学年だより「竜退治の騎士になる方法(2)」
では、この学校に竜がいるのだろうか。これから現れるのだろうか。
そもそも竜って、どんなもんなん?
ぼくの疑問に答え、ジェラルドは初めて竜を見たときの経験を語る。
「竜はどぎつい緑色をしていて、馬ぐらいの大きさやった。」 「馬ぐらい?」
「馬ぐらいやったらあかんのか」 「いや、あんまり大きないなあ、思て……。」
これだから素人はあかんのや、という顔でジェリーが説明する。
「君らは、竜とカマキリとどっちが気が荒いと思う?」 「そら、竜やろ」
「そしたら、カマキリが馬ぐらいの大きさで目の前におったらどないや」 「そら、こわいわ」
二人は、それをイメージしたとたん、竜の恐ろしさを理解した。
ジェリーが小学校五年のとき、林間学校にでかけた先の山のなかで、はじめて竜を見た。
そして、その竜を、女の人がみごと退治したという。かっこよかった。
そのときジェリーは、自分も竜退治の騎士になろうと決意する。
「どうやったら竜退治の騎士になれるんですか?」と、幼き日のジェリーがその女の人に尋ねた。
「とりあえず、きょうからできることを教えましょう。騎士になりたかったら、あなたが用をす ませてトイレから出るとき、スリッパをきちんとそろえるのです」
はあ? そんなのが答えなのか。
「トイレのスリッパをそろえることができれば、竜退治の騎士になれるんですか?」
「本気でトイレのスリッパをそろえることができれば、そのことから、自分でつぎの課題をみつけることができるでしょう」
見つけられなければ、竜退治の騎士にはなれないと、女騎士はいう。
ジェリーの話を、なんやらキツネにだまされたような話やなあと、ふたりは聞いている。
「きみらなら、どうする?」とふられたものの、答えはわからない。
それで、ジェリーはスリッパそろえたんか?
~ 「それは思たよりむつかしい仕事やった。いや、スリッパをそろえるのはなんでもない。気になったんは人の目や。おれはな、たいがい、ええかげんなやつやったんや。勉強をまじめにやるわけではないし、走って速いわけでもない。 … そんなおれがやで、なんできゅうにトイレの スリッパそろえるわけ? だれも見てないときはええで。 … なんでおまえそんなことしてんねん。そういわれたらどうこたえる? それがいちばん気ぃつこた。」 ~
「そういうときは、どうしたん?」と優樹が聞く
~ 「そやけどだれも、なんで、とはきいてこなんだ。ふしぎなことはそれだけやない。林間学校のキャンプ生活が、なんたらええ感じになってきたんや。ふんいきが、なんちゅうか、とげとげしてたり … わざとらしかったりしてたところがなくなって、ええ感じになってきてな … 」 (岡田淳『竜退治の騎士になる方法』偕成社)