蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

ムルンギン族体系の続き 一般化交換 2

2021年06月24日 | 小説
(2021年6月24日)Aranda族親族体系を本書の記述をもとに構築してみよう。下図は本書掲載の親族系統図。最上列にPQRSの兄妹(弟姉)が並ぶ。大文字が兄、小文字が妹。P兄はQ妹を嫁に取る。その子はPに属さずRに移動する。




ここで部族民は思考停止に陥る。「他のセクションに移るとは」どのような様態なのか。
生まれたばかりの乳児を引き渡す。ある程度の年齢になって移動する。移動、養子などは名目だけ、実際は生家に居残る。3通りを想定していずれかだが、はて正解は。生まればかりの子を他人にアゲる、こんな仕打ちは母親に辛い。この母心理はアボリジニにも日本人にも同じであろう。
小筆はこうした2の例を知る。
岸防衛大臣は安倍前首相の実弟、岸家の跡取りと育てられたから、大学入学まで養子だったとは知らなかったと(報道に)聞いた。生後まもなく安倍家から岸家に預けられたと察します。
染織家志村ふくみ氏(文化勲章受賞者、人間国宝)は生まれてまもなく志村家の養女となった。染織の手習いで、そうとは知らず実家に通ううちにふと「この家に来ると何故か私、安心する」と独白をもらした。脇で聞きとめた実母(小野豊、染織家)がふくみを抱きしめ「お前は私の子なのだ」と泣いた(読売新聞「時代の証言」から。彼女の私事に入ったが、新聞に書き記した記事ならば引用も可であろうと判断した)。
もし乳児期に移籍となると母子の惜情の息、止むところ得ず。制度とするには人の心に無理があろうか。また名目だけの移籍を探ると、そうした立場は系統の維持と相容れない。やはり系統とは同居、居所を近くに構えるが人情だとおもう。
例えばA家の息子はA家に居るのだけど、実はB家に養子に入っているし、子ができたらその子はCになると決まっている。そのうえAの家作はD家の息子が執りしきる….こうした制度は考えられない。
ある年齢に達したらAからBに移籍する、こんな段取りをここでは選ぶ。すると男子は通過儀礼の後、女子は初潮を迎えて、嫁入り前の準備として。これがアボリジニの体系、こう理解したら足元がぶらつかない。何らかの疑念が湧いても安心だ。

勝手に推論を巡らせたが本書にはこうした民族誌的記述がないためである。それに御大レヴィストロースは「心理的因子」を絶対に語らない。「赤ちゃんをアゲなければ、赤ちゃんは貰えない」こうした制度だってあり得る。あのヒトのこったからこんな事を言い出すよ。
脇道に入ったな、筆の滑りを許せ。

図1Aranda族に戻る(大文字は男、小文字は女)。第2列、
R兄がs妹を娶る。S兄はp妹...と続く。夫婦の組み合わせはPq、Rsが交代して続く。これはPがq女を貰うことで、世代を隔ててもPが常にqを貰う。さらにPは常にSに女pを贈る。何やら一般交換らしき匂いがしてきたぞ。この女交換に子の交換を加味して図を描こうか。

下の図2の左。p女はS に嫁に行く。P女は実は、兄とともにRから移籍した子である。彼女の夫になるS男はQから移籍した。これを系統図が語っている。


Aranda族の体系は4のクラス、女と子を一般化交換(巡回型)で回す。女は隣接クラスに、子はその一つ先のクラスに贈る。この巡回点の差によって交差いとこ婚を実践している(交差いとこの仕組みは前回、前々回の付け足しで解説)

レヴィストロースはムルンギンの8サブセクションを4階層への集合を試みる。
下写真が集合の仕掛け。

PRはD1+A2
QSはC2+B2
RPはD2+A1
SQはC1+B1

根拠が女の交換(たすき掛け)第一サイクルと子の交換経路の分析である。これと上の4クラスに当てはめる。起点をC2としよう。
下図をご覧ください。


1 C2が女をD1に贈る
2 D1は生まれた子を同じ(PR)クラスのA2に渡す
3 A2 は男子を己に残し女子をB1に贈る
4 B1は生まれた子を同じ(SQ)クラスのC1に渡す
5 C1 は男子を己に残し女子をD2に贈る
6 D2は生まれた子を同じ(RP)クラスのA1に渡す
7 A1 は男子を己に残し女子をB2に贈る
8 B2は生まれた子を同じ(QS)クラスのC2に渡す
1~8のサイクル、すべてのサブセクションを通過して1の「C2は男子を己に残し女子をD1に贈る」に戻る。
子と女を絡める見事な「巡回式一般化交換」に変わった

第2サイクルで4階層化をあてはめよう。解説は次回(27日)になります。

ムルンギン族体系の続き 一般化交換 2 了(2021年6月24日)
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