「も、もう行きましょ!」
雪はわざとらしいほど大仰にそう言うと、先輩の背を押して店の外へと歩を進める。
「先輩送ってくるから!」
そんな二人を見て、雪の母親はもう行くのかと残念がった。
お茶でも、と勧める母に対して、蓮は「この店にお茶なんてあったっけ?」と笑い、父は無口に彼らを見送る。
「それではまた。失礼致します」
淳は最後まで丁寧に頭を下げ、そして二人は店を出て行った。
笑顔で手を振る雪母と蓮、そしてムッツリと黙り込んだ雪父。早く行きましょうと急かす雪の声が外で聞こえる。
そして入り口の扉が閉まったのと同時に、蓮が大きな声で息を吐き笑った。
「いや~マジか~!淳さんって思ってたよりスペック高し?!姉ちゃんの意外な才能が!」
「‥まさか結婚するんじゃないだろうな?」
「それは知んないけどさぁ、もしそうなったらマジ玉の輿じゃん!」
「‥住む世界が違うだろ」
そんな現実問題を口にする旦那に、雪母は溜息を吐いて言った。もし超大企業の子息と結婚なんてことになったら、
私達にとっては万々歳で文句を言う立場も理由もないわ、と。
「えぇ~?父さん反対なのぉ?それじゃあ亮さんは?!仲良さげだけど‥クク」
そう口にする蓮に、両親の鉄槌が下される。
「何言ってんだ!」「バカ言わないの!」
息の合った赤山夫婦アタックは見事蓮の頭にキマリ、蓮は思わず涙目だ。
不平を鳴らす蓮に両親は、嫌ならアメリカに帰れと冷たい返事‥。
「?」
後にした店から微かに騒ぎ声が聞こえ、雪は不思議そうに何度か振り返りつつ、彼と肩を並べて歩いた。
先輩の方に向き直り、気になっていたことを尋ねる。
「お父さんの質問‥困っちゃいましたよね?」
彼の家についての、父親の直球な質問に雪は内心申し訳なく思っていた。しかし淳は首を横に振る。
「大丈夫だよ。完全に秘密にしてるわけじゃないから」
そんな彼の言葉に、「それなら良かったけど‥」と雪は口にして彼の隣を歩いた。
淳が彼女の歩幅に合わせ、少しゆっくりと歩を進める。
涼しい風が頬をかすめる、秋の夜道。
淳は雪に向かって口を開く。
「そういえば、雪ちゃん大学でもバイトだっただろう。それに家でも仕事して、大変だなぁ」
昼間電話で話をした時、彼女は図書館でのアルバイト中だった。
清水香織のことで頭を悩ませ、無くなったライオンの人形を未だ気にしていた‥。
淳は今日が記念すべきインターンの初日であり、もう夜も遅かったが、どうしても彼女が気がかりだった。
だからこんな時間に関わらず、店へと車を走らせたのだ‥。
一方雪は彼を見上げて、改めてその容姿を見つめていた。
髪を短く切りスーツを着た彼は、今までの先輩とはまた一味違って見えた。
なんかかっこいいかも‥
と思ってみた雪だが、彼の真価はそこではないことに思い至り、その考えはそこで終わりにした。
雪が本当に嬉しかったのは‥
これからあんまり会えなくなると思ったのに、こうして来てくれて‥。家も遠いのに‥
姿形の優れた点よりも、雪には彼のそんな気遣いが嬉しかった。今日一日しんどかった分、尚更だ。
雪は言葉には出さなかったが、自然と彼に近寄って笑った。そんな彼女を見て、淳も微笑む。
「あはは」「えへへ」
暫し和やかに笑い合う二人であったが、不意に雪の脳裏にとあることが思い浮かんだ。
身体がカッと熱くなり、思わず唇を手で押さえる。
!ぁああああああああ!!
蘇る記憶が、モヤモヤと脳裏に浮かんで雪は赤面した。
そうだ、先輩と顔を合わせるのは、昨夜のアレ以来なのだ‥。
改めてその事実を思い出してみると、隣で何でも無いように笑う彼が、不可思議に見えてきた。
てか‥!何でこの人こんなに緊張感が無いの?!
も、もしや酔って記憶が無いとか?!‥だって私達‥昨日‥!
ゴクッと生唾を飲み込んで、雪は昨日の出来事を心の中で言葉にしようとした。
キッ‥キッ、キッ、キッ‥!
しかし心臓がバクバクして、心の中でさえその言葉を口にすることが出来ない。
そしてそんな矢先、彼と雪の身体が密着した。
まだ薄着の初秋の季節。
触れた腕の温もりが、微かに伝わってくる。
雪は彼への強烈な意識を持つあまり、ヒッと息を飲んで身を強張らせた。
そして見るからにドギマギしている彼女に、淳が気づいて視線を寄越す。
「どうしたの?」
彼の後ろで光る街灯や店の明かりが、その瞳に映って透けるようだった。
短くなった前髪のお陰で、深く蒼がかったような彼の瞳がはっきり見える。
ドクン、と雪の心臓が一つ跳ねた。
まるでスローモーションのように、彼が自分に近付いて来る。
「雪ちゃん」
視線はいつの間にか、彼の唇へと注がれていた。
雪の脳裏に浮かぶ、昨夜のあの光景。
ドクン、ドクン、と鼓動は更に早くなっていく。
雪は彼の唇から目が離せなかった。
「は‥はい?」
昨夜自分の唇に触れたその感触が、蘇ってくるような気がした。
雪は無意識に身を固くして、高鳴る鼓動に耐えるように両手を握り締める。
ちょっと、と淳が雪に声を掛けた。
身長の高い彼が背を屈め、雪の顔近くに自分の顔を近づける‥。
「飲み物でも買って行かない?仕事疲れたでしょ?」
しかし淳は後ろにあるコンビニを指差すと、平然とそう提案した。
雪は思わずポカーンである。
「あ、ハイ」 「行こ行こ」
そう言って淳はコンビニに入ろうとするが、雪は魂が抜けたような顔でその場に固まっていた。
「何飲む?あったかいのがいい?」「いえ‥私はアメか何か‥」
深い思考はストップしたまま、雪はぼんやりとアメのリクエストをした。
やはり淳は平然と、ニッコリ笑ってそれに了承する。
「はーい」
そして彼はコンビニに入って行った。
雪はあのポカン顔のまま、暫し彼の帰りを待ったのだった‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<抜け出した二人>でした。
ここの雪のお母さんの台詞↓ 直訳すると‥。
「ったくこのダンナは何言ってんだか!結婚するなら光化門の真ん中で平伏しなきゃ!」
と言ってました。
光化門、こちらですね。
*CitTさんより教えて頂きました。
この人目の多い場所で平伏(韓国式の心からの感謝を表す振る舞い)するくらい、淳との結婚は我々にとってありがたいこと、
という意味だそうです。CitTさんコマウォヨ~~!
しかし結婚を言及する父‥まだ付き合って二ヶ月なんですが‥^^;気が早いよ!
そして何気に亮をすすめる蓮君。亮盛り上げ隊の皆様の祭り囃子が聞こえてくるようですw
次回は<騒がせるもの>です。
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雪はわざとらしいほど大仰にそう言うと、先輩の背を押して店の外へと歩を進める。
「先輩送ってくるから!」
そんな二人を見て、雪の母親はもう行くのかと残念がった。
お茶でも、と勧める母に対して、蓮は「この店にお茶なんてあったっけ?」と笑い、父は無口に彼らを見送る。
「それではまた。失礼致します」
淳は最後まで丁寧に頭を下げ、そして二人は店を出て行った。
笑顔で手を振る雪母と蓮、そしてムッツリと黙り込んだ雪父。早く行きましょうと急かす雪の声が外で聞こえる。
そして入り口の扉が閉まったのと同時に、蓮が大きな声で息を吐き笑った。
「いや~マジか~!淳さんって思ってたよりスペック高し?!姉ちゃんの意外な才能が!」
「‥まさか結婚するんじゃないだろうな?」
「それは知んないけどさぁ、もしそうなったらマジ玉の輿じゃん!」
「‥住む世界が違うだろ」
そんな現実問題を口にする旦那に、雪母は溜息を吐いて言った。もし超大企業の子息と結婚なんてことになったら、
私達にとっては万々歳で文句を言う立場も理由もないわ、と。
「えぇ~?父さん反対なのぉ?それじゃあ亮さんは?!仲良さげだけど‥クク」
そう口にする蓮に、両親の鉄槌が下される。
「何言ってんだ!」「バカ言わないの!」
息の合った赤山夫婦アタックは見事蓮の頭にキマリ、蓮は思わず涙目だ。
不平を鳴らす蓮に両親は、嫌ならアメリカに帰れと冷たい返事‥。
「?」
後にした店から微かに騒ぎ声が聞こえ、雪は不思議そうに何度か振り返りつつ、彼と肩を並べて歩いた。
先輩の方に向き直り、気になっていたことを尋ねる。
「お父さんの質問‥困っちゃいましたよね?」
彼の家についての、父親の直球な質問に雪は内心申し訳なく思っていた。しかし淳は首を横に振る。
「大丈夫だよ。完全に秘密にしてるわけじゃないから」
そんな彼の言葉に、「それなら良かったけど‥」と雪は口にして彼の隣を歩いた。
淳が彼女の歩幅に合わせ、少しゆっくりと歩を進める。
涼しい風が頬をかすめる、秋の夜道。
淳は雪に向かって口を開く。
「そういえば、雪ちゃん大学でもバイトだっただろう。それに家でも仕事して、大変だなぁ」
昼間電話で話をした時、彼女は図書館でのアルバイト中だった。
清水香織のことで頭を悩ませ、無くなったライオンの人形を未だ気にしていた‥。
淳は今日が記念すべきインターンの初日であり、もう夜も遅かったが、どうしても彼女が気がかりだった。
だからこんな時間に関わらず、店へと車を走らせたのだ‥。
一方雪は彼を見上げて、改めてその容姿を見つめていた。
髪を短く切りスーツを着た彼は、今までの先輩とはまた一味違って見えた。
なんかかっこいいかも‥
と思ってみた雪だが、彼の真価はそこではないことに思い至り、その考えはそこで終わりにした。
雪が本当に嬉しかったのは‥
これからあんまり会えなくなると思ったのに、こうして来てくれて‥。家も遠いのに‥
姿形の優れた点よりも、雪には彼のそんな気遣いが嬉しかった。今日一日しんどかった分、尚更だ。
雪は言葉には出さなかったが、自然と彼に近寄って笑った。そんな彼女を見て、淳も微笑む。
「あはは」「えへへ」
暫し和やかに笑い合う二人であったが、不意に雪の脳裏にとあることが思い浮かんだ。
身体がカッと熱くなり、思わず唇を手で押さえる。
!ぁああああああああ!!
蘇る記憶が、モヤモヤと脳裏に浮かんで雪は赤面した。
そうだ、先輩と顔を合わせるのは、昨夜のアレ以来なのだ‥。
改めてその事実を思い出してみると、隣で何でも無いように笑う彼が、不可思議に見えてきた。
てか‥!何でこの人こんなに緊張感が無いの?!
も、もしや酔って記憶が無いとか?!‥だって私達‥昨日‥!
ゴクッと生唾を飲み込んで、雪は昨日の出来事を心の中で言葉にしようとした。
キッ‥キッ、キッ、キッ‥!
しかし心臓がバクバクして、心の中でさえその言葉を口にすることが出来ない。
そしてそんな矢先、彼と雪の身体が密着した。
まだ薄着の初秋の季節。
触れた腕の温もりが、微かに伝わってくる。
雪は彼への強烈な意識を持つあまり、ヒッと息を飲んで身を強張らせた。
そして見るからにドギマギしている彼女に、淳が気づいて視線を寄越す。
「どうしたの?」
彼の後ろで光る街灯や店の明かりが、その瞳に映って透けるようだった。
短くなった前髪のお陰で、深く蒼がかったような彼の瞳がはっきり見える。
ドクン、と雪の心臓が一つ跳ねた。
まるでスローモーションのように、彼が自分に近付いて来る。
「雪ちゃん」
視線はいつの間にか、彼の唇へと注がれていた。
雪の脳裏に浮かぶ、昨夜のあの光景。
ドクン、ドクン、と鼓動は更に早くなっていく。
雪は彼の唇から目が離せなかった。
「は‥はい?」
昨夜自分の唇に触れたその感触が、蘇ってくるような気がした。
雪は無意識に身を固くして、高鳴る鼓動に耐えるように両手を握り締める。
ちょっと、と淳が雪に声を掛けた。
身長の高い彼が背を屈め、雪の顔近くに自分の顔を近づける‥。
「飲み物でも買って行かない?仕事疲れたでしょ?」
しかし淳は後ろにあるコンビニを指差すと、平然とそう提案した。
雪は思わずポカーンである。
「あ、ハイ」 「行こ行こ」
そう言って淳はコンビニに入ろうとするが、雪は魂が抜けたような顔でその場に固まっていた。
「何飲む?あったかいのがいい?」「いえ‥私はアメか何か‥」
深い思考はストップしたまま、雪はぼんやりとアメのリクエストをした。
やはり淳は平然と、ニッコリ笑ってそれに了承する。
「はーい」
そして彼はコンビニに入って行った。
雪はあのポカン顔のまま、暫し彼の帰りを待ったのだった‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<抜け出した二人>でした。
ここの雪のお母さんの台詞↓ 直訳すると‥。
「ったくこのダンナは何言ってんだか!結婚するなら光化門の真ん中で平伏しなきゃ!」
と言ってました。
光化門、こちらですね。
*CitTさんより教えて頂きました。
この人目の多い場所で平伏(韓国式の心からの感謝を表す振る舞い)するくらい、淳との結婚は我々にとってありがたいこと、
という意味だそうです。CitTさんコマウォヨ~~!
しかし結婚を言及する父‥まだ付き合って二ヶ月なんですが‥^^;気が早いよ!
そして何気に亮をすすめる蓮君。亮盛り上げ隊の皆様の祭り囃子が聞こえてくるようですw
次回は<騒がせるもの>です。
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引き続きキャラ人気投票も行っています~!
「この店にお茶(多意語。「車」と同じ単語使い)があったっけ?」ですって。
そして雪母の「もし結婚が決められたら、大十字路の真ん中で平伏することでしょ?」のは、「超大企業の子息様が結婚してくれたら、私達は感謝すべきことでしょ?文句言う立場も理由もないでしょ?」です。どうやら父が予想したのが母には想像つかなかったみたいです。社会経験の差があるのかな?
平伏はね、日本では深い誤りですが(ですね?土下座。)、こっちでは大人への特別な挨拶で、現代になってはnew years dayやkorean thanksgivingに祖親への挨拶とか、結婚式で義親への挨拶など位です。
Yukkanen様はきっと今の平伏を結婚式の筋の一つとして取りましたね。でも今雪母の話は、「人通りの多い場所で、人目構わず、見上げる視線で感謝の挨拶」。
それにしても、お金問題で少し悩んでるのに娘の心配をするお父さん。
蓮への溺愛を見せるお婆ちゃんやお父さんは
読者達から散々責められてますが、
彼らは(家族として)そんなに酷いかな?と疑問を持ちます。
人間関係で、100%甘いだけの関係や100%辛いだけの関係って存在するのでしょうか。
後者はあるかも知りませんが、前者は存在し難いと思います。例え家族でも。
ありがとうございます!「チャ」を車の方だと思ったこの勘違い‥orz お恥ずかしい‥^^;
そして雪母の台詞はそういう意味でしたか~!
深い平伏、ドラマで見ました!新年の挨拶の場面でしたわ~あのことを言っていたのですね。
勉強になりました。いつもありがとう!
万国共通かどうかは分かりませんが、父と娘って、えてして理解し合うのは難しいですよね‥。
男尊女卑的な考えのある赤山家は、確かに疑問に思う点が多々有ります。ただ父は父なりに娘のことも息子のことも可愛がっていて、その表現の仕方が違うだけなのかなと思います。
雪ちゃんがいつか電話でお母さんに本音をぶち撒けたように、お父さんにももっと本音を晒せればまた違う気がしますねぇ。まぁ娘と父親って得てして難しいものかと‥う~む
今はhistoric buildingとして残ってます。
(一つは燃えましたが。)
Capital cityを選ぶ目は今も昔も大差ないらしいじゃないですか。
交通の中心地もそんなもんかな?
何故か今も大門達の側には十字路や電鉄(電車)駅が。
別の話ですが、
去る時「ではまた」と言う先輩。また来る気かよ。
「どうしたの?」と、目が笑ってる先輩。
絶対知らんぷりですよ、この人。
さすが遠い所から走って来た人。楽しんでますね。
好意的に解釈してたぶん、カーディガンだと思うんですけど、私の眼には「どてら」にしか見えないのです。
ttp://store.shopping.yahoo.co.jp/fuwari/kurume250.html
季節的にどてらを着るのは冬のはずですから、そぐわしくないとは思うのですすが。
ちなみに、CitTさんが説明されている韓国式の大仰な挨拶「クンジョル」は、下の番組のオープニングで出演者がやってます。これは新年の挨拶になりますね。
(中国のサイトなので、日本からアクセスすると重いかも知れません。)
ttp://v.youku.com/v_show/id_XMzQ1OTkzNjgw.html
そして、「光化門の真ん前で」というのは、日本でいえば「皇居前広場のど真ん中で」くらいの感じですかね。光化門はかつての王宮・景福宮の正門ですので。
青さん。
好意的に解釈してたぶん、カーディガン…
すんません、ツボに入りました~あはは
青さん、なんとおやさしい…!
ドテラ、またはハンテン、ちゃんちゃんこ。
ハンテン仕様のいいだしっぺはちょびこ姉です。