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『戦後政治家暴言録』 保阪正康

2007年02月07日 | 政治・経済・外交

 

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柳沢伯夫厚生労働大臣の “女は子どもを産む機械” という発言が大騒ぎになって、国会の与野党での予算審議を止めてしまいました。いくらなんでも “機械” はないだろうという気がします。当教室の女子生徒もかなり怒っていましたねぇ。


本書は、戦後の “バカヤロー解散” から、小泉首相までの政治家の暴言、失言をいくつかの種類に分析。どこがどう問題で、なぜそうした発言が出てくるのかを見てみようという興味深い一冊でした。


ところで、まず今回の “子どもを産む機械” と発言したという報道は、生徒たちにも分かりやすい形で、それこそ、言葉や社会を考える絶好の “機会” を与えてくれたと思います。


失言や暴言にはいろいろな種類があって、常に一部だけが抜き出されますが、その脈絡を見ることが必要ですね。今回の場合、発言の前後はこうだったそうです。



なかなか今の女性は、一生の間にたくさん子どもを産んでくれない。人口統計学では、女性は15才から50才が出産する年齢で、その数を勘定すると大体分かる。他からは産まれようがない。産む機械と言ってはなんだが、装置の数が決まったとなると、機械と言っては申し訳ないが、機械と言ってごめんなさいね、後は産む役目の人が1人頭でがんばってもらうしかない。(女性)1人当たりどのぐらい産んでくれるかという合計特殊出生率が今、日本では1.26。2055年まで推計したら、くしくも同じ1.26だった。それを上げなければいけない。


こ~んなに謝るのなら機械なんて言わなきゃいいとも思いますが(笑)、ただ、これが国会の大切な予算審議をすべて拒否、世界中に女性蔑視と報道される価値がありますかね。

彼や自民党をかばうつもりはまったくありませんが、誇張した報道とこれを利用した野党の反応にはちょっとうんざり。まぁ少なくとも報道ではかなり短く、“女性は産む機械” のところだけを取り出していたことは分かります。


この発言が大きな問題となるもう一つの原因は、柳沢氏の立場。厚生労働大臣で、まさに少子化対策に関わるわけですが、女性を統計上の数字としてしか見ていないのではないか。

機械ということは、子どもを産まない女性は不良品だといわれたようだと誰かが言っていましたが、もっともな感想で、そんな人が責任者であるのは許せないという理屈です。


今度は本書にも登場する小泉首相。かつて 「人生いろいろ」 と発言して問題になりました。でも、人生っていろいろですよね(笑)。柳沢発言と逆で、このケースでは、この部分だけを切り取ってみても、暴言にも何にもなりません。

しかし、筆者はこれを戦後最悪の暴言ではないかと指摘します。どうしてでしょう。日本国総理大臣としての立場、品格の問題、さらにはその発言の前後関係を見なければわかりませんから、それを紹介し筆者の意見が述べられます。


次に、故渡辺美智雄氏。彼はいくつもやっていますが…、例えば 

「日本人だと破産は重大に考えるが、クレジットカードが盛んな向こう(米国)の連中は、黒人だとかいっぱいいて、『家はもう破産だ。明日から何も払わなくてもいい』。それだけなんだ。ケロケロケロ、アッケラカーのカーだよ」

これはひどい。政治家であろうとなかろうと、明らかな差別発言ですね。でもこういう人を日本人は政治家、しかも与党の大物議員の一人に選んできたということは知っておいた方がよいですね。


与党、野党で言えば、かつての日本社会党は、村山総理が誕生する前は、非武装中立でしたが総理大臣になるやいなや、安保肯定、自衛隊は憲法違反ではない、とまるっきりこれまでと逆のことを言い出して、その後の選挙では大敗北します。これまでの支持者にとっては許せない暴言だったわけです。

野党ならしても良い発言が、総理大臣としてはできない発言があることを端的に表しています。つまりウラでは正論だったものが、オモテでは暴言となるということですし、その逆もあります。

その人の立場が変わると、発言の表と裏を変えなければいけないとも言えそうです。


上の区分けは私が勝手にやったものですが、本書では6種類に分けて分析しています。 目次を紹介しておきましょう。



■■■

第1章 戦後日本のオモテの言論、ウラの言論

第2章 戦前の官僚体質の残る暴言(吉田茂―バカヤロー発言の内と外;池田勇人―中小企業の倒産などやむを得ない;清瀬一郎―男女共学は廃止すべきだ;岸信介―野球場や映画館は満員だよ;佐藤栄作―私はテレビと話す。新聞記者諸君は帰ってください)

第3章 田中角栄以後、森喜朗以前(田中角栄―隣りで毎日毎日、ガンガンと製カン工事をやるよ;中曽根康弘―日本列島を不沈空母にする;藤尾正行―日韓併合は韓国にも責任がある;渡辺美智雄―日本人は破産というと重大に考えるが米国の連中は黒人だとかいっぱいいて、ケロケロケロ、アッケラカンだよ;森喜朗―日本は天皇を中心とする神の国)

第4章 小泉政権下の暴言・失言の怖さ


■■■


暴言・失言の類は、発言する人の立場、状況、聞く人の立場によって入れ替わるということがわかります。つまり個人によって大きく異なるということです。

正直、私も本書を読んで、筆者の主張すべてに共感するわけではありませんが、こうして暴言、または、そう呼ばれたものを分析し、そこから社会や時代を見てみるという試みは大変おもしろいし、有益だと思います。


戦後政治家暴言録

中央公論新社

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『戦後政治家暴言録』 保阪正康
中央公論新社:237P:798円