Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

脱却へ

2016-06-01 01:00:00 | 雪3年4部(虚勢の裏側~魔法の言葉)
「前は顔に酷い怪我をしたかと思えば、今度は手にヒビが入っただと?」



昨日の夜、父親と電話で交わした会話のことを、淳は思い出していた。

父はあからさまに不機嫌な様子で、チクチクと淳を問い詰め続ける。

「一体どうやったら大学生がそんな生活送れるんだ。

しかもインターン生ともあろう者が、どうしてこんなに警戒心が無い?」




「一体どうしたと言うんだ。

まさか‥これ以上何か問題行動を起こしてるわけじゃあるまいな?」


淳はウンザリした表情を浮かべながら、父の様子を俯瞰しこう思っていた。

そろそろ限界かな、と。



延々と続く説教の、その内容に大した意味は無い。

淳は怪我をした右手を眺めながら、その中身を残酷なまでに見抜く。

愛情‥世間体



愛情‥世間体‥世間体



世間体‥偽善‥

今まで全くの掛け値無しで、自身の心配をしてもらったことがあっただろうか?

淳は体面ばかりを繕うその説教を聞きながら、幼い頃嫌というほど聞かされた父の言葉を思い出していた。

「班での宿題をその子がしないなら、お前がその分やれば良いじゃないか」



小学生の淳に向かって、父はネクタイを締めながら言う。

「そんな些細な問題で怒り続ける必要は無いだろう?」



自身がいかに理不尽な状況に置かれているか、始めは淳も主張し続けた。

けれど父の言葉はいつでも同じ、”理想的な子供”がどう振る舞うべきか、結論はいつもそこに帰結する。

「そんなことがあったのか?でもお前は班長なんだから、

その子達のことをもっと理解しようとする努力をしなくてはいけないぞ」




嫌だと言っても、苦手だと態度に表しても、

いつも少年淳は父の会社関連のパーティーへと連れ出された。

「ほら、挨拶を。もう小さな子供じゃないんだから」







隣に居る父親をチラリと見ると、いつも父は目の前の相手しか見ていなかった。

”父の思う理想的な子供”が、この後立派に挨拶をすることを疑いもしない顔をして。



「こんばんは」



淳の笑顔が作られて行く過程を、父は一度も目にすることは無かった。

その顔は常に世間に対して向けられていたからだ。




「今日は大事な日なんだ」



家で机に向かっていた淳に向かって、ある日父はそう切り出した。

「一緒に病院へ行こう。父さんの恩師のお見舞いだ」

「僕、今日は宿題があるんです。それに‥」



淳は話を続けようとしたが、父はその言葉を切って息子に人生を教え諭す。

「宿題も勿論大事だが‥。

人生を生きる上で、一度そういう方にお目に掛かって挨拶をすることを学ぶことも大事だよ」




「早く着替えて来なさい」



父の言葉は絶対だった。

そして子は父に連れられて、病院へと出向いて行く。






ベッドに横たわる老人に挨拶を済ませた少年淳は、そっと病室を出た。

少し開いたドアの合間から、そこに居る父の姿をそっと窺う。



見慣れた父の背中越しに、喘鳴が掛かる咳が何度も聞こえていた。



父の向かいのベッドに座った老人の声が、微かに聞こえる。

「先ほど病院で、おばあさんが亡くなって悲しむ子供を見たよ。

本当に気の毒でね‥。私は‥」




「うちの孫達もそうなるんじゃないかと思って‥恐いんだ。あの子達を、よろしく頼むよ」

「はい、河村教授。勿論です」



寂しそうに俯く父の横顔。

肩を落としながら、父は恩師に向かって言葉を続ける。

「心配されるお気持ち、分かりますよ」



「はぁ‥やはり気の毒です」



「僕が教授のお孫さん達を、最後まで責任を持って‥」



話が終わる前に、少年は廊下を歩き始めた。

誰も居ない、静かな廊下をひたひたと進む。







淳はソファに腰掛けると、一人ぼんやりと病院の白い天井をただ眺めた。

隣のソファには小さな女の子が眠っている。

あれのどこが恩師だよ。頼み事しかしないじゃないか。



先程耳にした会話を思い出しながら、淳は冷めた気持ちでそう思っていた。

何か役に立つことを話すかと思えば、頼み事しか口にしなかった弱々しいただの老人‥。



淳は皮肉を含んだ表情を浮かべながら、ぼんやりと自身の足元を眺める。

無駄に大勢の相手をするのは嫌いだ。受け入れるのも嫌だ。



けど嫌だっていうのを表に出しちゃダメなんだ。

どうしてそうしなきゃいけないのかは分かんないけど




以前父から言われた言葉が、淳の胸の中に澱のようにこびりつく。

「お前がこれからどんな人生を歩むのかは分からないが、

疑問に思うならやってみればいい。一度自分の弱点を、皆の前で剥き出しにしてみろ」


 

「それが顕になった瞬間、人々はお前に同情するか、

それを契機にお前を攻撃するか、哀れみの目で見始めるか、もしくは‥」




「おかしな人間だと指を刺し始めるかー‥」








”おかしな子供”

その烙印が、淳の心の奥深くに強く押される。



老人を見る父の顔は優しかった。

あんな笑顔を、向けられたことがあっただろうか‥?



少年はただぼんやりと足元を眺め続けた。

隣のソファで眠っている少女の他には、誰も居ないこの空間の中で‥。






「聞いてるのか?」



暫し淳の返事が無いことに痺れを切らした父は、苛立った口調で電話越しの息子にそう問うた。

淳はぼんやりと足元に目を落としながら、静かにこう返答する。

「色々と思い出しますよ。一つ一つ、ね」



「何だと?」と父はその意味を問うたが、淳は頓着せずにこう続けた。

「大学を卒業したらもう完全に大人でしょう?今は中途半端な状態ですが」



淳は自身の右手に嵌められたギブスを見つめながら言う。

「その前にその一つ一つを‥」



「全部、引き剥がして行きたいんです」



巻かれた白い包帯は、自由に羽ばたける日がくれば解かれる。

そして彼は強いられ続けた”理想の子供”から、自分の力で脱却するー‥。




勿論心配してるよ



雪との筆談に、淳は最後にそう書き記した。

これまで縛られて来た一つ一つを引き剥がす、その決意をギブスの下に隠したまま‥。



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<脱却へ>でした。

少年淳の隣で眠るのは、幼い頃の雪ちゃんでしょうね。



河村教授の言う「おばあさんが亡くなって悲しんでいる子供を見た」っていうのも、雪ちゃんのことなんですね。

祖母が亡くなって悲しみに伏せる雪と、河村教授を見て「あれのどこが恩師だよ」と冷め切った淳が、対照的です。

そして十数年後にこの二人が出会い、関係を築き、彼女を線の中に引き入れた淳が、裏目からの脱却を図って行く‥、

チートラの物語の核心が、徐々に見えてきたような感じですね。

4部35話はここで終わりです。


次回は<狭間の核心>です。


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