「夕日の光が差す三ノ宮の通り」
木村伊兵衛さんが1981年に出された写真集『街角 (ニコンサロンブックス)』(ニッコールクラブ)を観ました。
木村伊兵衛さんは日本を代表する写真家といわれているし、事実僕も
『木村伊兵衛のパリ』にはとても感動しました。
でも、この『街角』にはそれほど感動しなかった。なぜだろう?
一つには、パリの街というのはとても絵になるけれど、日本の街は全然“絵”にならないからだろうか?パリの写真だと“外人”さんばっかりで「カッコいい」けど、日本人の写真だと、みんな「カッコよくない」からだろうか。そう僕は感じているような気がする。
たしかにこの『街角』を見ていても、「人間の表情をこんなに自然に撮ることができるなんて」と思います。
しかしそれ以上に、戦後の貧しさと豊かさの萌芽が交じり合う日本の姿は、観るこちらに色々な複雑な感情を感じさせます。
同じ「日本」でも、今と、「戦後」とでは、確実に日本は違う姿なのだと意識させられます。
この『街角』に映る日本はとても貧しい。人の顔にも心にも、材木と土の貧しさが染み込んでいるように僕には見えます。
木村さん自身は、そこに貧しさを感じていたのだろうか?1974年に亡くなった木村さんにとって、彼が撮った日本は彼にとって当然の日本であって、僕の知っている日本とは違う。僕から見て貧しいと思える日本も、彼にもそう見えたかどうかは分からない。
編集者がチョイスした写真が、たまたま同じ傾向のものばかりになってしまったのだろうか?『木村伊兵衛のパリ』にあったような洒脱さやシャレた感じはなく、貧しさというものを感じさせる、少し辛気で悲しい写真集です。