の歌詞ですかね?



歌詞からすると大切な人が亡くなって悲しみに暮れるバラード‥という感じでしょうか。

お詳しい方、教えて下さいー!


次回は<甘言>です。

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女狐と熊

2016-06-17 01:00:00 | 雪3年4部(女狐と熊〜互いの問題点)
雪はオドロオドロしい形相で、友人の名を口にした。

「も・え・なぁぁぁ?」



その低くドスの利いた声に、通話先の萌菜は狼狽する。

「いやいやいやいや!」



雪は聡美と太一の間で面白がって関係をこじらせた萌菜に、怒っているのである。

「なんでそんな余計なことすんのよ?!」

「だってさぁ‥あの子たちがお互いチラチラ意識し合ってんのが微笑ましくてつい‥」









聡美が撮影現場に見学に来た折、萌菜は太一を意識する聡美を見て、

つい意地悪の虫が騒ぎ出してしまったと言う。

それでも後日太一の幸せを願って涙を流した聡美のことが、気になって仕方が無かったらしい。




「二人共電話掛けても出ないし、よりによって私もその時仕事がトラブっちゃってさぁ。

この件が無くても一回大学行こうと思ってたよ」




萌菜の弁解を聞いた雪は、ふぅっと大きく息を吐いた。

「ま、それでも二人が上手く行くことになって良かったけどさ」「おお、そう?」

「てか太一が軍隊行く話って聞いた?」

「え?マジで?うわー大変。いきなり遠距離恋愛かー」



終わり良ければ全て良し、で雪はこれ以上親友を責めるのは止めにした。

久しぶりの世間話は続き、話題は柳瀬健太の過去問盗難事件についてへと移行する。



雪の口からその顛末を聞いた萌菜は、呆れ返って声を上げた。

「うーわマジか!健太って人リアルにそんな痛い男なんだ?

ところで雪、アンタがそこまでやるとは予想外なんだけど!」


「なんで?私だって怒る時は怒るよ。あの人には相当我慢させられて来たし」



「まさかアンタが学科長の名前まで出して周りの人達まで巻き込むとはね。超意外だよ!」



通話先の萌菜は嬉しそうに、雪のその変化について言葉を続ける。

「女狐のように小狡く生きる、出来てんじゃん雪!お姉様は嬉しいわ」

「何言ってんのよ」



”狐のようにしなやかに、そして時に小狡く”

それは萌菜が度々雪に対して口にするフレーズだった。



彼女は言葉を続ける。

「それでも”熊女”よりは良くない?

高校生の頃のこと、思い出してみなよ」




”熊女”という比喩は、全部飲み込んで溜め込んで、我慢を重ねる鈍臭い女を表しているらしい。

高校時代その”熊女”だったという雪について、萌菜はあの頃の彼女をこう語る。

「見て見ぬフリ、やられてもやられてないフリ、

腹が立ってもただひたすらに我慢して、最後には結局手の平返すみたいにして絶交したじゃん?ヨーコ覚えてる?杉田陽子




雪の脳裏に杉田陽子という同級生の姿が浮かんだ。

我慢に我慢を重ねて、遂には関係を断った雪的黒歴史のかつての友人‥。

「アンタって忍耐強いけど、人を見切る時は恐いくらいスパッと切るじゃん。

ヨーコが天狗状態だった時、結局アンタあの子をスルーし続けたでしょ?ヨーコにとってはそれが屈辱だったのよ。

普段何も言わなかったくせに突然絶交なんてどうしてって、結局アンタのこと恨んで終わりになったけどさ」




大人しいヤツが実は一番怖い、と言って萌菜は笑った。

愚鈍で不器用なこの親友を、萌菜はずっと気に掛けて来たのである。

「女狐みたいに小狡く生きろって、

私あの時もそう言ってたじゃんか」




高校時代の自分を思い出し、思わず雪は「うぅむ、」と低く唸った。

萌菜はそれ以上ヨーコのことには触れず、代わりにとある話題を口に出す。

「てか私だって無駄に蒸し返してるわけじゃなくて‥。

高校時代の友と言えばさ、最近変な話を聞いたんだけど、アンタ知ってる?」
「?」



疑問符を浮かべた雪の耳に入って来たのは、予想外とも言える彼の話題だった。

「アンタが御曹司だか何だかと付き合ってるって聞いて、

皆突然アンタと連絡取りたがって、合コンセッティングして欲しいみたいな流れになってんだけど」


「はぁぁ?なんで私がぁ?」



「いや‥てかどうしてそれを‥」

「ゆりっぺが話広めてるみたいだけど、アンタあの子と何かあった?」

「ゆりがぁ?」



その名前を口に出した時、雪の脳裏に瞬時に記憶が蘇った。

この前皆で集まった時、偶然顔を合わせたゆりの彼氏と、青田淳とのやりとりが。

「あ」



雪は頭を抱えこみながら、ナンテコッタと項垂れる。

「とりあえず私が間に入って流しといたけど、もしかしたら次の集まりはアンタ色々大変かもね」



「覚悟はしとくんだよ。分かった?」「もー集まり行かないもん!」

「そーしなww」「おやすみ!」「おやすみー」



雪は若干やけっぱちになりながら、萌菜におやすみの挨拶をして電話を切った。

信じられない思いを抱えながら、仰向けに寝転がる。

「はぁ?何なの?はぁぁ?」



自分は何もしていなくても、時に理不尽に追い詰められるこの窮屈な現実。

以前似たようなケースに陥った時に聞いた、彼の言葉が鼓膜の裏で再生される。

「生きている以上仕方がないんだよ。自分が賢くなるしかないんだ」



「打ち勝つには、誰より毅然と賢明にね」



まるで狐のようにしなやかに生きて行く彼の語る理想論が、白い天井に淡くぼやける。

今の自身は、高校時代の「我慢を重ねて全部飲み込む熊女」から脱却出来ているんだろうか‥?



先ほど聞いた萌菜の言葉が、いやに胸を刺す気がした。

雪は一人、その言葉を口に出す。

「見て見ぬフリ、やられても、」



「やられてないフリ‥」



結局それが、しっくりくる気がした。

雪は重たい胸の内を持て余しながら、白い天井をいつまでも見上げていた‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<女狐と熊>でした。

今回は動物が沢山出て来ましたね。

狐は「小狡い、卑怯、人を化かす」といったイメージ、反対に熊は「愚鈍、不器用」なイメージで語られてます。

一気に熊から狐へ変化するのは難しいでしょうね。人は簡単には変わらない生き物ですものね‥。


次回は<一件落着>です〜。

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魔法の言葉

2016-06-14 01:00:00 | 雪3年4部(虚勢の裏側~魔法の言葉)


ガタンゴトンと、地下鉄の揺れが二人を心地良く揺らしている。

何をするでもない時間だけれど、多忙な二人にとっては一緒に過ごせる貴重な時だった。



雪は添えられた淳の手に、一度自身の手を被せて大きさを比べてみた。

その大きさの違いに声を上げる雪と、穏やかに微笑む淳。

今度は足を比べてみよう、と下を向く雪。

「足はどうです?」「俺が踏んだら折れちゃうよ、雪ちゃんの足」



雪はニッと笑ったかと思うと、鞄からペンを一本取り出した。

包帯で巻かれた彼の右手を取り、ペンのキャップを外す。



雪はクスクスと笑いながら、そこに一言「バカ」と書いた。

「何で俺がー」



膨れる彼と、声を上げて笑う彼女。

他愛もないそんな恋人達の会話が、地下鉄のゴトンゴトンという音に混じって消えて行く。



穏やかで、それでいてかけがえのないこの時の中で、不意に淳が口を開いた。

「なんか不思議」



「いつも車だったから、雪ちゃんとこんな風に地下鉄乗るの初めてだよね。

どうしてこんなに惜しく感じられるんだろう」




淳はそう言って、視線をぼんやりと漂わす。

揺れる地下鉄の中で、このゆっくりと流れて行く時間に身を任せて。



「俺はもうインターンで、雪ちゃんは試験勉強で、

お互いいつも忙しいだろう」




「いつの間にか冬が近付いて寒くなって、

二人で一緒に良い季節のキャンパスを歩けた時間って、本当に短かったよな」




秋学期が始まった頃の二人が、懐かしく思い出された。

淳はぼんやりとその頃のことを思い浮かべながら、時の流れの早さを憂う。

「どうしてもっと前からこう出来なかったんだろう」



「どうして」








地下鉄のクラクションが、トンネルに反響してパァンと響いた。

時も、地下鉄も、ただ一方通行に走り続けている。



決して戻ることの出来ない道の上で、この世の全ての人が歩みを続けている。

誰もがそれぞれの人生の主人公だが、そこに何一つ平等性は無い。



ただ一つの平等があるとしたら、それはやはり時だった。

時間は誰の身の上にも等しく、同じリズムで時を刻み続ける。



いかに時間が刹那的で大切なものなのか、人はその最中に居ると気付かない。

地下鉄の揺れに身を任せている大多数の人の様に、ただなんとなく日々を過ごし、

そして過ぎて行った後で、悔やんだり切なくなったりするものだ。



時の中で大事なものを見失って来た、淳もまたそんな大多数の人間の一人に過ぎない。

彼は雪の方へゆっくりと顔を向け、自身の思いを語った。

「最近はずっとそんなことばかり考えてるよ。

俺も雪ちゃんと同じなんじゃないかな」




「便利だからって車ばっかり乗らないで、

一緒に電車に乗って一緒に沢山歩けたはずなのに」




淳はそこまで言った後、雪から視線を外して前を向いた。

まるで過去の自分を憂うかのように、遠くを見つめて一人呟く。

「いや、」



「最初からもっと優しく出来てたら‥」



淳の後悔が、地下鉄の走行音に飲み込まれ、消えて行く。

時はもう戻らない。

一方通行に進むこの道の上では、決して後戻りは出来ないのだ‥。



淳は自身の右手を上に上げた。

先ほど雪がふざけて落書きした、「バカ」という言葉が目に入る。



「バカだよな」



そう言って微かに笑う淳。

溢れ出す寂しさと後悔と、もう時は戻らないという無情の念‥。



ふわりと、雪の手が伸びた。

音も無くたおやかに、彼女の手が彼の髪に触れる。







雪は淳のことをじっと見つめながら、優しくその頭を撫でた。

淳は目を丸くしながら、ゆっくりと彼女の方を向く。



そこには、穏やかな顔で微笑んでいる雪が居た。

彼女は彼の抱える全ての感情を受け入れ、癒やし、優しく撫でる。



雪は少し照れ臭そうに肩を竦めると、彼に向かってこう言った。

「電車に乗ってても、大したことはしてませんよ。

常に勉強してたりウトウトしてたりで」




「だから今日はすごく嬉しかったです」



彼にとっての非日常は、彼女にとっては日常の一片。

その逆も又然りだろう。

雪は彼が抱える思いを出来るだけ軽くする、この上なく前向きな言葉を口にする。

「手はすぐに良くなるし、春はまたすぐ来るじゃないですか」

 

「だからそんなに心配しないで、いつもみたいに、」



そして雪は、彼に向かってこう言った。

それはかつて彼からもらった、とっておきの魔法の言葉ー‥。

「笑顔でいて下さい。私と一緒に」







「笑顔でいてね」









淳は笑った。

かつて彼女へ伝えたそのエールと、”私と一緒に”という彼女のその言葉が、

淳の心をまるごと包み込む。



温かで華奢な彼女の手が、淳の肩にそっと置かれた。

地下鉄は、二人を乗せて進み続ける。



ガタン ゴトン ガタン ゴトン‥



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<魔法の言葉>でした。

今回はこの曲から題名取りました。好きすぎる‥



「ウッコダニョ(笑顔でいてね)」がここで出てくるとは!(日本語版は「笑顔忘れずにね」でしたか‥)

二人だけには分かる、魔法の言葉‥。(いや厳密に言えば秀紀兄発だけど‥)

「笑顔でいた」過去と「私と一緒に」という未来が、淳に肯定と希望を与えてくれているんですよね。

なんだか感慨深いです‥じーん


4部37話はここで終わりです。

では!


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ふいに思う

2016-06-12 01:00:00 | 雪3年4部(虚勢の裏側~魔法の言葉)
夕暮れのキャンパスの一角で、恋人達は顔を合わせた。

「先輩!」



「あ」



淳の姿を見つけた雪はピョンピョンと飛び跳ねながら、

「こっちこっち」と大きく手を振って見せる。



満面の笑みで彼を待つ彼女。

思わず淳の顔から笑顔が零れた。



二人は身体を寄せ合いながら、初冬のキャンパス内をゆっくりと歩き始める。

「ご飯食べに行こう。今日は車無いけど 手がコレだから「学校までどうやって来たんですか?」



「地下鉄?」



雪の身体に手を回した淳は、ふとあることに気がついた。

「ちょっと痩せた?」

「え?変わってませんよ」「そう?」



行こう



二人は手を繋ぎながら、キャンパスを出て街へと繰り出す。



「聡美、すごく複雑みたいです」



レストランでの話題の中心は、聡美と太一のことだった。

「なかなか気持ちの整理がつかないみたいで‥。期末ももうすぐなのに‥

太一もすごく悩んでるみたい」




友人の悩みの種が移ったかのように、雪の食事のペースは遅かった。

なかなかフォークを持つ手が進まない。

「太一の兵役、元々このタイミングで計画してたみたいだけど‥

よりによって付き合い始めになっちゃうなんて」


 

淳はそんな彼女を見つめながら、その心情を慮る。

「試験期間中なのに悩みが尽きないな」



「そうなんですよ」



そう言って溜息を吐く雪を、淳は温かな目で見つめていた。

二人は日常に起こった些細な出来事を、穏やかな空気の中で分かち合う。



最初は隣に居ることさえぎこちなくて、開いていた距離はなかなか縮まらなかった。

けれど今はそれがまるで嘘だったかのように、二人は互いの線の中で自然に呼吸している。



止めどなく流れる時間の中で、それぞれがそれぞれの思いや悩みを胸に歩き続ける。

ネオンに照らされた街を眺めながら、雪は彼の隣に立っていた。



先輩



さっき先輩を待ってる時、ふとこんなこと思ったんです。



私、聡美と太一のこと大好きなのに、



こんなことになるまで、私はただ見ていただけだったなって。

二人の間に居たのに、何も助けてあげられなかったなって。




自分だけが苦しんでるんだって思って、自分の悩みにばっかり囚われて、



今まで自分の周りの人たちに、なんていうか‥



ただ表面的に、その場しのぎの優しさで接して来たっていうか‥

うん、そんな感じです。




私は悪い人間じゃないけど、そんなに良い人間でもないんです。



どうせなら良い人間でありたいけれど、



日々に追われていると、そんな風に考えたことすら忘れてしまう。



それも全部、言い訳に過ぎないのかもしれませんけど。



二人は地下鉄に乗り込むと、肩を並べて席に座った。

彼に話した話を思い出して、心の中でこう思う。

最優先にすべきことは何だろう。



いつもの癖で鞄から参考書を取り出すが、顔を上げると彼の笑顔が目に入った。

そうして雪は、今日は一人じゃないんだったと思い至る。





それに加えて周りに目を向けて気を配るには、どうしたらいいんだろう。



雪は参考書を仕舞うと、彼の肩に自身の肩を寄せて微笑んだ。

ふと、彼を見上げてみる。

そして‥






顔を上げると、彼の方も彼女のことを見つめていた。

視線を逸らさぬまま、淳は穏やかな声でこう質問する。

「お昼は食べた?」



「え?いきなり何‥



突然のその質問に雪は目を丸くしたが、やがてその真意に思い至った。

心配を掛けさせまいと、言い訳を口にする。

「あ‥。いえ、今日はそれどころじゃなくって‥うっかりしてました」

「ちゃんと食べなきゃ」



「痩せたよ?」



淳はそう言って、彼女の華奢な手に自身の手を被せた。

不自由な手が、雪の手を精一杯の優しさで擦る。



雪は彼の隣に座りながら、心が暖まって行くのを感じていた。

二人を乗せた地下鉄は、心地良いリズムで揺れながら、ゆっくりと走って行く‥。

ガタン ゴトン ガタン ゴトン‥





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<ふいに思う>でした。

なんとも穏やかな回でしたね。

しかし雪の身体に手を回して「痩せた?」と言う淳に、そこはかとないエロスを感じた私は汚れているのか‥。


次回は<魔法の言葉>です。


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制裁(2)

2016-06-10 01:00:00 | 雪3年4部(虚勢の裏側~魔法の言葉)
「薄情だなぁ」



淳は健太が盾にしてきた「薄情」という言葉を使って、そう見事に切り返した。

思わず健太の目は点になる。



これはマズイことになったと、健太の本能が警告を鳴らしていた。

健太は真っ青になりながら、必死に淳を止めに掛かる。

「あ‥あ‥青田っ!ちょ、ちょ、ちょい待ち!」



「ここでこんな話‥止めようぜ、な?!一度ちゃんと集まろうぜ?佐藤と柳にも謝る機会作っから‥」

「ええ。謝って下さいね。時計の弁償の件も必ずお願いします。では」



そう言って立ち去ろうとする淳に向かって、健太は往生際悪くジタバタと足掻き始めた。

「おいっ!黙ってりゃつけ上がりやがって‥!待ちやがれ!」



「言わしてもらうが、これは詐欺だぞ詐欺!つーか俺、あん時お前が時計つけてた所なんて見てねぇし!

どっかで壊しといて、俺のことハメようってんだろ?!そうはいかねぇぞ!あぁ?!」




「こっちはなぁ、自分の学費稼ぐのでアップアップなんだよ!

それを承知で金巻き上げようってのか?!卑怯じゃねぇかよ!!」




健太は自身の逼迫ぶりを全面に押し出して声を荒げた。しかし淳にとってはどこ吹く風である。

「マジで言ってんのか?!」「? 破格値を配慮してあげたつもりですが」

「はぁ?してあげただぁ?!」「なぜ突然そんな言いがかりをつけられるのか分かりませんが、」



「人に危害を加えて物まで壊したなら、弁償するのが常識じゃありませんか?

よく考えてみて下さい」




真っ直ぐにそう切り返した淳の正論に、健太はぐうの音も出なかった。

その臆病な瞳の奥にある恐れを、淳の瞳は真っ直ぐに射抜く。






健太の顔がみるみる土色になり、汗が次から次へと止まらなかった。

健太は怒りでブルブルと震えながら、更に大声を出す。

「ふっ‥」



「ふざけんなっ!!」



もうなりふり構ってはいられないと感じたのか、健太はその大きな図体で暴れながら更に淳を責め始めた。

けれど淳は至極冷静に、理性的な言葉を切々と続ける。

「人に濡れ衣着せやがって‥!俺に全部泥被そうってハラだな?!

うわぁ、ひでぇよ!ひどすぎんだろうが!」


「いいえ、ただ白黒ハッキリさせたいだけです」



「あの時の状況が俺の車のドライブレコーダーに全て記録されているので、」



「そこまで仰るのなら、皆の前で是非を問う形にして頂いても結構です」

「!!」



淳が握っていた思わぬ証拠に、

健太は思わず頭を抱えた。



しかしまだ彼は足掻き続ける。

「お、お、お、お前どういうことだこらぁ!」



「それは脅迫だぞ?!時計代返してほしいがためにー‥」

「はは、違いますよ。とんでもない」



淳は健太のその言葉を聞いて軽く笑った。

そして視線を遠くに流しながら、含みのあるその言葉を口に出す。

「先輩の望むようにして差し上げますよ」



「良いご選択を」



「お待ちしています」



そう言って淳は健太に背を向けた。

健太は二の句を継げずに、ただその場で立ち尽くす。



淳の背中が小さくなって行くのに反比例して、健太の心の中に混乱の波が押し寄せて来た。

健太は真っ青になりながら、アワアワと一人取り乱す。

「あ‥な‥どう‥な‥」



「なっ‥!!!」



「なぁぁぁぁ!!!」



巨体の男が叫び声を上げるのを、坂の道の上で一人の男がじっと見ていた。

「ざけんなぁぁぁ!!」



「どうすりゃいいんだぁぁ!!」



河村亮は男の姿を見下ろしながら、数分前の出来事を回顧し始める‥。





左手が思うように動かず、志村教授とのレッスンは無言の内に幕を閉じた。

亮の心が重たく沈む。

「‥‥‥‥」



何が原因でどうしてこうなったのか、それに思い至ってもただ絶望は募るばかりだった。

この先どうやって進んで行けば良いのか、その答えは一向に出ない。



頭を抱え何度も首を横に振る亮。

すると視線の端に一人の男の姿が映った。





大きな図体を丸めながら小走りするその人物。

あれは昨日雪のことを押し退け、淳に怪我をさせたあの人物に他ならない‥。



恐らく雪のことを避け、こそこそと逃げ回っているのだろう。

情けないその姿を見て、亮は呆れ返った表情を浮かべた。



沸々と怒りが湧き上がる。

「あんのクソ野郎‥」



「決めた。少なくともあの野郎をブチ殺してから去るぞ、オレは」



亮は怒りにまかせてあの男の後を追った。

しかし男に追いつくかと思われたその時、聞き覚えのある声が亮を止める。

「こんにちは」






淳だった。

そして亮はその場から、二人のやり取りの一部始終を見聞きしていたのだった。

「うわぁぁぁぁ!」



巨体の男は声を上げて逃げて行く。

もう何度、こうやって淳の前から去って行った人間の姿を目にして来ただろう。



行き場のない感情が、亮の胸中をモヤモヤと曇らせて行く。

亮は苦々しい気分で頭を掻きながら、そっとその場から立ち去った。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<制裁(2)>でした。

もう‥健太の往生際が悪すぎて‥

人としての器が小さすぎて何も言えねぇ(◯島康介)


そして思い悩む亮さんが切なくも、イケメンに磨きがかかっていて眼福でした。。


次回は<ふいに思う>です。

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