「ぅあ~~~~!」

蓮は身体を大きく伸ばし、腹の底から声を出した。ようやく業務が終わったのだ。
「ちょい休憩~!」「ちょっと!もうちょい頑張んな!」

しかし店の営業時間は終わったが、後片付けや掃除などはまだ残っていた。早くも座り込む蓮に雪の喝が飛ぶ。
すると突然、亮が雪に話しかけて来た。
「あ、ところでよぉ。お前って好きな曲とかって何かある?」

好きな曲?と雪がオウム返しをすると、亮は「クラシックとかで」と追って質問を続けた。
クラシック‥?

その唐突な質問に、雪は暫し手を止めて考え込んだ。
その後方では休んでいた蓮の頭を亮がつかみ、何やらジャレついている。
「うーん‥くるみ割り人形とか?タリラリラリラリラ~♪ってやつ‥」
「そういうんじゃなくて!ピアノの曲!」 「ピアノ?」

亮からの質問に、雪は暫し考え込んだ。いつもはミュージックプレイヤーでポップスを聽くことが趣味な雪だが、
クラシック‥しかもピアノ曲となれば多くは知らなかった。それでも、知っている中で好きな曲を上げてみる。
「あ、イルマの"Maybe"とか!」

ようやく出た雪の好きなピアノ曲だが、亮はそれを知らなかった。
クラシック一本でやってきた亮は、ポップス寄りジャンルのピアノ曲には疎かったのだ。
「そうじゃなくてベートーベンとかショパンとかよぉ、馴染みのあるやつがあんだろーが!知らねーのか?!」

だんだんと口調が荒くなっていく亮に、雪は困り顔だ。そしてそんな二人の会話を聞きながら、蓮は一人呟く。
「俺‥ハウスミュージック‥」

蓮が好きなのは、クラブでかかっているようなハウス音楽だ。
そしてそんな曲を聞きながらならば、大変な仕事も楽しくなるかもしれない、と蓮は思う。
「母さ~ん!うちの店もラジオかけよーよ!」 「はぁ?やっかましいじゃないの」
「社長~!クラシックはどうっすか~?」 「いやお前‥麺食べながらクラシック聴きたいか?」
気がつけば各々が好きなことをしゃべり、何も気を遣わず会話していた。
そして雪は気づいたのだ。ここ最近感じていた、家族間のギスギスが無くなっていることに。

雪はそんな雰囲気の中に居る皆を、一人ぼんやりと眺めてみた。
もうお客さんは居ないのに、何だかかえって騒がしく感じるほどだ。
こんな風に皆が集まってワイワイするのなんて、一体いつぶりだろう‥。

両親に挟まれ、いつも気詰まりだった自分。父の期待に応え母を安心させるべきだと、いつも気を張っていた自分‥。
そんなだった自分が、今何も気にせずそんな温かな風景を見ていることが、雪はなんだか嬉しかった。
とにかく‥あの二人が来てくれて‥

それはやはり、蓮と亮のお陰に他ならないと雪は感じていた。なんだか心が温かく、雪は自然と笑顔になった。
人の性質として陰と陽があるならば、二人は間違いなく陽だ。理解出来ないこともあるけれど、
自分が持ち得ないものを自然と差し出す二人の前に居ると、雪は気が楽になるように感じる‥。

すると閉店したはずの時間にもかかわらず、店のドアが開いた。

皆がそこに視線を送る中、入って来たのは彼だった。
青田淳である。

雪は、突然の彼の登場に目を剥いた。
「えっ?」

雪の姿を認めた彼は、ニコリと嬉しそうに微笑む。
「雪ちゃん!やっぱりここだった」

そう言って淳はニコニコしながら店に入って来た。雪は驚き、亮は見るからに顔を顰める。
「せ、先輩!」 「!!」 「電話繋がらないから、仕事してるんじゃないかなと思って」

そう言って淳は微笑んだ。
彼の登場により、赤山家+亮に激震が走る。蓮と母は歓迎ムード、父は初めて見る淳に懐疑的な表情だ。
「おまっ‥お、お、お前‥!」

そして亮は不意に現れた淳に目を剥いて驚いていた。雪が父親に淳を紹介しようと着席を促そうとした瞬間、
亮は淳の腕を取って猛ダッシュで外へ出た。
「テメーちょっとこっち来い!」

取り残された赤山家は、そのままその場で固まった。
家族四人は沈黙したまま、嵐のように去って行った二人の残像を追う。

ふと、困惑中の父親が蓮に尋ねた。
「‥で、アレ誰だ?」 「だーから姉ちゃんの彼氏!」

明るくそう言った蓮の言葉に、父親は眉を寄せて絶句した。
なにっ

そして入り口の方へともう一度視線を流したが、亮と娘の彼氏はどこかへ行ってしまったままだ。
どこか不機嫌な父はそのまま店の中にて、その対面の時まで暫し待つことになった‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<温かな風景>でした。
雪ちゃんが適当に(?)好きだと言った、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」
そしてその後、本心で(?)好きだと言った、イルマの「Maybe」
すごく良い曲ですね~^^他の曲もすごくステキ!脳内プロモが出来上がりそうです。
そして当然のように家族の一員になっている亮さんが素敵な回でしたね。
何の不自然もなくその場に溶け込めるのは、彼の気がついてない彼の長所でしょう。同じく”陽”の蓮も然り。
そしてそんな中で現れましたね、”陰”の彼が‥笑
次回は<伝わらない訴え>です。
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蓮は身体を大きく伸ばし、腹の底から声を出した。ようやく業務が終わったのだ。
「ちょい休憩~!」「ちょっと!もうちょい頑張んな!」

しかし店の営業時間は終わったが、後片付けや掃除などはまだ残っていた。早くも座り込む蓮に雪の喝が飛ぶ。
すると突然、亮が雪に話しかけて来た。
「あ、ところでよぉ。お前って好きな曲とかって何かある?」

好きな曲?と雪がオウム返しをすると、亮は「クラシックとかで」と追って質問を続けた。
クラシック‥?

その唐突な質問に、雪は暫し手を止めて考え込んだ。
その後方では休んでいた蓮の頭を亮がつかみ、何やらジャレついている。
「うーん‥くるみ割り人形とか?タリラリラリラリラ~♪ってやつ‥」
「そういうんじゃなくて!ピアノの曲!」 「ピアノ?」

亮からの質問に、雪は暫し考え込んだ。いつもはミュージックプレイヤーでポップスを聽くことが趣味な雪だが、
クラシック‥しかもピアノ曲となれば多くは知らなかった。それでも、知っている中で好きな曲を上げてみる。
「あ、イルマの"Maybe"とか!」

ようやく出た雪の好きなピアノ曲だが、亮はそれを知らなかった。
クラシック一本でやってきた亮は、ポップス寄りジャンルのピアノ曲には疎かったのだ。
「そうじゃなくてベートーベンとかショパンとかよぉ、馴染みのあるやつがあんだろーが!知らねーのか?!」

だんだんと口調が荒くなっていく亮に、雪は困り顔だ。そしてそんな二人の会話を聞きながら、蓮は一人呟く。
「俺‥ハウスミュージック‥」

蓮が好きなのは、クラブでかかっているようなハウス音楽だ。
そしてそんな曲を聞きながらならば、大変な仕事も楽しくなるかもしれない、と蓮は思う。
「母さ~ん!うちの店もラジオかけよーよ!」 「はぁ?やっかましいじゃないの」
「社長~!クラシックはどうっすか~?」 「いやお前‥麺食べながらクラシック聴きたいか?」

気がつけば各々が好きなことをしゃべり、何も気を遣わず会話していた。
そして雪は気づいたのだ。ここ最近感じていた、家族間のギスギスが無くなっていることに。

雪はそんな雰囲気の中に居る皆を、一人ぼんやりと眺めてみた。
もうお客さんは居ないのに、何だかかえって騒がしく感じるほどだ。
こんな風に皆が集まってワイワイするのなんて、一体いつぶりだろう‥。

両親に挟まれ、いつも気詰まりだった自分。父の期待に応え母を安心させるべきだと、いつも気を張っていた自分‥。
そんなだった自分が、今何も気にせずそんな温かな風景を見ていることが、雪はなんだか嬉しかった。
とにかく‥あの二人が来てくれて‥

それはやはり、蓮と亮のお陰に他ならないと雪は感じていた。なんだか心が温かく、雪は自然と笑顔になった。
人の性質として陰と陽があるならば、二人は間違いなく陽だ。理解出来ないこともあるけれど、
自分が持ち得ないものを自然と差し出す二人の前に居ると、雪は気が楽になるように感じる‥。

すると閉店したはずの時間にもかかわらず、店のドアが開いた。

皆がそこに視線を送る中、入って来たのは彼だった。
青田淳である。

雪は、突然の彼の登場に目を剥いた。
「えっ?」

雪の姿を認めた彼は、ニコリと嬉しそうに微笑む。
「雪ちゃん!やっぱりここだった」

そう言って淳はニコニコしながら店に入って来た。雪は驚き、亮は見るからに顔を顰める。
「せ、先輩!」 「!!」 「電話繋がらないから、仕事してるんじゃないかなと思って」

そう言って淳は微笑んだ。
彼の登場により、赤山家+亮に激震が走る。蓮と母は歓迎ムード、父は初めて見る淳に懐疑的な表情だ。
「おまっ‥お、お、お前‥!」

そして亮は不意に現れた淳に目を剥いて驚いていた。雪が父親に淳を紹介しようと着席を促そうとした瞬間、
亮は淳の腕を取って猛ダッシュで外へ出た。
「テメーちょっとこっち来い!」

取り残された赤山家は、そのままその場で固まった。
家族四人は沈黙したまま、嵐のように去って行った二人の残像を追う。

ふと、困惑中の父親が蓮に尋ねた。
「‥で、アレ誰だ?」 「だーから姉ちゃんの彼氏!」

明るくそう言った蓮の言葉に、父親は眉を寄せて絶句した。
なにっ

そして入り口の方へともう一度視線を流したが、亮と娘の彼氏はどこかへ行ってしまったままだ。
どこか不機嫌な父はそのまま店の中にて、その対面の時まで暫し待つことになった‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<温かな風景>でした。
雪ちゃんが適当に(?)好きだと言った、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」
そしてその後、本心で(?)好きだと言った、イルマの「Maybe」
すごく良い曲ですね~^^他の曲もすごくステキ!脳内プロモが出来上がりそうです。
そして当然のように家族の一員になっている亮さんが素敵な回でしたね。
何の不自然もなくその場に溶け込めるのは、彼の気がついてない彼の長所でしょう。同じく”陽”の蓮も然り。
そしてそんな中で現れましたね、”陰”の彼が‥笑
次回は<伝わらない訴え>です。
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