三羽の鳥
五味太郎さんの絵本
むかしのこどもを読み観ました。
うーん。五味さん、こんな絵本を描いていいんでしょうか。これはもう子供のためというより、これを読み聞かせる大人のために描いたのでしょう。そうとしか思えない。
以前本田健さんが
「日本の学校教育は、与えられた解答から正確な答えを選ぶような訓練ばかりしています。でも頭の柔らかい人というのは、与えられた選択肢のうち一つだけが正解だとは考えないし、自分で新しい選択肢を作っちゃうし、さらには自分で問題を書き換えちゃいます。そういう頭の柔らかい人は、既存のレールから外れた人生を生きていても発想が豊かなので、自由に生きていけるんです。そういう人がどんどん事業を起こして会社を十個以上も作ったりして大成功しているんです。
でも多くの子供は与えられた選択肢の中に正解があると思い込むように教育されるので、仕事を選ぶときも金融かメーカーかというようにごく狭い選択肢から会社を選ぶという発想しかもてないんです」
本田健さんやロバート・キヨサキさんのライフ・モデルはすでに多くの人に広まっているので、起業家という人生はそれほど新しいものではないのでしょう。しかし新しいものではなくとも、実際にそれを体験する人はまだまだ少ないだろうし、実際にそれで成功している人はもっと少ないのではないかと思います。
実際、本田さんの本を読むと、起業家として成功するために必要なことがわかると同時に、それがいかに難しいことかもわかります。
本田さんが挙げるビジネスで成功する必須条件には、
・「従業員」ではなく「事業家」のメンタリティを身につけること
・情熱をもてる仕事をみつけること
・ビジネスの知識・ノウハウを身につけること
などが挙げられています(他にもあるけど)。このうち、ビジネスの知識・ノウハウを身につけることは当然難しいでしょうが、それ以上に難しいのは、「従業員ではなく事業家のメンタリティを身につけること」や「情熱をもてる仕事をみつけること」などだと思います。なぜなら、これらはまさにその人が長年培ってきた人生観・態度・性格に関わることなので、改変が一番難しいように私には思えるのです。
日本の学校教育は、まさに「従業員」「工場労働者」を育てるように形成されています。朝起きて皆が同じ時間に登校し、学校という門に入って規則に則った行動をし、教師の指令に基づいて動きます。月曜日の朝には、暑い日も寒い日も、意味不明の朝礼があり、みんな運動場に意味もなく並ばされます。
その中で、学校のカリキュラム通りに教育されます。そこで子供につらい思いをさせることは、つねに苦手科目を克服すように言われること。得意な科目があればそれを伸ばすように行ってくれる教師も親もいません。英語が得意なら算数を頑張るように言われ、算数が得意なら国語も勉強するように言われます。つねに「苦手克服」を強いられるのが日本の教育です。そのような教育では、自分の好きなものに打ち込んでいいという許可を、子供は自分に与えることができません。
そのまま子供は大人になって、就職活動で与えられた選択肢から会社を選び、会社に入っても資格試験に追われたり、会社の要求をこなすスキルの修得を迫られます。またそこでも、自分の好きなことに打ち込むという余裕は大部分の人にはありません。いや、自分に好きなことがあるということすら忘れさせられます。
こういうことは多くの自己啓発的な書籍にも書かれてあるので、頭では多くの人は理解していると思います。私も頭では理解しています。でも、やっぱり、実際に柔軟な思考を簡単に取り戻せるかと言うと、心もとなく感じます。
たとえば既存のレールが正しくないからといって、本田さんの本に感動してすぐベンチャーに飛び込んだりするのも、それはそれで他人に影響された生き方だからです(もちろん、そこでなんらかの行動を起こしたことは、その人にとって必ずプラスになると思います)。
大切なのは、色々なレールがあることを知りながら、自分の判断で選べるような人間になれることなのですが、それが一番難しいように思います。
「ゆとり教育」の見直しが色々叫ばれていますが、カリキュラムを増やし時間を増やすということは伝わっても、教育の内容は伝わりません。方法は私にも分かりませんが、柔軟な思考を養うことを教育の目標に置けないかと思います。
ミス・苦手を許さない偏差値教育による学歴選別とビジネス・キャリアが結びつくと、レールから外れたくないために思考の柔軟性を持たないように子どもを追い込んでしまい、結果的に大人になっても柔軟な対応ができず、仕事の面で生きづまることも多くなるのではないかと想像してしまいます。
『むかしのこども』は、そういう日本の学校教育の悲劇を描いた本です。これを読んだ子供がこの絵本を面白いと思うかどうかは分かりません。でも、それを読み聞かせる親は、自分の子供時代を振り返ったり、自分が子供に与えているプレッシャーを自覚させたりして、ちょっと苦い思いをするのではないかと思います。