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Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

温かな風景

2014-04-23 01:00:00 | 雪3年3部(太一への陰謀~甘い記憶)
「ぅあ~~~~!」



蓮は身体を大きく伸ばし、腹の底から声を出した。ようやく業務が終わったのだ。

「ちょい休憩~!」「ちょっと!もうちょい頑張んな!」



しかし店の営業時間は終わったが、後片付けや掃除などはまだ残っていた。早くも座り込む蓮に雪の喝が飛ぶ。

すると突然、亮が雪に話しかけて来た。

「あ、ところでよぉ。お前って好きな曲とかって何かある?」



好きな曲?と雪がオウム返しをすると、亮は「クラシックとかで」と追って質問を続けた。

クラシック‥?



その唐突な質問に、雪は暫し手を止めて考え込んだ。

その後方では休んでいた蓮の頭を亮がつかみ、何やらジャレついている。

「うーん‥くるみ割り人形とか?タリラリラリラリラ~♪ってやつ‥」

「そういうんじゃなくて!ピアノの曲!」 「ピアノ?」



亮からの質問に、雪は暫し考え込んだ。いつもはミュージックプレイヤーでポップスを聽くことが趣味な雪だが、

クラシック‥しかもピアノ曲となれば多くは知らなかった。それでも、知っている中で好きな曲を上げてみる。

「あ、イルマの"Maybe"とか!」



ようやく出た雪の好きなピアノ曲だが、亮はそれを知らなかった。

クラシック一本でやってきた亮は、ポップス寄りジャンルのピアノ曲には疎かったのだ。

「そうじゃなくてベートーベンとかショパンとかよぉ、馴染みのあるやつがあんだろーが!知らねーのか?!」



だんだんと口調が荒くなっていく亮に、雪は困り顔だ。そしてそんな二人の会話を聞きながら、蓮は一人呟く。

「俺‥ハウスミュージック‥」



蓮が好きなのは、クラブでかかっているようなハウス音楽だ。

そしてそんな曲を聞きながらならば、大変な仕事も楽しくなるかもしれない、と蓮は思う。

「母さ~ん!うちの店もラジオかけよーよ!」 「はぁ?やっかましいじゃないの」

「社長~!クラシックはどうっすか~?」 「いやお前‥麺食べながらクラシック聴きたいか?」

 

気がつけば各々が好きなことをしゃべり、何も気を遣わず会話していた。

そして雪は気づいたのだ。ここ最近感じていた、家族間のギスギスが無くなっていることに。



雪はそんな雰囲気の中に居る皆を、一人ぼんやりと眺めてみた。

もうお客さんは居ないのに、何だかかえって騒がしく感じるほどだ。

こんな風に皆が集まってワイワイするのなんて、一体いつぶりだろう‥。




両親に挟まれ、いつも気詰まりだった自分。父の期待に応え母を安心させるべきだと、いつも気を張っていた自分‥。

そんなだった自分が、今何も気にせずそんな温かな風景を見ていることが、雪はなんだか嬉しかった。

とにかく‥あの二人が来てくれて‥



それはやはり、蓮と亮のお陰に他ならないと雪は感じていた。なんだか心が温かく、雪は自然と笑顔になった。

人の性質として陰と陽があるならば、二人は間違いなく陽だ。理解出来ないこともあるけれど、

自分が持ち得ないものを自然と差し出す二人の前に居ると、雪は気が楽になるように感じる‥。





すると閉店したはずの時間にもかかわらず、店のドアが開いた。



皆がそこに視線を送る中、入って来たのは彼だった。

青田淳である。



雪は、突然の彼の登場に目を剥いた。

「えっ?」



雪の姿を認めた彼は、ニコリと嬉しそうに微笑む。

「雪ちゃん!やっぱりここだった」



そう言って淳はニコニコしながら店に入って来た。雪は驚き、亮は見るからに顔を顰める。

「せ、先輩!」 「!!」 「電話繋がらないから、仕事してるんじゃないかなと思って」



そう言って淳は微笑んだ。

彼の登場により、赤山家+亮に激震が走る。蓮と母は歓迎ムード、父は初めて見る淳に懐疑的な表情だ。

「おまっ‥お、お、お前‥!」



そして亮は不意に現れた淳に目を剥いて驚いていた。雪が父親に淳を紹介しようと着席を促そうとした瞬間、

亮は淳の腕を取って猛ダッシュで外へ出た。

「テメーちょっとこっち来い!」



取り残された赤山家は、そのままその場で固まった。

家族四人は沈黙したまま、嵐のように去って行った二人の残像を追う。



ふと、困惑中の父親が蓮に尋ねた。

「‥で、アレ誰だ?」 「だーから姉ちゃんの彼氏!」



明るくそう言った蓮の言葉に、父親は眉を寄せて絶句した。

なにっ



そして入り口の方へともう一度視線を流したが、亮と娘の彼氏はどこかへ行ってしまったままだ。

どこか不機嫌な父はそのまま店の中にて、その対面の時まで暫し待つことになった‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<温かな風景>でした。

雪ちゃんが適当に(?)好きだと言った、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」



そしてその後、本心で(?)好きだと言った、イルマの「Maybe」



すごく良い曲ですね~^^他の曲もすごくステキ!脳内プロモが出来上がりそうです。


そして当然のように家族の一員になっている亮さんが素敵な回でしたね。

何の不自然もなくその場に溶け込めるのは、彼の気がついてない彼の長所でしょう。同じく”陽”の蓮も然り。

そしてそんな中で現れましたね、”陰”の彼が‥笑


次回は<伝わらない訴え>です。


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単純と複雑

2014-04-22 01:00:00 | 雪3年3部(太一への陰謀~甘い記憶)


ひっきりなしだった客足も、夜が更けるにつきだんだんとまばらになっていった。

激務の果てにようやく休憩をもらえた雪は、店の裏にて一息つく。



壁に凭れ掛かりながら、雪は自身の疲れを感じて息を吐いた。

疲れた‥今日は一日中‥



昼間耳にした清水香織の号泣が、今も鼓膜の奥にこびりついている。

それだけでも気が滅入るのに、図書館バイトに店の手伝いに‥。

振り返ってみると、今日は一日中何かに振り回されっぱなしだった‥。

「おい、ダメージ!」



すると不意に声を掛けられ、振り向くと亮が居た。

何度か咳払いをしながら、何かを窺うような仕草でこちらに近づいてくる。



亮のその様子はどこか不自然で、

雪は「何ですか?」と不思議に思いながら彼に問う。



亮は相変わらずの咳払いと共に、目を逸らしながら雪に尋ねた。

「いや‥何か変わったことはねぇか?」



突然の亮の質問に、雪は首を傾げながら「いきなり何ですか?」と再び聞く。

亮はやはり言葉を濁しながら、

「いや‥ホラ大学とかでよ‥」とチビチビ切り出した。



亮は昼間目にした、静香が困らせていた相手が本当に雪だったのか、未だ確証が持てずにいた。

まどろっこしい表現でそう口にする亮の言葉に、雪はそのままの意味で返答する。

「そりゃあ大学に通ってる以上色々ありますって。それに復学してからは変なことばっかり‥」



雪の言葉に、亮はいよいよ静香とのことが出てくるかと思って少し身を固くした。

しかし続けて雪が口にしたのは、予想外な言葉だった。

「今日も同じ科の同期とつまんないことで喧嘩になって‥」



「同期?喧嘩?」と亮が意外そうに口にする。そして”喧嘩”に反応しては、面白そうに反応する。

「いや~ダメージ~!お前が喧嘩するなんてな~!あ、でも前もパンチしてんの見たっけな!

これからは喧嘩ん時はまず鼻っ柱を一発‥」
「もう!変なこと言わないで下さいよ!」



思わず拳を固める血の気の多い亮を、雪がたしなめる。

とにかく、と言って雪は話を続けた。

「その子が突然私の真似をし始めたので‥いやそれはさておき‥

私の持っていた物をその子が持って行ったのが一番大きな問題で‥」


 

天を仰いでは俯き、口を開けては歯噛みして‥。

雪はくさくさする自分の心と向き合いながら、清水香織とのことを口にした。

「それを問い詰めると突然泣き出して‥私が事を急いじゃったってのもあるんですが‥」

「はぁ?何で?わけわかんね」「ですよね?!」



事情を深く追及してこない亮だが、かいつまんだ雪の説明に素直な感想を口にした。

それに同意した雪は息を吐き、ネオンの光で遠くかすんだ空を見上げる。



盲目的な怒りが引っ込んだら、冷えた頭は冷静に今の状況を分析出来るようになってきた。

雪は俯き静かな口調で、自分の気持ちを口にする。

「‥だけど冷静になって考えてみると、ただ単純に腹を立てるのも‥何だか複雑な気持ちで‥」



丁寧に自分の気持ちをなぞる雪だが、亮はそんな彼女の言葉に首を傾げた。

「あ?どゆこと?何で複雑なんだ?」



単純か複雑か、静か動か、勝ちか負けか。

そんなパッキリした価値観を持つ亮は、雪に向かって拳を固めて笑みを浮かべた。

「んで、負けたのか?負けたからだろ?おいソイツ連れて来い。オレがぶっ飛ばしてやんよ!」



呆れるくらい単純な亮の考え方に、雪は少し引き気味だ。

「はぁ?!何で喧嘩したか分かってます?!」



そんな雪の問いにも「喧嘩に理由なんて無い」と言って、亮は両手を腰に当てふん反り返る。

「一発食らったら二発返す!強い方が勝つんだからよ!」



亮は拳を握ったまま、昔の武勇伝を語り出した。

「オレが高校生ん時も変な奴が絡んで来てよぉ。理由?知るかってんだ!

ムカついたから喧嘩したんだっつーの。とりあえずお前はそのムカつく奴連れて来いっ!」




ニヤリと笑いながらそう語る亮に、「変なこと言わないで下さいよ」と言って雪は息を吐く。

しかし亮は全く変なこととは思っていないようだ。



「塾でだってお前のこと助けてやったの覚えてんだろ?正直マジイケてただろーがよ!」



雪は微笑みながら、ブツブツ言い返してくる亮の話を聞いていた。

口にすることは乱暴な亮だが、その心根は温かいことをもう雪は知っていた。

出会ってからこれまで、数え切れないほど彼に助けてもらった‥。

  

そして亮にとっても雪は、どこか放っておけない存在だ。真面目で誠実、けれど不器用でいつも損を見る彼女に、

気がついたら手を差し伸べている‥。




亮は雪に目を落としながら、呆れたような口調で話を続けた。

「お前があんまりにもマヌケだから、大学でもそうやってヤられんだよ!ったく!」



雪は少し自嘲するような、諦めたような微笑みを浮かべた。

そしてやはり丁寧に、客観視した事実を口にする。

「それで‥その子が何で私の真似をしたかを考えてみると‥」



雪の脳裏に、両親と蓮が共に居る場面が思い浮かんだ。

「まるで私みたいに‥愛嬌も積極性も無い私が、蓮みたいになりたいって思ってるように‥」



「あの子もそうなんじゃないかって‥」



自分には持ち得ないものを持っている人への羨望。灼けつくような劣等感。望む者になれない自分へのもどかしさ。

雪の脳裏に、去年までの清水香織の姿が浮かぶ。自信の無さそうな、俯いたその表情が。

「理由は分からないけど、私のことがうらやましくて、それで真似し出して‥、

でも完全に同じになるなんて有り得なくて‥だから結局焦り出して‥」




いつも下を向いて、リュックの持ち手を握り締めていた。その存在を忘れるくらい、地味で目立たなかった。

そこから今の彼女になるまで、どのくらいの葛藤や劣等感と向き合って来たのだろう‥。

雪はそれを考えると、彼女にどこか同情せずにはいられないのだった。

「まぁ‥別の見方をすれば‥向上心があるだけ私よりマシですね‥ハハ‥」



そう力なく笑う雪を前にして、亮は心に小さな刺が刺さるような感覚になった。

雪の言っているようなことを、どこかで見知ったような既視感‥。



亮はそのままじっと雪のことを見つめていたが、それがどういった類のものでいつ味わったものなのか、

正確な答えは導き出せなかった。思い出そうとすればするほど、既視感の尻尾はスルスルと逃げていく。

二人は、その場で暫く黙り込んだ。



そしていつしか亮の拳は緩み、その手は力なくブランと垂れ下がっていた。

喧嘩の必勝法なら伝授出来るが、こういった問題にはお手上げだ。

「そういうことなら‥」



「オレも分かんねーよ。何が勝ちなのか」



亮はそう言うと、雪に背を向けて去って行った。

道端に転がった空き缶を蹴って、俯きながら店へ戻って行く。



雪はそんな亮の背中を見ながら、彼の言葉の意味を考えていた。

きっと亮が言うように、香織のことに関しては勝ちや負けなどという結論では、おそらく解決しないのだ‥。



そして雪も暫くして、亮の後を追って店へ戻って行った。

営業時間もあと少し、雪はエプロンの紐を締め直して残りの仕事に励む‥。


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<単純と複雑>でした。

雪ちゃんが亮に心を開いているのが、すごく現れた回でしたね~^^

先輩との電話では忙しい彼を気にして語れない雪も、亮に対しては自分の気持ちを素直に口に出来るんだなぁ。。

こういう関係っていいですね~^^

次回は<温かな風景>です。

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それぞれの心配事

2014-04-21 01:00:00 | 雪3年3部(太一への陰謀~甘い記憶)
「雪!5番テーブル注文行って!」 「はい~!」



その日の夜。雪の実家の宴麺屋はその客足の多さにてんてこ舞いであった。

雪は昼間図書館でアルバイトをしてきたというのに、夜もそんな状態の店を手伝わなければならず、

一日中仕事に追われている気分だった。

蓮は「店が繁盛して嬉しいだろ」と雪に向かってお気楽調子だ。



そしてコマネズミのように忙しく立ち働く雪の姿を、

河村亮は一人じっと眺めていた。



昼間目にした静香と彼女の姿が、亮の意識を囚えて離さない。

あれは本当に雪だったのか?それとも‥。




「何ですか?」



そんな亮の視線を捕らえて、雪が不思議そうな顔をした。

亮は突然振り返った雪に面食らいながら、決まり悪そうに言い返す。

「い‥いや、さっさと行けさっさと!分かったかっ!」



何なんですか、と言って雪は顔を顰めて行ってしまった。

亮は自分でもどうしたら良いのか分からず、そんな自分がもどかしくて堪らない‥。









テーブルを拭きながら、雪は深く息を吐いた。

さすがに疲れた、そう感じた時だった。



ふと顔を上げて母親に目をやると、母は自分以上に疲れているように見えた。

雪は首の後ろに手をやりながら(気まずさを感じた時の彼女の癖だ)母に聞いた。

「お‥お父さんは?」



知らないわ、と母が答えた時だった。入り口から父が入って来た。

「お?早かったんだな」 「はい‥」



父は珍しく早い時間に店を手伝っている娘に目を留め、声を掛けた。母は父の方を見ようともしない。

雪は母の方に向き直り、依然として溜息混じりに仕事をする母に話しかける。

「お母さん、どこか調子悪いの?」



そう聞いてくる娘に、「更年期でね」と母は力なく言った。疲れた声で話を続ける。

「体がしんどいから、せめて心の方は気楽に構えていたいんだけど‥。

アレはアメリカに戻る気はあるのか、何か他に考えがあるのか‥」




そう言ってギッと蓮を睨む母だったが、蓮はヘラヘラと笑いながらいつものおちゃらけを発揮した。

「このこの~!唯一の一人息子が出てっちゃってもいいのぉ~?」



ウリウリと母を肘で小突く蓮の姿を、父親はじっと遠目に眺めていた。

妻、長女、長男‥。家族の長として、父は家族を前にして思うところがあった。



父は暫し家族の姿を眺めた後、まず初めに雪に向かって声を掛けた。

「雪、お母さん最近疲れてるようだから、お前が気にかけてやんなさい」



雪は突然父から言葉を掛けられたじろいだが、そのまま素直に頷いた。

父は一つ深く息を吐くと、雪の肩に手を置く。

 

ズシッと、雪は自分の肩が沈むのを感じた。

長女としての務め、信頼、その優秀さへの期待‥。肩に宿るのは、父が自分に望むもの達だ。



雪が父の背中を見つめていると、続けて父は蓮に向かって小言を口にし始めた。

「蓮、お前このまま誤魔化しつつ大学辞めるつもりじゃないだろうな?

お前に一体いくら使ったか分かってるのか?」




ゴツン、と父の拳が蓮の頭に炸裂する。蓮は頭を押さえながらも、人懐っこい笑みで父と腕を組んだ。

「分かってますって赤山社長!俺も社長のようになるために、ビッグドリームを追ってますので!

心配ご無用~でございマスッ!」




蓮はいつもの調子の良さで、父からの小言を切り返した。

両手を広げながらニコニコと、明るい笑顔を浮かべている。



父は一つ息を吐くと、軽く小さな舌打ちをした。

蓮は心配の絶えない長男だが、どこか憎み切れない可愛さがあった。



父は蓮の頭に手を置きながら、長男の心得を口にする。

「しっかりするんだぞ。お前がこの先雪と母さんの面倒を見ていくんだからな」



蓮は父親からの説教にも、イエッサー!とおどけて口にし笑顔を浮かべた。

蓮の頭に置かれた父の手が、ふわりと軽く離れていく。

「あ~!髪セットしたのに台無しぃ~!」



相変わらずの蓮の調子に、父も母も苦笑いだ。明るい笑い声が店に響く。

そして雪は、未だに肩に残る重さを感じながら、その様子をじっと見つめていた。



いつだって蓮は自分には持ち得ないもの達を天性の性質で持ち、それを両親に与え、自分が貰えないものを貰う。

父の柔らかな手つきが、残像となって雪の瞼の裏に残った。



しかし彼女は気づいていない。自分には持ち得ないものを持っている蓮が、雪が持っているものは持っていないということを。

けれどそんなことに思い至る前に、またすぐに雪は客に呼ばれ、テーブルへと走って行った‥。


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<それぞれの心配事>でした。

雪ちゃん‥おつかれさまです。一日が長すぎる‥(読者にとっても)


次回は<単純と複雑>です。


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彼女の甘え

2014-04-20 01:00:00 | 雪3年3部(太一への陰謀~甘い記憶)
胸の中で煮えたぎる苛立ちが、雪の呼吸を荒くする。



雪は図書館のアルバイトに励みながらも、心は先程の出来事に囚われ続けていた。

見るからに手荒なその仕事ぶりに、周りの学生達は遠巻きに彼女を眺めている。

なんであそこでいきなり泣く?!あんなことされたら私が変な人みたいじゃん!



雪の脳裏に、号泣ししゃがみ込む清水香織の姿が蘇った。

鼓膜の奥には、耳障りな泣き声がこびりついている。



冷静な話し合いを望んだのに、事態は予想外の方向へと転がり落ちていった。

雪は想定外の出来事にただ苛立ち、理解不可能な彼女に嫌気が差す‥。



すると不意にポケットの中の携帯電話が震えた。

取り出して着信画面を見てみると、”青田先輩”からの着信文字が踊っている。

 

雪はキョロキョロと周りを見回した後、ダッシュで非常階段の方へ走って行った。

「先輩!電話、大丈夫ですか?」

「うん、少し時間が空いたからね。長くは無理なんだけど」



階段に座った雪は、彼からの電話に出て会話を始めた。

「仕事はどうですか?インターンのし甲斐がありそうですか?」

「うん、そんな難しいことも無いから、すぐに慣れそうだよ」



それは良かった、と雪が答えると、受話器の向こうから彼の声が聴こえる。

「うん、ハハ」



聞き慣れた彼の笑い声が、雪の心を和ませた。

渇いた心に水分が染みこんでいくように、その声は彼女に安心を与える。



そして二人は暫し会話を楽しんだ。

インターンに行き出しても変わらず電話をくれることが、雪には嬉しかった。

「え~そうなんですか?それって正社員より先輩の方が仕事が出来るってこと?」



アハハ、と笑いながら雪が彼を乗せると、淳は事も無げに言い切った。

「当然、俺の方が出来るね」



自信家なのは相変わらずだ。普段と変わらない二人の会話が、雪を安心させる。

インターンの話が一段落すると、今度は淳の方が近況を聞いて来た。

「雪ちゃんの方は?特に変わったことは無かった?」

 

その言葉で、雪は現実に引き戻された気になった。思わず彼に愚痴をこぼす。

「それがぁ~!香織ちゃんがまた~!」



そのまま事情を説明しかけた雪だが、ハッと気がついて続きを口にするのをやめた。

先輩はこんな話聞きたくないですよね、と言って。



しかし淳は先を促した。構わないから話してごらん、と。

その言葉を受けて、雪は言いづらそうに口を開く。

「いやその‥ライオン人形のこととか、服を真似することとか‥。

今日ちょっと問い詰めてみたんですけど‥」




更に事情を説明しようとした雪だが、その続きを口には出来なかった。

立てた両膝に顔を埋めるように俯いて、感情のままを言葉にする。

「いや‥もういいです。口にするのも嫌なくらい!」



事実を口にすることで、もう一度あの苛立ちと向き合うことになると思うとウンザリした。

それきり黙り込んだ雪を心配して、彼が優しく言葉を掛ける。

「清水のせいで‥傷ついたの?」



雪は彼の言葉を受けて暫し考えたが、今自分が抱える感情全てが香織のせいではない気がした。

「あの子もあの子だけど‥それに反応する私も‥」



常に物事を客観視するのは雪の癖だ。いつも自分の非を交えて真実を見据える、気苦労の絶えない彼女の。

淳は彼女の性質を感じながら、穏やかに話を始めた。

「‥それじゃあ、今度会う時は気分転換しに行かなきゃね。

それとライオン人形のことはもう本当に気にしないで。探すにしてももう遅いんだし‥」




淳は過ぎ去ったことには言及せず、これからの未来について話をした。

以前彼女が口にした寂しさを払拭する、温かな言葉で。

「これからも一緒に歩いたり一緒に買い物したり‥。きっとそんな機会がこの先いっぱいあるよ」



雪はそんな彼の言葉に、胸の中に温かくそしてキュンとする感情が湧き出てくるのを感じた。

なんだか‥ジーン‥



渇いて荒んでいた心に、温かな思いが溢れていく。

暫し言葉を紡げずにいた雪だが、やがて淳の方は仕事を再開する時刻が来たようだ。

「あ、そろそろ戻らなきゃ」

「はい!どうぞ戻って下さい。仕事ですもんね」



「ん、気持ち楽にな」 「先輩こそ頑張って!」 「はーい」

そして雪は電話を切った。しんとした空間に、彼との会話の断片が浮かんで消える。



通話時間は十分足らずだった。雪は改めて彼の忙しさを痛感する。

先輩すごく忙しいみたい‥これといった話も出来なかった‥



その短い時間に交わした会話を振り返り、雪は心に申し訳無さが膨らんでいくのを感じた。

うぅ‥てか‥忙しい合間をぬって電話をくれたいわば社会人に、私ってば甘えて愚痴って‥



余裕が無い自分自身を省みて、雪はなんだかいたたまれなくなってきた。先輩の立場をあらためて考えてみる。

会社には清水香織よりもタチの悪い人間や相手にしたくない人も多いだろうし、仕事も大変だろうに‥。

なのに私ときたらアレコレあの子の話しまくって‥気分転換しようって言葉に一人癒やされて‥。




雪は自分の勝手さを省みて何だか恥ずかしくなってきた。穴があったら入りたい気分だ。

どうせ先輩は理解出来ない話なのに‥



昨日香織が自身を真似することについて話をした時も、彼はまるでピンと来ていなかった。

忙しい立場に置かれた彼に理解不能の相談をして、甘えて愚痴って、一人慰められて‥。雪の頭がどんどん下がって行く。

いや‥はじめからあの子が何をしようと無視してればこんなことには‥



雪の思考回路はどんどんマイナス回路を通り、果ては全て自分自身の蒔いた種のような気がしてきた。

むくむくと膨れ上がる自己嫌悪に、思わず大きな息を吐く。

「あーもう!バカみたい!」



雪の嘆きが、静かな空間に浮かんで消えた。

けれど胸の中を占めるモヤモヤとした感情は、いつまでも雪の心にこびりついていた‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<彼女の甘え>でした。

甘える、ということをあまりせずに育ってきたせいでしょうか。雪がこんなにも自分を省みる癖があるのは。

すぐに一人反省会をする雪ちゃん‥なんだか泣けてきますねT T 

香織よ、真似するならこの謙虚さも真似しろ!と言いたくなります‥。


次回は<それぞれの心配事>です。

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恨みの矛先

2014-04-19 01:00:00 | 雪3年3部(太一への陰謀~甘い記憶)
「おいこのクソ女!気ぃ狂ったか?!

お前みたいなのが居ると思って追っかけてみたら‥!大学まで来て一体何やらかしてんだよ!

ブタ箱行きになりてぇかっ?!」




人気のない場所まで静香を抱え走ってきた亮は、誰も使っていないであろう校舎の中にてようやく静香を下ろした。

そして不貞腐れたような姉を前にして、開口一番ブチ切れたのだ。

しかし静香は悪びれる様子なく、亮に向かって冷静に口を開く。

「あの子が監視カメラの無い所にノコノコ歩いて行ったんだけど?」



そんなあの子が悪いんだと言わんばかりの静香に、再び亮はブチ切れた。

大学に一体何をしに来たのか、と声を荒らげて問う。



そして姉弟は、ポンポンとテンポ良く会話を重ねた。

「淳ちゃんに会って、一対一、人間対人間として話をしようと思ったの~」

「ああそりゃご立派だこと!」

「それも淳ちゃん水準に合わせた言葉遣いでね!」



そして静香は一人芝居のように亮の前で語り出した。百面相のように表情がくるくると変わる。

「私に援助すべき金銭に対する君の考えを、一度撤回してみてはどうだろうか?

‥っつーか買い逃した新作の靴とバッグどーしてくれんのよぉぉ!




呆れる亮と、ガルルル‥と噛みつかんばかりの静香。

それでもなんとか気を落ち着けると、不意に気になっていたことを亮に尋ねた。

「てかあんたは何でここにいんの?」



突然話の矛先が自分に向いた。ギクッと亮は身を強張らせたが、誤魔化すように帽子を目深に被り直し言葉を濁した。

「ち、ちょっとな。とにかく早くトンズラしよーぜ!呆れてものも言えねぇ‥」

「それはこっちのセリフよ。あのパッとしない女が淳の彼女だって?」



静香は腕組みをしながら、忌々しそうにそう言った。

”淳の彼女”‥。亮は静香の口からその言葉を聞き、思わず後ろを振り返る。

「え?淳の彼女?さっきお前が困らせてた子がか?」



あんたも信じらんないでしょ、と静香は鼻で嗤いながらそう言った。

高校時代にも淳の彼女は腐るほどいたが、皆容姿のレベルはすこぶる高かった。



あんなパッとしない子と付き合うのは何か理由があるに違いないと静香は踏んだ。

何かを利用しようとしているか、それかただの遊びかー‥。

「お前何勘違いして‥」



亮がその言葉を口にしたのは、”淳の彼女”が先ほどの女ではないということを知っているからなのだが、

静香は亮の言葉を、本気の彼女かそうでないかの”勘違い”だという風に受け取った。ニヤリと口元が歪む。

「本物であろうがなかろうが、事実なんて関係ないわ。ムカつくことに変わりはないって」



そう言った姉が意地悪く嗤うのを目にして、亮は何も口に出来なくなった。

静香は淡々と恨み節を語る。

「彼女が出来たせいで私は後回しにされて、負け犬みたいな暮らしを送る羽目になった‥。

私の代わりにあの女がブランドバッグ持ってくんでしょう?それって許せないと思わない?」




そして静香は眉を寄せると、ブツブツと呟くようにその名を口にした。

「名前も‥何ていったっけ?赤‥赤貝だっけ?‥笑わせるわ」



亮は身が縮む思いがした。ビクッと強張った体に対し、頭の中では警鐘が鳴り響いていた。

どういう理由で勘違いをしているのかは知らないが、今は人違いをしている静香も、やがては雪に辿り着くだろう。

「そ‥!」



その時亮の脳裏に、突如として雪の姿が浮かんで来た。

自分を見上げて安心したように微笑む顔、きょとんと大きな目を見開いた顔‥。

 

どちらの場面にも、共通する感情があった。

彼女に惹き寄せられて、自分の心が動いたその時。胸の中がこそばゆいが焦れったい、そんな感情ー‥。


「‥‥‥‥」



しかし亮は、隣で何かを企むような笑みをたたえる静香を見て、不吉な予感に駆られた。

言い返す言葉を飲み込んで、どうにかなだめる方向へと持って行こうとする。

「そ‥それはよぉ!彼女がいるかもしんねーし、いねぇかもしんねーじゃねーか!

本人にしか詳しいことは分かんねーって!」




しかし静香は亮のその言葉を鼻で嗤った。学校の子達が淳の彼女を知らないわけないでしょ、と。

そして静香は、「機会を見てあの女の根性を叩き直してやる」と息巻いた。これには亮も堪らず声を上げる。

「おい!たわけたことぬかしてんじゃねぇぞ!二度とここに現れるんじゃねぇ!いいな?!」



亮は静香の肩を掴みながら、まず感情的に注意した。そして続けてその言葉の根拠を説明する。

「無駄に敵を作んじゃねぇ。大学で事件なんて起こしてみろ、会長がお前をサポートしてくれる見込みなんて完全になくなんぞ!」



頭使え、と言って亮は静香にその行動の愚かさを諭した。

静香もそれには納得したのか、特に言い返さずじっと亮を見つめていた。



話に切りがついたところで、亮は静香に帰宅を促した。

さっさと帰んぞ、と言って大股で校舎を後にする。



静香は亮の小言を聞きながら、帰路の道中でキャンパスの風景を見回した。

広い敷地に大きな建物が幾つも立ち並ぶ、開放的な空間。そこは静香の目に、この上なく新鮮に映った。



静香はだんだんと気分が良くなり、隣を歩く弟に上機嫌で声を掛ける。

「けど、淳の通ってる大学って広いのね~?」



しかし亮は取り合わず、さっさと出て行くことばかりを口にした。

静香は持っていたサングラスを掛け直し辺りを見回すと、一人呟くように言葉を口にする。

「ふーん‥大学ね‥。面白いじゃん?」



忘れていた胸の高鳴りと心中に渦巻く陰謀が、静香に笑みをもたらしていた。

面白くなる予感を胸の内に秘めながら、静香は大股で歩を進める弟の後ろをついて、歩いて行った‥。


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<恨みの矛先>でした。

しかし亮のパーカー‥。

ジッパー開けてると普通のパーカーなのに‥



フードを上げると顔の下半分隠れるくらいまで来るんですね。防寒対策でしょうか。



けどその下の服はTシャツという亮さん‥。ワイルドだぜ‥。



次回は<彼女の甘え>です。


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