「ものとことば」第三段落(22~28)
22 抽象的な議論はこのくらいにして、具体的なことばの事実から考えていくことにしよう。まず身近にあるものの例として机のことを考えてみる。机とはいったい何だろうか。机はどう定義したらよいのだろうか。
23 机には木でできたのも、鉄のもある。夏の庭ではガラス製の机も見かけるし、公園には、コンクリートのものさえある。脚の数もまちまちだ。だいいち私が今使っている机には脚がない。壁に板がはめ込んであって、造りつけになっている。また一本脚の机があるかと思えば、会議用の机のように何本もあるのも見かける。形も、四角、円形は普通だし、部屋の隅で花瓶などを置く三角のものもある。高さは日本間で座って使う低いものから、椅子用の高いものまでいろいろと違う。
24 こう考えてみると、〈 机を形態、素材、色彩、大きさ、脚の有無及び数といった外見的具体的な特徴から定義することは、ほとんど不可能である 〉ことがわかってくる。
25 そこで机とは何かといえば、「人がその上で何かをするために利用できる平面を確保してくれるもの」とでも言うほかはあるまい。ただ生活の必要上、常時そのような平面を、特定の場所で確保する必要と、商品として製作するためのいろいろな制限が、ある特定の時代の、特定の国における机を、ほぼある一定の範囲での形や大きさ、材質などに決定しているにすぎない。
26 だが、人がその上で何かをする平面はすべて机かといえば、必ずしもそうでない。たとえば棚は、今述べた机とほぼ同じ定義が当てはまる。家の床も、その上で人が何かをするという意味では同じである。そこで机を、棚や床から区別するために、「その前で人がある程度の時間、座るか立ち止まるかして、その上で何かをする、床と離れている平面」とでも言わなければならない。
27 注意してほしいことは、この長たらしい定義のうちで、人間側の要素、つまり、〈 そこにあるものに対する利用目的とか、人との相対的位置といった条件が大切 〉なのであって、そこに素材として、人間の外側に存在するものの持つ多くの性質は、〈 机ということばで表されるものを決定する要因 〉にはなっていないということである。
28 人間の視点を離れて、たとえば室内に飼われている猿や犬の目から見れば、ある種の棚と、机と、椅子の区別は理解できないだろう。机というものをあらしめているのは、全く人間に特有な観点であり、そこに机というものがあるように私たちが思うのは、〈 ことばの力 〉によるのである。
Q17「机を形態、素材、色彩 … 定義することは、ほとんど不可能である」とあるが、それはなぜか。「~から」に続くように60字以内で抜き出し、初めと終わりの5字で示せ。
A17 素材として~っていない(から)
Q18「そこにあるものに対する利用目的とか、人との相対的位置といった条件が大切」とあるが、「机」のa「利用目的」による定義、b「人との相対的位置」による定義を、それぞれ抜き出せ。
A18
a 人がその上で何かをするために利用できる平面を確保してくれるもの
b その前で人がある程度の時間、座るか立ち止まるかして、その上で何かをする、床と離れている平面
Q19「机ということばで表されるものを決定する要因」は、端的に言うと何か。6文字で抜き出せ。
A19 人間側の要素
Q20「ことばの力」とあるが、どのような力か。「~力」につながるように70字以内の部分を抜き出し、その最初と最後5字ずつを記せ。
A20 渾沌とした~て分類する(力)。
22 机の定義とは?
∥
23 具体例
∥
24 素材・形態・色彩・大きさ … 外見的具体的特徴
↓
定義不可能
25a1「人がその上で … くれるもの」
26a2「その前で人が … と離れている平面」
27a1 利用目的 a2 人との相対的位置 … 人間側の要素
↓
定義可能
28 A 人間に特有の視点 ことばの力
↓ = ↓
机をあらしめる 机があるように思う