弓引きが、右手にはめる道具を弽(ゆがけ)という。
これがなくては、弓を引くことはできない特に大切な道具である。
この春、高校3年生になった近藤君(二段)が、道場に来ていた。
俺が更衣室に入ると、袴の紐をほどいて脱いでるところだった。
俺は「あれ?・・もう帰んの!?」
稽古は、まだ始まったばかりの時間帯だ。
近藤君は、笑いがなら言った「弽(かけ)を・・・忘れたんで・・・」
張り切って稽古に来たはいいが、肝心の弽を忘れたらしい(笑)
なんとも情けなさそうに帰っていく近藤君に俺は言った。
「近藤君・・・・・まだ今度(近藤)^^」
近藤君は、「ははは・・・」と仕方なさそうに笑った。
その日の稽古の終わりだった・・・
俺は、道場の外の総合運動場の広い更衣室に、大学生のB場さん(三段)といた。
稽古が終わったので、あとは着替えて帰るだけだ。
ちなみに、B場さんは、将来、歯医者さんになるセレブな男だ。
お父さんも歯医者さんなので、結構なお金持ちだが、人柄も良く、実に謙虚で善い人間である。
俺たちは、着替えながら談笑していたら、そこへ・・・・
Y沢さん(五段)がやってきた。
Y沢さんは右手に何か持っている「これ・・・B場さんのじゃないですか?」
それは、B場さんの弽だった。
道場に忘れてしまっていたのを、Y沢さんが見つけて、急いで追いかけてきて届けてくださったのだ。
B場さんは言った「あああーー!!すいません!ありがとうございます!!」
B場さんは、俺を見て言った「うわーー!!あぶねええ~~~~~!!」
昨日は、1日に2人も、弽を忘れるのを、俺は目撃してしまった(笑)。
そんな今朝の稽古の時だった。
俺は、いつものように、皆さんと楽しく、そして真剣に稽古をしていたら、
俺の動き回るその先々で
「なにか、焦げ臭い匂いがするわね」とか「なにかクサイな」とか
「なにかしら?・・・なにか燻製のような臭いがするけど・・・なにかしら?」
と云う様な声が常々聞こえてくるのであったが、
どうやら、俺の真新しい弽から、発散されている臭いであった(笑)。
新しい弽独特の、鹿の皮を燻(いぶ)した臭いが、かなり強烈なのである。
今しばらく、道場の皆様方にも、我慢していただくしかあるまいが、
このクサイ臭いを「いい香りね」と言ってくださる方もいらした。^^
帰ってきて、歯を磨いていると、自分でも右手の臭さにとまどう(笑)。
弽をはずしても、この臭いは取れることがない。確かにかなりクサイ。
これが、いい香りなのだろうか???
俺は「うぅーん」と首をかしげだ。
そんなこんなの、それぞれの弽のお話でございました。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます