静岡県内在住の8人の女性による詩誌『穂』が50号を迎えた。
今号は過去と新作の詩を1編ずつと、「Essay 詩の周辺」という約520字のエッセイを
それぞれ掲載している。ほかに「三木 卓ノート」。
詩もさることながら、「Essay 詩の周辺」での同人たちのエッセイもいい。
詩への姿勢のみならず、物事の考え方見方、ちょっと身構えた内容、緊張感などが伝わってくる。
それは、物を書く人であればよくわかる心理でもあって興味深い。
井上尚美さんの詩「洗濯」。40年ほど前の作品とある。
洗濯槽の中で家族の洗濯物が絡んでいる様を描く。再び絡み合う前に夫を持ち上げると
すでに妻が絡んでいて、その先には息子も娘もしがみついている。ハッとする視点だ。
一本の無骨な紐になって/洗濯槽の中からあらわれてくる
岡村直子さんの詩「をんな」は、第一詩集『をんな』から。
をんなは/みたび/をんなする
という強烈なフレーズで始まるこの詩は、男の私にも何となくわかるような気がする。
少女期を経て子を宿し更年期になり性の閉塞と色香が消えてゆくのを恐れる・・・。
あの時が/そうだったように/愛欲の海原に/櫓をこぎ出せ//
をんなは/自身のために/をんなする//みたび/をんなする/
菅沼美代子さんの詩「鰯のお店」は、時間構成とタイトルの付し方に注目した。
物忘れがひどくなって来たらしい「あなた」と3ヶ月に1回逢うことにしている「私」。
「この前」「あなた」はすっかり忘れていて、電話すると慌ててタクシーでやって来た。
そのうちに 私の顔 私の聲 私の名前さえ/忘れてしまうだろうか/
(略)錦鯉は口を大きく開けて のどかな春の空気を吸った/山茶花の白い花が
ポトリと池に落ちて小さな波を立てた/
小骨を上手に外して美味しいと満足気な「あなた」を見て「なんだか急に哀しくなる」「私」は、
「あなたの安らぎに満足すればよいのだと言い」聞かせる。
移り行く季節を愉しみ 私だけはあなたを/忘れないように 次の季節の予約を入れた
「この前」(過去)~逢っている今(現在)~次の季節の予約(未来)。それらを平易な自然体の
詩の中で、さらりと表出している。実に巧くしっくりとした構成だ。また、タイトルについても、
心情や情景に沿ったものにしがちだが、今いる(現在)を強調するように「鰯のお店」としている。
ここでは動かない(現在)なのだ。
発行人:井上尚美 / 発行:穂の会 静岡県島田市 / 同人:井上尚美、岡村直子、菅沼美代子、
酔 芙蓉、田村全子、ほさかゆかる、松本真理子、室井かずみ
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