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須賀敦子を読む 湯川豊

須賀敦子の本の刊行に出版社の担当者として携わった著者の評論。本書を読むと、須賀敦子の本は、本書のように深くその作品についてあるいはその作家について考える担当者あってのものだったのかもしれないと強く思う。評論の構成は、はっきりとはなっていないが、ほぼ須賀敦子の著作順、すなわち「ミラノ~霧の情景」から始まって、初めての小説が未完に終わるところまでという形で語られている。須賀敦子の作品は、1冊の本の中でも、時系列が明確にならない部分があって、須賀敦子の略歴、著作リスト、およびそれが書かれた年代等を知っていても、須賀敦子の書き手としての道筋が判りにくいと思っていたが、本書を読んでそのあたりがかなりクリアになった気がする。(「ミラノ~霧の風景」…記憶のままにイタリア時代を回想。1つ1つが完結した作品。「コルシア書店の仲間たち」…イタリア時代の軌跡を著者に関わった人々の記述を通して語る。「ヴェネチアの宿」…自分の家族を書くことで自分自身を見つめる。「トリエステの坂道」…亡夫の家族を描きながら創作の領域に足を踏み入れていく。「ユルスナールの靴」…ユルスナールの創作活動を自分に重ね合わせながらヨーロッパとその文明を描きだす。)そうした著者の道筋の中でもう一度読み返したらどうなるのか、本書を読むと、そうした形での再読をしてみたくなる。既に読んだ須賀敦子の本の中には、今でも忘れられない場面がいくつかある(例えばイタリア人の男と傘の話等)が、本書では、そうした場面がちゃんと言及されていて、読者の感覚を大切にした評論のようで、うれしく感じた。本書を読んで特に大きな収穫だったと思うことは、信仰者としての須賀、あるいは「宗教と文学」という視点でみた須賀に関する記述だ。イタリアから日本に帰国して、大学で教鞭をとったり、文章を書くようになる前に、宗教ボランティアとして奔走した時期があったことは知っていたが、その時期に須賀が何を思い、何を蓄積していったのかが本書を通じて少し判った気がした。(「須賀敦子を読む」 湯川豊、新潮文庫)

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