陽だまりの中のなか

前田勉・秋田や詩のことなど思いつくまま、感じたまま・・・。

第25回秋田県現代詩人賞 

2024-03-15 | 詩関係・その他

        

 第25回「秋田県現代詩人賞」(主催:秋田県現代詩人協会)が決定しました。
 (選考委員会:3月1日 秋田市内の会場で開催)

 ◆詩集賞  駒木田鶴子詩集『雪の吐息』(書肆えん)
 ◆作品賞  木村哲夫「休止符」
 ◆奨励賞  小松春美「さくらの下で」

 (以下、プレスリリースの一部を紹介します)
1、受賞作品
 ①秋田県現代詩人賞・詩集賞  駒木田鶴子(こまき たづこ) 『雪の吐息』
 ②秋田県現代詩人賞・作品賞  木村哲夫 (きむら てつお) 「休止符」
 ③奨励賞           小松春美 (こまつ はるみ) 「さくらの下で」
2、受賞者略歴 
 ①駒木田鶴子 1935年生まれ横手市住。「舟」同人。日本詩人クラブ会員。
 ②木村哲夫  1972年まれ秋田市住。 「北の詩手紙」同人。
 ③小松春美  1940年生まれ男鹿市住。「密造者」同人。 
3、表彰式   4月21日(日) 午後開催の総会終了後(秋田市内)  

 <ご参考>
 ◆秋田県現代詩人賞
 ①詩集賞・・・前年中に刊行された会員の詩集が対象。
 ②作品賞・・・前年の「秋田県現代詩年鑑」所収及び前年中に詩誌等へ発表された
        作品が対象。
 ③奨励賞・・・秋田県現代詩人賞に準ずると評価された作品。
 ④会員による投票と推薦委員3名の意見を参考に、県外の詩人を加えた選考委員計
  3名により選考。なお、「秋田県現代詩年鑑」には会員以外の人も参加可能で、
  詩集賞を除き当詩人賞の選考対象となる。

 ◆秋田県現代詩人協会概要  設立:1991年

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見上 司 詩集『虹のような日』

2023-12-30 | 詩関係・その他

      

 見上 司さんの新詩集『虹のような日』が土曜美術社出版販売から刊行された。
 見上さんは秋田の三種町在住の詩人。抒情的詩風の作品が魅力的だ。

 読み手の内奥へどこかしっくりと纏わりついてくるような、そんな詩を書く人・・・
と書いてしまえば固定観念で作者へ迷惑をかけるかも知れない。
 だが、詩を読むという能動的な立場にいる人にとっては、作者が身近な存在となって
ビンビンと心に響いてくる作用があるかも知れない。

 作品集の前にある散文「自序」と最終にある「あとがき」は、一般的な詩集には珍し
く作者の本音が表出されていて、苦悩、詩に対する真摯な取り組み方、詩論、持論、人
生観などが読み取れてくる。詩作品以前にこの詩人の在り方が視えて、とてもとても他
人ごとではない情感が湧き出てしまう。
 「こんどこそこれが最後になるのではないか。もう一行も書けなくなる。書かなくな
 てってしまう。その恐れのなかで書き継いできた」


「虹のような日」

ひょっとして ぼくが手にした一篇の
名もない詩が だれかの人生の
そらに すっと一条(ひとすじ) にじをかける
まかふしぎなちからをもって
いるかもしれない
そんなたわいないざれごとに
ひとり 胸をあたためる日が
あってよいのだ

なにもかもが 徒労であったと
うらぶれて とぼとぼかえる
ゆうまぐれ

都会のこんなビルのはざまに
こぢんまり おきわすれられたような
神社のまえのベンチにすわり
ふるい 小さな
かみさまと はなしてみる

ああ 
ちいさな神さま
ちいさな神さまよ

 

発 行  2023年12月10日
著 者  見上 司(みかみ・つかさ)
発行所  土曜美術社出版販売
頒 価  2,000円+税

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佐峰 存 詩集『雲の名前』

2023-12-27 | 詩関係・その他

      

 コトバの持つ拡がり、思惟の展開といったものの表現形態、その可能性を感じた作品集・・・
と言えば大げさだろうか。

  11月下旬、著者の佐峰 存(さみね・ぞん)さんからご恵投いただいた詩集『雲の名前』を
一言でと問われれば、乱暴だが、
そうこたえたい。

 繊細な内奥の吐露は時に傷みを伴いながら綿々と表現されている。感受性とか表現力という
ことにまとめてはいけないよう
な、一つの感覚・感性の世界観を表した詩集ではなかろうか。
この、インパクトある表現力の作品集に
出会ったことに刺激されている。
(下記引用作品は、先述とは関連なし。あくまでも作品紹介の一部)

 

「夜の鼓動」(の内の「Ⅱ 鏡像」を引用)

 深夜の湖底に軋み
 傾く満員電車の吊り革の森
 年季を重ねる群生に迷い込んだ
 毛深い蛾が 束の間の心を運んでいる

 一対の翅がなす 羽ばたきの綿は
 ふくよかな腹を風船のよう
 蛍光の波打つ宙にのせ
 読まれることのない軌道に
 
呼吸を紡いでいく 
 
速度の中を飛ぶ速度

 鋼橋を潜り抜けてきた関節に
 
染みわたる音程 傍らで
 人々の眼鼻も樹立する
 
水を通わせ
 時間の苔を育みつつ
 
疾走する生態の園
 蛾の鏡像は火花をひらき
 脱皮の果ての柔らかさにそよぎ
 やがては昏々と
 眠り込むのだろう

 今はまだ 遠くまで美しい
 窓ガラスの硬さにしだかれて
 こぼれながら 太く滑る脚の爪
 
居住区が液状に
 幾重にも加速している

 

著 者  佐峰 存(さみね ぞん)
     詩集『対岸へと』(2015思潮社)
     第一回西順三郎賞新人賞奨励賞
発行所  思潮社
発行日  2223年10月15日
定 価  2,500円+税

 

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井上尚美詩集『蒲の穂わたに』

2023-11-17 | 詩関係・その他

       

 静岡県島田市住の詩人、井上尚美さんから第5詩集『蒲の穂わたに』をご恵投いただいた。

 井上さんの詩に初めて出会ったのは丁度一年前、詩誌『穂』第43号掲載の「わたしの庭」(当詩集所収)
であった。次号の43号に発表された「叩く」を当ブログで紹介させてもらったが、その時の
印象は構成力
が際立っている作品だということ。

 この度の詩集は5章にまとめ上げた全25編の作品が収録されている。

 「さみしい癖」
 引いていく闇の中に残光を放つ星
 を 見つけると少し嬉しい
 切っ先の鋭い残月がひとつ
 という朝 それも少しだけ嬉しい
 目覚めて直ぐ窓を開け今日の気運を占う
 それが日常になってしまった さみしい癖
 夜明けの匂いが静かに寄せてくる

 午前五時 今日は雨
 痩せた木々の黒い影がぬらっと立っている
 寄り合って何かを密談しているらしい
 夜のまんまの庭
 訳のわからない腹立たしさが押し寄せてくる
 濡れしょぼれた心で台所へ
 その時 男の部屋から力の抜けた声がかかる
 雨だね しとしと冷たい雨だね
 男は女より先にあの影を見ていたのだ

 おいしい朝ごはんつくるから 待っていてね
 芝居じみた明るい声で おいしいごはんだなんて
 今までそんなこと一度も言ったことないのに
 小細工はとっくに見破られているだろう
 男の切なさを女が透視しているように

 五日後男は抗がん剤治療を始める
 放っておけば三ヶ月の命
 医師が見積もる男の余命

 雨脚が強まる
 ——さあ かかっておいで
 腕まくりをして
 切れあじ抜群の包丁を握りしめて
 今日の前に 立つ

 当詩集の冒頭に配された作品。物事を捉える、本質を捉えて表現するということはこういうことか、と思
った。「切れあじ抜群の包丁を握りしめて/今日の前に 立つ」「女」。抗がん剤治療を始める五日前
の朝、
何もしなければ余命三ヶ月と宣告されている「男」との心的な交感が短い会話の中で成立している。「ぬめ
らっと立っている」「
痩せた木々の黒い影」に気付いているが、口に出すことはない。男が気付いているは
ずだと思うことで今日が始まるのだから。「目覚めて直ぐ窓を開け今日の運気を占う」「日常になってしま
った」「さみしい癖」は、男ががんと診断されてからの癖なのであろうか。
 第3連と4連は「女」、つまり妻の心理が見事に活写されている。しめった感情ではなく、からりとした
気丈を表出している。だからこそ逆に、妻の心の揺れが読み手に伝わってくる。独白的な流れを少し距離感
を入れての心情
表現。巧さを感じた。
 
 この作品を、そんな勝手な読み方をした。最初に読んだ時の箇条書きのメモは「男、女という書き方をす
ることでの冷静な位置づけ」「ガツンと来る本質表現の巧さ」「物事を直截にではなく全体で表現すること
の構成」「言葉遣いの緩急」「第2連一行目”午後五時”は”午前五時”の誤植か?詩集通りでいいとなると、
時間の隔たりがありすぎて、うまく伝わってこない気がするが」など・・・・。
※第2連一行目”午後五時”は”午前五時”の誤植とご本人から連絡あったので、引用作品も午前に変更した。
 
 代表して「さみしい癖」に触れてみたが、その他では「温泉」「日記」「夢の中で」「窓」「また あし
た」「葉桜の頃」などに心揺らされた。

 

発 行  2023年10月31日
著 者  井上尚美(いのうえ なおみ)静岡県島田市
               日本現代詩人会、静岡県詩人会、静岡県文学連盟の各会員。詩誌『穂』発行人。
             第22回白鳥省吾賞最優秀賞受賞
発行所  土曜美術社出版販売
定 価  2,200円(税込み)  

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『花美術館』・若狭麻都佳さんの作品を紹介

2023-11-12 | 詩関係・その他

       「花美術館」Vol 82より

 専門誌「花美術館」Vol.82と83に若狭麻都佳さんが紹介されている。
 VoL.82では「マルチ作家 若狭麻都佳の軌跡」として8ページにわたってパフォーマンスを演じる
写真とともに、既刊詩集からの
詩作品。VoL.83では同じく既刊詩集から2編の詩が掲載されている。

 文を寄せている”評者”の捉え方に頷きつつ何度か戻りながら詩を読み返したりしていると当り前のこ
とだが、読み取り方の違いがあったりするから、これはこれでどこか合評会のような感じがあって面白
いものだと思った。

 若狭さんの詩からは離れるが、処女詩集『それは白い雲の色をしていた~亡き兄に捧げる~』の序詩、
兄克行氏15
歳の時の詩を紹介したい。

 
 「空白の時」     若狭克行
 
 ペンを持つ
 重く沈むぼくの手
 しだいに空白がぼくの心を流れる
 ぼくは暗黒の世界へ運ばれる
 空虚がぼくに広がり
 ぼくを包む
 何も見えない闇の中
 「Do+S+V・・・?」
 「y=ax²のグラフ」
 「接続の型・・・」
 文字や記号が
 かすかな光に
 「チラッ」
 と浮かぶ
 すべてがぼくの周囲にあり
 すべてがぼくから遠のく


 「花美術館」では既刊詩集からの作品をテーマに沿って?評者が選択し紹介している?のだと思うが、
時には現在の作品についての紹介も欲しいところ。
 なお、「日欧宮殿芸術祭2023inマルタ」において、若狭さんの美術文芸作品「年老いていく人形」が
ゴールドメダル受賞との報告が添えられてあった。
おめでとうございます!


・Vol 82 掲載作品 「木もれ日」「卵のきもち」「片目に棲む鳩」
          「あまらしさ—Metamorphose」
・Vol 82 掲載作品 「花物語」「夜咲く花の子」

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秋 亜綺羅さんの講演 ・「秋田の詩祭2023」

2023-11-08 | 詩関係・その他

                     

                                             講演する秋 亜綺羅さん            ( 画像提供:横山 仁さん)                            

  

               懇親会で秋 亜綺羅さんを囲んで   (画像提供:黒沢せいこさん)
                          

 10月28日(土)13時から、秋田県現代詩人協会主催の「秋田の詩祭2023」が秋田市内で開催された。
 講師に月刊「ココア共和国」主宰の秋亜綺羅さんをお招きし、自作詩の迫力ある朗読「詩ってなんだろう」
と題する講演が行われた。

 会場には高校生や詩の愛好者、会員など約60名が参加した。

 詩祭は高校生による詩の朗読、朗読グループ「KOEの会」による群読、会員の詩の読と続いた。

 秋さんの講演では、はじめに寺山修司との出会いや筆名の由来などについてユーモアを交えながら紹介。
「詩作は、想像を働かせて書くもの。”視”えないものに”触れる”こと」だという。また、「哲学を壊すのが
詩人の仕事だと思う」「壊すことのレトリックを発見するのが詩人」
「しかし、比喩とか暗喩と言ったレトリ
ックは日常的な会話やテレビCMなどで使われて
いる」「矛盾にナンセンスを入れることで難解詩ではなくな
る」等々、実に興味深い詩論、詩世界
が披歴された。
(以上の引用は私のメモによるもので、講演内容とはズレているかも知れない・・)

 講演の前に行われた秋さんの詩の朗読は、音楽をバックにしながら時に叫び、時につぶやきながら熱の入っ
た表現。強烈なインパクトであったと感じたのは私だけではなかっ
たであろう。

 秋亜綺羅さん、佐々木貴子さん(『ココア共和国』編集者)、横手高校、大曲農業高校太田分校、秋田南高校
各校の生徒の皆さんと顧問の先生、『KOEの会』の皆さん、参加して下さった詩の愛好者の皆さん、そして
会員とスタッフの皆さんありがとうございました。

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詩人・秋 亜綺羅氏の講演「秋田の詩祭2023」開催します

2023-09-16 | 詩関係・その他

               

 秋田県現代詩人協会主催の『秋田の詩祭2023』が10月28日(土)秋田市内の協働大町ビル
で午後1時から
開催されます。
 今年は詩人秋亜綺羅(あき・あきら)さんをお招きし、「詩って何だろう」という演題で詩につい
て講演していただきます。
 
秋亜綺羅さんは月刊詩誌『ココア共和国』を主宰し、今、全国の幅広い年代から注目を浴びている
エネルギッシュな詩人です。

 詩を書いている人は勿論、詩とは無縁だという方も、詩を書きたいと思っている方も、一切制限は
ありません。秋の午後のひと時を詩の世界で
ご一緒しませんか?
 入場無料です。是非ぜひ、お
気軽においでください。お待ちしております。
 

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矢代レイ 詩展

2023-09-03 | 詩関係・その他

      

 

 矢代レイさんの詩展が9月1日から秋田銀行本店ロビーで始まった。
 今年のサブタイトルは「詩に導かれて」。ボードに掲示されている挨拶文には次のように書かれていた。

   未完の詩がパソコンの中にいっぱい眠っています。
   言葉の海はとてつもなく深く、一瞬姿を現わしても、活きのよい言葉をつかまえることが出来
  ないでいます。

   もし、詩を書くことが容易だったら、ここまで夢中にはなれなかったろうと考えます。つまり
  は、詩に導かれて今日に至っていると言えます。 


 矢代さんの詩との向き合い方の一部が見える一文だ。
 展示されているのは個人誌『ピッタインダウン』に発表された作品と、作品を組み入れた写真、これま
でに刊行された詩集や『ピッタインダウン』のバックナンバーなど。ロビーながら、立ち止まってじっく
りと読むことができるのがいい。
 会期は9月29日まで。9時から15時・土日祭日は休み。無料。

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菅沼美代子詩集『乳甕』

2023-08-14 | 詩関係・その他

      

 静岡市住の詩人、菅沼美代子さんから第6詩集『乳甕』をご恵投いただいた。

 菅沼さんは日本現代詩人会、静岡県詩人会、静岡県文学連盟の各会員、
詩誌「穂」同人。
 
表紙は、第5詩集『手』と同じ造形作家、内藤淳氏の作品。私的には菅沼詩のイメージと結びついて
いて
印象的な装幀だ。

 情
感の多様な表現に出会うたびに思うことだが、「何を」よりは少しでも「いかに」という修辞的な
力量が上回ることが出来れば、「何を」を、より効果的に表出し得る、ということ。それを読む時に感
じることもまた新しい発見になったりする。
 
菅沼さんの詩には無駄な言葉が無い。少ない、ように感じた。表出しようとする段階で、多面的にか
自身の感性をより広角的に見据えることが出来ているからであろうか。読み進めていると、区切りの
良さ、センテンスの短さ、小気味よいリズム感。また予想外のコトバの出現に
驚いたりした。
「(略)そのうえで眠るなんて/なんたる精神」(沐浴)、「(略)旨いビールをカーッとやる」(温度)、
ドヤ顔でにやりとするから」(初めの一歩)。
(あたりまえだが?いや、いや、穏やかな詩行が続いている中に突然と出て来るから・・・。とても新
 鮮だ。)

 詩集のタイトルとなった『乳甕」は、新生児が母の母乳を飲む姿を表している。作者のやさしい目線
と、乳児の生への力強さが描かれている。

「乳甕」
甕のようにゆたかで/迸る液体が/いのちそのもの/生きてのみ/飲み干すことが/糧になる/なだら
かな丘陵が/弾力のある
溌溂に/ぱんぱんに膨れあがり/生きるということに前向きで/たわわな実り
が/ぎちぎちと詰まっている/きみはふれたくなる//ちいさな掌でつかむように/甕に埋もれて吸い
尽す/無目的の愛のような/輝きに満ちていて/音楽が聴こえてくる/ごくごくと飲み込む/力強い 
リズム/勢いよく盲目的に/尽きない泉を汲もうとする/真摯さにただただ呆れる/永遠に続けばいい
/やさしい風が吹いてきて/平和であることの/証のように眼を瞑る//人が近寄れば/乳の甕を確か
めて/いちどは放し/ぼくのものだと言いたげな/ぼくだけのものだと/自信に満ちた顔をする/それ
なくして/甕の存在は無いかのような/主張をする

 当詩集にはお孫さん(と思われる)について書かれている作品が多いが、決して「孫自慢」の詩では
ない。こどもを通した生や世界観をきっちりと描いていて好感。 

後半は、故新藤凉子氏(前日本現代詩人会会長)への詩、散文が収録されている。

 

著 者  菅沼美代子
発行所  思潮社
発行日  2023年7月22日
定 価  2,500円(+税)

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松下美和子詩集『ら行の悲しみ』

2023-08-08 | 詩関係・その他

      

 静岡県菊川市住の松下美和子さんから第一詩集『ら行の悲しみ』が届けられた。深謝。
 詩集のタイトルとなった詩、「ら行の悲しみ」は次のように始まる。
 
 時々透明人間になる/彼女の持ち物を調べると/ある部分に/ら行の悲しみがきちんと佇んでい
 た//工場の煙突から真っすぐに煙が立つ/それを見ながら/多分明日は透明人間になれそうだ
 なと/密かに目論む//そしてどうもその必然性がある//誰にも全く同じ形で分かってもらえ
 ない/至福の悲しみが彼女の中に存在したのだ/だからその悲しみを迎えるように/少しだけ今
 という時間軸から/泡のように消える//ららら/りりり/るるる/れれれ/ろろろ/メレンゲ
 の様な呪文を説き消えてみる//この術を使い彼女は時々/ら行の悲しみを深い海に沈め/真珠
 になんぞしてしまうらしいと/華やかなフリルの波たちが/物語を語るように教えてくれたのだ
 った//そして/ら行の悲しみは/彼女のとても大切な持ち物だ/ということを/誰もがよく知
 っていた/

 ときどき透明人間になるという”彼女”に巣食っている「ら行の悲しみ」が、少しだけ今・現実の
時間軸から消えてしまう。どうもこれは”彼女”が習得していた”術”のようでもあり、悲しみを海に
沈めると真珠にしてしまうというから、これまたすごい。”彼女”の本源か。

 読んでいてその語り切れない行間に残っている奇抜さ?や、ある意味読み取れない?ことも混交
していながら、それがまた雰囲気をつくっていて、思わずふふっと笑みながら楽しい世界観を感じ
ることが出来る。作者の感性の鋭さ
が成す世界が溢れている詩集だ。

 

著 者  松下美和子
発 行  2023年4月8日
発行所  土曜美術社出版販売
頒 価  2,000円

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