「おいこのクソ女!気ぃ狂ったか?!
お前みたいなのが居ると思って追っかけてみたら‥!大学まで来て一体何やらかしてんだよ!
ブタ箱行きになりてぇかっ?!」

人気のない場所まで静香を抱え走ってきた亮は、誰も使っていないであろう校舎の中にてようやく静香を下ろした。
そして不貞腐れたような姉を前にして、開口一番ブチ切れたのだ。
しかし静香は悪びれる様子なく、亮に向かって冷静に口を開く。
「あの子が監視カメラの無い所にノコノコ歩いて行ったんだけど?」

そんなあの子が悪いんだと言わんばかりの静香に、再び亮はブチ切れた。
大学に一体何をしに来たのか、と声を荒らげて問う。

そして姉弟は、ポンポンとテンポ良く会話を重ねた。
「淳ちゃんに会って、一対一、人間対人間として話をしようと思ったの~」
「ああそりゃご立派だこと
!」
「それも淳ちゃん水準に合わせた言葉遣いでね!」

そして静香は一人芝居のように亮の前で語り出した。百面相のように表情がくるくると変わる。
「私に援助すべき金銭に対する君の考えを、一度撤回してみてはどうだろうか?
‥っつーか買い逃した新作の靴とバッグどーしてくれんのよぉぉ!
」

呆れる亮と、ガルルル‥と噛みつかんばかりの静香。
それでもなんとか気を落ち着けると、不意に気になっていたことを亮に尋ねた。
「てかあんたは何でここにいんの?」

突然話の矛先が自分に向いた。ギクッと亮は身を強張らせたが、誤魔化すように帽子を目深に被り直し言葉を濁した。
「ち、ちょっとな。とにかく早くトンズラしよーぜ!呆れてものも言えねぇ‥」
「それはこっちのセリフよ。あのパッとしない女が淳の彼女だって?」

静香は腕組みをしながら、忌々しそうにそう言った。
”淳の彼女”‥。亮は静香の口からその言葉を聞き、思わず後ろを振り返る。
「え?淳の彼女?さっきお前が困らせてた子がか?」

あんたも信じらんないでしょ、と静香は鼻で嗤いながらそう言った。
高校時代にも淳の彼女は腐るほどいたが、皆容姿のレベルはすこぶる高かった。

あんなパッとしない子と付き合うのは何か理由があるに違いないと静香は踏んだ。
何かを利用しようとしているか、それかただの遊びかー‥。
「お前何勘違いして‥」

亮がその言葉を口にしたのは、”淳の彼女”が先ほどの女ではないということを知っているからなのだが、
静香は亮の言葉を、本気の彼女かそうでないかの”勘違い”だという風に受け取った。ニヤリと口元が歪む。
「本物であろうがなかろうが、事実なんて関係ないわ。ムカつくことに変わりはないって」

そう言った姉が意地悪く嗤うのを目にして、亮は何も口に出来なくなった。
静香は淡々と恨み節を語る。
「彼女が出来たせいで私は後回しにされて、負け犬みたいな暮らしを送る羽目になった‥。
私の代わりにあの女がブランドバッグ持ってくんでしょう?それって許せないと思わない?」

そして静香は眉を寄せると、ブツブツと呟くようにその名を口にした。
「名前も‥何ていったっけ?赤‥赤貝だっけ?‥笑わせるわ」

亮は身が縮む思いがした。ビクッと強張った体に対し、頭の中では警鐘が鳴り響いていた。
どういう理由で勘違いをしているのかは知らないが、今は人違いをしている静香も、やがては雪に辿り着くだろう。
「そ‥!」

その時亮の脳裏に、突如として雪の姿が浮かんで来た。
自分を見上げて安心したように微笑む顔、きょとんと大きな目を見開いた顔‥。

どちらの場面にも、共通する感情があった。
彼女に惹き寄せられて、自分の心が動いたその時。胸の中がこそばゆいが焦れったい、そんな感情ー‥。
「‥‥‥‥」

しかし亮は、隣で何かを企むような笑みをたたえる静香を見て、不吉な予感に駆られた。
言い返す言葉を飲み込んで、どうにかなだめる方向へと持って行こうとする。
「そ‥それはよぉ!彼女がいるかもしんねーし、いねぇかもしんねーじゃねーか!
本人にしか詳しいことは分かんねーって!」

しかし静香は亮のその言葉を鼻で嗤った。学校の子達が淳の彼女を知らないわけないでしょ、と。
そして静香は、「機会を見てあの女の根性を叩き直してやる」と息巻いた。これには亮も堪らず声を上げる。
「おい!たわけたことぬかしてんじゃねぇぞ!二度とここに現れるんじゃねぇ!いいな?!」

亮は静香の肩を掴みながら、まず感情的に注意した。そして続けてその言葉の根拠を説明する。
「無駄に敵を作んじゃねぇ。大学で事件なんて起こしてみろ、会長がお前をサポートしてくれる見込みなんて完全になくなんぞ!」

頭使え、と言って亮は静香にその行動の愚かさを諭した。
静香もそれには納得したのか、特に言い返さずじっと亮を見つめていた。

話に切りがついたところで、亮は静香に帰宅を促した。
さっさと帰んぞ、と言って大股で校舎を後にする。

静香は亮の小言を聞きながら、帰路の道中でキャンパスの風景を見回した。
広い敷地に大きな建物が幾つも立ち並ぶ、開放的な空間。そこは静香の目に、この上なく新鮮に映った。

静香はだんだんと気分が良くなり、隣を歩く弟に上機嫌で声を掛ける。
「けど、淳の通ってる大学って広いのね~?」

しかし亮は取り合わず、さっさと出て行くことばかりを口にした。
静香は持っていたサングラスを掛け直し辺りを見回すと、一人呟くように言葉を口にする。
「ふーん‥大学ね‥。面白いじゃん?」

忘れていた胸の高鳴りと心中に渦巻く陰謀が、静香に笑みをもたらしていた。
面白くなる予感を胸の内に秘めながら、静香は大股で歩を進める弟の後ろをついて、歩いて行った‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<恨みの矛先>でした。
しかし亮のパーカー‥。
ジッパー開けてると普通のパーカーなのに‥

フードを上げると顔の下半分隠れるくらいまで来るんですね。防寒対策でしょうか。

けどその下の服はTシャツという亮さん‥。ワイルドだぜ‥。
次回は<彼女の甘え>です。
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お前みたいなのが居ると思って追っかけてみたら‥!大学まで来て一体何やらかしてんだよ!
ブタ箱行きになりてぇかっ?!」

人気のない場所まで静香を抱え走ってきた亮は、誰も使っていないであろう校舎の中にてようやく静香を下ろした。
そして不貞腐れたような姉を前にして、開口一番ブチ切れたのだ。
しかし静香は悪びれる様子なく、亮に向かって冷静に口を開く。
「あの子が監視カメラの無い所にノコノコ歩いて行ったんだけど?」

そんなあの子が悪いんだと言わんばかりの静香に、再び亮はブチ切れた。
大学に一体何をしに来たのか、と声を荒らげて問う。

そして姉弟は、ポンポンとテンポ良く会話を重ねた。
「淳ちゃんに会って、一対一、人間対人間として話をしようと思ったの~」
「ああそりゃご立派だこと

「それも淳ちゃん水準に合わせた言葉遣いでね!」

そして静香は一人芝居のように亮の前で語り出した。百面相のように表情がくるくると変わる。
「私に援助すべき金銭に対する君の考えを、一度撤回してみてはどうだろうか?
‥っつーか買い逃した新作の靴とバッグどーしてくれんのよぉぉ!


呆れる亮と、ガルルル‥と噛みつかんばかりの静香。
それでもなんとか気を落ち着けると、不意に気になっていたことを亮に尋ねた。
「てかあんたは何でここにいんの?」

突然話の矛先が自分に向いた。ギクッと亮は身を強張らせたが、誤魔化すように帽子を目深に被り直し言葉を濁した。
「ち、ちょっとな。とにかく早くトンズラしよーぜ!呆れてものも言えねぇ‥」
「それはこっちのセリフよ。あのパッとしない女が淳の彼女だって?」

静香は腕組みをしながら、忌々しそうにそう言った。
”淳の彼女”‥。亮は静香の口からその言葉を聞き、思わず後ろを振り返る。
「え?淳の彼女?さっきお前が困らせてた子がか?」

あんたも信じらんないでしょ、と静香は鼻で嗤いながらそう言った。
高校時代にも淳の彼女は腐るほどいたが、皆容姿のレベルはすこぶる高かった。

あんなパッとしない子と付き合うのは何か理由があるに違いないと静香は踏んだ。
何かを利用しようとしているか、それかただの遊びかー‥。
「お前何勘違いして‥」

亮がその言葉を口にしたのは、”淳の彼女”が先ほどの女ではないということを知っているからなのだが、
静香は亮の言葉を、本気の彼女かそうでないかの”勘違い”だという風に受け取った。ニヤリと口元が歪む。
「本物であろうがなかろうが、事実なんて関係ないわ。ムカつくことに変わりはないって」

そう言った姉が意地悪く嗤うのを目にして、亮は何も口に出来なくなった。
静香は淡々と恨み節を語る。
「彼女が出来たせいで私は後回しにされて、負け犬みたいな暮らしを送る羽目になった‥。
私の代わりにあの女がブランドバッグ持ってくんでしょう?それって許せないと思わない?」

そして静香は眉を寄せると、ブツブツと呟くようにその名を口にした。
「名前も‥何ていったっけ?赤‥赤貝だっけ?‥笑わせるわ」

亮は身が縮む思いがした。ビクッと強張った体に対し、頭の中では警鐘が鳴り響いていた。
どういう理由で勘違いをしているのかは知らないが、今は人違いをしている静香も、やがては雪に辿り着くだろう。
「そ‥!」

その時亮の脳裏に、突如として雪の姿が浮かんで来た。
自分を見上げて安心したように微笑む顔、きょとんと大きな目を見開いた顔‥。


どちらの場面にも、共通する感情があった。
彼女に惹き寄せられて、自分の心が動いたその時。胸の中がこそばゆいが焦れったい、そんな感情ー‥。
「‥‥‥‥」

しかし亮は、隣で何かを企むような笑みをたたえる静香を見て、不吉な予感に駆られた。
言い返す言葉を飲み込んで、どうにかなだめる方向へと持って行こうとする。
「そ‥それはよぉ!彼女がいるかもしんねーし、いねぇかもしんねーじゃねーか!
本人にしか詳しいことは分かんねーって!」

しかし静香は亮のその言葉を鼻で嗤った。学校の子達が淳の彼女を知らないわけないでしょ、と。
そして静香は、「機会を見てあの女の根性を叩き直してやる」と息巻いた。これには亮も堪らず声を上げる。
「おい!たわけたことぬかしてんじゃねぇぞ!二度とここに現れるんじゃねぇ!いいな?!」

亮は静香の肩を掴みながら、まず感情的に注意した。そして続けてその言葉の根拠を説明する。
「無駄に敵を作んじゃねぇ。大学で事件なんて起こしてみろ、会長がお前をサポートしてくれる見込みなんて完全になくなんぞ!」

頭使え、と言って亮は静香にその行動の愚かさを諭した。
静香もそれには納得したのか、特に言い返さずじっと亮を見つめていた。

話に切りがついたところで、亮は静香に帰宅を促した。
さっさと帰んぞ、と言って大股で校舎を後にする。

静香は亮の小言を聞きながら、帰路の道中でキャンパスの風景を見回した。
広い敷地に大きな建物が幾つも立ち並ぶ、開放的な空間。そこは静香の目に、この上なく新鮮に映った。

静香はだんだんと気分が良くなり、隣を歩く弟に上機嫌で声を掛ける。
「けど、淳の通ってる大学って広いのね~?」

しかし亮は取り合わず、さっさと出て行くことばかりを口にした。
静香は持っていたサングラスを掛け直し辺りを見回すと、一人呟くように言葉を口にする。
「ふーん‥大学ね‥。面白いじゃん?」

忘れていた胸の高鳴りと心中に渦巻く陰謀が、静香に笑みをもたらしていた。
面白くなる予感を胸の内に秘めながら、静香は大股で歩を進める弟の後ろをついて、歩いて行った‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<恨みの矛先>でした。
しかし亮のパーカー‥。
ジッパー開けてると普通のパーカーなのに‥

フードを上げると顔の下半分隠れるくらいまで来るんですね。防寒対策でしょうか。

けどその下の服はTシャツという亮さん‥。ワイルドだぜ‥。
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それだと「紅参」ですから、高麗人参の漢方薬になってしまいます。
http://m.kpedia.jp/w/24273
このへんのニュアンスを日本語に落とし込むのは、なかなか大変そうです。
そして「這って行く」は「行く」の見下ろしです。
静香「あの子、監視カメラ無いとこへ自らのこのこ歩いて行ったけど?」
雪を守るために何も言わないんですね。
まだ自分の気持ちに気付いてないらしいですが。
だからインハは「笑わせんな」的なことを言っているんですね。シックリ!
これは日本語にするの難しいですね‥。
以前の聡美が口にした「ソンミンスだかソンボムスだか知らんけど」に似たような種類の難しさですね。
この記事では‥う~ん。。微妙な感じに直しておきます。青さん、ありがとうございました!
CitTさん
ここの主語はあの子(香織)でしたか!
なかなか主語が読み取れず‥難しいですね~~><
ありがとうございます。直しておきます~
高麗人参みたいにイケてない感じ(?)がピッタリだと思いました!
雪ちゃんはブランドバッグには興味なさそうですよね。
静香サンには、与えられることに慣れたくないという雪ちゃんの気持ちは分からないでしょう・・・。多分・・・。
人間自分より狂気の域に達していたり破天荒な人間がいると我に返るのでしょうか
それとも雪への恋心故か?
何にせよお亮さんは堕落していた生活からかなり回復してますよね…
ピアノの再開して復活の兆しはちかいかんじ
静香はこの寄生虫のような生き方考え方をまず改めないと
虐待されたり挫折した過去は過去としてどこかで昇華しないと
しかし淳への執着もこれまた凄いですね
やっぱり一度くらい致したのであろうか
ここ知りたい(笑)
で師匠の赤貝ナイスです
いや~なんて言うか静香のお下品さと淳の彼女という女へのあてつけ感のある感じが言い得て妙ですよ
静香が淳彼女に執着している理由が結局はお金なのか…。バックのくだりは知らなかったので、そんなもんかとちょっとびっくり。いや、でもそれだけではないですよね。先輩も『ブランド品』みたいなもんなのかな。