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横浜映画サークル

サークルメンバーの交流ブログです。

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映画『凶悪』残虐性シリーズ(その4-4)性的サディズム論の誤り他

2016-04-21 21:46:37 | 映画凶悪・戦争のサイコパス残虐性シリーズ

(その4-3)の続き。

5)サイコパスの逆転安全欲求2(逆転残虐欲求)

健常者が「恐怖・残虐を避ける」のは前項の「痛み」を避けるのと同様、生存欲求の一部の安全欲求と一体となったものであるが、サイコパスはこの「恐怖・残虐」の情動が逆転している。

健常者の安全欲求2(恐怖・残虐回避欲求)

サイコパスの逆転安全欲求2(逆転残虐欲求、真空化した安全欲求)

恐怖・残虐を避ける。生き物や他人に恐怖・残虐を求めることはない。

衝動的に恐怖・残虐を求める。生き物や他人に恐怖・残虐を与えることが快感になる。

サイコパスが求める恐怖・残虐は、健常者が遊園地のお化け屋敷や乗り物でスリルを味わうのとは全く別次元のもの。健常者は扁桃体が恐怖などで反応するのを楽しむが、サイコパスは扁桃体が反応せず、恐怖や残虐で生ずる「逆転快」の報酬系ドーパミンを求めている。サイコパスの「残虐」が快感になるメカニズムは前項4)の「痛み」が快感になるメカニズムと同様である。健常者の報酬系は困難に直面したときに、少しでも前進することを繰り返し「何度も刺激を受けることにより、ドーパミンを放出する神経系のネットワークが強化され」最終的に困難を乗り越える。「やる気のレベルアップに繋がる」報酬系である〔痛みと鎮痛の基礎知識―情動〕サイコパスの報酬系「逆転快」はますます残虐になるように作用する。

(a)サイコパスの「逆転快」の強烈さを麻薬の関係で掴む

サイコパスが求める「逆転快」の報酬系ドーパミンは麻薬(ここでは快感をもたらす薬物全体を代表して麻薬とする)と同様の強烈なもの。健常者では脳内でドーパミンは常に一定量が作られ、回収されて基準量(動的平衡)になっている。麻薬はそのメカニズムに作用して、下記3系がある。

アンフェタミン系(覚せい剤):ドーパミンの放出する神経そのものを活性化する。どんどん放出する。

オピオイド(コカイン、アヘン)系:ドーパミンの回収を阻害する。回収がないのでどんどん増えることになる。

モルヒネ系:ドーパミンの放出を抑える働きをしている神経を働かなくする。どんどん放出する。

「一度ドーパミンの快感を味わうと、再び同様の快感に浸りたいという気持ちが湧いてくる」〔痛みと鎮痛の基礎知識―情動〕。麻薬の場合には繰り返すうちに快感が得られなくなり、麻薬の頻度や量が増大するが、これは脳内のドーパミン基準値そのものが上がり、わずかな麻薬ではドーパミンの増加が得られなくなったため、あるいはドーパミン受容体の感受性が落ちたためと考えられる。サイコパスの残虐行為についても麻薬と同様の作用になる。少年Aの状態がそのことをよく示している。

「小学6年に上がると、猫殺しは更にエスカレートした。殺害から殺害までのピッチが短くなり、手口はますます残虐を極めた。『死を理解するため』というもっともらしい大義名分は消え去り、ただただ殺し解体することが快感だった。快感はドラッグと同じで“耐性”がある。一匹また一匹と猫を捕まえ、殺害方法がグレードアップするのと反比例して、最初の頃のように、理性も思考も倫理も丸ごとぶっ飛ぶようなエクスタシーは得られなくなった中学に上がる頃には猫殺しに飽き、次第に、『自分と同じ“人間”を壊してみたい。その時にどんな感触がするのかこの手で確かめたい』という思いに囚われ、寝ても覚めても、もうそのことしか考えられなくなった〔『絶歌』p69〕。」として当時10歳の彩花さんをハンマーで殺害し、別の女子をすれ違いざまにナイフで刺した。彩花さんの頭部の砕け方を診た脳外科医は「これは、ハンマーか金属バットか鉄パイプで殴られた跡です。バットなら思い切りスイングしたと思います。」〔『彩花へ-「生きる力」をありがとう』1998年山下京子p77:彩花さんの母親の手記〕と話した。サイコパスは逆転快の報酬を求め手加減をしない。

サイコパスの逆転快は麻薬のオピオイド系(コカイン、アヘン系)と同様の可能性がある。オピオイド系脳内神経伝達物質の「β-エンドルフィンはアヘンに極めて近い構造」を持ち、ドーパミンの回収を阻害する機能を持っている。「少量のドーパミンしか分泌されなくても、β-エンドルフィンがあれば、ドーパミンが10~20倍も出たのと同じ作用がある」「ドーパミンとβ-エンドルフィンが同時に分泌されると、人間は非常に恍惚した状態になる」〔『脳・神経のメカニズム』http://www.k2.dion.ne.jp/~yohane/00%200%20seibutu5.htm (2016/3/11閲覧)〕。サイコパスの逆転快が麻薬のどのタイプと類似しているかはまだはっきりしないが、サイコパスにとって残虐行為が麻薬と同じ強烈な作用になっていることは間違いない。そのため止めることができず繰り返す。

健常者は「快」「不快」によるドーパミンの増減の変化は内容にもよるが比較的短時間で生じ、それが元に戻るときの「逆転不快」「逆転快」が強く生じないよう時間的にゆっくり変化するよう制御されている。サイコパスはこれも逆転している。「逆転快」があたかも健常者の「快」であるかのように短時間で生じる。この時間的な変化はまだ計測された論文は無いようであるが、サイコパス理解には重要と考える。

6)サイコパスの性的サディズム論の誤り

サイコパスの「性的サディズム」という性欲を中心に置いた考え方は誤っている。サイコパスが残虐行為時に性的な反応を伴うのは、扁桃体の機能不全から生じたもので、性欲から生じたものではないことが脳内の情報回路から判明する。以下その説明。

「本能行動の中枢は視床下部にあり、本能的な欲求が満たされると主観的には快情動が生じる」〔痛みと鎮痛の基礎知識―内分泌系ホルモン〕。本能行動は食欲、飲水欲、性欲、睡眠欲、体温保持欲などである。

視床下部位置は下図左の通りで、左右の扁桃体に挟まれた中央にある。下図右は視床下部内の各核(共通の特徴を持つ神経細胞集団で周囲に溶け込んだ状態のものを一般的に核と言う)の機能。食欲に係る外側核、腹内側核。性行動に係る背内側核、内側視索前核。睡眠欲に係る視交叉上核。ドーパミンを分泌する10A神経の内側前脳束や12A神経の弓状核がある。下垂体には視床下部で産生された性ホルモンなどが一時蓄えられ、扁桃体からの指令で血液内に放出されて生殖器などへ至る。扁桃体の指令の下で、「視床下部がすべての性現象を決めている〔「脳内物質」http://www.geocities.jp/eastmission7/B-bussitsu.html (2016/3/10閲覧)〕」。扁桃体そのものの機能については本シリーズ(その2)「1.17 扁桃体の位置と具体的機能とサイコパス」参照。

画像出典左:嗅覚の特異性http://www.kosui.jp/FFcote.htm (2016/3/6閲覧)画像出典右:視床と視床下部http://kanri.nkdesk.com/hifuka/sinkei27.php (2016/3/6閲覧)

(a)健常者の性的快感

下図は視床下部に係る情報回路を示す。異性などの五感からの感覚入力(情動刺激)は図の左上の視床経由などで偏桃体へほぼ直接入力するものと、大脳新皮質(前頭前野を含む)へ送られこれまでの学習や経験などで処理された精緻な情報として時間遅れで間接的に偏桃体へ入力されるものがある。扁桃体へは内臓情報も脳幹などから入力されており、直接、間接および内臓情報で性的な準備が整っていれば生命の大原則で性的興奮の指示を視床下部へ発するとともに側坐核へドーパミンの分泌「快」を指令する。すなわち性的快感の源、性欲の源は扁桃体にある。ドーパミンは関連部位(大脳新皮質、扁桃体、視床下部)全体に放出され強い快感になる。それらは海馬を通して記憶回路で記憶され、再び快感を得ようとする基礎になる。興奮にはノルアドレナリンなどが係るが、複雑になるので省略。ドーパミンで基本構造はわかる。下図の右の腹側被蓋野はドーパミンを産生するA10神経系の起点となる部位で、ここでは側坐核と一体と捉えて頂いてよい。下図の右上の報酬性刺激とは、ここでは複雑さを避けるため偏桃体などから側坐核へ入力されるドーパミン放出指令情報と同じと考えてください。

画像出典:Neurogenesis 脳と心のお話(第四話)「恐怖する脳、感動する脳」国立精神・神経センター神経研究所微細構造研究部 湯浅 茂樹 http://www.brain-mind.jp/newsletter/04/story.html (2016/3/10閲覧)

b)サイコパスの快感は性欲とは別物

性欲は扁桃体で生ずるもので、サイコパスにはそれがない。サイコパスには性欲が存在しないと言ってもいい。サイコパスは視床下部への扁桃体の指令が存在せず、また上図で解るように大脳新皮質(前頭前野)からの視床下部への指令回路がない。このことは前項の図〔画像出典:「偏桃体の構成と機能、Ⅲ)扁桃体への入力(系)」川村光毅〕でも同様である。サイコパスの視床下部は側坐核のドーパミン増減でのみ制御される。すなわち、ドーパミンが増大するいかなる行為でも、性的な反応をすることになる。サイコパスはドーパミン分泌の「逆転快」を求めて残虐行為を行っており、そのドーパミン増加の付随反応として性的反応がある。性的反応を求めて残虐行為をするのではなく、その逆になる。上図で解るように側坐核からのドーパミンは機能不全になっている偏桃体へも投射されており、サイコパスは扁桃体がドーパミンでわずかに反応する生命の叫びともいえる快感を得ると考えられる。サイコパスの扁桃体は機能不全で指令を出すことはないが、ドーパミンの報酬は受け入れる一方通行になっている。

少年Aは次の場面で勃起し、射精している。いずれも恐怖、残虐、認知などの「逆転快」でドーパミンが分泌されたときと考えられる。性欲とは関係がない。

・切り刻んだ猫の頭にレンガを置き、上から踏み潰し、脳が出てぐちゃぐちゃになったとき〔『絶歌』p63〕

・淳君の首を切断したとき〔ウィキペディア:神戸連続児童殺傷事件2016/03/12閲覧〕

・淳君の目と口を裂いた頭部を風呂場で洗ったとき「首を洗った時も興奮して勃起し、淳君の髪の毛にクシを入れながら射精した」〔『絶歌』p88、ウィキペディア:神戸連続児童殺傷事件2016/03/12閲覧〕

・淳君の頭部を正門に置き5、6分ほど眺めていたとき「性器に何の刺激も与えてないのに、何回もイッてました」〔ウィキペディア:神戸連続児童殺傷事件2016/03/12閲覧〕。

少年Aは「女性に全く興味がない」〔『絶歌』〕。精神鑑定医に「君はマスターベーションの時にどんなことをイメージするの?」と聞かれたとき「人を殺して身体を裂き、内臓を貪り喰うシーンを想像します〔『絶歌』p134〕」と正直に答えている。サイコパスは繰り返した残虐行為で前頭葉が学習し残虐場面を想像するとドーパミンが分泌されると考えられる。そのドーパミンで性的反応を起こす。これはドーパミンの報酬回路で、性欲の回路ではない。また、按摩器の振動を使ってマスターベーションをしている〔『絶歌』p47〕が、上図でわかるように視床下部から弱い神経信号が側坐核へ入力しており、射精時に視床下部からの指令で側坐核からドーパミンの放出があり、快感があると考えられる。この快感は繰り返されて強化される。これは健常者にもあるが、射精だけに係る快感で、扁桃体を含めた総合的な性の快感の一部となるもの。また少年Aには射精時に常に「尿道に針金を突っ込まれたような」「尿道から釣り針を引っこ抜いたような〔『絶歌』p63〕」激痛があり、精神科医に相談した答えは「性欲に対する罪悪感の表れ」〔『絶歌』p49〕と的外れなフロイト派的な診断。この激痛は、もし精神的なものの場合、偏桃体からは何も指令がない=「快ではない」、視床下部からは射精の「快である」と矛盾した情報が性器に伝わり、本来偏桃体の判断が優先するはずがそうならない矛盾した状態を反映していることが考えられる。すなわち性システムが成立していないことが係っている。少なくとも「罪悪感」というようなものではない。また痛みがAにとっては「快」と作用している特徴がある。淳君殺害後は2年間勃起や射精することがなかったと告白しているが、Aは性システムの問題を抱えていることが分かる。健康な青年であれば2年間勃起や射精がないことはない。この2年間Aは少年院に入っており残虐行為ができない状態でドーパミン分泌の快感を味わう機会がなかったと考えるのが妥当。

次の例も性欲は関係なく「逆転快」の報酬系ドーパミン分泌による付随反応と考えられる。

・「大阪姉妹殺害事件2005年」前項「1)サイコパスの逆転生存欲求」で述べた事件の犯人山地悠紀夫は16歳の時に金属バットで母親を滅多打ちにして殺害した時に射精。

・本シリーズ(その2)で述べたテッド・バンディ(Theodore Robert Bundy =Ted Bundy)は女性を切り刻んだ時に勃起し、切断した女性の頭部の口の中に射精。

・15人の男性を殺害したD.ニルセン(Dennis Andrew Nilsen)。男性死体を床下に隠し、時々床を剥がして取り出しては興奮を味わい、腐敗が進み、蛆が湧くまで肛門性交を繰り返した〔M.ストーンp194〕。

・性的乱交や結婚・離婚を異常なまでに繰り返すサイコパスは、相手への何らかの虐待を伴うと考えられる。サイコパスは「逆転快」報酬系ドーパミンを求めて物理的精神的虐待を繰り返すので、結婚が成立しない。また、偏桃体のコントロールがないので、わずかなドーパミン変化でも容易に勃起現象を起こすことがあるため、性欲が亢進したと誤解される。女性の場合、勃起がないので、「性的亢進」と誤解される現象は観察されないと考えられる。

扁桃体を破壊した動物が相手かまわず、例えばウサギがニワトリに交尾を挑むのは、ドーパミンの報酬系が温存されているためで、性欲の亢進とは別のもの。このウサギの性欲は扁桃体とともに破壊されたと考えるべきである〔本シリーズ(その2)「1.6 扁桃体を破壊した動物実験でも見られるサイコパスの特徴行動:K.B.症候群の(4)」参照〕。サイコパスは扁桃体の性欲は存在しないが、性器そのものは健全で精子や卵子を産生することはでき子孫を残すことができる。また、ドーパミンを産生し報酬系を形成するA10神経系や側坐核は機能している。サイコパスは性システム以外にも、視床下部が係る本能行動に次項のような問題を抱えている可能性がある。

(c)サイコパスの性欲以外の本能行動の問題

「6)サイコパスの性的サディズム論の誤り」の画像出典右:「視床と視床下部」の図が示すように、視床下部が係る本能行動には性欲以外に食欲、飲水欲、睡眠欲、自律神経などがあり、いずれもサイコパスは問題を抱えている可能性がある。

(ⅰ)食欲、飲水欲の問題:元少年A「食べることに興味がなかった。もし食事の代わりにガソリンでも飲んで動けるのならのなら、間違いなくもう2度と“食べる”という行為に従事ないだろう。冗談に聞こえるかもしれないがいたって本気だ。それほどに僕は“食べる”という行為が煩わしい」「“味を楽しむ”と言う概念は持っていない」〔『絶歌』p218〕。元少年Aはプレス工を「自立した人生を始めたい」として辞め、カプセルホテル生活を約5か月行っているが「食費を節約するためカップラーメンを大量に買い込み、ホテルのロッカーにぎっしり詰め込み〔『絶歌』p235〕」朝晩カップラーメンを食べていたが苦にしていない。多くの健常者は、栄養価や見た目やおいしさを求め、食事を楽しむ。元少年A「食事には頓着しないが水分はよく摂る。よく摂るというよりも、過剰に摂る。夏でも冬でも、特にストレスがたまると僕は異常にのどが渇く。1日3リットルはフツーに飲む〔『絶歌』p218〕」。元少年Aは食欲や飲水欲に何らかの問題を抱えていると思われる。サイコパスは食事内容からくる健康問題を起こしやすい。

(ⅱ)睡眠欲の問題:後で述べる例13北九州監禁殺人事件のサイコパス松永太、例14尼崎監禁殺人事件のサイコパス角田美代子は徹夜で何日も怒鳴り続けたり、監禁犠牲者への食事を午前2時ごろだけに与えたりすることがある。これは視床下部の視交叉上核(体内時計)と密接な関係があり睡眠をもたらすメラトニンを分泌する松果体が偏桃体からの指令がないためにうまく制御されず昼夜が逆転したりしているためと考えられる。

(ⅲ)自律神経の問題:サイコパスの特徴の一つに夜尿症があるが、視床下部の自律神経に問題が生じていると考えられる。〔本シリーズ(その4)「1.17 扁桃体の位置と具体的機能とサイコパス(2)扁桃体の構造と具体的機能とサイコパス」参照〕

7)サイコパスが優しい顔から悪魔に豹変するとき

昼間は普通の人として振舞い、夜に突如殺人鬼に豹変するような特徴がある。これは、サイコパスの大脳新皮質(社会脳の前頭前野や知識の側頭葉を含む)は正常で、健常者と同様に学習し、経験し、判断できることから生じている。すなわち大脳新皮質が行動を支配しているときは優しく正常に見え、情動の逆転欲求報酬回路に切り替わったところで悪魔に豹変する。後の例14「尼崎監禁殺人事件」主犯サイコパス角田美代子は「優しさと残虐の両面がある」(三26回谷本明証言)。健常者には悪魔に相当する逆転欲求報酬回路は存在しない。したがって健常者にはこの豹変を自分の延長上では理解できない。

(a)豹変の3つの時期と破壊的自己表出

サイコパスの行動は次の3時期のサイクルとなっている。

・懐柔(仮面)期:健常者や弱者を丸め込む時期=大脳新皮質が行動を支配している時期=優しい顔の時期

・豹変(悪魔化)期:健常者や弱者を精神的暴力的に支配できると感じた瞬間=逆転欲求が行動を支配した瞬間=悪魔が出現した瞬間。破壊的自己表出が現れた瞬間。一度豹変すると残虐行為で逆転欲求満足を求め続け、外部からの強制力がない限り、または満足を達成するまでとどまることはない。

・満足(悪魔)期:逆転欲求満足のドーパミンを味わい陶酔している時期。サイコパスはこの満足期に記録や犠牲者の一部などの『宝物』を残す。これらは「逆転快」の陶酔を後で再び呼び覚ますためと考えられる。

破壊的自己表出とは:逆転欲求が外化すること。サイコパスが犠牲者の心や人間関係や肉体や創造物を破壊する行為。サイコパスの豹変(悪魔化)期に現れる特徴。外向的サイコパスでは激しく怒鳴り散らし、激高する姿になる。健常者の創造的自己表出の正反対になる。健常者の破壊は創造が背景にある創造的破壊で創造的自己表出の一部になる。サイコパスの破壊的自己表出には創造がない。ただ破壊する。

(b)サイコパスは健常者が逆らえない状態になったとき豹変期に入る、それまで仮面をかぶる

サイコパスは相手が逆らえない状態と感じた時に、悪魔に豹変する。それまでの理性的な会話はすっ飛び、激しい怒りや暴力になる。サイコパスの脳内で大脳新皮質の支配から逆転欲求の支配に移行した瞬間である。健常者には、なぜそんなに激しく怒っているのか解らず、頭が真っ白な状態になり、サイコパスに屈する。後の例13では屈強な元警官が腕力のないサイコパス松永に屈し虐待死され、例14では元暴力団員で体に入れ墨が入ったマサが腕力では全く劣る女性サイコパス角田美代子に屈し、虐待されている。マサは底知れない恐ろしさに抵抗できなくなると述べている。サイコパスの心を読めない、何考えているかわからないことが恐怖となり屈してしまうきっかけになっている。この詳細はそれぞれの例の項で説明する。相手が反撃しない自閉症者や弱い子供などの場合、また自分が武器を使いって相手より優位である場合には、サイコパスは始めから悪魔となる。また、寝込みなど反撃できないところを襲う。サイコパスの合理的判断は正常なので、残虐行為が可能になるまでじっと耐え続けることができる。残虐行為で懲役刑となっても、模範囚としてじっと耐えて刑期を終え、出獄して直ちに残虐行為を行うサイコパスは時々見られる〔M.ストーン〕。戦争を渇望する『優秀な』サイコパスは、戦争が起きるようあらゆる能力を総動員して着々と進めることができ、戦争が起きるまで、戦争の「逆転快」報酬系ドーパミンの快感を予想してほくそ笑み、じっと耐え忍ぶ

8)サイコパスは虐待行為に全能力を注ぐ

サイコパスの逆転欲求「逆転快」報酬系ドーパミンの追及は、サイコパスの全能力を総動員して行われる。あたかも麻薬患者がすべての能力を総動員して麻薬を手に入れようとするのと似ている。

(a)サイコパスは虐待道具、武器、薬物などの知識をフルに使って残虐行為をする

サイコパスは論理思考や知識の大脳新皮質は正常に機能しているため、あらゆる道具、武器、薬物などの知識をフル回転し、自ら訓練をして残虐行為を行う。逃げないようにする監禁部屋や虐待のための道具を能力の総力を挙げて工夫する。何十人もの女性を殺害したデイヴィッド・パーカー・.レイ(David Parker Ray)は単独サイコパスであるが「拷問部屋」を作った。防音、滑車、鎖、ウインチ、テーブル、拘束具、スタンガン、弱電流の牛追い棒、釘で覆われた張形、婦人科用器具、注射器、薬品、強化壁と強化ドア、カメラ、モニターが備え付けられていた。〔本シリーズ(その2)「1.7 サイコパスは見た目や会話では分からない」、及び後の項(2)平和時のサイコパスの特徴行動5)監禁虐待〕参照。

(b)サイコパスは執念深く何年たっても特定の犠牲者を捕まえようとする

サイコパスは知識/能力を総動員して、あらゆる工夫をして、犠牲者を逃がさないようにし、また、逃げた犠牲者を捕まえる。犠牲者を逃げられないようにすることは単独サイコパスにも見られるが、単独サイコパスは一人で暴力装置を使って犠牲者を逃がさないようにするのに対して、まんじゅうサイコパスは、まんじゅうの皮となった人々を使いこなして、またまんじゅうの皮自身が疑似サイコパス化して、犠牲者を逃さない

サイコパスにとって犠牲者は麻薬患者の麻薬と同じ位置を占め、そのためサイコパスは、あたかも麻薬患者が何年たっても麻薬を求める衝動が消えないように、特定の犠牲者を何年たっても執拗に追い求める。サイコパスの「逆転快」報酬系ドーパミンを与えてくれた特定の犠牲者が記憶に刻まれている。逃げるものを虐待することは逃げないものを虐待するより逆転愛情欲求が一層満足され「逆転快」報酬系ドーパミンの分泌が大きいためと考えられる。「執拗なストーカー」は逆転欲求を持つ者の行動とすると理解できる。サイコパスの逃走者を捕まえる執念深さは、後の例14「尼崎監禁殺人事件」で具体的に視る。〔本シリーズ(その3)1.15(6)サイコパスの遺伝要素と環境要素」に述べた執念深いストーカーに通じる。サイコパスは思い込むと注意を他に向けることができない特性を持つ」参照〕

9)サイコパス自身は自分をどう感じているか

「何十件もの研究から、サイコパスは世の中を他の人とは違って感じていることが分かっている」〔「別冊日経サイエンス2013/4/18号、心の迷宮、脳の神秘を探る。サイコパスの脳を覗く、ニューメキシコ大K.A.キール(Kent A. Kiehl)p9。以下日経サイエンス、サイコパスの脳を覗くK.A.キール〕サイコパスは麻薬常習者と似ており、自分でおかしい、何とかしなければと思いながらも残虐行為がやめられないそれだけ強い逆転欲求の衝動に支配されている。逆転欲求は、初めは弱いが、繰り返すうちに徐々に強くなっていき、ついには寝ても覚めても、もう残虐行為のことしか考えられなくなる。前項「5)(a)サイコパスの「逆転快」の強烈さを麻薬の関係で掴む」参照

(a)自分がなぜ残虐行為をするかわからない

サイコパスには自分が異常であることに気づいているものがいるが、なぜこのような異常になっているのかは自分でも分からない

サイコパス犯罪の犯人は自分でも動機が分からないので取調時に思いつく適当な理由を言う。また、取調官(健常者)が「…ではないか」と自分で理解できる範囲の理由を誘導して、調書の体裁を整えることがあるので、サイコパス犯罪を混乱させる。サイコパス犯罪の動機は、逆転欲求の追求にある。この動機は、取調官(健常者)には自分のどこを視ても見つけることができず、理解できないもので、いまの調書の体裁が整わない。この動機は偏桃体機能不全の病気として初めて理解でき、調書にサイコパスを扱う区分を設ける必要がある。 

元少年Aは少年院に面会に来た母に「母さん、よう聞いてな。僕は病気やねん。僕がこんなふうになってもぉたんは、母さんのせいとちゃうねん。誰のせいでもないねん。せやから、母さんには自分を責めっとってほしい〔『絶歌』p145。以下ページのみ〕」。「あれほど残虐な、許されない罪を犯しながら、自殺もせず、発狂するわけでもなく…、自分はいったいどういう人間なのだろうp203」。「自分は人間の皮をかぶった人殺しのケダモノだp277」。弟への虐待やダフネ君を前歯が折れて血だらけになるまで殴ったことなどをなぜ行うか分からないでは済まされることではないと思う。でも、本当にどうしても分からないp76p269」。「自分の抱える異常性と向き合うことから逃げて逃げて逃げ抜いて」「結果あのような事件に至ったのではないだろうか…p84」。元少年Aはフロイトの「死の欲動」などを調べ、自分の異常性を理解しようとしているが、結局わからないまま、2015年の『絶歌』出版に至っている。

サイコパスは初めから自分が健常者と違うことに気が付いているわけではない、ある日気が付く。少年Aは猫の虐待の感覚を他の人も同じように感じていると思い、その話を友達にし、友達は全く感じていないことに愕然としている。またサイコパスには自分が異常だと気が付かずに、他の人も自分と同じ感覚を持つと思い込んだまま、隠れて残虐行為をして人生を終えるものも多数いると思われる。

(b)離人症的感覚を持つ

サイコパスはオピオイド(コカイン、アヘン)系の麻薬患者に似た離人症的感覚を持っている。「オピオイドの大量分泌は離人症的な症状をもたらす。現実感の喪失、自己と外界を隔てる透明な壁のある感じ、自分のことを遠くで自分が観察している感じ、自分の手足の消失する感じなどです。」〔『神経伝達物質・脳内ホルモン』http://trauma.or.tv/1nou/3.html (2016/03/11閲覧)〕

少年Aは淳君殺害の2週間後に書いた「懲役13年」という文章で悪魔が「深淵をのぞき込むとき、その深淵もこちらを見つめている」とサイコパスの離人症的「自分のことを遠くで自分が観察している」感覚を表現している。また、サイコパス殺人鬼を描いた漫画「ヒメアノ~ル」の殺人鬼森田正一が自分の心を表現している場面「中学の時の帰り……オレは完全に“フツーじゃない”って……マジで悔しくてその場で死にたくなった……泣いちゃったよ」「うずくまる森田が森田の住む“こちら側”の世界と、永久に触れられない“あちら側”の世界をガードレールが無常に隔てている」という場面で元少年Aは「―あの頃の自分だ―そう思った。漫画を読んで泣いたのはこの時が初めてp230」と述べ、サイコパスの離人症的感覚の「自己と外界を隔てる透明な壁のある感じ」がガードレールのこちら側とあちら側となっている。前項「(1)2)(a)サイコパスの逆転認知欲求を示す絵、コラージュ、情景の例」の下段右の一つ目で手の間から、ことらを覗いているコラージュは離人症的感覚を表現していると考えられる。また、犯行ノートに描かれた絵の手やコラージュ左の脳は消失している。これらも手や脳が消失していると感じる離人症的感覚を表していると考えられる

(c)虐待犠牲者に代償感覚を持つ

虐待犠牲者(逆転欲求満足を与えてくれた対象)に金を与えることがある。少年Aは弟のプラモデルをぐちゃぐちゃにしたり、殴ったりした後に弟の机に100円玉や500円玉を置いている〔『絶歌』p268〕。なぜ金を置くかA自身にもわからない。父親から死にそうになるくらいに虐待を受けていたアポロ君は暴力を振るわれた翌日はいつも机の上に千円札が置かれていたと言う〔『絶歌』p28〕。「ごめんなさい」の気持ちではないか?とAは考えた。筆者は、感情を持たないサイコパスの、物を買ったときに代金を払うのと同じ感覚と思う。逆転欲求満足を与えてくれた代金で、物的な関係。「ごめんなさい」という感情ではない。サイコパスの大脳新皮質は正常で、そこで学んだ金銭の支払い代償関係を反映している。次項の虐待をするときにどうでもいい理由を付けることと同様の脳内部の合理性を図る行為と考えられる。

(d)虐待行為にどうでもいい理由を必要とする

サイコパスは論理思考の大脳新皮質は正常に機能しているので、逆転欲求報酬系ドーパミンを求めた残虐行為に、どうでもいい、つまらない理由(カラ理由)を付け、脳内部の合理性を図る。どうでもいい理由を付けるのは、健常者を納得させるためだけでなく、サイコパス自身の内的衝動(カラ理由付け衝動)がある。少年Aが動物虐待をするときに『死を理解するため』と理由を付けていた。だがこの理由に意味がないことは前項「(1)5)(a)サイコパスの「逆転快」の強烈さを麻薬の関係で掴む」で抜粋したように、「『死を理解するため』というもっともらしい大義名分は消え去り、ただただ殺し解体することが快感だった〔『絶歌』p69〕」と正直に述べている。サイコパスが作り出す、どうでもいい理由に、フロイト派精神分析の研究者は真に受けて振り回されている場合がある。

カラ理由とは:サイコパスが虐待などを行うときに付ける中身がない表面的な理由

カラ理由付け衝動とは:サイコパスが脳内部で逆転欲求行為を大脳新皮質が形式的に合理化しようとするために生ずる理由付け衝動。サイコパスはカラ理由付け衝動を持つ。その理由には意味がなく、サイコパスにとって逆転欲求満足追及にのみ意味がある。この理由付け衝動は、健常者をサイコパスまんじゅうの皮としてサイコパス化するときや詐欺行為の時に盛んに外化する。サイコパス犯罪の取調官や精神鑑定医がしばしばカラ理由に振り回されて、真の動機である逆転欲求を見落とすことがある。また、取調官などに逆転欲求の存在が認知されていないために、犯人とともにカラ理由を作り出してしまう。

(e)心に正常と悪魔の両者がいることに苦しむことがある。

サイコパスは大脳新皮質の正常欲求と偏桃体機能不全の逆転欲求の両方を同時に持つため、深い苦悩に陥ることがある。サイコパスが人を騙すときのウソ泣き以外で涙を流すのは、この苦悩の時と思われる。少年Aが留置所や少年院で何日も泣き続けた時〔『絶歌』pp16-18、p139〕や、前項「(b)離人症的感覚を持つ」で「漫画を読んで泣いた」涙はこの苦悩である。例14尼崎監禁殺人事件の角田美代子も逮捕され、留置所で大泣きしていた時期がある。サイコパス苦悩と名付けておく。

健常者が同一人物に対して愛情と嫌悪や尊敬と軽蔑を同時に感じるような両価性(アンビバレンス)と言われるものとサイコパスの2面性は全く別のもの。健常者が両価性を持つのは人が持つ多面性を総合的にとらえた結果で、ごく当然のこと。サイコパスの行動の2面性は偏桃体機能不全から生じた、根本的に両価性とは異なるもの。フロイト派はサイコパスの2面性を健常者の両価性の中に取り入れようとして混乱している。そのためフロイト派を勉強した元少年Aも混乱していることが『絶歌』の中でみられる。

10)サイコパスの逆転欲求構造のまとめとサイコパスまんじゅう

サイコパスの暗いイメージとをまんじゅうに重ねるのは、まんじゅうを作り販売している人々には不快なことと思いますが、わかりやすい説明の比喩としてご理解いただきたく。筆者は甘党で甘いまんじゅうや中華まんじゅうをこよなくあしている一人ですので、ご了承ください。

(a)サイコパスの逆転欲求は統一した全体で捉える

健常者の欲求構造と全く同様に、サイコパスの逆転欲求も統一体として把握する必要がある。

逆転生存欲求や逆転認知欲求や逆転愛情欲求や逆転安全欲求など、個々の特徴をバラバラに把握すると実態が分からなくなる。それらは統一体として逆転欲求全体を形成している。例えば古い建築物を一瞬で解体処理する画像に健常者はすっきりする感覚を持つが、少年Aが弟のきれいに並べたプラモデルをバラバラにするのとは全く別。建築物の解体をすっきりと感じるのは健常者の創造性認知欲求と係わり、犠牲者が生じないこと(愛情欲求や仲間欲求など)が一体となっている。サイコパスの物体解体は、解体された犠牲者の苦痛を求めることと一体になっている。〔健常者の欲求構造については後の項「1.23(1)健常者の欲求構造とサイコパスの出現理由」参照〕。

(b)サイコパスは健常者と類似の多様な個性          

サイコパスは、大脳新皮質は正常に機能しているので、大脳新皮質から生じる個性の多様性が健常者と同様にある。また、扁桃体が6つの部位からなり、機能不全が全体なのか、どこかの部分なのかの違いにより、病状に差が生じると考えられる。

(c)サイコパスには単独型まんじゅう型がある

サイコパスの多様性は、健常者と同様大きく二つ、内向的と外交的に対応した、単独型とまんじゅう型に分けることができる。集団型とせず、まんじゅう型とするのは、健常者の集団とは全く別のものなので、誤解を避けることと、その集団の特徴を短い言葉で表現するためである。

単独サイコパス

まんじゅうサイコパス

一人で残虐行為を行う。内向的サイコパス。

サイコパスまんじゅうを形成し残虐行為を行う。外交的サイコパス。

元少年Aを含め前項「1)サイコパスの逆転生存欲求」で述べた宅間守などの6人は単独サイコパス。後の項「(2)平和時のサイコパスの特徴行動、事件例11~14」の犯人がまんじゅうサイコパスである。

まんじゅうサイコパスとは:サイコパスまんじゅうを形成するサイコパス。

サイコパスまんじゅうとは:中心にはサイコパスの黒いアンがあり、周囲は健常者の白い皮で覆われ、全体としてサイコパス化した集団。中心のサイコパスは一人とは限らない。サイコパスは一人では実行できない残虐行為を、サイコパスまんじゅうを形成することによって実行する。

単独サイコパスは、まんじゅうサイコパスの予備軍であり、いつでも機会があればサイコパスまんじゅうを形成する構成員になる。元少年Aは少年期に万引きグループを形成しており、まんじゅう型への移行の可能性を持っている。サイコパスまんじゅうについては本シリーズ(その4)「1.20健常者のサイコパス化の危険」でも説明しているので参照。

サイコパスまんじゅうの内部は、愛情のないロボットの関係であり、外部に対してだけでなく、内部者相互に残虐行為に及ぶ場合が多い。

単独型とまんじゅう型の中間に位置する中間型があるが、この3類型詳細は後の項「(L-7)サイコパス対策と治療体制」及び「5)平和時のサイコパスの特徴行動:まとめ」参照

ブログの文字数制限を超えますので以下(その4-5)へ続く。

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