水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

竜退治の騎士になる方法(3)

2014年10月28日 | 学年だよりなど

  学年だより「竜退治の騎士になる方法(3)」


 「いままで、どんだけ退治したんですか?」
 「騎士になってかれこれ20年経ってるからな。年に10頭としたら200頭は、いってるかな」
 「スリッパそろえるのは、どうなったん」
 「とにかく、おれはスリッパそろえ続けたんや。そしたら、だんだんスリッパそろえ直す数が減ってきた。ちゃんと次のもんが使えるように、そろえて脱ぐやつがでてきたわけや。しかし、あいかわらずめちゃくちゃに脱ぐやつは、めちゃくちゃに脱ぐ。おれは、考えるようになったんや」
 「なにを?」
 「脱ぎちらかしてあるスリッパを見ては、なんでこんな脱ぎかたするんやろ。ちゃんとそろえるやつを見ては、なんでそろえることができるんやろ、とな。そうこうしてるうちに林間学校は終わった。そのあともな、学校のトイレ、体育館の入り口のくつを全部そろえた。そして、それをはいてた人の気持ちを考えたりした」
 「人の気持ちになることと、竜退治と、どんな関係があるのん?」優樹がきく。
 「竜というものの存在が、ありとあらゆる邪悪な心で練りあげられている以上、ひとの心がわか らないまま竜ををみつけることができるだろうか!」
 「突然、大声だして、ごまかさんといて。ジェリーはほんまに竜退治の騎士なんか」
 「ほんまやで」
 「いっこ聞くけど、竜退治の騎士で食べていけるのん?」
 「あほか。竜はな、退治したら消えるねん。じぶんら、保健所から依頼されたねずみ退治かなんかと勘違いしてんのとちがうか。」
 「竜退治したって、月になんぼとかもらえるわけやないんやろ。よめさんや子ども、食べさせていけるん?」
 「きみにそんな心配してもらえるとは思わなんだ。おれはな、竜退治の騎士としては、だれからも一円ももろてない。そやけどな、人間、目的にむかってやってたら、食べていくんは、なんとでもなるもんや。」
 竜退治は仕事ではなく、生き方だとジェリーは言った。
 「竜退治の騎士が料理人であってもいいではないか。竜退治の騎士が大工であっても、運転手であっても … その人が竜を退治するかぎり、その人は竜退治の騎士ではないか。」
 「そらまあ、そうやけど … 」とつぶやいていると、
 「そっちか!」とジェリーは突然、まるで竜を見つけたかのように廊下に飛び出した。
 再び、もどってきたジェリーは、「あぶないから、教卓のかげにかくれろ」という。
 剣をふりまわすジェリー。なんか、ほんまに闘っているように見える … 。
 さすが、なんかの役者さんやな … とぼくが思った瞬間、近くの机がふっとんだ。
 ジェリーの楯が三分の一ほど、ちぎれてしまっている。
 マッチをすったようなにおい、こげたような、なまぐさいような臭いが強烈に鼻をつく。
 竜はほんとにいる … 。

コメント
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