東京教組(東京都公立学校教職員組合)

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調査報告『学力格差』の実態

2015年12月25日 | 日記

 「調査報告『学力格差』の実態」(岩波ブックレット)は、1989年、2001年、2013年に大阪府内の小中学校で実施した学力調査(小5と中2)のデータに基づき学力格差の実態を明らかにしたものだ。
 12年ごとの調査は、それぞれ89年「地区の低学力」01年「学力低下」13年「学力格差」をテーマに同じ対象校で行なわれたものだ。
 その結果はとても興味深い。

①い基礎学力を保障している学校が、その取り組みを継承している。学校のがんばりを支える制度や政策、学校の力が発揮されるような条件整備がきちんとなされたとき学校は決して格差の克服に無力ではない。
②性別による格差はそれほどないが、女子では「友だちと教え合う」ことが、男子では「友だちと競い合う」ことが、それぞれ高い学力の形成に強く関係している。
③13年調査で、家庭の教育的環境が「中位」「低位」にある子どもたちの学習意欲や学習行動に改善が見られ、それが全体的な学力の回復につながっている。保護者が所有する三つの資本のうち、学力に強く関係しているのは経済資本と文化資本だが、社会関係資本も一定の影響力を有していると言える。格差を縮小する学校、全体として学力の底上げに成功している学校が増えている。逆に、「がんばっても成果の出ない」学校の存在も指摘できる。

 同書の執筆者が調査結果の議論を以下のようにまとめている。

 まず、指摘しなければならないのは、政策の重要性である。私たちの調査結果が示しているのは、「ゆとり教育路線」から「確かな学力向上路線」への政策転換が、子どもたちの学力形成に大きな影響を与えたという事実である。
 そして次に強調しておきたいのが、「学校の力」の見直しである。政策の転換を実質化するのは教育現場の動きであり、教師たちの働きである。子どもたちの学習意欲や学習習慣を高めるための取り組みや授業改善に向けての継続的な努力が、今回の調査結果を生み出したと言って間違いないだろう。教師の働きなくして、学力下位層の底上げは図られないのだから。
 そして最後に、社会関係資本の戦略的な意義である。経済資本・文化資本による説明は決定論に陥りがちである。家庭の収入や親の学歴が高いほど子どもたちの学力は高くなる、というのは今や自明のことがらである。そこでとどまっていては、展望は見えない。学校の内部、そしてその周囲に社会関係資本を蓄積していくこと。地道な作業であるが、その延長線上に子どもたちの学力格差の克服にいたる道は開けるだろう。

 本質的な意味で、学力とは何かも問わなければならないが、文科省や各自治体が「学力調査」の数値に右往左往している今日、子どもたちの「学力」保障に学校・地域がどうとりくむか、社会関係資本に注目した調査報告は参考になるだろう。


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