「古都逍遥 京都・奈良編」「花の詩」「日常のこと」や花や風景写真

 京都・奈良を中心に古刹・名刹や「花の詩」等の紹介。花や風景写真、オリジナルの詩、カラオケ歌唱など掲載しています。

「二寧坂・産寧坂」(にねんざか・さんねんざか)

2006年06月18日 08時10分09秒 | 古都逍遥「京都篇」
 日本には坂をモチーフにした歌が多く見られる。坂と歌…そこには日本の四季を感じさせるものや、恋にやぶれメランコリーな気分で坂を登っていく女の後姿、陽だまりの中、桜の花びらがひらひらと舞い散る情景も歌になる。そして、そぼ降る雨の坂もロマンチックを醸し出す。長崎のオランダ坂などはそのような雰囲気だろうか。桜を想い浮かべると「桜坂」という流行歌があった。恋に似合う歌となると東京の「乃木坂」、横浜の「野毛坂」なんかがいい。幼きころの思い出に誘う坂は「柿の木坂」だろう。

 京都では、東山界隈に風情ある坂道が多い。清水寺へ向かう参道にある一念坂(一年坂)や二寧坂(二年坂)、そして産寧坂(三年坂)。この界隈は坂の両側に二階建ての低い虫籠格子の家々が軒を連ね、しっとりとした趣を醸し出し、舞妓さんのだらりの帯姿が似合う通りでもある。
 そんな京情緒あふれる街並みを好んでか、二寧坂には画家の竹久夢二が住んでいた。大正六年のこと、東京に残した恋人の彦乃をこの坂の家で待ち焦がれた。翌年、彦乃は京都を訪れ、高台寺近で共に暮らした。しかしそれもつかの間、病いに倒れ、彦乃は東京へ戻り恋は終焉を迎えた。

 二寧坂から清水方面につづく少し急な石段の坂が産寧坂だ。三年坂でなく「産寧坂」と称するのは、安産の祈願所として知られる清水寺の子安観音への参道で、「産むは寧(やすき)坂」として呼ばれていたからでもある。また、坂上田村麻呂が坂道を開いた大同3年(808)年にちなむものだとか諸説さまざまだ。
 坂の途中には、坂本龍馬ら幕末の志士が隠れ家として使った「明保野亭」が残されている。当時、二階の部屋から京都の町が一望でき、追手の行動が眼前に見えることから密談を交わすにはふさわしい場所だった。
 清水坂から分かれて下る46段の石坂。この産寧坂から円山公園まで続く道を「二寧坂」、さらに下河原までの道を「一念坂」と呼んでいる。
 二寧坂の由来は、清水寺への参道である三寧坂の手前の坂という意味で、この名が通り名となった。「ここでつまづき転ぶと二年以内に死ぬ」という言い伝えがあるが、「坂道は気をつけて…」という警句が語り伝えられたものと思われる。「坊日誌」によると、「宝暦8年(1758)桝屋喜兵衛が、お上の許可を受けてここを開拓屋地と為す」とあり、以来この付近は桝屋町と称する。転ばぬように安産であるようにというおまじないだろう、「瓢箪(ひょうたん)」を身につけておくと厄除けにご利益があると伝えられ、産寧坂、二寧坂には瓢箪を商いにしている店が目に入る。

 一念坂のいわれは定かではないが、八坂塔から清水参道の最初の坂であるところから一念を祈願する初めの坂ということなのだろうと想像する。
 一念坂は余り観光客たちには知られず、馴染みをなくしているのは、おそらく石塀小路が隣接するためではなかろうか。
 石塀小路が作られたのは大正時代のこと。料亭や旅館が建ち並ぶ静かな落ち着いた空間。地元では「いしべこじ」と呼んでいるもので、石畳の道の曲線や、板塀の雰囲気、格子戸の入り口に飾られた気の利いた花や飾り物などが絶妙な調和を見せているからでもあろう。

 春の夜、最近始められた「花街灯」の灯りが水打ちされた石畳に映える風情は、若者たちのロマンスを駆り立てる演出にもなっている。石塀小路にある田舎亭(宿泊も可能)は、NHKの朝の連続小説ドラマ「オードリー」の舞台となった場所でもある。かつては有名映画監督や小説家が良く利用したという。産寧坂を登る手前を少し東に入り辻地蔵を過ぎると、推理小説で名を馳せた故・山村美紗の邸宅がある。

 忘れてはならない坂がもう一つ、清水焼発祥の地として知られる「五条坂」で、「茶碗(ちゃわん)坂」として親しまれている。東山山麓に向かう傾斜が登り窯に適した地形であったため、最盛期にはたくさんの窯が立ち並んでいたという。現在は山科に「清水焼団地」を作り、窯元は当地へ移っている。
 五条坂を南に入ると陶芸家・河井寛次郎の記念館がある。ここには清水焼の名手、五代清水六兵衛から譲り受け、寛次郎によって数々の造形美を生み出した登り窯が展示されている。
 京都の雨という歌があるが、一念坂から石塀小路、二寧坂そして産寧坂界隈はその雨がしごく似合うところであろう。
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