ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

教育は投資

2023-05-20 09:00:31 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「景気で変わる?」5月13日
 書評欄に、大阪大特任教授大武文雄氏による、『「少人数学級の経済学」北條雅一著(慶應義塾大学出版会)』についての書評が掲載されていました。その中に、『少人数学級にすると学力が向上するかどうかについては、強いエビデンスがあったわけではない』という記述がありました。『多額の予算をかけて少人数学級を実現しても偏差値を1か2上げるだけ』という記述もありました。
 その通りだと思います。都立教育研究所が30年以上前に行った研究の結果もそうでした。多くの研究が明確な違いを示せなかったからこそ、常に少人数学級の実現は遅々とした歩みになってしまったのです。ところが、北條氏の著書は全く異なる観点からこの問題に対する答えを導き出しているのです。
 『学級規模を小さくしたためにどれだけ予算が必要になるか(略)教員人件費は児童1人あたり年間4万6千円増加するというのが分析結果だ。つぎに、学力向上によって、本人の所得がどの程度向上するか(略)偏差値が1ポイント上がれば、賃金が0.08~0.1%上昇する(略)その結果、学級規模縮小による小学校6年間の教育費の増加の収益率は約5%になるというのだ。金利が5%を超える金融資産はなかなかない。これだけの収益率がある投資なら少人数学級に価値がある』です。
 感心しました。こうした論法でならば、財布のひもが固い財務省も納得するかも、と思ってしまいました。しかしそこで、あることを思い出してしまいました。私が若かった頃、郵便局の定額貯金の利率は、8%近くだったということです。ただ郵便局に預けておくだけで8%であれば、5%の収益率など、マイナス要素でしかありません。北條氏の論理は、日銀の異常な低金利政策が続く今の時代だからこそ成り立つものであり、もし将来6%以上の金利が一般的になったときには、少人数学級は割りが合わない、むしろ教員数を減らした(学級規模の拡大)方がよいという結論にひっくり返ることになってしまうのでは、と思ったのです。
 もちろん、経済に素人の私が考えるようなことは予め理論武装してあるのでしょう。経済的な視点で見る場合、金利だけでなく賃金上昇率や物価、失業率など多くの指標を関連付けて結論を出す必要がありますから、単純な話ではないでしょう。そうと分かってはいても、なんだか腑に落ちないのです。
 おそらくそれは、学校教育の成果を、子供が得るであろう経済的な利益という視点からだけで測ろうとするという考え方に対する違和感なのだと思います。それは、子供に「何のために勉強するの?」と訊かれたとき、高給を得るためだよと答えることに躊躇いを覚える感覚と同じです。
 子供の幸せこそが尺度になるべきであり、例えば、先人の築いた建造物を目にして往時の人々の思いを想像し共感することによる満たされた思い、というようなものが人生をどのくらい豊かにするか、というような視点が欠けているということです。少人数学級と幸せ度数というような研究をしている人はいないのでしょうか。

 

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