淳一の「キース・リチャーズになりたいっ!!」

俺好き、映画好き、音楽好き、ゲーム好き。止まったら死ぬ回遊魚・淳一が、酸欠の日々を語りつくす。

スティーブン・スピルバーグ監督、話題の最新作「ミュンヘン」を観る。

2006年02月04日 | Weblog
 スピルバーグを、大人になりきれない永遠の子どもと言っていた人がいた。
 「ジョーズ」を撮り、「インディ・ジョーンズ」を撮り、「ジュラシック・パーク」を撮っていた辺りの事だったと思う。
 それから、スティーブン・スピルバーグは転機を迎える。
 「シンドラーのリスト」である。
 ヤヌス・カミンスキーが撮影監督を務めた映画で、全編モノクロで撮られた。一箇所だけカラーを添えて。黒澤明の「天国と地獄」にもあった、一箇所だけのカラー映像。
 その後、彼は「プライベート・ライアン」を作り、また大きな脚光を浴び、そうかと思うと「ターミナル」や「宇宙戦争」を撮ったりもした。

 彼の嗜好の幅の大きさは、そのまま彼の才能の大きさのようでもある。
 何事にも興味を持ち、撮りたい作品をひたすら撮り続ける。
 彼は、やっぱり永遠の子どもなのかもしれない。

 「ミュンヘン」は、1972年のミュンヘン・オリンピックにおける、パレスチナ・ゲリラによるイスラエル選手11人人質事件を扱っている。
 イスラエル選手団11人は、結局殺害され、その報復のためにイスラエル秘密情報機関「モサド」の5人が選出される。
 つまり、殺りくには報復を。

 エリック・バナが、主役のイスラエル側報復者を演じている。確かに力演。
 脇役陣も芸達者を揃え、アラブ対イスラエルの対立の構図を浮き上がらせる。ジョン・ウイリアムズの音楽も重厚。

 しかし。この映画、これまでのスピルバーグの映画の匂いが全くしない。
 あえて、これまでの色彩を払拭するかのように。
 例えば、イスラエルの秘密部隊がパレスチナの幹部を暗殺すべくアジトに侵入し、そこから銃撃戦が勃発するのだが、これまでのスピルバーグであれば、緊張感と濃密な時間の流れを作り出し、手に汗を握るアクションを魅せるとても重要な場面だ。
 ところが今回、それはあっけなく終了する。まるで、そんなシーンなど、全然興味はないとでも言うかのように。

 イスラエル対アラブ諸国、あるいはパレスチナという図式を大上段には描かない。勿論、その構図があってこそ生まれる物語なのだけれど・・・。
 視点はエリック・バナから見る現実世界。
 報復することで新たに浮き上がる、後悔と苦悩。果たして、復讐が最上の方策なのだろうかと。

 硬質なトーンに映画は終始する。
 荒い画面。暗く湿った流れ。
 確かに、映画的な緊張もあるにはある。5人のイスラエル報復チームによる殺りくの過程も生々しい。

 でもこの映画は傑作かと問われたら、僕は否と言わざるを得ない。
 しかし。それはとても前向きな否だ。
 映画作家が必ず通る道であると思う。勿論、映画だけではないけれど。
 スポーツで言えば、積極的な失敗。明日に繋がる失敗というやつ。

 失敗作と言ったら失礼か。
 見直す事での再発見は、必ずこの映画にはあるだろう。
 真面目にそう思う。
 
 

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