joy - a day of my life -

日々の体験や思ったことを綴ります(by 涼風)。

“You've done enough.”

2007年02月03日 | reflexion

             「夕日のベンチ」


『ER8』の最後で、グリーン先生に診てもらうのが好きだったホームレスの人が出てきます。そのときグリーン先生は脳腫瘍の病気で死ぬ直前にあり、もう病院には出勤していませんでした。代わりにカーター先生が診察をします。

グリーン先生を好きだったそのホームレスの人も、グリーン先生と同じように、病気で死の間近にいました。彼は意識もハッキリせず、カーター先生をグリーン先生と間違えます。

病床にいる彼が涙を流しながら言います。

“Icould be a better person. I could have done more.”(「自分はもっといい人間になれたはずだ。自分はもっと多くのことを成し遂げられたはずだ」)

側にいたカーターは、

「あなたはもう十分生きました」

と涙をうっすら流しながら応えます。


そのホームレスの人が目の前にいれば、僕もカーターと同じように「あなたはもう十分生きました」と答えると思う。本当にそう思うから。

自己攻撃とは“嘘”であり、“罪”や“罰”などはこの世には本当は存在しないと思いたい。人は“罪”の意識で苦しむ必要ないし、謝ることは、もし必要でも一度で十分なのだと思いたい。

そのホームレスの人は、自分を攻撃し続けていたのだと思います。十分すぎるほど、心の中で自分にムチを撃ち続けていたのでしょう。罪の意識で苦しみ続けていたのだと思います。

そのように罪の意識に苛まれることは、できることなら避けたい。

でも、死の間際に涙を流しながら彼が「もっといい人間になれたはずだ」と言うとき、彼はすでにいい人間なのです。「いい人間になれたはず」とか「もっと多くのことを成し遂げられたはず」と言うとき、彼は十分自分の“過ち”に気づいていたのですから。

自分の“過ち”に気づいても、それを訂正できるとは限らない。多くの人は同じ“過ち”を繰り返すものだから。

でも少なくとも彼は、自分の“過ち”に気づいていたし、できることなら自分を変えたいと望んでいました。

もう彼は、一度謝っているのです。それで本当は十分なのだと思いたいです。

だから、カーターが言うように、その人は十分生きていたのだと思います。


バレエ 『パリ・オペラ座 「カルメン」/「若者と死」』

2007年02月03日 | バレエ

             「電線と太陽」


先週NHKで放映されていた『パリ・オペラ座バレエ 「カルメン」/「若者と死」』を観ました。同じ内容のものがDVDでも発売されています。

2005年7月にパリで行われた公演ですね。主演は、ニコラ・ルリッシュとヒロイン・カルメン役にクレールマリ・オスタ。三人の密輸業者にドロテ・ジルベール、アレクシス・ルノー、マルタン・シエといった人たち。と言っても、私は初めてその踊りを観る人たちばかりだけど。

「カルメン」は、私は知らなかったけど、有名なお話なのでしょう。ある女と出会って恋に落ちた青年が、その女カルメンに唆されて強盗殺人を行い、挙句に女に捨てられるというお話。

この作品は面白かったです。まず目を見張るのが、主役のニコラ・ルリッシュという人の体型。超三角形の体型で、とても背が高く肩幅も広いのに(パットしているだろうけど)、足がむちゃくちゃ長くて細いのです。しかもその細さはヒョロヒョロではなく、がっしりしていながらふくらはぎから足首にかけて急激に鋭く細くなるという感じ。いくら向こうのダンサーのスタイルがイイと言っても、ここまで映える体型の人は少ないんじゃないだろうか。

ダンスもとてもいいです(なんか、他に書きようがない)。

ヒロイン・カルメン役のクレールマリ・オスタは、体型はダンサーという感じはしません。小柄で幼児体型です。ただそういうダンサーでも踊りはちゃんと踊るから(という言い方は失礼だけど)見ていて不思議です。

この人はバレエ団の最高位のエトワールなので、観る人が観れば、その偉大さがきっとわかるのでしょう。ただ素人の私は、踊りそのものでとくに気づくことはありませんでした。

でもこの人は、踊りよりも、顔から滲み出る気位の高さといったものが印象的です。もちろん役作りもあるでしょうけど、自分の存在に対する自信といったものが表情から感じ取れるのです。この人の人間性自体に何か無視できないものがあるという感じです。

こういう人には、カルメンという悪女役は確かに合っていたのかもしれない。

でも女性ダンサーなら、僕にはむしろ密輸業者役の一人ドロテ・ジルベールという人の方がより印象的でした。

最初主役たちが出てくる前に大勢のダンサーが踊るシーンがありますが、その中でこのドロテ・ジルベールが颯爽とステップを踏んで前に躍り出るシーンはとても強く心に残ります。

その後はほとんどが主役二人が出ずっぱりなのですが、その短いシーンだけでも、とても満足です。


「若者と死」は、「カルメン」と同じく主役のニコラ・ルリシュと、マリー=アニエス・ジロ。若い芸術家とある女性のお話です。出てくるのもダンサーは二人だけ。

このバレエでは、「カルメン」と同じかそれ以上に、ニコラ・ルリシュというダンサーの凄みを感じさせます。体と表情から滲み出る表現力が圧倒的で、苦悩する若者という役にぴったり。

二回印象的なジャンプのシーンがありますが、それはまさに「空を舞う」「宙に浮かぶ」という表現がぴったりのジャンプです。空中で止まるみたいだ。人間はここまで空高く飛べるのだ、と思えます。

でもそれは、単にこの人の運動能力が高いだけではなく、やはりこの人の苦悩と情熱を表現する力が強くて、それが観る者に空を飛んでいるように思わせるのでしょう。

ヒロインのマリー=アニエス・ジロとの息もぴったりです。


この二作品は合計で1時間20分ほどですが、とても満足度の高いバレエでした。


パリ・オペラ座バレエ 「カルメン」/「若者と死」

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バレエ一覧

2007年02月03日 |  (バレエ一覧)
             「ビオラ」

   ・パリ・オペラ座バレエ『シルヴィア』(全2幕)

   ・『カナダ・ロイヤル・ウィニペグ・バレエ「魔笛」』

   ・バレエ 『ラ・シルフィード』 パリ・オペラ座 2004年6月

   ・バレエ 『パリ・オペラ座 「カルメン」/「若者と死」』 2005年7月

   ・バレエ 『白鳥の湖』 マリインスキー劇場バレエ団 2006年6月

   ・バレエ ボリショイ劇場 『「ジゼル」全2幕』 1990年

   ・バレエ 『チャイコフスキー: 《白鳥の湖》』 1966年

   ・バレエ 『ピーターラビットと仲間たち ザ・バレエ』

   ・『キーロフ・バレエの栄光 』

   ・『エトワール』