蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

レヴィストロースを読む 神話と音楽 ボロロ族の歌 5

2017年10月23日 | 小説
(2107年10月23日)

ブラジル・マトグロッソ(中央高地帯)。かの地にて有力なボロロ族の一群の神話を、構造主義の手法を駆使して解析するLe cru et le cuit(生と調理、レヴィストロース著)を解説しています。
神話構造とは要素(element人物、動物など)、状景(sequence筋道、シーン)、骨格(armature)の3の階層で組み立てられ、それぞれが思想ideologieと対比している。要素の思想はpropriete(属性)、例えば「金剛インコの巣あらし」ではインコの尾羽に関わる身分上の重要さがproprieteとなります(過去投稿を御参照)。下の写真は葬送儀礼に参加した高位者の正装です。尾羽の飾りの質、量がその者の社会地位と財産を表します。

写真説明:弔いの儀礼での正装。頭を飾る金剛インコの尾羽、弓と矢、身体のデコレーション。服飾と道具は地位と財産を表します。この男性は幼い頃サレジオ会(布教団体)のサンパウロ学校でポルトガル語を習い、優秀なので覚えめでたく「ローマに送られて教皇に面会した」と主張している。レビストロースは?をつけているが。ボロロのケジャラ邑に滞在中は助手兼通訳(同氏の著作から)

状景の思想はcode(符号)です。神話1,2でのcodeは同盟と離反(レヴィストロース的には同盟+と―)出統一されます。彼自身がM2をcodeで説明しています(この作業をcodageと言う)。再説明ですが引用します。
<un abus d’allience (meurtre de l’epouse incestueuse, privant un enfan de sa mere), un sacrilege qui est une autre forme de demeusure="後略>(67頁)
訳:子と近親姦(同盟の+、括弧内は投稿子)を犯した妻を殺害し、子を母から離した(同盟―)。妻の再生を封じるために遺骸を密かに埋葬した。この不作法は同盟―。以下、同盟の+―でsequencesを分解しています。M1も同一のcode同盟を取り入れ、その+-のcodage手法で組み立てています。しかしM3ではcodeが連続不連続(=連続の+-)に変遷します。
前回(4回投稿)で=M1,2,3はそれらを通して一つの神話とすべきで、これら3の流れ(sequences)と符号化(codages)を読み取ることで、全体の骨格(armature)が浮かぶ=と述べた。ならば同盟(allience+-)と連続(continu+-)は同一でなければならない。
この課題を解く鍵がnature/cultureにありました。
<par consequent, le poison de peche peut etre define comme un CONTINU (大文字化は投稿子)maximum qui engendre un DISCONTINU maximum, ou , si l’on prefere, comme une union de la nature et de la culture qui determine leur disjonction, puisque l’un releve de la quantite continue, autre de la quantite discrete">(同書285頁)
引用にあるpoison de peche はマトグロッソ、アマゾニアでの毒流し漁で使われる植物由来の毒。discreteは一義で「つつましやか、控えめ」に使われますが、ここでは2義の「分散」すなわち不連続をとります。
訳:毒流し漁は最大の連続と規定され、それは最大の不連続を生み出す(訳注:せき止めた流れに連続して、一網ならぬ「一流し打尽」の効果を生む。一匹の魚すら残らない、最大の不連続)。それ故、natureとcultureとは分断されざるを得ない同盟であると運命づけられている。なぜなら一方(nature)は連続の量(大量)から、片方(culture)は不連続(慎ましやかな)量から出でるから。
注:265頁は表題「Astronomie bien temperee宇宙の平均率」の章にあり、レヴィストロースはここで「毒流し漁」を詳細に語ります。その主点は植物由来の毒はそもそもnatureである。natureでnature(魚)を漁すると最大連続、そして分断を生む(という神話の思考)を紹介する中で、nature/cultureと対比させ、さらにunion/disjonctionにも比定している。すなわちnature/cultureを介して、同盟union(alliance)の+-、連続conituの+-は同一であるとの(神話の)思想を取り上げた。
natureを「美しき汚れなき天然」的に肯定として捉えたら先が進まない。放任放縦、やりたい放題とすれば理解が深まる。するとcultureはnatureを制御するから、文化と理解せず介入とする。これは前回前々回に説明しました。

union=continuの整合関係は構造主義が規定する同一性の<congruence>です。この語を辞書で引くと2整数の合同(数学)とありますが、これでは理解不能。そこで尊師がどのようなコンテクストで使っているかで推察して「機能の合致」とします。一見すると別だが、根っこ部分の思想で同方向に機能する関係と考えます。格好つければsyntagmatique(連辞)では不整合、paradigmatique(パラダイム、範列)として整合するとなります。かくしてnature/alliance/continuの関係はculture/disjonction/discretと(構成する要素の関連で同似、尊師の発明の語です)を形成します。
それではM1,2,3を、この構造主義的分析で紐解いてみます。

<昔々、人々は自然の中に平和に暮らしていた。社会制度、階層、取り決めなどは出現していない。子は母と同居しているから、母子婚(おやこたわけ)は珍しくなかった(=放縦、やりたい放題の世界)。ヒーロー(M2のバイトゴゴ)は子との姦淫を見せつける妻を殺害し(M2)、子に冒険を命じる(M1)。精霊の国に置かれる楽器を盗めと命じた(楽器はマラカス、儀礼に使われる。所有し演奏するとは、その地位を有する社特権的な意味がある)。子は3度とも成功した。次に父は金剛インコの巣あらしに子を追い立て、ハシゴを外し絶壁に捨てる。子はトカゲを生食して食べ過ぎて(生食は放縦、食べ過ぎを招く)ハゲワシにむしばまれる。トカゲになって村に戻す。(制度を強要する父と、放縦に生き、その結果、死ぬ子との対照が読める)。
村に戻ってトカゲから抜け出て蘇生し、精霊となって父を殺し彼の妻全員、実の母をも殺す(これは新しい社会を創造する過程です)。
その後、洪水と食事の火の話が挿入される。洪水の後になって、この世は放任放縦を満喫する人々が増えすぎた。ヒーローは族民を間引きして(弱小支族を殺戮して)不連続境界を創造し、各支族に婚姻制度、階層、服飾規定などを強いた(介入の由来)>(=以上は「ボロロ族のテーマと変奏曲」の要約です)

まさに創造神話です。
同様のシーンが旧約聖書に読めます。ソドム(背徳=放縦の街)社会の「連続」が最大の破壊=disjonction=絶滅を招いた。ノアの洪水=人では動物を一番いだけに間引いた、不連続を強いる介入です。しかし、もっともボロロ神話に近いのは「エデンの園」かと思われます。そこに放任、放縦、近親姦(アダムとイブ)破局(神との同盟の断絶)がうたわれています。codageで分解すれば、両者の似かよりは親密です。
無神論者のレヴィストロースは聖書との比較など一切、記載せず、淡々と次のテーマに取り組みます。次回から「ジェ語族のテーマと変奏曲 病気、水、火の起源」に入ります。

(次回投稿は10月26日予定、過去投稿は10月13、16、18、20日)

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